第98話 お屋敷の人々
「どうしたのよ」
「水魔法と火魔法のレベルが同じってことは、教えれば複合魔法が使えるようになるってことじゃないのか?」
「あ!・・・確かにそうね。しかも、このレベルなら私のより強力なのができるんじゃないかしら?」
「多分そうだな」
「・・・なんか腹立つわね。教えるのやめようかしら」
「小さいこと言うなよ」
「冗談よ。他のお屋敷の人も言ってたように、セバスチャンが強力な魔法を使えるようになれば、このお屋敷の警護は万全になるわ」
「すみません。お話についていけていませんが、複合魔法とは何でしょうか」
「ああ、クロアが開発した非常に強力な魔法のことだよ」
「大げさね。でもまあ、間違ってはいないかしら」
「クロア様が開発したのですか。それは素晴らしいですね。どのような魔法なのでしょうか」
「これは、一部の者しか知らないから他言無用でお願いしたいんだけど、できる?」
「ご主人様のご命令であれば必ずお守りいたします」
「わかった・・・これは火魔法と水魔法を融合させて放つ魔法なんだよ」
「そのようなことができるのですか!初耳です」
「魔導士様たちも知らなかったから、多分、誰も知らないんじゃないかな」
「そうなんですね。クロア様、素晴らしいです」
そう言われたクロアは、少し得意げな顔になった。
「それで、どれだけ強力かと言うと、クロアは、この魔法のたった一撃で完全体のヒドラを倒したんだよ」
「え!?・・・まさか!・・・それほど強力な魔法が存在するとは!」
セバスチャンは、トキオがこの屋敷に来てから初めて、感情をあらわにした表情をした。
「恐らく、今までは存在していなかったんだと思う。魔導士長様も驚いていたからね」
「そうなんですか・・・お恐れながら、それを拝見させていただくことは可能でしょうか」
「構わないけど、1日に1回しか使えないから1度だけよ」
「それで十分でございます」
「その後に、やり方を教えてあげるわ」
「本当ですか!ありがとうございます」
セバスチャンは深々と頭をさげた。
「あのう・・・」
そこで、ジェーンが厨房の方から出て来た。
「ん?どうしたの?」
トキオが聞いた。
「すぐ裏に控えていたらお話が聞こえて来たんですが、私とメアリーも見学させていただいてよろしいでしょうか」
「ああ、全然かまわないわよ。このお屋敷の人になら誰でも見せてあげるわ」
「ありがとうございます」
ジェーンはそう言うと、深々とお辞儀をしてから下がろうとした。
「ちょっと待って!」
それをクロアが呼び止めた。
「はい!なんでしょうか」
ジェーンは粗相をしたと思ったのか、少し怯えた表情で返事をした。
「さらにイヤな予感がして来たわ・・・人の魔法に興味を持つってことは、あなたたちも魔法が使えるんじゃないでしょうね」
「あ、はい。一応、使えますが、セバスチャン様に比べれば全然大したものではありません」
「やっぱり!・・・何が使えるの?」
「私が火魔法と治癒魔法で、メアリーが水魔法と強化魔法です」
「え!2つずつ使えるの!」
「はい」
「それで、あなたの火魔法とメアリーの水魔法のレベルはいくつなのよ」
「私の火魔法が13で、メアリーの水魔法が12です」
「なんですって!」
「なにい~!」
クロアとトキオはまた驚いた。
「ということは、5人の中じゃ、私が一番魔法のレベルが低いってことじゃない。本職の魔法使いなのに、なんだか残念な気分になってきちゃったわ」
「魔法の訓練を始めてから5年なんだろ?だったらしょうがないんじゃないか?」
「そうだけど、この子たちも若いじゃないの・・・ねえ、ジェーン、あなたたちは魔法を覚えてから何年経つの?」
「そうですね・・・私は9年ですね。メアリーも同じぐらいだと思います」
「え!?・・・あなた、歳はいくつなのよ」
「私もメアリーも25歳です」
「えー!?私よりも4つも上だったの!」
「俺と一つしか違わないのかい!」
「はい。それで、16の時に奉公に出てすぐご主人様から教えていただき、何度か使っておりましたから、今のレベルになっているのではないかと思います」
