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【短編】勇気を出せない王子を楽しく見守る令嬢

作者: 水瀬藍莉




 朝、貴族学校でこの国の第一王子で私の婚約者を見つけたので声をかける。


「ご機嫌よう、ヴィルス殿下」

「……ああ」


 素っ気無い反応。普通の婚約者だったら素っ気無かったら嫌だが、この王子は素っ気無いほうが良いと思う人が多い。何故だが私には分からないが。


 じっとヴィルス殿下を見つめていると、目を逸らされる。すると、頭の中に声が流れ込んで来た。


(リアーネが俺に話し掛けてくれた。嬉しい。嬉しい。ああ、リアーネから手を握ってくれないだろうか。いや、無理か。俺がこの態度だったら)


 この声はヴィルス殿下の心の声だ。私はよく、人の心の声が聞こえる。それは、目に入れている人だけ。だから、パーティーにいると知らない人の心の声が聞こえて、嫌な気分になる。


 ヴィルス殿下の心の声を聞いて分かったことがある。それは、ヴィルスは本当は私のことがめちゃくちゃ大好きということだ。


 それだったら私に好きと伝えて欲しいものだが恥ずかしいし出来ないらしい。私の前だと話したいことが頭から抜けて私の言葉に「ああ」とか「へえ」としか喋れないとか。失礼だけど、私と話そうと頑張って、だけど出来ない王子の心の声を聞くのは楽しい。


「今日はいい天気です。一緒に昼ご飯の前に、校庭のお花畑にでも行きません?」

「……い、いいぞ」


 私が誘うと嬉しそうにしているのは表情からは読み取れない。心ではあんなに「やったあああ!」と叫んでいるのによく隠せるな、と思う。考えていることを顔に出さないところはさすが王子。そこは尊敬する。


 ちなみに私はこの王子が好きだ。私が好きと言えば、王子も言ってくれるだろう。だけど、私も女の子だ。相手から告白されたいという気持ちがある。


 だから、私は。ヴィルス殿下が勇気を出すまで待つのだ。


「それでは、お昼休みにまた」

「……ああ」


 視界に王子を入れていると可愛い!!!という声が聞こえて私も恥ずかしくなるので振り向いて、自分の教室に向かった。




 今日の午前は魔法の授業だった。私は公爵令嬢だから魔力が多くてすぐ終わり、暇だった。授業に迷惑がかからないんだったら何をしててもいいと先生に言われたので人が居ないところに行って10歳から一緒に居る使い魔を召喚した。


「キュリル、雑談しない?」

『いいよっ!あのへなちょこ王子の話する?』

「へなちょことか言わないの。あの方は少し勇気が無いだけなんだから」


 おいで、と手を広げると犬みたいなふわふわのキュリルが飛び付いて来た。可愛くて、ぎゅっと抱き締める。


 まだ、お昼休みまで40分以上ある。キュリルと話すことも限られているし、いい暇潰しの方法はないのだろうか。


「ヴィルス殿下も……こうやって抱き締めてくれないのかなぁ……」


 思わずそう呟いてしまってハッとする。そっか、私はヴィルス殿下に抱き締めて欲しかったのか。


 はぁ、と溜め息をつくとキュリルが私の腕から抜け出して、目の前でお座りをして私を見た。


「どうしたの?」

『いや!別に何でもないよ~!ふふふ』


 絶対何かありそうだけど、どうせ聞いても答えてくれない。だから私はまたキュリルを抱き締めながら色々な話をした。


 意外にすぐに時が経ってお昼休みのチャイムが鳴った。ヴィルス殿下とお花畑を見る約束をしているのでキュリルの召喚解除をして、私はヴィルス殿下の教室に行こうと歩を進めた。




   ◇◇◇   ◆◆◆




「ヴィルス殿下も……こうやって抱き締めてくれないのかなぁ……」


 いつもリアーネが授業時間が余ったときに来ている空き教室に、実技の授業が終わったから今日も居るかと思って向かったらリアーネの声が聞こえて固まる。


 視線だけを動かしてドアの隙間からリアーネを見るとリアーネは使い魔をきつく抱き締めていた。その使い魔と、目が合った。


 リアーネは無意識にその言葉を口に出していたようですぐにハッとしたような表情になって溜め息をついた。


 俺は、移動して廊下にしゃがみ込んだ。


「は……?俺に、抱き締められたい?どういうことだ?」


 意味が分からない。俺の困惑した声が廊下に響き渡る。


 もしかして、と期待する。リアーネは、俺が好きなんじゃないかと。本当は両思いなんじゃないかと。

 好きでもない男に抱き締められたいとは思わないだろう。いや、俺は女じゃないから分からないがもしかしたらリアーネは誰でもいいから抱き締めて欲しいだけかもしれない。


 混乱していて、いつもよりも冷静に考えられない。目の前にリアーネが居て一緒に喋っているような感覚だ。自分が落ち着くようにゆっくりと息を吸って、吐く。


「俺は……どうすれば」


 好きだと伝えても良いかも知れない。だけどそれでリアーネは俺のことが好きじゃなくて振られたらと考えると勇気が出ない。


 俺はいつもそうだ。リアーネの前ではいつも通りに頭が動かなくて考えている言葉が出ない。そんな自分が嫌だ。だから、勇気を出せ。


「頑張れ、俺」


 リアーネに振られてしまったら好きになってもらうまで頑張れば良い。俺達は婚約しているのだ。いつでもそばに居られる。


 だから、覚悟を決めた。俺は立ち上がる。


「昼休みに告白する」


 チャイムが鳴るまで何度も告白の言葉や振られたときにどうするかを考えていたらすぐに時間は過ぎていく。いつも学校でリアーネとどこかに行く時はリアーネが俺のことを迎えに来てくれたけど、今日は俺が迎えに行くことにした。


