第85話 冒険者の聖地
そのころ、王都の片隅では・・・
「おーい、帰ったよ」
「おや、あんた、おかえり。また早かったね」
「今回は、馭者仲間の馬車が故障したってんで、前にアティムから乗せて来た冒険者さんの仲間で王都に行くって人たちを乗っけて来てね。それで、帰って来たんだよ」
「おや、そうかい。すぐまた仕事に行って稼いで来ても良かったんだよ」
「そう言うなよ。ちゃんと稼ぎ以上のものは上げて来たんだからな」
「そりゃどういう意味だい?」
「実はな、そのお仲間さんてのも金持ちらしくて、また金貨を貰ったんだよ!」
「ホントかい!そりゃすごいね!」
「だから、一度食べたいと思ってた魔物の肉、それも一番おいしいって評判のボアドンの肉を買って来たんだよ。なかなか置いてある肉屋がなくてちょっと時間がかかっちまったけどな」
そう言って、肉が入っていると思われる紙包みを持ち上げて見せた。
「魔物の肉ってかなり高価なもんだろ?贅沢なことしてるんじゃないよ!」
「今回は予定外の収入で、それも金貨なんだからいいじゃないか。ボアドンの肉、食べたくないのか?めちゃくちゃうまいって評判だぞ」
「そりゃ、一度は食べてみたいとは思ってたけどさ。まあ、いつもの稼ぎを使ったわけじゃないからいいか」
「そうだろ?じゃあ、今日の夕飯は焼肉だ。娘たちにも食べさせてやりたかったんだよ」
「わかったよ。じゃあ、すぐに支度するよ」
それから数十分後・・・
「よーし、焼けてきたな。それじゃあ、まずお前ら食べて見ろ」
馭者の男は二人の娘のタレの入った皿に焼けたボアドンの肉を乗せた。
「熱いから気を付けろよ」
「うん!」
「ふーふー・・パクッ・・・もぐもぐもぐ・・・うわー!すごくおいしー!」
「ほんとー!めちゃくちゃおいしいよー!」
二人の娘は大喜びだった。
「そうか!じゃあ、もっとどんどん食べろ」
男はそう言うと、二人の皿に焼けた肉を続けて乗せた。
「そんなに美味しいのかい?じゃあ、あたしも」
馭者の妻も焼けた肉を1枚取ると、タレにつけてから口の中に放り込んだ。
「はふはふはふ・・・・え!なにこれ!今まで食べたもののなかで最高においしいよ!」
「そうか!じゃあ、俺も」
男も肉を口に入れた。
「はふはふはふ・・・・うわっ!ホントだ!これはすげーなー」
それからは、全員が次々と肉を口に放り込んだため、あっという間になくなってしまった。
「もう終わりか。もっと買ってくれば良かったな」
「ホントだよ!・・・・うーん、でも、こんなのめったに食べられるもんじゃないから、この子たちがこれに慣れちゃうのも困るね」
「そうだな。ということで、この肉は今回だけだからな」
「ええー!?また、食べたいよー」
二人の娘は不満を言った。
「ダメダメ。1度食べられただけでもありがたいと思わなきゃ」
「そうだよ。本当ならあたしらの口に入るようなもんじゃないんだからね」
「ちぇー」
「みんなで、アティムの冒険者さんたちに感謝するんだよ」
「はーい」
「しかしなあ、今回乗せた人たちもスゴい腕前だったよ」
「へえ?そうなのかい」
「今回は、6体のオクスドンに襲われたのに、たった4人であっという間に全部倒しちゃったからな」
「ホントかい!?この間よりもすごいじゃないか!」
「特に、若い魔女がすごかったな。最初に男が拳銃で撃ったのが1体に当たって足を止めたのに、それに文句をつけて水魔法を使ったんだけど、それでオクスドンが全部倒れちまったからな」
「ええー!?オクスドンの足を止めるだけでも大したものだってのに、それが不満だったってのかい?どんだけ能力の高い魔女だよ!」
「どうやら、アティムの冒険者は相当レベルが高いらしいぞ」
「そうみたいだねえ。驚きだねえ」
それからしばらくして、「アティムは冒険者の聖地」という評判が、王都から周りの街へと徐々に広がって行った。
確かに、この時点では、トキオ直伝の格闘技の技と、拳銃の普及率の高さから、アティムの冒険者のレベルが他の街より高かったのは事実だった。
しかし、馭者の話がだんだんと誇張されて伝わったことにより、実際よりもさらに高いレベルだと見なされてアティムは神格化され、アティムで働きたいという冒険者が殺到するようになるのだが、それはもっと先の話だった。
「夕飯はどうするの?せっかく王都に来たんだから食べに出るんでしょ?」
馬車でトキオの屋敷に向かう途中、アウレラが聞いた。
「いや、家に帰ればあるから大丈夫だよ」
「ええ~?どうせしょぼい惣菜かなんかなんでしょ?そんなのより、美味しいもの食べたいよー。途中で金貨が手に入ったからお金はあるし」
「え?魔物から?・・・もしかして、オクスドン?」
「そうそう。しかも6体も出たから、クロアが2枚であたしらは1枚ずつ分けたんだよ」
「ええー?6体も!?大丈夫だったの?」
「それがなあ、俺が撃った弾で足は止まったんだが倒れなくてな。そしたら、クロアが強力な水魔法を使ってくれて、それで全部倒れちゃったから、その後は楽だったんだよ」
ブロームが言った。