「私よりキャリアが長いんじゃしょうがないってことね。でも、なんだか腹立つわね」
「気にするなよ。それより、お前、やっぱり21歳だったんだ。アウレラと同い年じゃないか」
「あ゛・・・・・そうよ!悪かったわね!」
「まあ、見た目からしてそんなもんだろうとは思ってたけどな」
「え?・・・もしかしたら、アティムのみんなもそう思ってるの?」
「そうだな。経歴書では25歳だけど、絶対もっと若いよな、という話はしたな」
「なによ!・・・まあでも、もう年を隠す必要もなくなったからいいけどね」
(ああ、ギヌメール導師のところに戻りたくなかったから、正体がばれないように歳を隠してたってことなんだな)
トキオはそう思った。
「もしかしたら、料理長も魔法が使えたりするわけ?」
「いえ、料理長には魔法のスキルはありません。『そんなものを覚える暇があったら料理の研究をする』と申しておりました」
「ああ、よかった」
「あ、でも、俺はあったことないけど、庭師が二人いるんだよね。あと、馭者さんも。その人たちはどうなの?」
トキオが聞いた。
「おっしゃる通り庭師は二人おりますが、そのうちの一人が馭者も務めております」
「え!そうだったの!」
「はい。ご主人様を教団本部やお城にお送りしたあと、一旦、お屋敷に戻りまして仕事をさせていただいております」
「そうだったのかあ・・・。帰る時にはいつもいるからずっと待ってるのかと思ったよ」
「はい。少し早めにではございますが、おおよその時間を見計らってお迎えに上がらせていただいておりました」
「なるほど~・・・で、魔法はどうなの?」
「はい。二人とも、仕事柄、木属性の魔法が使えます」
「おお!それは希少だな!クルトが使えるやつだ」
「え?クルトってそんな魔法が使えるんだったの?」
「ああ、そうだよ。もっとも、レベル7になるまで本人は使えることに気づいてなかったけどね」
「ええ~!なにそれ!もったいない!」
「そうなんだよね。ステータス画面を教えたら、それで初めて気づいたんだよ」
「ええっ?前の街にいた時は、そんな人いなかったわよ」
「え?そうなの?・・・あ!そうだ!アティムじゃ、ミレリアがみんなに教えてなかったからだった」
「ええ~!?どういう意地悪よ、それ」
「別に意地悪してたわけじゃなくて、あの子が天然だからだな。『聞かれなかったから』って言ってたらしいよ」
「はあ~?・・・困った人ね」
「テリットもステータス画面で火魔法が使えるのを知った口だ」
「ああ、あの役に立たないと評判の火魔法ね」
「わはははは!・・・まあ、そう言わないで。本人は魔法を覚えたことが相当嬉しかったみたいだから」
「それにしても、お屋敷自体もスゴいけど、中にいる人もスゴかったなんて、なんてお屋敷かしらここは」
「いや~、俺としてはさらに安心感が増していいけどね~」
「そうね。本当にトキオは恵まれてるわよね」
次の日の朝、朝食を終える時にクロアがセバスチャンに聞いた。
「じゃあ、今から複合魔法を見せてあげるけど、何か、なくなっても困らない大きなものはない?」
「そう申しますと?」
「この魔法は、その威力を見せようと思ったら何かを消さなくちゃいけないのよ」
「消すのですか?・・・それでは、裏庭に枯れた木が密生している場所がありますので、それであれば大丈夫です」
「ああ、そういうのがあるのね」
「はい。このお屋敷が1年間放置されていた間に庭がかなり荒れておりまして、庭師たちはまず正常な植木の手入れから手を付けましたで、枯れ木の撤去は最後になっておりました」
「なるほどね。じゃあ、行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
それから、クロアとトキオはセバスチャン、メアリー、ジェーンと一緒に裏庭に行った。
「あれが、先ほど申しました枯れ木でございます」
セバスチャンが指さした一角には、高さ7,8メートルほどの枯れ木が5本ほど密生していた。
「それじゃ、あの下まで行くわよ」
「近づいた方が良い魔法なのでしょうか」
