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最後の1ピース  作者: 四月いつか
第1章 父の告白
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如月ルカ

玄関の扉には鈴がついていた。


開けると小さな綺麗な音が鳴った。


『防犯用に付けてるのよ。ただ防犯用にしてはちょっと物足りない音だけど』


そう言って彼女は笑った。


玄関を入ってすぐ右側に20畳ぐらいの大きなリビングがあった。


そしてカウンターを挟んですぐ横にキッチンもあった。


そこには何らかの操作をすればベッドにもなるのであろう大きめのソファーとローテーブル、テレビ、本棚が置かれてあった。

とてもシンプルなリビングだった。

彼女はソファーを指差し、『座って』というジェスチャーをした。

僕はすすめられるがままソファーに座った。

彼女はキッチンに行ってお湯を沸かす準備をしていた。

コーヒーが良いか紅茶が良いか聞かれたので、コーヒーと答えた。


『このケーキは貴方が食べたいものを選んだの?』


『気に入っててよく行くお店なんだけど、その3種類しか買った事がなくて』


『モンブラン、チョコレート、チーズケーキ・・・こういうこだわり私は好きよ。で、貴方はどれが食べたい?』


『僕はどれでも良いんです。全部好きだから。』


『じゃあ私はモンブランで。貴方はチョコレートね。チーズケーキは片付けておくわ』


彼女はケーキをお皿に取り分け、コーヒーと一緒に持って来てくれた。


のんびりとした性格の僕はこういうてきぱきと物事を仕切ってくれる人と一緒に居るととても安心する。


バイト先の社員の佐原さんと一緒に居るのと似た様な感覚だ。


彼女は僕のすぐ横に座った。

正面に座られるよりは気が楽だった。


僕は気になっていた事を訊ねた。


『何て・・・何てお呼びしたら良いですか?』


『貴方は私を何て呼びたいの?』


予想してなかった返答に僕は言葉に詰まってしまった。


そんな僕を見て彼女は笑いながら、


『ごめんなさい、困らせるつもりはなかったのよ。貴方は本当に真面目な性格なのね。』


『麗子さんで良いわよ。私は律君って呼ぶわ』


彼女は僕にいくつか質問してきた。

学校の事や独り暮らしの事。

どんな映画が好きか、最近どんな本を読んだか。

僕自身に関する事ばかりで、父の事ではなかった。

一通り僕の話をしたあと、少し沈黙が訪れた。

そしてようやく彼女は父の話をし始めた。


『お父さんはお気の毒だと思うわ。でも良くなるかもしれない。』


『良くはならないと思うんです。後はどれだけ延命出来るか。父がそれを望むかどうかですけど』


『貴方がそんな事言っててどうするの?最後まで望みを捨てずに側についててあげなさい』


僕はここである思いを彼女にぶつけてみた。


『あの、電話でも言ったんですが、今日は父に頼まれて来た訳じゃないんです。ただ、父は今とても貴女を必要としている様な気がして』


彼女はしばらく黙っていたが、おもむろに話し始めた。


『ご家族がいらっしゃるでしょ?奥様も娘さんも。そして貴方も。そこはわきまえなきゃいけない。私が出る幕じゃないわ』


『父とは会えない・・・という事ですか?』


僕は彼女の言葉を待った。


『もうずいぶんと時間がたったわ。時間って怖いわね。色んな事を風化させてしまう。人と人との関係さえも』


『もう終わった事。過去の事なのよ。お気の毒だとは思うけど』


僕は彼女から出たこの言葉がどうしても彼女の本心とは思えなかった。

何か無理に自分に言い聞かせている様な、そんな感じがした。


その時、玄関の扉の小さな鈴が鳴った。


『娘が帰ってきたわ』


「ただいま」という声がした。


そして制服を着た女の子がリビングに入ってきた。

ショートボブの髪は茶色に染められていた。

リュックを背負いジャケットのポケットに両手共入れて立っていた。


『娘のルカよ』


僕は突然の事でどうして良いかわからず「初めまして」と小さく会釈した。


『ルカ、昨日話したでしょ?桂木 律さんよ』


如月ルカは何かを確認するかの様に一度如月麗子の方を見た。


そしてまたこちらに視線を戻して言った。


『こんにちは』


僕はどちらかと言うと人と視線を合わすのが苦手だった。

特に長い時間だと耐えられなくなる。


如月ルカはずっと僕を見つめていた。

とても自然に。次の僕の言葉を待っているかの様に。


彼女が父と如月麗子との間に生まれた娘。


彼女は僕の『妹』だった。







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― 新着の感想 ―
[良い点] おはよう御座います。更新お疲れ様です。 今話は律君がいよいよ如月邸にお邪魔する、そして妹に初めて会うシーンですね。 麗子さんが父親に会う事を諦めた感じ、会いに行けない事に理由を見つける意味…
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