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第8話 いざ! 港の街へ

 どうやらアル-シャ姫は本気でライトについていくようだった。騎士と同じような格好をし帯剣の刃を輝かせライトに近付いてきた。

 これでは不釣り合いだとライトは思った。だがお金もない。もう仕方がないとライトは諦めることにした。

 それと船の手配をするために伝書鳩を使っていた。これなら港の街に着いた頃には既に用意が済んでいそうだった。

 近付いてきたアル-シャ姫はライトのところで立ち止まり不釣り合いなまでの恰好を似合っているかどうか確認してきた。


「どうだ? 似合ってるか」

「見た目はいらない。実力が大事だ」

「そうか。ならば道中で見せよう」


 アル-シャ姫はなんとも警戒心のない感じがした。もう既に達観しているような空気だった。ライトはそんなアリーシャ姫が苦手だった。


「ところで……港街はどっちだ? その――」


 ライトはアル-シャ姫と呼ぶかどうか迷った。不格好なライトでも実に優しいところはあった。


「私のことはアル-シャで構わない。な! ライト!」


 背中を押されたような気分だった。そもそも従者なしでくるほどだから相当に腕前が立つのだろう。


「アル-シャ。案内の方……頼む」

「あは。可愛らしいところがあるじゃないか」

「うるさいぞ」


 アル-シャは率先し始めるために前に出始め立ち止まり振り向いた。不意にライトは心が胸打った。顎が一瞬の内に上がり下がった。なんだろうとライトは疑問に思った。


「そうだな。ついてこい。ライト」


 そう言うとアル-シャは自分が姫であることを忘れたかのように振り返り進み始めた。まさにアル-シャは自由がほしかったのだろう。

 ライトはアルーシャのあとをついていく。無言のままだったがアル-シャは心配していないようだった。


「ライト。港街にいくには……草原を超え森の先にある洞窟を抜けないと駄目だ」


 前を向き歩きながらの説明だった。この時のライトは草原に森に洞窟かと思った。これは骨が折れそうだった。


「まずはこの森を抜けて草原を目指そう。この森にも魔物がいるが草原の方が戦いやすい。そこで実力を見せようじゃないか」

「そうか。それは助かる」


 実に他愛のない会話だったがライトにとってはある意味で有意義だった。実力至上主義のライトにとってアル-シャは強いのか。それとも――。


「んじゃ急ごう!」


 実に気が緩くなったのかアル-シャはどんどん世間的になってきた。こんなに煌びやかな格好をしているのに中身は普通の女の子だった。


「ああ」


 ライトはアル-シャに賛同した。するとアル-シャは走り始めた。この光景を見てライトは姫は楽しそうだなと思い始めていた。

 この森を抜ければ草原がありそこには魔物がいる。草原にいる魔物は比較的に憶病ではない。故に腕が試されることが多かった。

 目指すはこの森からの脱出だがよくよく考えればアル-シャは風の精霊シルフィの誓約を交わしていなかった。それに気付いたのはライトだった。


「ちょっと待ってくれ!」


 急に呼び止められたアル-シャは立ち止まり振り向いた。一方のライトは真顔になっていき続いて説明しようとした。


「アル-シャは風の精霊シルフィと誓約を交わしたか」

「うん? 交わしてないがそれがどうかしたのか」

「やはりか。この森は誓約を交わした人が案内しないと出られない」

「なに? そうなのか。なら先導してくれないか。ライト」

「ああ。無論だ。……うん?」


 ライトが納得するとどこからか茂みを掠める音がした。それにいち早く気付いたのはライトだった。ライトは剣を持っていないので左右の素手で身構えた。


「この音は?」


 どうやら場の雰囲気をアル-シャも気付き帯剣の柄を握り始めた。その時だった、茂みを超え急に巨大な猪が突撃してきたのは。


「は!? こいつは主だ! 殺せば祟りが起きる!」


 アル-シャの言う祟りとは血の臭いとかで興奮した他の猪がくることを暗示していた。それだけではない。別の魔物もきても可笑しくなかった。


「逃げろ! ここは!」


 そう言うとアル-シャはいち早く走り始めた。一方のライトもアル-シャのあとを追いかけた。猪は動く者に反応すると言わんばかりに追撃し始めた。

 先導していたアル-シャがどんどん進んでいく。これでは迷子になってしまう。そんな時だった。どこからかライトを追い越す緑色の物体がいた。


「ライト! アル-シャ姫が心配できたけど案の定だね!」


 その声はとライトは横を見ると風の精霊シルフィの姿があった。ライトは戦友とあったと思い微笑んだ。


「ああ! 案内の方……頼んだ!」

「ふふ。任せてよ。んじゃいくよ」


 そう言うと風の精霊シルフィはライトの先のアル-シャを目指した。そしてアル-シャを捉え同列となった風の精霊シルフィは話し始めた。

 その結果が表に出た。なんとかライト達は森の外に出られた。どうやら巨大な猪は臆病な性格のようで外までは出てこなかった。

 興奮は冷めていないが本能的に振り返りどこか森の奥に突っ込んでいった。安全を確認したライトは風の精霊シルフィに感謝した。


「有難うな。シルフィ」

「ううん! 恩返しにすらなってないよ!」

「本当に助かった。心の底から感謝する。有難う。風の精霊シルフィよ」

「えへへ! シルフィでいいよ! アル-シャ姫!」

「そうか。ではシルフィ。ここでお別れだ」

「うん! そうだね! ライト。今まで有難う。達者でね!」

「ああ。シルフィこそな。この森のことは任せた」

「分かってる。僕はもう独りじゃないんだ。任せてよね。ライト」

「ではいこうか。先はまだまだ長いぞ。ライト」

「ああ。いこう。アル-シャ」

「という訳だ。お見送りはここまでで良い。シルフィよ。ではな」


 風の精霊シルフィは気を遣いわざと返事をしなかった。返事をしたら長くいられるけど迷惑になると思い心の中で我慢した。

 二人が風の精霊シルフィに背を向けた。歩く姿はどこかライトの兄にそっくりだった。あの時のようなことはもう起きないでと風の精霊シルフィは思うばかりだった。


「ライトー! 絶対に……帰ってきてねー!」


 どんどん遠ざかるライトの背を見て風の精霊シルフィは大きな声で叫んだ。だがその声は風のようにはいかずまるで凪のようでライト達には届かなかった。

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