フィリーネへの感情
ゆらゆらと揺れる燭台の明かり。あまりにか細く揺れる炎。月明かりがあるのが幸いだ。暗い闇を背負いながら、フィリーネが不思議そうに私を見つめる。
いい機会だな、と私は思う。
この子とはじっくりと話す機会が、今まではなかった。この世界に飛ばされてから、一番世話になっているというのに。
「フィリーネ、どの」
「フィリーネで」
にこにことほほえみ返すフィリーネ。
「ならば私も、レオールで良い」
「はい、レオール」
その時、フィリーネがメガネをかけているのが見えた。
不思議そうな顔をする私に、フィリーネはそのことを察する。
「大事にしたいので普段はつけていません。不審に思う人もいるでしょうから」
なるほど。普段つけていたら、それこそ悪魔の使いとでも思われるかもしれない......ん?ではなぜ今つけているのか。
「せめて二人のときはつけていたいと思いまして」
なるほど。それは理にかなっている。理に......うん。
「フィリーネには申し訳ない。住み慣れた家を離れることになって」
「いいのです。これも運命でしょう」
「戻ったら、また畑を手伝おう」
首を振るフィリーネ。
「.......?」
戻りたくないのか、私は顎に手をやる。
「戻れることもないでしょう。一度旅に出た身、生きて帰ることは考えていません」
あまりにも悲観的な言葉。
再び、思い出すこの時代の記述。
『中世ヨーロッパは死と隣り合わせの世界である。病気、災害、戦争などありとあらゆる出来事が簡単に命を奪う時代であった。「死を忘れるなかれ(メメント・モリ)」、この時代の人々はベッドの側に本物の頭蓋骨をおき、常に自らの死を意識していたのである』
「ならば、なぜこの旅に。嫌といってくれたならーー」
「あの荘園にいても同じことです。目だけではなくーーあまり体も丈夫ではない方なので。あしでまといかもしれませんが、せめてレオール、さまのなにかのお役に立てることがあれば」
そう言いながらうつむくフィリーネ。
「ならば」
私が口を開くと、フィリーネは顔を起こす。
「一緒にいてくれるか。あなたがそばにいてくれると嬉しい。いや、嫌でなければだが」
素直な一言。自分でもいまいちこの感情の置きどころがわからない。
男女二人の部屋である。しかし、そういう雰囲気というわけでもない。年が離れているせいか。それとも。
「私に何ができますでしょうか」
「そうだな、まずは話を聞かせてくれ。この世界の。フィリーネが知っていることを」
その日、私は久しぶりに夜遅くまで語らうこととなる。
フィリーネとの忘れられない思い出の一つなる、出来事であったーー




