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戦わない小説家シリーズ

ガチUMA、襲来?

作者: 一木 川臣

 平日の朝7時頃、私は突然緊急町内会に招集されてしまい今公民館に来ているところだ。私の住む町には定例町内会の他に、何かが発生すると『緊急町内会』が臨時で開かれるのだが、昨日の夜9時頃に突然声をかけられての今朝では中々無茶な話ではなかろうか。


 とりあえず何事かと思い公民館まで足を運んだが、結局町長と私、そして近所に住む幼稚園児の『リカちゃん』しか来てくれなかった。そりゃそうだよな、平日の朝に急に『来い』だなんて言われても来れる人なんてかなり限られている。


 私はいつも家の中でweb小説を執筆している為今日の会議にくる事が出来たがこのメンツじゃわざわざ来る必要も無かったのでは無いかと思えてしまった。


 野郎一人、老人一人、女児一人のなんとも不思議な顔ぶれである。



「只今より、『第49回UMA対策会議』を行う!」

 

 時刻になると白髪の町長 (御歳93歳)がホワイトボードの前に立ち高らかに会議開催の合図を張り上げた。


「UMA……?」


 3人しか集まらなかったので臨時町内会は延期になるかと思いきやどうやら決行するようだ。凄まじい勢いでホワイトボードを書き込む町長に呆気を取られてしまう。年齢を感じさせない若々しさだけが取り柄であるが……


 ただ、全くもってワケの分からない議題に私は思わず首を傾げてしまった。


「そう! UMA対策会議じゃ!!」


 いつの間にか49回もこんな謎会議が行われているというツッコミは置いておいて、一体何を話し合う会議なのだろうか……


「UMA…… と言えば俗に言う未確認生物のことですよね」

「その通りじゃ!」


 町内会のメンバーがリカちゃん以外に私しかいないのでとりあえず発言する。

 ほっぺがまん丸なツインテール女子のリカちゃんは私の隣に座っており、手に持つ『ぺろぺろキャンディ』に夢中になっていた。

 とても可愛い仕草であり見ていて癒されるが、幼稚園児である彼女を会議に派遣させるなんて中々酷な話であろう。恐らくご両親が忙しくて出席できないため『せめても』の心情で彼女を出席させたに違いない。


 こんなあってないような会議にわざわざ来てくれてありがとうと、心の中でリカちゃんにお礼を言っておいた。

 さて、話は会議に戻り私は挙手をしながら発言をしてみる。

 

「そんなUMAって突然言われても…… どういうことなんですか、町長?」

「よし、まず順を追って説明しよう」


 バンっと前のめりになりながら机を鳴らす。年甲斐もなくパワフルな老人である。


「明日、ワシらの『東町老人会』は潮干狩りに行くこと。お主も知っておろう!」

「知りませんよ」


 なんで私が老人会のスケジュールを把握している前提で話すんだ? まだ中年にも至っていない若々しい私が急に老人会の話題を持ち込まれたって困惑するだけだ。ましてやもう一人は幼稚園児だと言うのに……


 あーでも……


「あーでも、昨日私の祖母がそんなことを言っていたような気がしますね。潮干狩りに行くからといって張り切って忍者熊手を6本買ってましたよ」

「そうじゃろうそうじゃろう。我が『東町老人会』のメインイベントである潮干狩り! この町に住む住民なら誰もが待ち望む町内の一大イベントじゃからのう!」


 ウッキウキで話し出す町長。老人会にとっては潮干狩りが学生にとっての文化祭みたいな立ち位置なのだろう。幸せそうで何よりだ。ただ、私にとっては退屈なので早く閉会して欲しいところである。


「……ですが町長。その潮干狩りとUMA…… 一体何の関係があるのでしょうか?」

「あぁ、よくぞ聞いてくれた」


 私の声を聞くや否や町長はいぶかしげな顔に移り変わりそっと声を落としながらこう言った。


「脅かされているのじゃ、潮干狩りが……」

「脅かされている?」


 どうにも紐付きができない私は思わず町長の言葉を復唱してしまった。潮干狩りとUMA……? どう言うことだろうか……?


