表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

第2話 魔喰鬼の実力

 世界は無慈悲だ。故に人は護られたりもするし襲われたりもする。

 そんな中でどうしてライトだけが生き延びたのだろうか。たとえそれが作られた未来であったとしても。

 ああ。この空腹は愛の渇望と似ている。人は人と紡ぐことで未来を護ろうとする。

 そうだ。これがライトに与えられた定めだ。決して抜け出すことのできない循環は今も続いている。

 決意を胸にライトは永遠にもう二度と得られない愛を求めて闘い彷徨うだろう。それが受け入れたと言う証にもなる。

 全てを鵜呑みにしたライトは兄さんが封印のときに施した魔喰鬼の実力を推し計ることになる。

 今ここに人類初の魔喰鬼が生まれた瞬間だった。ライトは圧倒的な速さを手に入れていた。それはもう人並みではなかった。


「馬鹿な!? なんて速さだ!? ……だがな! この連射力なら詰めてこれまい!」


 ガーディアスはひたすらに火炎弾を放っていたが魔喰鬼と化したライトには当たらなかった。だがガーディアスは間合いを詰めてこないライトを見て一安心を得ていた。

 一方のライトは人の安心を裏切るつもりのようだった。なんとライトは避けることをやめた。さっきとは違い真正面から受け止めるつもりのようだった。


「諦めが良いのは嫌いじゃないぜ。んじゃあばよ。ライトさんよ」


 ライトは不敵な笑みを浮かべ右手を開いたまま肩の高さまで上げ突き出した。すると何発もの火炎弾を右手ひとつで受け止め始めた。まるで見えない壁があるようだった。


「なに!? なにがどうなってやがる!? くそ! 当たれ! 当たれぇ! 当たれぇー!」


 勢い空しくガーディアスの火炎弾の魔力は底を尽いた。全ての火炎弾を瞬く間に丸い魔力に変換しライトは一口で喰らった。初めての魔力食いだった。


「うん。不味いな」


 実に物静かな反応だった。それはもう森に囀る声しかないのではと思えるほどに。


「ふ、ふざけんな! まだだ! まだ――。ぐふぉ!?」


 ガーディアスが言い切っていないのにライトは瞬間移動の速さで近寄り顔面に対して火炎弾を零距離で放っていた。凄まじい爆音のあとに顔面から煙が上がる。


「勘違いしてないか。お前。俺はもう昔の俺じゃない。憶えておけ。今日から俺が魔喰鬼だ」


 魔喰鬼。本気を出していなくてもこの実力。なんとも規格外だったが風の精霊シルフィと実の兄の分まで闘った。人はライトのことをこう呼ぶ。靡かぬ森の魔喰鬼と。


「ってもう伸びてるか。うん。悪くない。これが……新しい力――」


 ライトは倒れるガーディアスを見ながら言っていた。そしてガーディアスが完全にうつ伏せに倒れ込むと途中から零距離で火炎弾を放った右の手の平を見ていた。

 これが兄さんがくれた新しい力なんだとライトは感心した。もうライトは人ではない。だがそれでも人情を忘れまいと兄さんの無念を晴らそうと奮闘する。

 ライトの力が魔王を倒す唯一の手段だった。魔王自体ももう人ではない。これは魔喰鬼と言う化け物が魔王と言う化け物を打ち倒しにゆこうと旅に出るお話だ。


「ライト! 大丈夫!?」


 風の精霊シルフィが宙に浮きながら言ってきた。ガーディアスにやられたがなんとか立ち直ったようだ。


「ああ。ところでシルフィ。この大男を森の外に移動させてくれないか」


 ライトは風の精霊シルフィが魔法でガーディアスを森の外まで移動できることを知っていた。もう二度と拝みたくない奴だった。


「うん! 分かった! それじゃ森の外に送るね!」


 風の精霊シルフィは地面にうつ伏せで倒れ気を失っているガーディアスに近付くと魔法を発動させた。物体を瞬間移動させられる魔法だった。

 そして無事に完了するとライトが無言で歩きすぐに立ち止まった。これから起きることへの覚悟を再確認しライトはどんどん邁進しようとする。


「シルフィ。俺……兄さんに顔向けできるかな。百年の間……俺は――」


 ライトの気持ちを汲めば百年の間も実の兄を恨んでいた。悔しい筈だ。どうしてライトだけ除け者なのかと。どんなに歯軋りを起こし両手で拳を作っても戻れなかった。


「できる。できないじゃない。しなきゃいけないんだよ。かつて君の兄が大切な未来を護ろうとしたようにね」


 未来を護るためにライトは生かされた。もう親も兄もいない。そんな空虚な世界にライトはどんな希望を見出し救い主となるのか。それはさらなる紡ぎが必要だった。


「兄さんが……くれた未来の希望」


 ライトの心にはもう憎しみが消えていた。ただひたすらに自分の浅はかさに胸が打たれるのだった。人が紡ぐ希望の鎮魂歌とでも言うべきか。まさに人のなせる業だ。


「噂によるとね。君の兄は処刑されたあとも笑っていたらしいんだ。どんなに恨まれてもいいから君が作り出す未来を最期まで信じていたんだろうね、きっと」


 風の精霊シルフィは真顔だった。真剣そのものの表情はライトに対して鬼気迫るものがあった。実の兄のことを耳にすればするほどにライトの心は締め付けられていた。


「兄さん。ごめんよ。俺……行かなきゃ」


 もう二の舞は演じないとたとえ兄殺しの罪になろうがライトは泣きながら覚悟を決めた。ライトが封印される前にしてしまった過ちはまだ取り返せると心の底から誓った。


「行こう、魔王を倒しに。そして皆で笑おう。それがきっと君の兄が信じた未来だろうからね。今ここに力を貸そう。真の勇者よ。僕の名は風の精霊シルフィ。君の名は?」


 さらなる真顔がライトを照らし出す。風の精霊シルフィは誓約するために儀式をし始めた。全ては実の兄の意志を引き継ぎこの世を救うために。ライトの心に生が戻った。


「俺の名はライト。世界に救いを齎す男。風の精霊シルフィよ。俺と一緒に世界の平和を取り戻そう。どうか誓約の力を俺に」


 まさか百年後に蘇りライトはここで復讐をせずに魔王を倒すことになるなんて思いもしなかった。だが今となってはすっかり真の勇者となろうと真剣そのものだった。


「了解した」


 風の精霊シルフィはそう言うとライトの周りを囲むように回り続けた。するとライトが緑色に光り始めた。誓約の証としてライトは風魔法を得た。回数に限界があるが。

 さらに誓約したことで一緒にいる限りは森の中で迷子になることもない。だが誓約はあくまでも口約束なので時と場合によっては味方に裏切られても仕方がなかった。

 それでもライトは風の精霊シルフィのことを信じた。また風の精霊シルフィもライトのことを信じた。それが誓約となり小さな希望へと変わり世界を救う一歩となり得た。


「ライト! 行こう! 森の遺跡へ! そこに四天王の手下はいる!」

「ああ! まずは手下から攻略しよう! 行こう! 森の遺跡へ!」


 こうしてライトと風の精霊シルフィは誓約を交わし合い仲間となった。これから起きることは紛れもなく魔王への反逆だ。果たして倒せる日は来るのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