物語の始まりは悠遊と
初投稿です。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
ざあざあ……。
晴天の空の下、生い茂る木々がそよ風に揺られる。
その木々たちの枝てには色鮮やかなが緑の葉たち。
ぴぴぴぴ……とさえずる小鳥たちの歌声。
こんなに素晴らしきのどかな風景ならあらゆる生命たちが和やかなに過ごせるだろう。
大自然の草原ベットの上へ大の字になって寝転がりながら日向ぼっこも極上のものに違いない。
但し。
ドゴォォォォォン!
突如、けたたましい音が空気を震わせ周囲一帯に響く。
「ウオオオアアアアアア!」
……自然界にない爆発音とけたたましい断末魔がない場合に限る
******
自然界にあるまじき騒音に驚いた小鳥たちは一斉に飛び立つ。
小鳥たちが飛び立った森の中でひらけた場所があり、その中心付近には先ほどの爆発によるものなのか大きなクレーターができており砂煙が舞い上がっていた。
そんなクレーターからぴくぴくと震える何者かの手が現れ、弱弱しく地に置き這い上がってきた。
「し、死ぬかと思った……」
物語開始から1ページにも満たないのに既に満身創痍の少年。
彼の名はアイン・ティスティール。
紫をベースに黄色の髪がまばらに生えているショートの髪にくすんだ赤色のマフラーに黒のタンクトップ、白いローブに黒いズボンが特徴の彼はハァハァと息を切らしながらクレーターから脱出してから地面に仰向けで寝転がる。
(やべぇ、痛ぇし、クソあちぃ……)
現在彼には文字通り焼けるような痛みが襲っていた。
だがそれは外傷にあるわずかな擦り傷や切り傷が原因ではなく彼の体内に起きていることによるものだ。
ぽすっ。
ふとアインの頭上に小袋が降ってきた。
降ってきた方に顔を向けるとアインが3人並んでも足りない大きな狼が小袋を鼻でつついて彼に差し出してくる。
痛みをこらえながら彼は小袋を手に取り中身を覗く。
中には水色の飴玉が数個と紙切れが入っていたのに気づくとアインはすかさず入っていた飴玉を口の中に放り入れる。
飴玉は口に入れるなりスッと溶けていく。
すると溶けるにつれてアインの体の焼けるような熱が消えていった。
「ああ~助かったぁ~ホントに雪飴には世話になりっぱなしだな」
もっともこれを多用するってことは未熟な魔術師であることを意味するのだが。
そう自虐しながら彼は体を起こす。
彼の隣に先ほどの狼が座りアインの頬を舐める。
アインは笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でると気持ちよさそうな表情を浮かべる。
「はは。クロエ、サンキューな。ところで弟子が中級魔術師分身の集団との戦闘とかいう素敵な修行をさせてた”鬼畜師匠レイ”はどこ行ったか知ってるか?」
アインが皮肉交じりに軽口を叩きながら周囲を見渡すがその”鬼畜師匠”は見当たらない。
するとクロエと呼ばれた狼がアインの手の内にある小袋を鼻で指す。
「そういや、飴以外に紙切れ入ってたな」
彼は小袋の中から紙切れを取り出すと何やら文字が書いてある。
どうやらレイの書置きのようだ。
『クソザコ弟子君へ
ーちょっと町に行ってくる、終わったら町に降りてこいー
優しすぎる素敵な師匠より』
唐突な煽り文にムカつき書置きを握る手に力がはいりプルプル震え出す。
「はは、師匠の温かいお言葉が身に染みわたるぜーちくしょー」
たった三行の文章で人を腹立たせられる自分の師匠は天才(超皮肉)だなと思う。
ついでに町のどこに行けば良いのか書いてないし。
アインはため息をこぼしてから立ち上がり近くの木の陰に向かう。
木の陰には彼の身長には少しばかり大きなリュックサックが寄りかかっている。
アインはそのリュックサックのポケットを開けてから雪飴が入った小袋をしまい背中にリュックサックを背負う。
クロエが尻尾を振りながら彼に近寄ってきて顔で自分の背中を指す。
「ああ、いいよ。町までそんなに遠くないし歩くわ」
ありがとなと言いながら彼女の頭を撫でて町の方向に向く。