「離れていてもでも効果は同じだけど、敷地の外に被害が出ないようにするために上に向けて放つ必要があるのよ」
「この敷地の外にですか?それほど効果範囲が広い魔法なのですか?」
「どれほどの距離まで効果があるかは確認したことがないけど、この敷地の外ぐらいなら余裕で届いちゃうわね」
「そうなんですか!ますます、興味が沸いて参りました」
メアリーとジェーンも期待感満々といった表情をしていた。
「じゃあいい?1回だけだから少し眩しいけど目を閉じないでしっかり見ててよ」
「わかりました」
クロアの右に立っていた3人は同時に答えた。
トキオは、左側のやや後方に立っていた。
クロアは、胸の前で両手を握ってから人差し指を立てて目を瞑り、口の中で詠唱を始めた。
セバスチャンたちは、今まで見せたことのないそのクロアのただならぬ様子を、息を飲んで見守った。
20秒ほどするとクロアは静かに目を開いて言った。
「いくわよ」
それから、一連の動作で火炎と水球を展開した後、詠唱をしながらゆっくりと胸の前まで両手を引くと、呪文とともに枯れ木の上半分を目掛けて突き出した。
「スプライド!」
その途端、黄色く輝く光の帯が「ゴウッ!」という轟音とともに飛んで行った。
セバスチャンたち3人は、言われた通り、その様子をしっかりと目を開けたまま見ていた。
そして、光が通り過ぎた場所の枯れ木が消失しているのを見て愕然とした。
「なんと、これは!」
セバスチャンはそう言ったが、メアリーとジェーンは完全に絶句していた。
「どう?」
クロアはセバスチャンたちの方を向くと、にっこりとほほ笑んだ。
「・・・驚きました。このような魔法は初めて見ました」
「クロア様すごいです!」
「自分の目が信じられません!」
「覚えたい?」
「ぜひお願いします」
セバスチャンは深くお辞儀をしながら言った。
「セバスチャンにはこれからも色々とお世話になるから、特別に教えてあげるわ」
「ありがとうございます」
セバスチャンはさらに深くお辞儀をしながら言った。
(すっかり先生気取りだな。やれやれ・・・でもまあ、これでクロアも気兼ねなくここで生活できるんじゃないかな)
トキオはクロアの様子を見てそんなことを考えた。
「まず詠唱だけど・・・」
「・・・という感じね。火炎と水球が同じように混ざり合うのをイメージすることが大事よ」
「わかりました」
「じゃあ、やってみて」
「はい」
セバスチャンは枯れ木に正対すると、クロアと同じような動作で詠唱した後、両手に火炎と水球を展開させてからそれを胸の前に持って来た。
そのタイミングで火炎と水球が混ざり合い始めたが、その手を手元に引いてくるところでそれが徐々に小さくなって、胸のところに持って来たところで消えてしまった。
「ああ、なかなかイメージが難しいですね」
「まあ、私も4日かかったから、すぐには難しいでしょうね。魔導士様は別格だけど」
「魔導士様にもご教示したのですか?」
「いいえ。何も教えなかったんだけど、1回やって見せただけで出来ちゃったのよ。やっぱり、私らなんかとはレベルが全然違うわね。まあ、威力はかなり弱かったけどね」
トキオは、最後の一言にクロアのプライドを感じたが、なにか言われるといけないので俯いて苦笑した。
「まあ、何度か練習したらできるんじゃないかしら。あなたのレベルなら私より早くできるかもしれないわね」
「いえ、とんでもございません。しかし、この魔法には感動いたしましたので、何とか身に付けたいと思います」
「期待してるわよ。頑張ってね」
「はい!ありがとうございます」
セバスチャンはそう言って、また深々とお辞儀をした。
「それじゃあトキオ、行きましょうか」
「え?どこに?」
「動物園よ!あんたが行きたいって言ったんでしょ!」
「そうだった!行こう行こう!」
(俺はどこかに連れてってくれって言っただけで、動物園に行こうって言ったのはクロアだった気がするぞ)
と、トキオは思ったが、それでもこの世界の動物が初めて拝めるとあって、期待感が一気に高まって来るのだった。




