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行く雲と流るる水は悠遊と  作者: あまがみね
3/5

賭け金を取り返すなら強引に

前回のあらすじ


レイ は イカサマ男 に

ギャンブル で 負けた! ▼



レイ は 掛け金 を

全財産(アインの) 支払った…▼



アインは目の前が真っ暗になった…!▼

信じられない光景に開いた口が塞がらないでいるアイン。

「あんなだけ凄んでいたのに負けんのかよー!」

と野次馬たちが笑い出してからぽかーんとしていたアインは我に返る。


「え?え?ちょっと?嘘だろ?」

アインは震えながらレイの隣に近寄る。

彼女は腕を組んで酒場の天井を仰ぎ見ていた。

「レイ?これ嘘だよな?」

「アイン」


レイは彼の方を見てから静かに話し出す。

「勝負ってのは勝ち負けを決めることなんだ」

「え、ああ、そりゃそうだろ?」

レイは頷く。

「でも、その勝ち負けを決めるのは相手でもなければルールでもないし第三者でもない」

アインの頭の中で?????が飛び回り始めた。


「勝ち負けを決めるのは自分なのよ。つまり何が言いたいかってー」

「アタシが負けと思わなければ負けじゃないってことよ」


そう言って不敵な笑み浮かべるレイを見てアインも笑みを浮かべてお互いに見合う。

「いや、それただの負け犬の遠吠えじゃねーか!」

「へへっ」

「へへっ、じゃねぇ!マジでどうしてくれんだよ!もう金もないのに!」


何故か照れ笑いする彼女の胸ぐらをアインは掴み揺らして怒りと泣きが混じった表情で詰め寄る。

そんな様子を見て野次馬たち更に笑い出す。


「で、結局金は払えるのか?」

酒場のマスターが二人の前に伝票を叩きつけてから問いかける。

「ああーうん、そうだなぁ。ツケにしといてくれる?今度倍で払うからさ」

「面白い冗談だ」


すると酒場の屈強な男たちが二人を取り囲む。

「金がないなら稼いでもらわないといけない。だけど安心しろ、この人たちが良い仕事を紹介してくれる」

「おーほっほっ優しいねぇ、優しすぎてこの酒場を知り合いに紹介したくなっちゃったよ」


軽口をたたくレイは余裕そうだがアインは顔面蒼白だった。

こういう場所でこの状況で紹介される仕事なんてまともなわけがない。

一生奴隷とかそれ以上の悲惨な仕事に違いない。

そう考えた時、彼の中でフラッシュバックが起きた。


それはレイと出会う前の記憶。

奴隷のようなあの日々がまた始まるのか、そう思ったアインは嫌な汗をかきながら震える。


そんな彼の背中に優しく触れる手があることに気付く。


アインが振り向くとレイが正面を向いたまま「大丈夫」と呟く。

どうして大丈夫なのか分からないでいると酒場の入り口を乱暴に開く音が聞こえその場の全員が音の方を向く。


ただし、レイを除いて。


「おい、ドゥーショーとかいう野郎はいるか!この俺様を呼びつけるクソ野郎はよ!」

「え?ボス、どうしたんですか?」


酒場のマスターが驚いた様子で彼を見る。


「ドゥーショーってやつが情報屋づでにデカい儲け話があるから行けと言ってきたらしくてな、ふざけた野郎だが俺へのコンタクトを取れるやつはそういねえからな、誘いに乗ってきてやったんだが……誰か知らねぇのか?」


