殿下と俺(ヴァン視点)
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これは、俺が初めてロナルド王太子殿下にお会いした時の事だった。
騎士団長を務める親父に「ヴァン、将来お前がお仕えする方だ」と言われ、開幕一言。
「ふん!弱そうな男だな!こんなので大丈夫なのか?」
正直、カチンと来た。
「そう仰るロナルド殿下はきっととんでもなくお強いのでしょうねぇ?」
我ながら本当に子供だったと思う。けど、止めない親父も悪い。止めとけよクソ親父って今でも時々思う。
「俺は強いぞ愚民!」
遠くから王妃様が「最近覚えた難しい言葉を使いたがるの…」と困った顔をしていた。
練習用の木剣が用意され、防具を着けた俺と殿下による簡単な試合が始まった。
「ひっ…!」
と思ったら一撃で終わった。
圧勝というかもう何だろうなこれは。殿下弱過ぎじゃね?
これ大丈夫か親父?死刑とかならない?一撃で叩きのめして殿下気絶してるんだけど。
駆けて来た王妃様は何故か微笑んでいた。
「まさか簡単な訓練だけしかしていないとはいえ、こんなに弱いなんて…」
「だからこそ、うちの倅が殿下に仕えるのです」
親父と王妃様はそんな話をしていた。
とりあえず、死刑とかは無さそうだ良かった。
その日はそのまま解散になったが、毎日俺は登城して殿下と顔を合わせる事になった。
正直、その時はこんな事になるとは思っていなかった。
だってさ、誰が思うよ?
毎日毎日、殿下が俺に挑んで来るなんてさ。
初日に一撃で気絶した殿下は、一週間で二撃目までは意識があるようになった。
毎日毎日敵うはずもないのに俺に挑んで負けて、「ふん。俺を守る者なのだから俺より強くて当然だ。もっと精進するんだぞ」とか「まったく、あの程度の速さでしか動けないのか。お前の父親はもっと速いぞ」とか言ってくる。秒で俺に負けてるのに。
毎日毎日、ずっとずっとそうして挑んで来るから2ヶ月くらいして、多少俺の攻撃を避ける事を覚えた殿下に聞いてみた。もしこれで殿下がキレたらまあそこまで。
「殿下は、毎日俺に負けてますけどなんで挑んで来るんですか?情けないとか思わないんですか?」
俺の問いに一瞬だけキョトンとしてから、真っ赤な顔になった殿下。キレるかな、それとも泣くかも。
けれど殿下は一呼吸して、笑った。
「完璧な人間など存在しない。そんな者が居たらそれは神だ!だから別に俺は負けようが情けなかろうがいいんだ!俺個人がどうなろうが、お前との勝負は、国として負けてる訳では無い!」
ただの負け惜しみにも聞こえるけど、まあなんだ。個人より国を優先って考え……とも言える。
何となく、2ヶ月間何もアドバイスしなくてすまなかったなと思った。
それから俺はほんの少しだけ、殿下にアドバイスするようになった。殿下はめちゃくちゃ嫌そうな顔するけど、それでも時々アドバイスを取り入れて、勝負が1分で終わる事は無くなった。
ドン引きするほどゆっくりだけど、この馬鹿な王子様はゆっくりゆっくり、成長してるんだ。
焦らず見守るだけの余裕が俺の人生にはあるんだから、長い目で見ていこうと決めたのだった。