第86話 お風呂の風景
セバスチャンは2階の突き当りを左へ曲がると、最初のドアのところで立ち止まった。
「この部屋から先が皆さまのお部屋になります」
そう言いながらそのドアを左手で開けて中に入ると、
「どうぞ」
と、言って、皆に右手のひらで室内を示しながら言った。
「えー!?なにこの広さ!」
「これで4人じゃ広すぎるでしょ!」
「うーん」
「なんてことかしら!」
「4人て、男と女を同じ部屋に泊まらせるわけないでしょ?」
トキオが最後に入ってくると言った。
「え?じゃあ、二人でこの広い部屋に泊まるのか?」
「違うよ。一人一部屋」
「ええーーーーー!?」
4人同時に驚きの声を上げた。
「お客さん用の寝室は5部屋あるから、みんな別々にゆっくり休んでよ」
「え?寝室?これって寝室なのか?」
「そうだよ。そこにベッドがあるでしょ?」
皆がトキオが指さしたほうを見ると、とてつもなく大きなベッドがあった。
「うわー、ベッドもでけー!」
「4人全員で寝れるんじゃない?」
「確かにそうかもね」
「他の部屋もこんなに広いのか?」
ブロームが聞いた。
「ああ、そうだね。大体同じ大きさだよ。俺の部屋はもうちょっと広いけどね」
「なんだって!」
また、4人は驚いた顔で一斉にトキオを見た。
「これから見せるけど、それよりお風呂でしょ」
「ああ、そうだな。長旅だったからゆっくり風呂につかりたいな」
「・・・まさか、お風呂もめちゃくちゃ広いんじゃないでしょうね?」
クロアが聞いた。
「そのまさかだね。じゃあ、行こうか」
「その前に、皆さまをお部屋にご案内した方がよろしいかと思います」
セバスチャンが軽くお辞儀をしながら言った。
「あ、そうか。じゃあ、チラッと場所だけ教えよう。ここはアウレラの部屋ね」
「そう。わかった」
アウレラが答えた。
それから、全員で部屋を出ると、次の部屋に行った。
「この部屋はクロアが使って」
そう言いながら、トキオは部屋のドアを開けた。
部屋の広さとレイアウトは、さっきの部屋とほぼ同じだった。
「あれ?私の荷物がある!」
ベッドの脇に自分が持って来た旅行カバンが置いてあるのを見てクロアは驚いた。
「ああ、あれはメイドが運んでくれたんだよ」
「早っ!」
皆はまた驚いた顔になった。
「こんな感じで、次の部屋がブロームで、も一つ先がテリットの部屋ね」
皆で部屋の外に出ると、トキオが手で二つのドアを指しながら言った。
「とりあえず、これでわかるでしょ?じゃあ、お風呂に行こうか」
「部屋の場所は分かったけど、風呂に入るんじゃ着替えを持ってこないと」
「ああ、それは気にしなくて大丈夫だよ。すでに用意してあると思うよ、ね?」
トキオはセバスチャンに聞いた。
「はい。下着を含めて着替えとタオルはご用意させていただいております」
「えー?スゴいなあ、そこまでやってくれるんだ」
「うん、ここの人たちの気配りと仕事の早さはスゴいよ」
トキオは、真顔で言った。
「そうなんだー。やっぱり貴族のお屋敷に勤めていた人たちなわけ?」
アウレラが聞いた。
「そうみたいだよ。じゃあ行こう」
トキオが来た方向に歩き始めたので、皆はトキオについて行った。
「あ、セバスチャン。ここからは俺が案内するからいいよ。食事の方をよろしくね」
トキオは、振り返って言った。
「わかりました」
セバスチャンはそう言うと、お辞儀をして皆を見送った。
「あの使用人たちも報奨の一部として働いてくれてるのか?」
歩き始めたところでテリットが聞いた。
「そうみたい。ミヒールさんは何でも頼んでいいって言ってたからね」
「うらやまし過ぎるぞ!」
テリットのその言葉に、他の3人はうんうんと激しくうなずいた。
「じゃあ、あたしたちの夕飯もタダってこと?」
「そりゃそうでしょ。俺のお客さんなんだから」
「そうかー・・・で、こんな豪邸なわけだから、料理も高級料理がじゃんじゃん出てくる感じ?」
「そうなんだよー。今まで見たこともないような料理ばかりで、しかも、ここに来てから一度も同じ料理を食べてないからね」
「うらやまし過ぎるよ!」
また、他の3人はうんうんと激しくうなずいた。
「ここって、やっぱり元は貴族のお屋敷だったの?」
「1年前まではそうだったんだって。ここに住んでた人が西部に異動したから空き家になってたみたい」
「そうなんだ」
「それで、ここの使用人たちは、他の貴族のお屋敷で働いてた人たちで、その中でも腕のいい人を集めたらしい。王様が色々と気を遣ってくれてるよ」
「そうなんだ~。でも、トキオの功績を考えたらそれもわかるけどね」
「そうかなあ。ちょっと大げさすぎると思うんだけど」
「そんなことないと思うよ」
他の3人もうんうんと頷いた。
「ここが俺の部屋だけど入ってみる?」
「うんうん」
トキオがドアを開けて皆を招き入れると、皆はまた驚いた顔になった。
「ホントだ!さっきの部屋よりもっと広い!」
「あ、そうだ。これがもう一つの報奨なんだよ」
トキオはそう言いながら廊下側の壁に掛けてある剣を指さした。
「へえ~、これもそうなのか。見事な剣だな」
テリットが興奮した声で言った。
「なんでも、古くから王家に伝わってるものらしいよ」
「ほら、やっぱりね」
クロアが言った。
「ん?何が?」