「つい先日、事は起きた! ワシらの行く予定である海岸にUMAが出没したと言うのじゃ!」

「ええ……」


 明日潮干狩りが行われる海岸に未確認生物が出てしまったと言うのだ。

 こんなことを言われても私は反応に困る。横にいるリカちゃんに目をやると相変わらずキャンディーに夢中で大人しく座っていた。小さい子なのにじっとしていられるなんて、親御さんの躾が良いのだろう。偉い子だ。


 対して町長は大人気なくヒートアップしている。


「こんなけしからんことがあってたまるか!? そうだろう君達、ワシら『東町老人会』の潮干狩りを脅かすこの脅威に対抗するため、今日は集まってもらったのじゃ!」


 だからUMA対策会議だったのか…… 実質稼働人数が二人しかいないから会議でも何でもないのだけど……


「まずはこの写真を見てほしいのじゃ!」


 町長は額に青筋を立てながらセコセコと紙袋から何やら大きな写真らしきものを取り出し、前にあるホワイトボードに掲げた。


「これは……?」

「地元の方々がUMAに接近してなんとかカメラに収めた一枚じゃ。これがワシらの潮干狩り海岸に出没したUMAじゃよ」


 写真を見てみるとどうやら水中で撮影されたもののようだ。大きなオウム貝に乗った女性らしき生き物…… ハーフパンツスタイルの女性用水着らしきものを着ているあたり一見すれば人間かと思えてしまう。

 だが、耳や、手、脚といった部分に魚のヒレみたいな物がついており、明らかに人間とは違った生き物であると分かる。海中でも元気そうな笑顔であり水中呼吸が出来るのだろうか、見るだけなら無邪気な女の子とも取れなくもないが…… まごうことなきUMAであるのには違いない。


「ええ!? 本物じゃないですかっ! どうするんですか!?」

「どうするかを今から話し合うのじゃよ! お主はどうやらネットで小説を投稿しているようじゃな。こういう相手にはめっぽう強いじゃろ!?」


 なんで私が趣味でweb小説を投稿している事が町長の耳まで知れ渡っているんだ? 第一私の執筆しているものはファンタジー系ではないため、こんなUMAにめっぽう強くない。


「いや、無茶ですよ。絶対強いじゃないですか。戦うに必然的に海中戦になりますよね、そう考えると相当きついですよ」

「そこをなんとかする為にお前さん達に来てもらったんじゃろうが! なんとか知恵と力を貸せい!」


 いやいやいや、UMAと言われても雪男とか、ネッシー程度だったらなんとかなったかも知れないけど人型程厄介なものはない。下手に知恵をつけているためかなり強いイメージが私の中にあるからだ。


「ワシの目論みじゃと、水系魔法を使ってきそうじゃ! 水系魔法に強い属性は一体何かのお?」

「ええ……!?」

 

 そんなこと言われたって私も解答できない。現代日本で魔術について話し合ったことないし、こんなUMAが魔法を使ってくるとも思えない。それに水系魔法と一口に言われても様々だ。強いて言うなら火属性魔法での対抗はNGということだが、そもそもこの世の人間は魔法なんて使わない。論じるだけ無駄である。


