第88話 麗しの勇者様
「えー!朝からこんなに出るのか!」
朝食になっても、手の込んだ料理がたくさん出て来て、皆はまた驚いた。
「しかも、味もスバラシイ!」
「うん!すごくおいしー!」
「これも見たことない料理だな!」
そうやって、皆、おいしそうにどんどん食べていたが、クロアだけはしばらくしたら手を休めた。
「だめ。私、朝からこんなに食べられないわ」
「お!そうか、じゃあ、俺が残りを食べてやるよ!」
テリットが嬉しそうにクロアの皿を引き取った。
「俺も加勢するぞ」
ブロームも言った。
「もう!二人とも意地汚いよ!」
アウレラが言った。
「でも、残すよりはいいだろ?せっかく作ってくれたんだし。なあ、トキオ」
「そうだね。食べられるなら食べちゃってよ」
「私も食べてもらった方がいいわ。作ってくれた人に申し訳ないもの」
「そうだろ、そうだろ」
そうやって、テリットとブロームは1.3人前ずつほど平らげたが、元の量が普段の倍ぐらいあったので、2.6人前ずつ平らげたのと同じだった。
「ふへー、食った食った!」
食事が終わると、テリットとブロームは満足そうにお腹を撫でた。
「まったく、貴族のお屋敷のお食事とは思えないわね」
クロアが言った。
「まあ、今はトキオの家だからな。それに合わせただけだよ」
「ものは言いようね」
クロアはそう言ったが、顔は笑っていた。
「この料理を作ってる人もこのお屋敷の専属なの?」
アウレラが聞いた。
「うん。ジュリオさんていう60代半ばぐらいの人で、普段は一人で作ってくれてるんだよ。今回は5人になっちゃったから、さすがに二人助っ人を頼んだみたいだけどね」
「1人前って言ったって、昨日の夕飯はかなりの量だったぞ。あれを毎日一人で作ってるのか。スゴいな!」
テリットが言った。
「この人はお城に勤めてた人で、もう引退してたんだけど、王様が依頼したら俺の今までやってきたことを聞いて喜んで引き受けてくれたんだって」
「えー!?そんなスゴい人なの?あたし、お礼を言いたい!」
「それがねえ、人に会うのが苦手らしくて、お城にいた時も王様と仲間の料理人以外にはほとんど会わなかったらしいんだよ。俺も1回しか会ってないんだ。曰く、『料理人は料理で思いを伝えられればいい』だってさ」
「え~!カッコいい~!」
「ステキねえ」
「渋いなあ」
「俺もその線を目指すか」
テリットが、アゴをさすりながらにんまりして言ったが、
「それじゃ、冒険者の仕事ができないだろ!依頼をどうやって受けるんだよ!」
すかさずブロームに突っ込まれた。
「あ、そうか!」
皆は笑った。
そこで、外から馬車が入って来る音が聞こえて来た。
「ん?誰だろ?」
トキオがそう言うより早く、セバスチャンが玄関に向かった。
トキオもそのあとから玄関に行った。
セバスチャンが玄関を開けると、ミヒール司祭が馬車から降りて来るところだった。
「おはようございます」
セバスチャンはドアを開放して外に出ると、お辞儀をしながら言った。
「ああ、セバスチャンおはよう。トキオさんもおはようございます」
「どうしたの?」
「クロアさんに光魔法を覚えていただくために、まずは聖光教団本部で加護を授ける儀式を執り行いますので、クロアさんを迎えに来ました。よろしいでしょうかクロアさん」
ミヒール司祭がトキオの後方に向かって言ったのでトキオが振り返ると、皆も出て来ていた。
「ありがとうございます!」
クロアは嬉しそうな顔になって深々とお辞儀をした。
「それでは、準備が整い次第出かけます」
「わかりました。すぐ着替えてきます」
クロアはそう言うと、速足で階段を昇って行った。
「へえー、そんなのやるんだ。俺も見たいなあ」
「申し訳ありませんが、神聖な儀式になりますので、本人以外は教団本部の上級職の者しか立ち会えません。ご了承ください」
「ああ、そういうやつなんだね。俺はいつの間にか貰っちゃってたけど」
「トキオさんは特別ですから」
「あれ?トキオも実は教団の加護をもらってたの?」
アウレラが聞いた。
「え?・・・ああ、まあ、そういうことみたい」
その瞬間、ミヒール司祭は「しまった!」という顔をして下を向いた。
「いつどこで?」
「あーっと、そこまではわからないけど、調べて貰ったらそうだったんだよ」
「へえ~?・・・実は、トキオのお父さんが教団のお偉いさんだったとか?」
「いや~、そんなことはないと思うけど、どうだろな?俺にもよくわかんないから」
「ふ~ん・・・でも、これで光魔法を使えてるのが不自然じゃなくなったね」
「まあ、そうだね・・・こんなところで立ち話してても寒いから中に入ろうよ」
「あ、そう言えば寒いや。入ろう入ろう」
トキオはなんとかごまかして屋敷の中に戻った。
トキオたちは、クロアが降りてくるまで玄関ホールで待った。