「王都に来る馬車の中で、報奨はなんだろなって話になった時に、クロアが王家に代々伝わる武器とか防具なんじゃないかって言ってたんだよ。それが当たってたってことだな。クロアは、他に領地ってのもあるんじゃないかって言ってたけど、それも半分当たってたな」
テリット答えた。
「へえ~、すごいなクロア」
「王様がくれるものって言ったら大体そんなところが相場でしょ」
クロアが、さも当然といった顔で言った。
「じゃあ、次はこっち」
トキオはそう言って、右側の壁にあるドアの方へ行き、それを開けた。
皆は首を突っ込んで中を覗いた。
「え!?これってまさか!」
「衣裳部屋?」
「こんなものまであるのか!」
「すごーい!」
「こんなにあってもしょうがないんだけどね」
「何着ぐらいあるの?」
「数えたことないけど、100着ぐらいはあるってセバスチャンが言ってたね」
「100着!」
皆はまた、驚きの声を上げた。
「でも、そんなにあっても着ないだろうから、これはあんまりうらやましいって気がしないな」
テリットが言った。
「そう?あたしはちょっと憧れちゃうな」
「そうよね」
女性のアウレラとクロアはうらやましそうだった。
「じゃあ、そろそろホントにお風呂に行こうか」
「うん!」
皆は元気良く返事をした。
トキオの部屋を出てさらに進んで奥の階段にたどり着くとテリットが言った。
「へえ、もう一つ階段があるのか」
「いや、皆の部屋の方と建物の両外にもあるから、全部で5つだね」
「うわー・・・でも、この大きさだとそのくらいないと困るな」
「そうそう」
トキオは、そのまま皆を3階の大浴場の前まで連れて行った。
「この正面が男性用の大浴場なんだけど、女性用はこっちね」
そう言って、右のドアを開けた。
入ると、まず、脱衣場があって、洗面台が3つと、スツールや横になれる椅子もあった。
「へ~」
「あ、ホントに着替えが置いてある」
クロアがそう言ったので皆がそっちを見ると、確かに脱衣用の棚に二人分の着替えが置いてあった。
「やだ、下着もあるんだから見ないでよ!」
クロアの言葉に男性陣はあわてて目をそらした。
「で、お風呂はこっち」
トキオはそう言うと、浴室のドアを開けた。
「え~!おっきいお風呂~!」
皆は驚いた顔になった。
男性用と違って浴槽は一つしかなかったが、10人ぐらいは同時に入れる広さがあった。
「こりゃすげえな~」
「はいはい、まだ驚くのは早いよ。次は男性用ね」
「え?」
皆はけげんな顔をしたまま男性用の大浴場に案内された。
「脱衣場は少し広いけど、洗面台の数は同じだね」
アウレラが言った。
「女性の方が洗面台を占有してる時間が長いからだと思うよ」
「ああ、そういうことか」
「で、これが男性用のお風呂でーす!」
トキオはそう言いながら、もったいぶって浴室のドアを開けた。
「ええ~!なにこれ~!」
女性用よりさらに広く、浴槽が二つあるのを見て、皆は屋敷の中に入ってから一番驚いた表情になった。
「みんな、靴を脱いでこっちに来てみて」
トキオは、ブーツを脱ぐと二つの浴槽の間を通って窓のところまで行った。
皆は、そのあとについて来た。
「ほら、見て」
トキオが窓の外を指さしたので皆がそっちの方を見ると、太陽が沈みかけて夕日が見事にお城と街並みに映えていた。
「キレイ~」
「ほんとだなあ」
「お風呂につかりながらこの夕日を見るのが最高に良くってね。女性用のお風呂からも見えるはずだよ」
「ホント!?じゃあ、あたしすぐ入る!」
「私も!」
そう言うと、アウレラとクロアは慌てたように出て行った。
「俺たちも入ろうか」
「そうだな!」
「いや~、夕日はキレイだし最高だな~」
テリットが湯につかりながらしみじみと言った。
「お前、毎日一人でこの風呂に入ってるのか?」
ブロームが聞いた。
「そうだよ。もう、最高!」
「ホントだよな~。うらやまし過ぎる!」
テリットもうんうんとうなずいていた。
その頃、女性用の風呂場では・・・
「ちょっと、なによあんたのそのオッパイ!大き過ぎるでしょ!」
「そうなんだよね~」
「いつからそんなに大きくなったのよ!」
「12歳の時から急に大きくなりはじめて、16歳ぐらいの時には、もうこの大きさになってたかな」
「16歳でそれ!?周りの男が放っておかなかったんじゃないの!?」
「うん。いっぱい言い寄られたけど、あたしはもう冒険者としての訓練を始めてたから興味なかったなあ」
「そうなの?しっかりしてるわね」
「クロアだって、結構オッパイあるじゃない」
「あ!なに勝手に揉んでるのよ!」
「いいじゃない。女同士なんだし」
「じゃあ、仕返しよ!・・・・やわらかーい!しかも、大きいから手が全部オッパイの中に入っちゃう!」
「あ、ちょっと気持ちいい。じゃあ、さらに仕返し!」
「あん!・・・て、なに舐めてるのよ!」
「だって、乳首の形が可愛かったから」
「やめなさいよ!あんたがその気なら!」
「あんっ!・・・やめて、気持ちいい」
「へへへへ」
「待って待って。変な気分になっちゃうからやめようよ」
「それもそうね。それより夕日夕日」
「あ、そうだった!」
二人の会話はかなり大きな声だったので、すべて男性用の風呂場に筒抜けになっていた。
そのため、トキオたち3人は膝を立てた姿勢のまま湯船から出られなくなって困っていた。