「クロエ、レイは町のどこにいると思う?」
クロエは「わふっ」と一言吠える。
もう彼女も自分の主人がどこにいるのか分かっているのだろう。
アインもそうだった。
「だな……どうせ、酒場で吞んでんだろうな」
酔いつぶれてないことを祈りつつアインとクロエは町に向かい始めた。
******
晴天の空を照らす日がちょうど真上に上がってきたころアインとクロエは町の入り口に到着した。
さっそく酒場に向かおうとするがこの町自体に入ったのが今日が初めての彼は酒場の場所が分からないので入り口の近くにいた老人に尋ねることにした。
「すみませーん、この町で一番大きな酒場ってどこにあります?」
声かけられた老人はのっそりと振り返り彼を見るや否や怪訝そうな顔を浮かべる。
「この道をまっすぐ進んで2つ目の十字路を左に曲がってすぐのところにあるが……お前さん、どう見ても8、9ってところだろう?何をしに行くつもりだ?」
「そこで待ち合わせしてる人がいるので合流しに行くんですが」
アインは自分が12歳なのに4つほど下に見られたことにグサッと自分の胸に何か刺さったのを感じたが鋼の精神で持ちこたえ正直に答えるが老人は首をゆっくり横に振る。
「悪いことは言わない、やめておけ。お前さんのような小さな子が行く場所じゃないわい」
小さな子供と言われた時アインは自分に見えない雷が直撃したような衝撃に襲われる。
確かに彼の身長は147cmなので小さい子供と思われても仕方ないが12歳で小さな子供扱いはショックだった。
アインがふらつきそうになるとクロエが傍に寄り添い支える。
「そ、そっすか……何かあったんすか?」
別に物理的な攻撃を受けたわけでもないのに満身創痍と思わせるような弱弱しい声で尋ねる。
「その様子だとお前さんはよそ者のようじゃな。なら尚更、この町から早く離れた方が良い」
「もうこの町は腐っているからな……」
そう言いながら老人はその場を離れていった。
町の名はトーロンド。
元々は町どころか村かどうかすら怪しい小さな集落だったのだが、ある日近くに高値で取引される鉱石が採れることが分かりそれを採り売り繁栄した町。
とレイから聞いていたが腐っているとはどういうことだろうか?
アインは老人の言葉に首をかしげるもレイと合流しないわけにもいかないので気を取り直して老人が教えてもらった道を歩き始めるが道中、違和感を感じていた。
(なんか暗くね)
道を歩く最中、広い歩道にそこそこ大きな2~3階建て程度のレンガ造りの建物が両サイドに並びこの町食べ物や武器などの露店が立ち並んでが大きな町であると実感するのだが全体的に空気が重い。
それにこの町の者でないからか視界に映る人々が皆、アインとクロエを見ており中には二人を見ながらひそひそと話していたり睨んでくる者もいた。
正直、気分悪かったが突っ込んで変なトラブルになっても面倒なのでさっさと合流してからこの町を出たいと思いアインは足早に歩く。
(こういう時は喧嘩腰でいるより何も触れず平和に町を去る、これが一番)
確かニルヴァーナの言葉にこういうのがあった……触らぬ神になんちゃらだっけ?
前にレイが言ってた言葉だがうろ覚えで続きはなんだったかと思い出しながら歩いていると老人に言われた十字路にたどり着いた。
「ここを左だよな……ってあれか」
目線の先には長方形型の2階建ての大きな看板がついた建物が見えた。
相変わらず通りの雰囲気はよろしくないが目的地を見つけ内心ほっとするアイン。
アインはクロエと目を合わせやれやれと言いながら笑みを浮かべてから踏み出そうとした時だった。
「ああああああああ!クッソオオオオオオ!また負けたああ!!!調子乗ってんじゃねぇこのイカサマ野郎ー!!!!」
という耳なじみのある女性の罵声が通りにまで聞こえてきた。
アインは笑顔のまま凍り付く。
『何も触れずに平和に町を去る』
そんな彼のプランが早くも崩壊しつつあるのを確信したのであった。
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