 この時は精一杯言葉を考えて勇気を出した告白を、リアーネに心を読まれて先に知られてたなんて未来は想像もしてなかった。




   ◇◇◇   ◆◆◆




「ヴィルス殿下……?」


 何故か、ヴィルス殿下の教室に向かおうとして歩いていたらヴィルス殿下は廊下に居た。他に廊下にいた生徒が逃げるように去っていく。


「……俺が迎えに行くつもりだったのに」

「……………………え」


 ヴィルス殿下が小さく呟いた言葉に呆然とする。あれ、いつものヴィルス殿下どこいった。


(リアーネに告白、落ち着け、言葉は……ずっと前から好きだ。よし、いける)


 頭にそんな声が流れ込んで来て目を見開く。

 告白、え。告白……?ずっと前から好き?


 最初、意味を理解出来なかったがすぐに分かった。ヴィルス殿下は私に、告白しようとしているんだ。勇気を、出したんだ。だからいつもと違う行動をしていつもと違う言葉を言ったんだ。


 物凄く嬉しい。だけど、物凄く悲しい。だって、告白の言葉をもう知ってしまった。お花畑に居て、突然告白されたかった。


「……どうした、リアーネ」

「えっ……いや、何でもないです。行きましょうか」


 私は気付いた。ヴィルス殿下は心の声では私の名前を呼んでいたけどちゃんと声に出してリアーネと言われたのは初めてだということに。


 ヴィルス殿下は私に向かって腕を出してきた。これは、もしや。エスコートですか……?


 いつものヴィルス殿下と違いすぎて変な感じがする。心臓が、ドキドキしているのが自分でも分かった。


 すっとヴィルス殿下の腕に自分の手を置いた。高さは丁度良くて、その後に動き出したヴィルス殿下の歩く速さも私に合わせてあって驚いた。


(ひっ!リアーネの手が俺の腕に触れて……!あああ嬉しい!)


 いつものヴィルス殿下がいて少し、いや結構安心した。


「今は、真っ赤な花が綺麗に咲いているらしいです。私、まだ見てないので楽しみです」

「……俺はどんな花よりもリアーネのほうが綺麗だと思うがな」


 足を止めてヴィルス殿下を見つめる。いつもの、ヴィルス殿下と全然違う。といっても心の声ではこれ以上のことを言っていたが。でもヴィルス殿下は20文字ぐらい喋るなんて。何かきっかけがあったのだとは思うけどそれをヴィルス殿下は心の中で考えてくれないので分からない。


 ヴィルス殿下も足を止めて私を見る。綺麗で整っている顔が私を見つめるなんてことは無かった。だから、少し顔が赤くなったのが自分でも分かり、ヴィルス殿下から視線をずらして前を見る。


 私が歩こうと足を動かすとヴィルス殿下も動き始める。そして、一緒に階段を降りて外に出た。


「わぁ……!凄いですね!あの花は何でしょうか?薔薇みたいですけど、薔薇ではないですよね」

「確かに薔薇に似ているな」

「ええ!あ、あの真ん中に行きませんか?」


 薔薇みたいな花、もう薔薇でいいだろう。それが広がっていた。そして薔薇と薔薇の間に道があって、薔薇の真ん中に白い椅子が2つと机が1つ置いてあった。


 椅子に座る。ヴィルス殿下も椅子に座った。すると、ヴィルス殿下の心の声が聞こえる。


(ふぅ、ふぅ、告白……今だ、いけ!ずっと前から好きだった!)


 いつ告白されるか分かってしまって楽しくない。楽しくなくても、鼓動が高鳴る。


「リアーネ」

「なっ……何で、しょう」


 告白の言葉が、ヴィルス殿下の口から出た。


「ずっと前から好きだ」


 言われるって分かっていたのに。言葉だって、知っていたのに。

 嬉しくて、恥ずかしくて。手が震えている。


 その言葉は、まだまだ先に言われると思っていたから。


「わ、私も……ずっと、前から。好きでした」


 その瞬間、黒いもので視界が塞がれた。それがヴィルス殿下の服だと気付くのに3秒は掛かった。そして抱き締められてるというのに気付くのには追加で5秒掛かった。


「ずっと……勇気が出なかったんだ。嫌な態度を取ってしまっていた。本当に、すまない」

「いえ……大丈夫です。すべて知ってましたから」

「知っていた?どういうことだ?」


 私は人の心の声が聞こえることを話した。変な子だと思われたくなくて誰にも言っていなかった私の秘密を。


「……俺が告白しようとしていたのも、俺がどれだけリアーネが好きかも知っていたのか?」

「それは、まぁ……はい」


 ヴィルス殿下が私から離れた。何をするのだろう、と思っていると次は唇を塞がれる。


 驚いている間に唇は離れていって、満足そうな顔をしているヴィルス殿下と視線がぶつかった。


「これからは、遠慮をしない」

「……そ、そうですか」


 初めての、キス。出来るだけ普通に見られるようにしているけど、内心凄く動揺していた。


 急展開すぎる。本当は、きっかけを知りたい。そう伝えると、ヴィルス殿下は少し考えるような素振りをした後に口を開く。


「俺に抱き締められたいと言っていただろう?だからもしかしたら両思いかも、と思ったからだ」

「なっ……!聞いていたんですね!ということは……キュリルが変だったのは、ヴィルス殿下が聞いていたのを知っていたのね……」


 ははっとヴィルス殿下が笑う。私も、笑った。笑顔でヴィルス殿下に伝えた。


「大好きです、私の婚約者様」

「俺も、大好きだよ」





最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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