ギャンブルは楽しくされど冷静に
前回のあらすじ
この町めっちゃ治安悪くてアインが泣きそう
聞きなじみのある罵声。
酒場の前の通りにまで響くそれは自分の探している人物いる場所を特定するには十分だった。
だったのだがアインは頭を抱えていた。
「ああこれ絶対トラブルに巻き込まれるやつじゃん!」
あの酒場に入ったらきっと何かしらのトラブル主に喧嘩という名の殺し合い、意味不明な賭け金のギャンブルなどが思いつきいずれにしてもロクなことにならない。
アインは大きなため息を吐き顔を上げる。
どうやら覚悟を決めたようだ。
「……クロエ、お前は酒場の外で待っててくれ。俺があのバカ師匠を連れてくるから」
そう言いながら遠い目をするアインの顔を慰めるようにぺろっと舐める。
アインは彼女に「サンキュ……」と呟いてから酒場に向かう。
酒場の入り口にたどり着き意を決して扉を開ける。
中に入ると強面の男や女が各テーブルで酒や煙草にギャンブルを各々行っており外の町と同じ暗い雰囲気が立ち込めていた。
「よーしいけるいける……ダブルダウン!」
ただし、ある一つのテーブルを除き。
そのテーブルには人だかりができており暗い雰囲気の酒場を多少賑やかになっていた。
もちろん悪い意味でだが。
アインはその人だかりに向かう。
体格の小さいアインは屈強な男や女の隙間を割って入る。
「すまん、通してくれ。あ、ごめんよ」
時々、誰かの足に踏まれたり踏んだりしながらようやく人だかりの中心に辿り着く。
そこにはよく見知った女性の姿があった。
「バーストしたああああああ!ファッキュー!このクソ野郎ー!もう一回勝負よ!」
女性がそう叫び手元にある酒の入ったコップを呷り呑む。
白い髪に水色が混じった長髪に白いチャイナ服に黒いたっつけ袴のようなズボンというこの町の住民の服装とは一風変わった容姿をしている。
アインは様子を見る限りボロ負けなのに再度ゲームを続けようとする白髪の女性を手を掴んで止める。
「レイ!もうやめとけって!」
そう彼女こそがアインの師匠、レイ・アビランティである。
更なる破滅の道へ進もうとする手を止められたレイは先ほどまで負け続けイライラしていた様子でアインの方を見ると急に眼をキラキラさせて上機嫌になる。
同時にアインは青ざめる。
「おおアイン、良いところに!今さ、ブラックジャックしてて次で勝って巻き返せそうなのよ、でね」
そう言いながら満面の笑みでアインに手を広げて差し出す。
「お金貸して♡」
「断る!」
即答で断るアインにレイは彼にしがみつく。
「ねえええええ良いでしょー!これ最後にするから!ホント!マジ!」
「お前って最後って言いながら有り金尽きるまでやめないじゃん!つか、酒くさっ!」
かなり吞んでいるのか顔が真っ赤になっており「びええええ」と汚い声で泣きついてくる。
「そんなこと言うなよーこのままじゃアタシ無一文だから酒の代金も払えないんだよー」
「どんだけやったんだよ……もーしょうがねえ、俺が払うから。さっさとここ出るぞ、すみませーんこの人の会計お願いしまーす!」
そう声をかけると酒場のマスターが会計伝票を持ってきてアインはため息をつきながら受け取り伝票を見るとそこには信じられない数字が載っていた。
「はあぁぁぁぁぁぁ!?なんだこれ!?高すぎだろ!」
レイが呑んだ酒は10杯で本来ならこれでも驚くには十分なのだがそれ以上に金額がおかしなことになっており相場の5倍以上の金額が記載されていた。
「ねー、ここ高いよねー」
のんきな声で肯定しながらけらけら笑い酒が入ったコップを自分の口に傾けるレイを見てアインは頭の中でプッツンと何かが切れた。
「高いよねーじゃないんだよ!どうすんだよこれ!?俺も払えないんだけど!あと酒呑むなー!!!!」
「あぶらあげっ!」
のんきに笑っているレイにビンタでツッコミを入れると意味不明なダメージボイスが飛び出す。
酒場の人だかりに笑いが起こるが温かい雰囲気ではない。
そして頭の中でこの場をどうやって切り抜けるかを必死に考えていたのだがそんなアインの頭をレイはぽんぽんと撫でる。
「まぁまぁ落ち着けって、ちゃんと解決方法があるからさ」
「マ、マジで?」
「おーよ、しかも2つもある!」
「レイ……!」
その頼もしい返事にアインは目の前のダメ人間から後光がさして見えた。
「んじゃ、まず一つ目!」
そう言ってからレイはアインに手を差し出す。
「え、なんだよ?」
「なんだよじゃないよ、ギャンブルで勝って稼ぐんだから賭け金いるでしょーが」
彼女がニコニコとした顔でテーブルの上のカードを親指で指す。
同時に彼女の後光が消滅した。
「いや、解決策ギャンブルかよ!」
「大丈夫大丈夫、今なら勝てるから」
そう話す彼女の言葉はさっきと打って変わって真剣な様子。
思わず何かしら勝算があるのだと思い、他に方法がないのでアインは思い悩んでから。
「絶対勝てよ!」
アインは彼女の手に自分の所持金が入った袋を載せる。
袋を受け取ったレイは大胆不敵な笑みを浮かべる。
「任せろ」
そう言って彼女はテーブルの方に向き直り先ほどから行われていた師弟のやり取りをつまみに酒を呷っていた男を見る。
レイがこの酒場でずっと戦っていた(8戦8敗)ギャンブルの対戦相手だ。
「話は終わったかい?」
「ああ、待たせて悪かったねぇ」
レイはアインから借りたお金が入った袋をドスンッとテーブルに置く。
さっきアインに泣きついていた人物とは思えない何とも言えないオーラを放っておりその場にいた誰もが息をのむ。
お気楽な様子だった対戦相手の男もそのオーラを感じ取れたらしく真剣な表情を浮かべる。
「ゲームってのは追い詰められてからが面白いんだ。見とけよアンタたち、絶望の淵からの大逆転勝利ってやつをよ!」
そう言い放ちレイはゲームに臨んだ。
そしてゲーム開始から10分後。
「うわああああああバーストしたああああああああ!」
レイの断末魔が酒場に響き渡っていた。
閲覧ありがとうございます。
近々Twitterにてアインとレイのビジュアルを公開予定です。
(なんで一話にこれ書かなかったのかこれが分からない)