第8話 焼肉パーティー
「おい!金貨だぞ!」
テリットの後方で声がしたのでそっちを見ると、マルケルが血まみれの右手を前に突き出して驚いたような顔でそれを見ていた。
その手には、金貨が1枚握られていた。
マルケルの足元を見ると、グリベラーの頭が血まみれになっていた。
「まさかそれ、グリベラーの頭の中から出てきたのか!?」
テリットが驚いて聞いた。
「そうだ!こいつはビックリだ!」
驚いた顔だったマルケルの表情が、見る見るうちに嬉しそうな顔に変わっていった。
「他にあるかもよ」
アウレラがそう言って、砕かれたグリベラーの頭に手を突っ込んでまさぐり始めた。
「うーん、金貨みたいなものはないかなあ・・・ん?なんかここにもっと大きいものがある」
アウレラが抜いた手には、長辺が15センチ程度の石のようなものが握られていた。
「ちょっと!これ、鍛工石よ!この大きさなら高く売れるし、武器もかなり強化できるわ!」
「おおーーー!」
全員から、嬉しそうな驚きの声が上がった。
「トキオ、金貨まで取れるんだったのか」
テリットが聞いてきた。
「いや、俺はここまで大きな魔物は倒したことがないから、金貨は見たことがなかったな」
「そうか。でも、金貨まで取れるとは、トキオには感謝してもしきれないな」
「いやあ、俺はみんな知ってるもんだと思って話しただけだから。ところで、金貨って銀貨100枚の価値でいいのかな?」
「え?あんた、そんことも知らないのか?」
「う・・・ああ、うちの村は貧乏で金貨なんて見たことなかったらね」
「ああ、そうか。確かにめったに見かけるもんじゃないからな。金貨1枚は銀貨にすると300枚だ」
「え!?そんなに違うの?」
「そうだ。だからみんなあんなに喜んでるんじゃないか。8人で山分けにしたって相当な額だよ」
そこまで聞いて、トキオは、銀貨どころか銅貨が日本円に換算してどのくらいの金額になるか把握してないのに気付いた。
(うーん、俺が買った服や剣がこの世界でどの程度のレベルものなのかよくわからないからなあ。一番判断しやすいのは食べ物なんだけど、昨日からおごってもらってばっかりで値段がわからないなあ)
「どうした、考え込んで」
「あ、いやあ、よく考えたらこの辺りとうちの村の貨幣価値がどの程度違うのかを把握してないなあと思って。だから金貨の価値もわからなくて」
「ああそうか。田舎とじゃ物価も違うだろうしな」
「食べ物が一番わかりやすいんだけど、今朝、おごってもらったメルコットっていくらなの?」
「ああ、あれは銅貨1枚だ。下から説明すると、小銅貨100枚が銅貨1枚で、銅貨100枚が銀貨1枚だ。ここらへんは一緒か?」
「そう・・・・ああ、そうだね。そこは同じだよ」
(あぶねー!思わず「そうなんだ」って言いそうになったよ。貧乏なら最下層の貨幣価値を知らないのは不自然だよな)
(メルコットが銅貨1枚ってことは、朝ご飯だし高級レストランでもないから500円と見積もって、ええと・・・服が1万2千5百円で、剣が10万円か・・・いや、まけてもらったんだから、実際は1万5千円と15万円か。まあ、そんなもんかな。てことは、金貨1枚は・・・)
「えー!1500万円~!?」
「わっ!どうした急に大声上げて!」
「あ、ごめん。いやあ、金貨の価値を計算したらすごい金額だってのがわかったからびっくりして」
「そうなんだよ。だから、本当に大感謝だよ」
そう言って、テリットは両手でトキオの手を握って来た。
(ということは、8等分しても一人当たり・・・・ええっと・・・・ああ、俺ってホントに計算苦手だな。大雑把に計算してに二八の十六だから、一人頭200万円を少し切る金額か。一匹倒しただけでこの金額は確かに相当ありがたいな)
「あ、でも、俺はグリベラーの討伐には参加してないから貰えないよ」
「何言ってるんだ。あんたの情報がなかったら金貨そのものが手に入らなかったんだから貰って当然だ」
「まあ、そうだけど、何か申し訳ないなあ・・・でも、今から色々とそろえなくちゃいけないし、住むところも確保しなくちゃいけないから、ありがたく貰っとこうかな」
「うん、そうしてくれ。そうじゃないとこっちも気が済まないよ」
「わかった」
「お前らもそれでいいだろ?」
テリットがみんなの方を向いて聞いた。
「いいよー」
「当然だ」
「大体、今日こんなに金が入ると思ってなかったからな」
「もっとあげてもいいくらいだ」
「そうだそうだ」
全員が肯定の返事を返した。
「みんなもああ言ってるから、もう少しあんたの分け前を増やすか」
「いやいや、それはさすがに勘弁して。こっちも、みんなの討伐ぶりを見て勉強させてもらったし、ここへ来る道中で色々なことを教えてもらったからね」
「遠慮しなくていいんだぞ」
「いやいや、ホントに勘弁。それより、他にも知らないことがあるから、そっちで協力してくれるとありがたいよ」
