第93話 悪夢
「へえ・・・こんなに広いんだ。すごいわね」
兵士用の食堂に着くと、クロアは中を見回して感心したように言った。
「じゃあ、私のあとについてきな」
「わかった」
フラビアがクロアを先導してビュッフェの列に並んだので、トキオはクロアのすぐ後ろに並んだ。
「すごーい!こんなにあるのね!」
前方の方まで見渡してクロアが言った。
それからは、フラビアとトキオが勧めるおかずを取りながら進んだ。
「あら!ボアドンの肉なんかあるんだ!食べる!」
「おや、クロアはボアドンの肉、平気かい?」
「え?だっておいしいじゃない。アティムじゃ、森に討伐に行ったときなんかにその場で焼いてみんな食べてるわよ」
「ええー?そうなのかい!ここじゃ、みんな敬遠してて、トキオが勧めるまで誰も手を出さなかったんだよ」
「えー?こんなにおいしいのに?」
「まあ、魔物の肉だからねえ」
「ああ、その気持ちはわかるわね。でも、食べてみておいしかったでしょ?」
「ああ、みんなビックリしたんだよ。王都じゃ高いものなのに、今まで申し訳なかったよ」
「え?王都じゃ高級肉なの?アティムじゃ森に行けばいつでも食べられるからそんな感覚ないわね」
「まあ、いつも森に討伐に行ってる冒険者たちにとっちゃそうだろうな」
その後、テーブルにつくと、他の兵士たちが先を争うようにクロアのそばの席に座った。
それから、「これがおいしいよ」「こっちも」「いや、こっちの方が」とか言いながら、自分がとって来たおかずをどんどんクロアの皿に乗せていった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ありがたいけど、私、大食漢じゃないからこんなに食べられないわよ」
「お前たち!クロアが困ってるだろ!いい加減にしろ!」
フラビアはそう怒鳴ったが、怒ってるというより呆れた顔だった。
食事が終わって食堂を出ても、兵士たちはクロアのそばに寄って来た。
「クロア、明日も来てね」
「明日も一緒に食べよう」
次々に、そう声をかけた。
「これからしばらく、お昼はここで食べるつもりだから明日も来るわよ」
「そう?」
「やったー!」
クロアがそう言うと兵士たちは皆、大喜びした。
途中で別れてトキオたちは魔法訓練場に向かったが、別れる時も、兵士たちが全員手を振って来たので、クロアは苦笑しながら振り返した。
「モテモテだな」
トキオはニヤニヤしながら言った。
「あ、なんかバカにしてるでしょ!まあ、確かにフラビアの他に女がいないから、女が珍しいだけなんでしょうけどね」
クロアも少し笑いながら言った。
「でもまあ、悪い気はしないわね」
なんだかんだ言っても喜んでるようだった。
魔法訓練の時間になると、魔導士長とモルナール魔導士の他にミヒール司祭も魔法訓練場にやって来た。
「あれ?ミヒールさん。何かありました?」
「いえ、ちょうどお城に用があって来ましたので、お二人の訓練ぶりを少し見学させていただこうと思いましてね。よろしいですか?」
「全然かまいませんよ・・・あ、そうだ。今日からクロアがうちに住むことになったんですが、問題ないですよね?」
「そうなんですか!それはいいですね!国王陛下から、あのお屋敷にかかる費用はお客様の分も含めてすべて国で面倒を見ると言われてますから大丈夫ですよ。私たちとしましては、クロアさんの生活の心配をしなくてすみますから、むしろありがたいです」
「そう。良かった!」
「お世話になります」
クロアはそう言って頭を下げた。
訓練が終わって解散し、クロアがトイレに行ったところでミヒール司祭がトキオのところに寄って来た。
「ふむ、確かにクロアさんには魔法に対する大きな才能が感じられますね」
「見ててわかりますか?俺は、そういうのはよくわからないんだけど」
「呑み込みが早いし、使い方にもセンスを感じられます」
「そうなんですね。じゃあ、頑張ってもっとスゴい魔法使いになってもらわないとだな」
「このまま魔導士様から訓練されていれば間近いなくそうなりますよ」
「それは楽しみだなあ」
それからすぐクロアが戻って来たので、二人で屋敷に帰った。
「やっぱりここの料理は最高ね。私も何年も王都に住んでたけど、こんなにおいしい料理を食べたことはなかったわ」
「そうだろう?どんどん食べていいぞ」
「なによ偉そうに。あんただって食べさせてもらってるようなもんでしょ」
「まあ、そうだけどな」
そう言ってトキオは笑った。
「それにしても、男湯はさらに広くていいわね~。湯船が二つあって温度が違うのも気が利いてるわ」
「そうだろ?窓もさらに広くて景色もいいだろ?」
「そうね。それと、明日の朝日が楽しみだわ」
「そうだな。期待していいけど、寝坊するなよ」
「朝は強いから大丈夫よ・・・セバスチャン、いつもキレイにしてくれてありがとうね」
クロアは横に控えているセバスチャンの向かって言った。
「気に入っていただけてなによりです」
セバスチャンはそう言って頭を下げた。
食事が終わったら、二人はそれぞれの部屋に戻った。
クロアの部屋は、少しでも玄関や風呂に近い方がいいという本人の希望で、アウレラが使っていた一番中央の通路に近い部屋になった。
「今日もありがとね。おやすみ」
「お疲れさまでした。おやすみなさい」
トキオは、いつものようにメアリーにマッサージをしてもらってからベッドに入った。
(あーあ、今日から一人で寝るのかー)
三日ぶりに一人で寝るのかと思ったら寂しくなって目が冴えてきた。
(しかし、アウレラのオッパイはキレイだったし柔らかかったなー)
そんなことを思い出していたら、下半身がすっかり元気になってしまった。
アウレラとエッチしたことより、そっちの方で興奮してしまう、根っから巨乳好きのトキオだった。
(うー、これじゃ余計に寝られないじゃないか。しょうがない、自家発電してから寝るか)
そう思って、布団をかけたまま横向きになってズボンを下ろしたら、
コンコン!
