婚約破棄ができない妖精姫
『転生王子はヒロインを選ばない』のクリストファーとエミリティーヌの娘が主人公です。
できればそちらからお読みください。
はじめまして、わたくしリリアーナ・グリトリッチと申します。両親と兄の4人暮らしです。
実はあなたに聞いてほしいことがあるんですの。
えっ?大丈夫?
では、さっそく私の家族をご紹介いたしますね。
まずはお父様。
王弟であるお父様は宰相を務めており、いつもお忙しそうにしていますが、家族との時間を大切にする優しい方です。
『辣腕宰相』だとか呼ばれているそうですが、いつも優しく微笑んでらっしゃるお父様が辣腕だなんて···想像がつきませんわ。
次にお母様。
先代グリトリッチ公爵の一人娘でお父様と結婚して公爵位をお継ぎになられました。
領地経営や自身の洋服ブランドのデザインなども行う自立した女性で私の憧れです。
お若い頃は『薔薇姫』と謳われるほどの美貌で、今でもなお品格ある美しさをお持ちです。
お父様とお母様はおしどり夫婦として知られており、社交界の皆様から羨望の眼差しを受けておられるとか。
そしてお兄様。
次期グリトリッチ公爵として様々なことを学んでおられるお兄様は勉強、運動共に優れておりご令嬢達からは熱烈なアプローチを受けておられます。
ご婚約者様とも仲が良く、溺愛されております。
わたくしもご婚約者様と会ったことは何度かありますが、常人離れした美しさと誰にでもお優しいところを持つ素晴らしい女性です。
さて、そんな素晴らしい家族に囲まれて育った私は平凡です。
美しさはお兄様のご婚約者様やお母様の方が上ですし、聡明さはお兄様やお父様には全くかないません。
刺繍やダンスの腕前もお母様には遠く及びません。
そんな私ですが、素晴らしいご婚約者様がいらっしゃいます。
その方こそ、『白銀の貴公子』の異名をとるアルフォンス・エルックス様です。
エルックス公爵家はヴェルナー王国屈指の名家でアルフォンス様は次期エルックス公爵様です。
お兄様とはご親友のようで、社交界ではお兄様とご令嬢達の人気を二分されております。
とても素晴らしい方ですので、平凡な私はアルフォンス様には相応しくないと思ってしまいます。
勿論アルフォンス様はお優しい方ですし、私のお父様は王弟で同時に宰相で権力を持ってますのでエルリックス公爵家からは婚約破棄は出来ないのかもしれません。
ということで、私はアルフォンス様と婚約破棄できるように頑張りますわ!
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ということで、アルフォンス様に婚約破棄を願い出ます。
「あの、アルフォンス様。お願いがあるのですが…」
「なんだい?」
これでアルフォンス様とお会いするのも最後かと思うと寂しくなりますわね…
「アルフォンス様、婚約破棄してくださいませ」
「はっ!?」
アルフォンス様、お顔が怖いですわ。
それになんだか震えてらっしゃいません?
「アルフォンス様?具合でも悪いのですか?」
「いや大丈夫だよ。ちなみにリリアーナ、他に好きな人でも出来たのかい?僕に教えてくれないかな?」
えっ、なんで?
「好きな人なんていませんわよ?」
「じゃあ、なんで僕と婚約破棄したいって言ったの?」
アルフォンス様、もしかして怒ってらっしゃるの?
「次期エルックス公爵様であるアルフォンス様に平凡な私は相応しくないのではと」
私の言葉にアルフォンス様が苦笑する。
「平凡ねぇ。『妖精姫』である君はとても美しいし、王家からも縁談が来てたんだよ?」
私が『妖精姫』…?
それに、王家から縁談なんて…
「王家からの縁談はお父様が王弟で宰相だからでしょう?それに我が家が発展していて、王家は取り込みたいからでは?」
「まぁ、それもあるんだろうけど」
そう、それに…
「現に王家の縁談は無くなったでしょう?王家の方が私に幻滅したからでは?」
その言葉にアルフォンス様がハハッと笑う。
どこか小馬鹿にしたような笑い方に少し違和感を覚えてしまう。
「リリアーナ、それは僕と婚約したからだよ。王家も我が家の次期夫人に手出しすることは出来ないからね。僕と婚約破棄するってことは王子妃になりたいの?」
「平凡な私には王子妃は務まりませんわ」
「じゃあ、婚約はそのままってことでいい?」
えっと、この話からどうしてそうなったのかしら?