「そうか。まあ、わからないことがあったらなんでも聞いてくれ」
「うん、よろしく頼むよ」
「さて、フォドラの討伐依頼は3匹だからもう一匹仕留めないとな」
テリットとトキオは、トキオが倒したフォドラに寄って頭を砕いた。
皆も寄って来たので、今度はトキオが手を突っ込んで銅貨8枚を回収した。
「おおー!今度は8枚かー!」
皆は喜びの声を上げた。
「さっきのより少し体が大きいからね。頭の中から取れるドロップアイテムは魔物の大きさと強さに比例するみたいなんだ」
「そうなんだー」
皆は感心して言った。
証明部位に尻尾の先を回収してから、別のフォドラを探しに森の奥に入った。
しばらく行くと、いきなりフォドラが正面から突進してきた。
テリットが剣を抜いて構えたが、その直後に、またしても矢がトキオの後方から飛んできてフォドラの眉間に突き刺さった。フォドラはその場に倒れて動かなくなった。
トキオが振り返ると、やはりブロームだった。
(相当な腕前だなあ)
と、トキオは感心した。
「頭を狙えるってのは楽だな」
ブロームは嬉しそうに言った。
「ホントにそうだな。剣や斧でも飛びかかって来た瞬間に正面から切りつければいいからな」
「そうだよな」
テリットの言葉にマルケルも同意した。
「ホントにありがとうね!」
アウレラが正面からトキオの手を握りながら言ってきた。眼前に谷間が露出した巨乳が来たので、トキオはあわてて恥ずかしそうにうつむいた。
(巨乳は好きだけど、ちょっと露出度が高すぎて目のやり場に困るぞ。しかも美人だから反則だよな。巨乳冒険者と知り合いになりたいとは思ってたけど、実際に目の前に来ると対処に困るな)
「気にしないで」
トキオは、それだけ言うのが精いっぱいだった。
「じゃあ、また頭の中を探ってから、証明部位にしっぽを切り取って帰ろう」
「おおー!」
皆、本当に嬉しそうだった。
今回回収できた銅貨も8枚だった。テリットが尻尾の先を切り取ったところで、全員が馬車の方へ歩き始めたのでトキオが聞いた。
「このフォドラの死体はこのまま?」
「ああ、他の魔物が食べるんだよ。数日もすれば骨以外はなくなってるから、腐って虫が湧いたりとかの心配はほぼしなくて大丈夫だ。それと、少しでも森の中に食べ物を残しておけば、人間が襲われる頻度が減るからな」
テリットが答えた。
「ああ、なるほどー。でも、おいしいのにもったいない気もするなあ」
その言葉に、皆は驚いて足を止めトキオを見つめた。
「おいしい?あんたこいつを食べたことあるのか?」
「え?そうだけど。魔物の肉ってめちゃくちゃおいしいよ。特にボアドンは最高だな」
「なんだって!」
「うそー!」
「信じられん!」
皆、驚きの声を上げた。
「え?みんな食べたことないの?」
「あるわけないだろ!魔物だし、毒があるのに」
テリットが驚いた声で言った。
「いや、だからないって」
トキオが答えた。
「あ、そうか・・・」
「でもなあ」
「ちょっとでいいから食べてみない?俺は、レバーなんかビタミンと鉄分を取るために生食もしたけど、さすがに最初からそれはキツイだろうから焼くよ」
「ええ~?・・・」
皆、尻込みをした。
「俺は食べてみるよ」
マルケルが軽く手を挙げながら言った。
「ホントか?」
テリットが聞いた。
「だって、もし、本当に食べられるのなら、大掛かりな討伐で森に何日も籠ったときでも食料に困らなくなるかなら。それは大きいだろ?」
トキオは、マルケルの表情に、そういう状況で苦労した経験があることを感じた。
「まあ、とにかく焼いてみるよ。食べるかどうかはそのあとでもいいでしょ。肉を切るから誰か枯れ枝を集めてきてくれるかな」
そう言うと、トキオは、フォドラの左後ろ足を切り取って皮を剥いでから薄くスライスし、細長い枝に刺していった。
それから、皆が集めてくれた枯れ枝に火をつけ、その火を取り囲むように斜めにさして焼いた。
そのうち、肉の焼ける匂いが漂ってきた。
「う。匂いはいい匂いだな」
ブロームが言った。
「はい」
焼きあがったので、トキオは一串取ってマルケルに差し出した。
受け取ったマルケルは、しばらく躊躇していたが、やがて意を決したようにかぶりついた。
「はふはふはふ・・・・・うおっ!うめー!俺、こんなうまい肉食ったの初めてかも」
マルケルは、あっという間に渡された肉を全部食べてしまった。
「もっと食べる?」
トキオが聞くとマルケルは無言でうんうんと頷いた。
「ちょっと待って!あたしも食べる!」
アウレラが言った。
「いいよー、焼けたのまだあるし、肉は全員分以上にあるからもっとどんどん焼けばいいしね」
トキオは、マルケルとアウレラに一串ずつ渡すと、残りの肉をスライスし始めた。
「はふはふはふ・・・・ホントだ!おいしー!なにこれ!」
アウレラも驚嘆の声を上げた。
それからは、俺も俺もで、結局、全員がフォドラの肉を食べた。しかも、お腹いっぱい。