マスターにボスと呼ばれた男は聞いたことのない名前の人物を探しているようだがアインはもちろん酒場の中にいる者が全員、困った様子で互いを見合うのみ。


「ああーごめん、あまりにも聞きなれない名前だから分かんなかったわ。自分で決めた偽名なのにね」


そう話す人物に皆、注目する。

注目の先にいた人物はレイだった。


「ご足労いただきありがとうございます。ボス」


レイはゆっくり立ち上がる。


「アタシがアンタを呼びつけたクソ野郎ドゥーショーでございます」


酒場の入り口の方に向きbow and scrapeと言われる、主に男性の貴族や執事がやるお辞儀をしてから顔を上げる。


「はじめまして、Mr.ヤーゴ・ラスラ」

不敵な笑みを浮かべて彼を見るレイ。

ヤーゴと呼ばれた男は彼女の姿を見るなり青ざめていき後ずさる。


「りゅ、龍水の魔術師……れ、レイ・アビランティ……だと!?」


彼がその名を口にすると酒場にいる人の一人が「あの女が龍水の魔術師だって?」という声から静かだった酒場がざわつく。


本当に?嘘だろ、でもといった声が飛び交う中レイは一切気にせず口を開く。


「アタシがアンタを呼びつけた理由……人身売買や違法薬物取引ってまあ言わなくても分かるか。んじゃ、お縄につこうねヤーゴ」


既にとんでもない罪状が彼女の口から出てあるのにまだ他にもあるのかと思っているとヤーゴは固まっていたが冷や汗を浮かべたまま笑い出す。


「は、はは!こいつは驚いたぜ!まさか二つ名持ち魔術師様がいるなんてよ!」

「でしょー、サインでもしてあげようか?そこのイカサマディーラーの顔にでかでかと書いてあげてもいいし」


さっきまでレイと対戦していた男は唐突に振られてぎょっとした様子になっていた。

がそれをよそにヤーゴは彼女を睨みつける。


「でもアンタ馬鹿だぜ!ここは俺様のテリトリーなんだよ!お前らそいつらやっちまえ!絶対に生かしてここを出すな!」


そう言ってからヤーゴは酒場を飛び出す。

「あーあ、逃げられちった」


ヤーゴに逃げられたが特に動じる様子もなくレイはアインの方に振り返り近寄る。

「アイン、あのおっさんが鬼ごっこしたいらしいから後を追うよ。ほら、ぼさっとしない」

そう声をかけられるが唐突な展開に呆気をとられていたアインだが彼女の言葉でハッとする。


「あ、ああ分かった」

さっそく酒場の入り口向かおうとするが周りのガラの悪い男たちが二人の行く手を阻む。


「アンタたちに恨みはねぇがボスの命令だ、大人しく殺されてくれ」

そう言いながら手をポキポキと鳴らす男。

他に集まってきた男たちは各々、酒瓶や椅子などを持ってアイン達を威圧してくる。


「おお、こりゃ素敵な随分素敵な舞踏会のお誘い。良かったねアイン」

レイは先ほど座っていた椅子の隣まで下がりながら軽口をたたく。


「そうだな、ただ腹痛のため欠席したいんだけど欠席届はどこに出したらいい?」

アインはレイと背中合わせの形で構える。

「んー、そうねぇ分かんないから」

レイはかかとでアインの踵に軽くコツッと当てる。

それは合図だった。


「手当たり次第に出して行こうか!」

アインはかがんで低姿勢になる。

それと同時にレイは椅子を右手で持ち上げ扇形に振りかざす。

するとアインと対面していた男の頭に椅子が衝突し倒れる。

そしてアインは屈んだ姿勢のままさきほどゲームをしていたテーブルの方を向き勢いよくテーブルをひっくり返す。


ひっくり返されたテーブルの反対側にいたイカサマ男を含めて3人ほどが下敷きになる。

二人と一番近い距離で囲んでいた男たちは瞬時のできごとに呆気をとられて出遅れたが慌てて戦闘態勢に入り各々、拳や酒瓶などで殴りかかってくる。


アインは低姿勢のまま避けてそのまま立ち上がりながら攻撃してきた男の顎を目がけてアッパーを繰り出す。

「おりゃー!」

アッパーは命中しガキンと嫌な音がして男は倒れる。

倒れた男を見て一瞬怯んだ別の男をアインは見逃さずタックルして突き飛ばす。


うおっ!という声と共に倒れ伏せさせることに成功するが勢い余ってアイン自身も転倒してしまった。


(あ、やべっ!)

アインは慌てて起き上がろうとするがその大きな隙を男たちが見逃すわけがなく2、3人が殴りかかってきた。

アインは殴られるのを覚悟し腕で防ごうとするが男たちの拳はアインの視界から横にずれて外れた。

何事かと思ったら屈強な大男が彼ら向かって倒れてきていたからだった。


「アイン、元気?」


レイはにこにことした顔(嘲笑)でアインの身を案じる。

どうやら大男は彼女によってフッ飛ばされきたようだ。


「げ、元気ですけど!?ちょっとそこにこぼれてた酒でバランス崩しただけだから!決して俺のミスじゃないから!」

恐らくは見抜かれているであろう必死の弁明をしながら立ち上がりながら周囲を見渡すとアインとレイ以外に立っている人物はあと二人しかいなかった。

30人ほどいたはずだが、倒されたもの以外は怖気づいて逃げたようだ。


そしてレイが二人の男うち片方の腹を殴ってから態勢をくずした相手の頭を掴み彼女の膝蹴りを繰り出しなぎ倒す。

するともう片方の男が彼女の背後から後頭部を目がけて酒瓶を振りかざす。


「レイ、危ない!」

アインがすぐに駆け出す。

しかしレイはその場でしゃがみ片足をのばし弧を描くように回転し男の足を蹴りはらう。

男はバランスを崩し倒れこむがすぐに立ち上がろうとする。


「させるかー」


立ち上がろうとする男の背中に目がけて勢いつけて飛び乗り新体操のフィニッシュポーズをとる。

男は「ぐえっ」といううめき声を上げた後動かなくなった。

絶対痛い。

敵ながら哀れと思いつつアインはレイの方へ近寄る。


「なんか思ったより余裕だったな」


何人か逃げたがあれだけの人数に対して切り抜けられたことになんだか誇りを感じたアインは「へへっ」と人差し指で鼻を擦りながら周囲を見回すが、それを聞いてレイは鼻で笑った。