「水の壁ならまだしもジェット噴水魔術とか、氷結魔術とか使ってきたらどうするのじゃ!?」

「知りませんよ!!」


 なんでこの町長は脳内がいつもファンタジーなのだろうか。私はこのUMAがモリとかナイフとかで襲ってくるというまだ現実的なことを考えているのに……


 氷結魔術なんて使って来たらそれこそ終わりだと思う。潮干狩りに来た『東町老人会』の連中全員がカチンコチンに凍らされて終わりだ。


 UMAもそうだが私にとってはこの脳内ファンタジー町長の思想をなんとかしたいところである。


 うーむ。どうしたものか…… 会議が拮抗してきたな……


 っと、私と町長がしばらく頭を捻っている中、隣で目を輝かせている少女が一人。写真を目の前にリカちゃんが「すごーい!」と大はしゃぎしていた。

 子供は平和でいいなあ…… こっちは脳内ファンタジー町長と真面目にUMA対策を案じていると言うのに。ただ、無邪気なリカちゃんに罪はない。


 アニメとかでよく見るのか本物のUMAを前にリカちゃんのバイブスが上がってきたようだ。


「すごいすごーい! 絶対強いよこのUMA。ビームとかしてきそう!」

「ビーム!?」


 リカちゃんの一言を受け町長の目が大きく見開かれた。


「ビーム光線じゃと!? そんなことされたら…… ワシらはなす術なく沈黙するしかないのか!?」


 あまりの驚きぶりに声が掠れ始める町長。いくらなんでもビビりすぎだろ。

 確かに町長の言う通りビームなんてしてきたらひとたまりもないだろう。だけどまだビームが出せるUMAと断定されたワケじゃないし大袈裟すぎる。


「あたしね、この前アニメで見たの! おっきなビームをズゴーンと放って町中を焼け野原にしちゃうんだ!」

「ビーム…… 焼け野原……」


 不穏なワード連発に町長の精気が徐々に薄れていく。いやだからビビりすぎだろ。そんな火力の高いUMAなんて聞いたことがない。

 仮にそんな超火力UMAが事実なのであれば私達ではどうすることもできないからK察呼んでなんとかしてもらうべきだと思う。



「ワシらの潮干狩りが…… 焼け野原に……」

「落ち着いてください町長。こんな人型UMAがビームを放つことはないですよ。特撮怪獣やロボットじゃないんだから」


 私が落ち着かせようとも町長の息は荒れたままだ。なんで子供の言うことを真に受けてしまうのだろうか。

 でもどうしよう、このままぽっくり逝かれても困るぞ。


「あとねあとね! 超能力サイコキネシスとか使ってきそう! おっきな車とか持ち上げて攻撃するんだ!」

「さ、サイコキネシス!?」


 ぺろぺろキャンディを振り回しながら大喜びするリカちゃん。一方で刺激が強すぎたのか町長は固まってしまった。


 随分難しい言葉を知っているんだな、リカちゃんは…… かなりのファンタジーアニメ好きなんだろう。 


「お主、サイコキネシスの対策術は何も知らんのか?」

「攻撃発生直前に大きな隙が出来ることがよく言われますけど…… 老人会のスピードじゃ無理ですね」

 

 がっくりと肩を落とす町長。いや…… 私だってサイコキネシス相手じゃ何にもできない。


「なんともならんのか!? ワシら人類はここまで弱い生き物じゃったか?」

「そうですよ」


 ビームもサイコキネシスもとてもじゃないけど老人会が相手できるようなUMAではないだろう。小手先でどうこうなるモノではない。人類とは時に弱く愚かな存在である。


「じゃが、なんとしてでも明日の潮干狩りだけは行かねばならん! なんとかせいお前ら!」

「ええ!?」


「UMAに対抗できる案が見つかるまで会議は継続じゃからな! ワシらの命がかかっとるんじゃ、当然じゃろう!」

「マジかよ」


 うっげ…… まずいぞこの流れは。


 その潮干狩りに対する意気込みの強さは一体なんなんだろうか。『東町老人会』の連中全員ここまで潮干狩りに対して命懸けなのか? 

 にしても、町長が頑固な上に無茶苦茶なことばかり言うから本当に苦しいぞ。想定する敵が強すぎるんだよ。せめて熊手とスコップで相手できる位までUMAのレベルを下げてほしい。じゃないとこの会議の終わりが本当に見えなくなる。



「リカちゃん、助けて!」


 もうお手上げといった感じでバンザイすると隣に座るリカちゃんが「あたしに任せて!」と胸を張ってきた。なんでもいい、解放されるならなんでもいいんだ…… 頼む、リカちゃん!







 とりあえず会議は適当に折り合いをつけ解散された。


 え? どうやって折り合いを付けたかだって? 


 それは…… 『東町老人会』総勢40人が力を合わせて放てる『対UMA合体必殺技』を編み出すということを条件に町長が私達を会議から解放してくれると言ってくれたからである。

 唐突に合体攻撃を編み出すなんて無茶苦茶な話であるが、なんとかリカちゃんと協力し2時間かけて作り上げた。

 ビームやサイコキネシスをも使うUMAもきっと倒せる必殺技だ。

 私とリカちゃんが必殺技を説明した時、町長の表情が希望に満ちており滅茶苦茶感謝された。


 ……ただ、この必殺技を使うのに難しい前提条件がある。そう、町長が覚醒して雷系魔法が使えるという厳しい条件だ。


 まぁ、町長が覚醒すればなんとかなるだろう。とりあえず、家に帰ることができて良かった。本当にリカちゃんのおかげだ、ありがとう!



 そして後日、潮干狩りに行ってきたばあちゃんからUMAについて話を聞いたが「かなり気さくな奴でたくさんアサリをくれた」とのことで、なんというか…… 案ずるより産むが易しとはこのことである。


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