「それスゴイな!」
「水魔法が弱点だっただけよ。まあ、私の水魔法が強力だったってのもあるけどね」
クロアがどや顔で言った。
「そうか。それでクロアだけ2枚なんだな・・・あれ?でも、1枚計算が合わないよ」
「ああ、それは馭者にあげたんだよ。あの人たちは、しょっちゅう街の間を移動して危険にさらされるけど、俺たちみたいにドロップアイテムが手に入るわけじゃないからな。ああそうだ、トキオにも金貨を貰ったから感謝していると伝えてくれって言ってたな」
テリットが言った。
「ああ、あの馭者さんだったのか。そりゃまたスゴい偶然だね」
「確かにそうだな。それで、その馬車で城のそばで武器の店を出してるサイマンさんって人と一緒になって、明日、店に行くとこになったんだよ。トキオも行くか?」
「あー、行きたいけど、柔道と魔法の訓練があるからちょっと難しいかな」
「なんだ。忙しいんだな」
「王様からの依頼だからちゃんとやらないとね。魔導士様の方も同じだよ」
「そうか・・・しょがないか」
「そうだ。明日の午前中は柔道を兵士たちに教える時間なんだけど、見学してみる?」
「おお!もっとお城の中が見たかったから、それいいな」
「あたしも行くー。それで、勇者に会えたりするの!?」
「うーん、それは難しいかな。いつも別のところで訓練してるみたいで、初日に会ったっきり見かけないからね」
「えー?そうなのー。ざーんねん!・・・でも、お城の中も見たいから行くよ」
「俺も行きたいな」
ブロームも同意した。
「わかった。じゃあ、一緒に行こう」
そこで、アウレラが外を見て驚いたような顔になった。
「見て見て!スゴいお屋敷が見えて来たよ!貴族のお屋敷なんじゃない?」
「・・・ホントだ!めちゃちくちゃ敷地広いなー!」
「どんな貴族が住んでるんだろうな」
トキオはその様子をニヤニヤした顔で見ていた。
「ふん。王都のところどころにあるけど、私らには関係ない場所よ」
クロアだけが冷静だった。
そのうち、馬車がその屋敷の外塀に沿って進み始めたので、その間、クロアを除く3人は惹きつけられたようにずっとそのお屋敷と敷地を眺めていた。
開いたままになっている門のところまで来ると、馬車が敷地内に入って行ったのでクロアを含めた4人は驚いた。
「え?なに?ここに用事があるの?」
アウレラが驚いた顔で聞いた。
「へへへ」
トキオはそう言って笑っただけだった。
4人が驚いた顔のままキョロキョロしていると、ほどなく馬車は屋敷の前に着いた。
入口を見ると、そこには執事と思われる男とメイドが二人立っていた。
トキオが馬車から降りると、その3人はトキオに向かって、
「お帰りなさいませご主人様」
と、言って頭を下げた。
「え?今、ご主人様って言わなかった?」
「言った言った!」
「どうなってんだ?」
「あいつ、また何かインチキしてるわね」
4人は馬車に乗ったままそんなことを言った。
「なにしてるの。早く降りてきなよ」
トキオがそう言ったので、4人はおっかなびっくり馬車から降りた。
「ねえ?どういうことよ?」
アウレラが聞いた。
「ここが俺んちだよ」
「ウソでしょ!?」
クロアがすかさず言った。
「実は、これが報奨だったのさ」
トキオは愉快そうな顔で言った。
「ええーーーーーーー!?」
4人とも屋敷を見上げながら大きな驚きの声を上げてその場で固まった。
そこで、その様子がまったく気にならないかのように、セバスチャンとメイドの二人は速足で馬車のところに行くと脇に置いてあった台車をとり、手際よく皆の荷物をそこに乗せ始めた。
しかし、4人は固まったままだったので、そのことに気付いていなかった。
「・・・・さーて、そろそろいい?じゃあ、行こうか」
「・・・え?・・・ああ」
トキオはニヤニヤした顔で入口に向かった。
「うっわー!」
「えー!?」
中に入ると、4人はそれぞれに驚きの声を上げた。
「この入口のホールだけで、絶対、俺の家より広いぞ!」
テリットが言った。
「すごくおっきなシャンデリアがある!」
アウレラが上を見上げて言った。
「こんな階段が実在したんだな」
ブロームが階段から2階の踊り場までを見ながら言った。
「廊下が広すぎるでしょ!」
クロアが正面を見て言った。
「それではお部屋にご案内いたします。お二階になります」
その声で4人が振り返ると、すぐ後ろにいたセバスチャンが恭しくお辞儀をした。
それから、先に立って左側の階段を上り始めたので、4人はあわててその後を追った。
トキオは、相変わらずニヤニヤした顔でその後ろからついて行った。
「あ!荷物!」
そこで、テリットが急に思い出したように言った。
「メイドに運ばせておりますからご安心ください」
セバスチャンが振り返って言った。
「あ、そうですか。そりゃどうも」
テリットはかしこまってそう言った。
「うわ!絨毯ふかふか!なにこれ!」
一番先を歩いていたアウレラが階段を上り始めたところでそう言うと、皆は驚いた顔で足元を見て、その感触を確認しながら登って行った。




