新しい家族─妹─
私の母は幼い頃に亡くなっています。
けれど寂しくはなかったです。何故ならお父様──モーリス・アルバート公爵は私に大変甘かったから。母に優しかった父は、私にもとても優しいのです。
私と同じ黄金の髪に、ソフィアと同じ赤い瞳。顔立ちは他人からすると冷酷に見えるらしく、お父様に睨まれた方はしばらく再起不能になるとの事。
もっとも、お父様は実際は気弱な方なので睨んだ事なんてほとんどないはずですが、鋭い瞳をしているからかどうやら誤解されてるそうな。きっと私の瞳はお父様譲りなのでしょう。
そんな母と私に甘かった父から驚愕の話を聞いたのは、学園に入って一年目の長期休暇の時。
「妹?」
「その……昔、侍女の女性と一度…」
「関係を持たれた、と」
はっきりそう言ってしまった私にお父様はごにょごにょと僅かに赤面しながらも肯定していて。
お父様、本当に公爵ですか?そんなに恥ずかしがらずとも良いのに。
赤面しながらもうだうだと話を続けるお父様の話を要約すると、「何か凄く生活に困窮してるし子供出来てたし妻にして子供も迎え入れるから妹が出来るよ」という事だそうで。
発覚した経緯とかよりもとりあえず簡潔に話して欲しかったですお父様。
私の顔色を窺うお父様は、「良いかな…?」と恐る恐る聞きます。
良いかなも何も…。
「私に妹が出来るのでしたら、きっとドレス選びも楽しくなるわ」
そうしてやって来た妹・ソフィアは、保護欲を掻き立てる程可愛らしい妹でした。
しかしどうやらソフィアは私が嫌いなようです。
「お姉様が私のドレスを破ったの!」
侍女たちにそう告げるソフィアを目が腐り落ちるんじゃないかというほど見る事になるとは思って無かった。
侍女たちはもちろん信じていない。だって私は王妃教育と学園でほとんど本邸に居なかったのだから。
それにそのドレス、私が選んだドレスですし。破られてしまったのは悲しいけれど、ソフィアはお転婆な部分があるようなので仕方ないのかもしれません。
どうお転婆なのかというと、庭の果実の木に登ってその実を食べるくらいにはお転婆です。
さすがに使用人の見ている前ではしませんが、私の前だとどうやら「高い所から見下すのってとても気分がいいわ。施しでもしてやろうかしら」といった心境らしく、時々果実を私に落としてくれます。優しい。妹が取ってくれた果実は美味しい物ですね。
私が木登りを教えて欲しいと言うと、「お姉様ならこのくらい出来るでしょう?」と返ってきます。
試しにソフィアの居ない時にやってみたら、出来ました。けれどこんなにあっさり出来てしまうとあの子の矜恃が傷付くかもしれないので、出来ない事にしておきましょう。
そしてある時は
「お姉様が私の事を平民上がりの不細工って!」
これももちろん、誰も信じません。
だって私は常日頃から、「ソフィアの顔に似合わず悪事をするにも抜けてる部分が大変可愛い」って言ってるもの。少しお馬鹿さんな所が可愛いって。
ソフィアは外見は子うさぎのように保護欲を掻き立てる程に可愛らしいのに、中身はむしろ獅子のように勇ましく貪欲。その差が大変可愛らしい。
勇ましく貪欲だからこそ、私はこう言ってみました。
「隣国のマナラント帝国の言葉って難しいのよね…」
翌日こっそりソフィアの部屋を覗くと、私の苦手な事を得意になって見下してやろうと必死にマナラント帝国の言語を習得しようと猛勉強しているソフィアが居ました。
義理の妹はお馬鹿さんではあるけれど、お勉強と努力の出来るお馬鹿さんなのです。
まあ、マナラント帝国の言葉は本当は外交に一切問題ないくらいに話せるのだけど。
昔から外交してるし、お土産も買って来てるのに…。
気付かずに一心不乱に勉強しているソフィアは大変可愛かったです。
勉強の出来るお馬鹿さん…