私の頭の上には?でいっぱいだ。
「リリアーナ、僕との婚約を維持して公爵夫人になるか、王妃になるかだったらどっちが良い?」
えっ、それはもちろん…
「公爵夫人、でしょうか?」
「なら、僕との婚約はそのままだ。良いね?」
私は反論したかったものの、アルフォンス様の迫力に押されてうなずいてしまった。
「分かりました」
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その晩のディナーで私は家族にその話をした。
「それで押し切られてしまったんですの。どうすればいいのでしょうか?」
その言葉にお母様は苦笑され、お兄様はお顔を青ざめられた。どうしたのかしら?
ちなみに、お父様は顔色一つ変えていない。
(エルリック公爵子息はどうやらクリストファー様にそっくりなようね by母)
(アルよ…不憫だとは思うがリリアーナは鈍感なのだからその腹黒さは絶対にリリアーナに見せるなよ! by兄)
と思っていたらしいが私はあまりにも気づかなかった。
「リリアーナは可愛いのだから平凡なんかじゃないぞ」
お父様がそう言ってくださる。親の欲目というものでは?
「リリアーナ、エルックス公爵子息はちゃんとおまえを好いてくれているのだから良いのではないか」
そう、でしょうか?
「あなたに男性が近づかないのはエルックス公爵子息のせいなのよね。まったく、執着し過ぎよ。それで好きな人に嫌われたら元も子もないというのに」
ふぅとお母様が苦笑される。何のお話ですか?
「昔のクリストファー様に似てるって話」
アルフォンス様がお父様に?
確かに二人とも聡明でイケメンですが。
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sideオズワルド(リリアーナの兄)
俺には親友がいる。
そいつは妹の婚約者でエルックス公爵家の長男だ。
完璧超人でかなりモテるのだが妹一筋なため、リリアーナを溺愛している父上にも認められている。
そんなアルフォンスは妹のことが好きすぎて少し怖い。
いや、俺も婚約者がいるし結婚したいとは思うけど、あそこまで執着してはいない。
あいつはリリアーナを手に入れるためなら何でもやるやつだから怖い。
リリアーナは『妖精姫』と呼ばれるほど美しく、また聡明でこの国で王妃に一番相応しい令嬢の呼び声高い淑女だ。そんな妹に王家からの縁談が来なくなったのはアルが裏で色々やったらしい。
そして自分とリリアーナの婚約を結んだ。
その手腕も父上は認めているらしい。
怖いと思わないのか?と思って母上に聞いてみた。
『ああ、クリストファー様も昔から裏で色々やってたらしいしね。昔の自分を見るようで微笑ましいんじゃないかしら』
と言われた。宰相である父上は昔からあんな感じだったのか…と脱力したものだ。
二人は仲睦まじく、結婚も成人になればすぐに籍を入れるだろうと思われていた。
だが、リリアーナが自分を平凡だと思い込みアルフォンスとの婚約を破棄しようとしたのだ。
ディナーの時にリリアーナからその話を聞き、青ざめると同時にアルフォンスの対応が気になった。
リリアーナがアルフォンスに相応しくないと思った原因が、誰かの陰口だとしたらそいつを絶対に許さないだろうから。
アルフォンスのことだから、そんなやつがいれば社会的に抹殺しているはずだ。
幸運だったことは、他の貴族が関わっていないこととリリアーナが婚約破棄の撤回を押し切られたことだろう。
あそこでリリアーナが婚約破棄の撤回を了承しなかったら、リリアーナは監禁されて了承するまで閉じ込められていたのかもしれない。
ありえない。そう思うが同時にあいつならやりかねないとも思う。
それくらいあいつはリリアーナに執着している。
超激重執着男に囚われた妹には頑張れとしか言えないなと俺は苦笑した。