眠いのは
家に帰宅すると、ソフィアはまだ帰って来ていないようでした。
王妃教育は大変ですし、帰宅が遅くなる事もあります。
それでも夕食は家族全員で食べるので、今日は少し遅めの夕食になるかもしれません。
「ただいま!」
ソフィアは今日も、とても元気いっぱいに帰って来ました。
元気な所はソフィアの良い所です。
共に夕食を食べている間も、時々ソフィアは私を睨みます。可愛い。子うさぎに睨まれても怯える人間なんて居ないのに、本当に私の妹は可愛い。
可愛いのだけれど。
「ソフィア?」
既に屋敷の灯りは消え、使用人たちも寝静まった夜も深い時間。
私はポプリを持ってソフィアの部屋の扉を叩いた。返事が無いのは分かっているので、勝手に扉を開きます。淑女としてどうかとは思いますがソフィアは絶対返事もしないし開けてくれないので。
扉を開けると、案の定ソフィアは机に向かって眠そうな顔をしながらも必死に書き物をしていました。
ソフィアがいつもより元気な時は、無理をしている時だと私は知っているのです。
「眠いのなら寝なさい、明日の授業に響きます」
「……私は、お姉様と違って……そんな事ないわ……お姉様より、優秀だもの…」
眠そうな声で私にそう言うソフィアは大変可愛い、眠そうな妹ってなんて可愛いんでしょう。
けれど今はそれどころではありません。
私はソフィアに向かって言います。
「いくら優秀でも、殿下や王妃様はきっとどんなに隠しても目の下のクマに気付いてしまうかと。殿下に愛されているのだから、きっと気付いて心配してしまう……ソフィアは良いのですか?殿下に心配を掛けて」
「良い訳、無い…!…でも…」
「大丈夫、今日のお勉強の事で何か言われたら、『意地悪な姉に邪魔をされた』といえばきっと納得されます。だから、ね?今日はもう、眠りなさい」
私の言葉に「そうね、寝なさいって、邪魔をされたわ…」と言いながらソフィアはフラフラとベッドに向かった。
「ソフィア、良かったらこれを。きっとよく眠れると思うので」
持ってきたポプリをソフィアのベッドの傍らに置き、眠りに落ちていく妹を見守ってから、私はソフィアが何かを必死に書いていた机に目を向ける。
「王家の血筋のお話ですね、他国へ嫁いだ姫も多いので覚えるのは苦労しました…」
ソフィアが書き綴っていた部分に、いくつか混乱しそうな降嫁先について書き記してから部屋に戻る。
「ゆっくり眠れると良いのだけど…」
それにしても……
「眠そうな顔で睨んでくるソフィア、本当に可愛い…」
もう眠くてぐずっている小さな子みたいでとてもとても可愛くて、絵師を呼んで描かせて私の寝室に飾りたいくらいでした。きっとソフィアの肖像画があればとてもよく眠れるわ。