「さっき転倒してビビり散らかしてた奴が何か言ってら」

「はぁ!?び、び、ビビってなかったし!」


図星を指されたアインは顔を真っ赤にして反論するが彼女は彼の額にデコピンする。

「痛っ!」

「ああいう時は魔術で対抗しなさいな、できないなら体勢を崩すような攻め方をするなこのアホが」


デコピンされた箇所を両手で抑えて若干目元に涙ぐむ。

「んなこと瞬時に判断できるかよぉ」

「それをできるようにならないといつまで経っても魔術師になれないぞー」


反論するアインに教示しながらレイは酒場の入り口に、ではなく奥の方へ向かった。

「レイ、出口はそっちじゃねーぞ?」


彼が指摘するも彼女は酒場の裏口の扉を乱暴に蹴っ飛ばして開けて中に入ってしまった。

「ちょっ!?レイ、どこに行くんだよ」

アインはレイが入った裏口の方へ向かい中を覗く。


中は倉庫のようで色々な酒やテーブル、椅子に備品等が置かれていた。

その中でも彼女は奥の方におり何かを物色しているようだ。


「おーあったあった」

「何を探してんだ?」

「さっきギャンブルで賭金に出したやつを取り戻しに来たんよ」


アインがこの酒場に来るまでに

レイはどうやら金品や旅用の荷物まで出していたようで彼女はそれを取り返しに来たようだ。


「つまり、酒場の連中をボコボコにしたのってこの為か?」

「そうそう、ギャンブルで解決できないから平和的な対話(物理)したってわけ」


平和の意味を履き違えているような発言があるがそれ以上に驚くべき物が倉庫の奥から飛び出してきた。


「よし、これで全部っと」

「待ってレイそれも出してたの!?」


それとは今レイが肩に担いだ槍を指す。

眩い水色の魔石が埋め込んであり薄暗い倉庫内を淡く照らしている。


「まーね、出すもん無かったし」

「いや、それ魔道具の三又槍トリシューナじゃねーか!魔術師の魂じゃん!」


魔術師はもともと手になじむ細長い棒に自分の魔力を1週間漬け込んだ杖を持っていたが最近の魔術師はその杖を様々なものに代用するようになった。

薬の調合や料理が生業なら鍋・壺、貴重品等を生業としてるなら鍵や保管庫。

そして戦闘を生業にしているなら武器や魔導書といった具合に人によって杖は姿を変え、いつしかそれらを魔道具と呼ぶようになった。


つまり魔術師にとって魔術を使うために必要な物であり、アインが魔術師の魂と言うのも過言ではなかった。


「譲れない戦いってやつだったからさ」

「その戦いってギャンブルだろ!」

「バレちったか」


自由過ぎる師匠の行動にわめくアインをとぼけた様子で済まし彼女は荷物を持ち倉庫を出る。


「んじゃ、ヤーゴちゃんを追いかけますかー」

「ああ、そうだったぁ。でもアイツ逃げてからだいぶ時間たったけど、どうやって追いかけんだよ?」


アイン達がヤーゴの手下たちと争ってから少なくとも10分以上は経過している。

遠くまで行ってないにしろ追跡は簡単ではない。

はずだが、レイは焦った様子はなく酒場の入り口に向かう。

外に出るのかと思いアインは後を追うが入り口付近に来たところで彼女はその場にしゃがむ。


「何をしてんだ?」と彼女の隣から覗き込むと何やら酒場の床を少し凝視した後に手を置いた。

すると水色の魔法陣が出現しその中心から手のひらサイズの水泡が浮かんできた。


「よし、ちゃんと採ってるね。偉いぞー」


彼女が水泡をちょいちょいつつくと水泡は喜んでいるのかブクブクと言いながら揺らめく。


「レイ、この泡は一体何なんだ?」

「こいつはアタシの使い魔、追跡能力が高いから予めここに待機させてたのよ」


意地悪そうな顔でにひひと笑うレイ。


「さぁ、勝ち確の鬼ごっこを終わらせに行こっか」


そう言ってから立ち上がり酒場の扉を開き外へ出た。


第3話閲覧ありがとうございます。

ご感想ご指摘いただけたら泣いて喜びます。


また近日中にアイン、レイ、クロエのビジュアルを公開予定です。

Twitterにて公開予定です

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