と、誰かが部屋のドアをノックした。
「誰?」
トキオはあわててズボンを上げてから言った。
ドアが開いて顔を出したのはクロアだった。
「ねえ、トキオ、ちょっと一緒にお酒でも飲まない?」
「えっ?どうしたんだよ。まあ、いいけど」
そう言いながらも、布団から出られない状態のままだったのでベッドの中で膝を立てて上半身だけ起こした。
「部屋が広すぎて落ち着かないから、一人でいると熟睡できないのよ。昨日と一昨日は色々あって疲れてたから何も考えずに寝られたけど、ベッドに入って改めて部屋の中を見たらなんか眠れなくなっちゃって」
クロアは部屋に入ってきながら言った。
「あー、そういうことか。わかるわかる。実は俺も最初は落ち着かなかったんだ」
「そうでしょ?寝室なのに、なんであんなにバカみたいに広いのよ!」
「そうなんだよなあ。貴族の考えることはよくわからん」
そんなことを話していたら下半身が落ち着いてきたので、ベッドから出て壁の棚に行ってグラスを二つ取ってからソファーのところに移動した。
テーブルの上には寝酒用のボトルが何本か置いてあった。
それから二人は、王都に来てからのことを肴にして酒を飲み始めた。
「なんか眠くなってきたわ。そろそろ寝られそう」
「そうか、良かったな。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
クロアはそう言うと、トキオのベッドに潜り込んだ。
「ちょっとちょっと!何してるんだよ!」
「だって、一人で部屋に戻るとまた眠れなくなっちゃうじゃない。今日はここで寝るわ」
「えー!?・・・しょうがないなあ。じゃあ、お前はベッドで寝ろよ。俺はソファーで寝るから。これがまた、足を延ばして寝られるほどの長さがあるからな」
「えー?一緒に寝てくれないの?」
「ええっ?・・・いや、それはまずいだろ」
「どうして?だって、ベッドは3人寝られるぐらい広いじゃない」
「いやいや、そういう問題じゃなくて」
「ただ横で寝て欲しいって言ってるだけよ!まったくスケベなんだから」
「そんなこと言ったってなあ・・・まあ、スケベなのは否定しないけど」
「何か言った?」
「いや、別に」
「だって、そんなに離れて寝られたら、落ち着かないのは変わらないじゃない」
「まあ、確かにそうだな・・・うーん、わかったよ」
トキオはそう言うと、クロアの右に入った。
クロアの方に横向きになったら、クロアがチラッとトキオの顔を見てから目を瞑ったので、トキオはそのままクロアの顔を見ていた。
(こうやって見ると、確かに兵士たちが言ってたように可愛いかもな)
そんなことを考えたが、特にそれ以上の感情は沸いてこなかった。
しばらくすると寝たようだったので、トキオは寝返りを打ってクロアに背を向けた。
そのまま寝ようと思って目を瞑ったら、クロアがトキオの背中に密着してきて右手を胸の前へ回してきた。
「おいおい!何やってんだよ!」
「ちょっとだけでいいからこうさせて。ホントのこと言うと、色々なことがあり過ぎて不安だったのよ。小さい頃、隣に住んでた幼馴染とよくこうやって寝てたから、こうすると落ち着くのよ」
「・・・わかったよ」
トキオがそう言ったら、クロアは右手に少し力を入れてトキオにさらに密着してきた。
(うわー!オッパイがあたってるー!・・・しかも、この感触は・・・ノーブラ!?・・・これじゃ、俺が寝られねー!)
トキオの下半身はまたすっかり元気になってしまったが、後ろから抱きしめられた状態ではどうすることもできないので、目を瞑って気を静めようとした。
しかし、クロアが少し動くたびに胸が当たる感触が気になるので全然眠れなくなった。
そのトキオとは逆に、すっかり落ち着いたのか、クロアはすぐに寝息を立て始めた。
(まったく、人の気も知らないで)
トキオはそう思ったが、眠る努力をしようと、とりあえず目を瞑った。
「導師様・・・やめてください・・・導師様」
トキオはいつの間にか眠ってしまったようだったが、クロアのうなされる声で目が覚めた。
見ると、クロアは仰向けに寝た状態で寝言を言いながら大汗をかいて苦しそうにうめいていた。
「おい、クロア、大丈夫か!?」
トキオが覗き込みながらそう言うと、クロアはハッとした顔で目を覚ました。
「なんか悪い夢を見てたみたいだったぞ。導師様とか、やめてとか」
「・・・え?・・・ああ、またあの夢を見たのね」
「また?いつもこんなにうなされてるのか?」
「あんたは気にしなくていいのよ」
「いや、でもあんだけ苦しそうにしてたら気になるよ」
「いいからほっといて!」
クロアはそう言うと、横になったままトキオに背を向けて布団を被った。
(導師様のことを思い出してたのかな・・・ちょうどいい機会かもしれないな)
「クロア、実は魔導士長から聞いた話があるんだ」
「なによ」
クロアは背を向けたまま言った。
「お前は、ギヌメール導師の亡くなられた奥様によく似てるそうだ」
「・・・え?」
クロアは驚いた声を出すと、トキオの方に向き直った。
「まさか・・・それは本当なの?」
「生前の奥様を知ってる魔導士長がそう言ってた。名前はジュディットだそうだ」
「え!?」
クロアは名前を聞いてさらに驚いた顔になった。




