第7話 アル-シャ姫の望み
一瞬の出来事だったのにもう既にライトの噂は兵士達の間で持ちきりだった。なんでも銀髪赤眼なのに鬼のように強いとかだった。
確かにライトの半分は魔喰鬼であるからあながち間違えてはいない。だが兵士達はそんなライトを普通の人間のように接していた。
もしここでライトが普通の人間じゃないと言ってもむしろ逆に誰も信じないだろう。仕方がないのでライトは黙っておくことにした。
それにしても今のライト達はなぜかアル-シャ姫に呼ばれていた。ライトと風の精霊シルフィはファーヴィルに案内して貰った。
呼ばれて不思議に思うとライトに対してファーヴィルは別れ際に気持ちの整理がついたのか急に喋り始めた。
「あの時はすまなかった。まさか銀髪赤眼にこうも強い奴がいるとはな。ふぅ。私もまだまだだな」
「別に……俺は気にしてない」
「ふ。そうか。ここから先がアル-シャ姫のいるところだ。決して失礼のないようにな」
「ライトォ。早くいこうよぉう」
「悪いが俺は昔のことは忘れた。今の俺になにかを期待するな」
「そうか。ならせめて阻喪のないようにな」
「ああ。そうする。んじゃ」
ファーヴィルは失敗しても元気を出せとライトを激励した。一方の風の精霊シルフィは安堵したのか溜め息を一つしていた。
ファーヴィルが去らないのなら俺がいくと言わんばかりにライトは中に入っていった。慌てて風の精霊シルフィは追いかけた。
中に入ると贅沢品は一切なくむしろ一般階級並みの品揃えだった。それもそうかとライトは思うとアルーシャ姫が椅子に座していた。
もう既にライトが来たことは通告済みなので辺りは静まっていた。この独特な緊張感はさすがはアルーシャ姫と言うべきだろう。
「な!?」
護衛兵士達がざわついた。なぜなら普通ならば跪く場面で跪かないのだから。むしろ開き直ったかのようにライトは立ち止まっただけだった。
この空気に周りが失礼だろうと思いだれかが失礼ですよと言いかけようとしたが途中でアル-シャ姫の手が上がった。よいの合図だった。
「まず最初に問おう。貴君の名はなんと言う?」
アル-シャ姫が手を下げ自己紹介を促した。最初に会ったときは無関心だったがこうして見るとライトは姫のことが好きになりそうだった。可憐の中の情熱を感じた。
「俺の名はライト。こっちはシルフィだ」
質問以上の答えなんてアル-シャ姫の前では失礼に値した。なのにライトは怖いもの知らずでため口で答えていた。
「そうか。ライト。これから貴君は私と一緒に行動して貰う。いいな?」
この時のライトはアルーシャ姫がなにを言っているかの判断ができずにいた。ライト自身はこれから一人で旅に出て土の国に向かおうとしていた。
「どうして俺が?」
「貴君は我が聖王国の希望になった。それに……融通の利く船はいらないか」
確かにライトに必要なのはお金のかからない船だろう。特別手配してくれるのならそれほどに頼もしいことはない。
「いるな。あんたの望みはなんだ?」
お前と言う言葉に周りが一瞬の怒りを覚えた。だがアル-シャ姫は咳払いをした。
「おほん。……私の望みか。それは決まっている。皆の平和と秩序の安定だ。今の世界は――」
「ふ。ははははは。そうか。それが望みか。ぬるいな。俺とあんたじゃ価値観が合わないな」
さすがに周りが柄に手をかけようとした。即座に首切りになっても不思議ではなかった。
「待て! ならば訊こう。貴君の望みとはなんだ?」
「俺の望みはただひとつ。魔王に死の復讐を」
「ううん? ひいてはそれが世界平和になるのではないのか。違うのか」
「違うね。あんたじゃ魔王を殺し損ねそうだ。俺はそれが許せない」
「なるほど。なにが遭ってかは分からない。だが……好きにすればいい」
「言ったな? ならこの話……乗ってやろう」
「ああ。この聖王国の姫……アル-シャの名において」
誠意を込めてアル-シャ姫は胸に手を当てた。これは忠誠の証だ。そこまでしてでも付き合う価値があった。
「ところであんた……本当に戦えるんだろうな?」
「はは。こう見えても剣術や魔法に関しては得意な方だ。安心してくれ」
「そうか。一回……闘い者だな」
「お手合わせか。しかしここで怪我があっては困る。申し訳ないが保留にしてくれないか」
「ふ。はは。冗談だ。いいだろう。俺はあんたを守ってやる」
何度目だと言わんばかりに周りの反発を招きそうになる。だがライトは負けじと互角に話し合っていた。いざというときに足手纏いでは困るからだ。
「ああ。是非とも守ってくれ。私は貴君を信じている」
「ああ。復讐の邪魔立てさえなければ守ってやるよ」
本当は一人の方がよかった。旅先で仲間を募ることもできた。だがこうなった以上はもうアル-シャ姫と共にすることにした。
旅をする際に必要な物は全て取り揃えてくれることになった。これでライトは安心して海を渡れるだろう。
次に向かう場所は土の国だ。今の土は全てではないが腐っている。これでは飢えがきてしまう。早急にどうにかしなければいけなかった。
確か土の国の砂漠にはアラドビア王朝があり今も統治しているはずだった。本で見ただけだが実際に向かうことになるなんてあの時以来だった。
あの時はまさかライト自身が百年も封印されるとは思わなかったが今となっては兄さんにも感謝していた。
ちなみにライトは風の精霊シルフィとはお別れするつもりだった。まだ風の水晶石ができていないので旅はお預けだった。
果たしてライトは無事にアル-シャ姫と共に旅をし土の国に向かうことができるのだろうか。