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九話-1
不思議な気持ちだった
彼の腕に抱かれ
彼の胸の上で眠るなんて…
ほんの微かな寝息が聞こえる
私はただ、彼の体温を感じ
彼の心臓の音を聞いていた
このまま、寝てしまうのは惜しい気がして…
…私は腕を延ばし、寝ている彼の頬をそっと撫でた
…私の知っていた頃の昔の彼の面影とは違って感じた
私はそのまま人差し指で彼の唇に触れ、
そのまま、首筋までスライドさせる
彼に反応はない
私は無意味な事をしたな、と内心苦笑し
彼の胸に顔を埋めた
…彼が私のすぐ近くに居るのは当たり前だと思っていた
居なくなるとしてもそれは大分先の話だと思っていた
だけど、そうじゃなかった
私はそんな幻想みたいに曖昧な事を当たり前だと信じていた
-『行ってきます、姉さん』-
そう言って、出て行った彼は…弟は帰っては来なかった
わかってた
本当は私が弟に依存し過ぎているだけだって事は
だけど、
しょうがないじゃない
私達は二人だけの家族なんだから………