待っている間に、セバスチャンが全員分のガウンを持って来てくれた。
しばらくすると、クロアは、アティムでは見たこともないような立派な法衣を着て降りて来た。
「ほお~」
4人から感嘆の声が漏れた。
「そんなの持ってたんだ」
トキオが聞いた。
「以前に導師様からいただいたのよ。こんな時にしか使わないとっておきよ」
「はい、それは儀式用の正装ですね。大変よろしゅうございます」
ミヒール司祭が言った。
「ありがとうございます・・・そういうことよ」
クロアはミヒール司祭にお礼を返してからトキオたちにそう言うと、いつもよりゆっくり歩きながら外に向かった。
「お?そういうの着ると、身が引き締まって歩き方も変わる感じか?」
テリットが聞いた。
「違うわ。歩きにくいのよ」
その言葉で4人はずっこけた。
「なんだよ!」
ミヒール司祭だけ真顔のままだったので、歩きにくい衣装だというのを知っているようだった。
そして、4人は馬車が出発するのを玄関先で見送った。
トキオたちが手を振ると、クロアも手を振り返した。
「しっかりな!」
トキオがそう声をかけると、クロアはにっこりと微笑んだ。
そのまま、4人とセバスチャンは馬車が門の外に出るまで見送った。
「さーて、それじゃ俺たちも出かけますか!」
「おお、行こう行こう!」
お城に着いて訓練場に移動するまでの間、テリット、ブローム、アウレラの3人は、相変わらずキョロキョロとお城の中を見回していた。
「ちょっとキョロキョロし過ぎ!お上りさんなのがバレバレだよ」
トキオが言った。
「そんなこと言ったって、もう2度と王様のお城になんか入れないかもしれないんだから良く見とかないと」
「そうよ~」
「まったくだ」
トキオは(そう言えば自分もそうだったかも)と思って、もう何も言わなかった。
「ほら、あそこに見えてるのが訓練場だよ」
トキオが指さした場所にはそれらしき建物があり、その外に何人か兵士が立っていた。
しかし、一番こっち側にあきらかに兵士とは違う高そうな戦闘服を着た、長い金髪で長身の男が背を向けて立っていた。
「あれ?勇者様」
「え!うそ!?」
トキオのその言葉に、アウレラが瞬時に反応した。
トキオたちが速足で寄って行くと、その足音に気付いた勇者が振り返った。
「え!?やだー!うそー!どうしよう~」
アウレラが立ち止まったので、トキオがその顔を見るとすごく興奮した顔をしていた。
「どうししたの?」
「やだー、勇者様、超かっこいー!想像してた以上だよー!」
アウレラの目は爛々と輝き、口元は完全に緩んでいた。
「おお、トキオ来たか」
トキオがアウレラに何か言おうとしたところで勇者から声がかかった。
「どうも、ご無沙汰してます。どうされました?」
「兵士たちの訓練が軌道に乗って来たようだから、私もそろそろお前に柔道を教えて貰おうと思ってな」
「そういうことですか・・・・俺の訓練は厳しいですよ」
「望むところだ」
そう言うと、二人はニヤリと笑った。
その後方では、テリットがアウラレの顔の前で手を振っていたが、アウレラにはまるで目に入っていないようだった。
「ダメだこりゃ」
「しかし、トキオは親しそうに話してるな。スゴいな」
「ホントだよなあ。アイツも出世したもんだ」
「まったくだ」
テリットとブロームは勇者に近寄り難い雰囲気を感じて、アウレラが立ち止まった場所にそのまま立っていた。
「あ、紹介しときます。俺のアティムでのパーティー仲間で、右から、ブローム、テリット、アウレラです」
「おおそうか。トキオが世話になったな」
「はい!」
その勇者の言葉で、アウレラはテリットを突き飛ばすように勇者のところまでダッシュして、何度もお辞儀をした。
「アウレラと言います!よろしくお願いします!」
「ああ、トキオの仲間ならこれから一緒に戦うことがあるかもしれない。よろしく頼む」
そう言って勇者が右手を差し出しすと、アウレラはさらに興奮した顔になって両手を服の両脇でゴシゴシこすってから、その勇者の手を力強く両手で握った。
「ありがとうこざいます!よろしくお願いします!」
そう言いながら、アウレラはまたお辞儀をしたが、その顔は勇者の顔の方を向いたままだった。
そこで、後ろからテリットとブロームがやって来た。
「勇者様、初めまして!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
二人は深々とお辞儀をした。
「ああ、みなよろしくな」
そう言うと、勇者はテリット、ブロームの順に握手をした。
テリットとブロームも興奮した顔で勇者の握手を受けていた。
「それじゃ、勇者様行きましょうか」
「ああ、よろしく頼むぞ」
二人はそう言葉を交わすと並んで訓練場へ向かった。
テリットたちもその後をついて行ったが、アウレラは、心ここにあらずといった体でぼーっとした顔のままだった。




