第79話 お城の昼食とクロアの招聘
訓練用の部屋に入ると、トキオは、まず、皆の乱取りを見せてもらったが、危惧した通り変な風に伝わていて、ただ、力で投げようとしているだけだった。
「そのくらいでいいよ。大体わかった」
その言葉で、皆は乱取りをやめて一斉にトキオの方を向いた。
「みんなは力で投げようとしてるけど、柔道の技で一番大事なのは相手の力を利用することとタイミングなんだ。そこがちゃんと伝わっていないようなので、俺がこれからその辺を教えるね」
そうやって、王都におけるトキオの柔道教室が始まった。
1時間ほど練習したところでお昼になったので、一旦やめて昼ご飯を食べることになった。
ゴットハルトはいつの間にか姿を消していた。
「昼ご飯はいつもどうしてるの?」
「城の中に兵士用の食堂があるんだよ」
「そうなんだ。でも俺、兵士じゃないからなあ」
「王様が直々に報奨をくれるような人に誰が文句なんか言うもんかい。ついて来な」
そうやって、トキオはフラビアに連れられて兵士たちと一緒に兵士用の食堂に行った。
食堂は別の棟にあったが、かなりの広さでトキオが通っていた大学の学食より広かった。
「じゃあ、私のあとをついて来て、同じようにやりな」
フラビアはそう言うと、入り口の脇に重ねてあった木製の角の丸まった長方形のトレーを取った。
さらに進むと、ビュッフェ方式になっていて、皆、一列に並んで自分で好きなおかずを取ってトレーに乗せていた。
(なんだ、完全に大学んときと同じじゃないか)
しかし、出ている料理が全然違っていて、シチューやステーキなんかも選べるようになっていた。しかも、ステーキはそれだけで満腹になりそうなほど大きかった。
ステーキは何種類かあったが、その中にボアドンの肉があった。
しかし、皆、食べたことがないのか、誰もそれを取ろうとしなかった。
「なんだ、また今日もボアドンが出てるよ。魔物なんか食えるかってえの」
前の方で兵士のそんな声が聞こえて来た。
「ねえ、フラビア、みんなは魔物の肉って食べないの?美味しいのに」
「え!?あんたは食べたことあんのかい!?魔物だよ?」
「そうだけど、ホントに美味しいんだよ。食べてみなよ。誰も取らないけど、これじゃ調理した人がかわいそうだよ」
「ええー?気乗りしないねえ」
「兵士長が食べたとなるとみんな食べるようになるよ。魔物の肉が食べられるようになれば、森で長期の討伐をした時に食料に困らなくなるからいいと思うんだけどなあ」
「ああ、そう言われればそうだな。でもなあ・・・」
「じゃあ、俺がとるから一口でいいから食べてみなよ」
「ええー?・・・わかったよ。一口だけだよ」
「うん、それでいいよ」
(一口でも食べて味を知れば、絶対もっと食べたくなるからね)
トキオがステーキのコーナーまーで行ってボアドンの皿を取ると、
「ありがとうございます!」
と、皿を並べていた配膳係の人にすごく嬉しそうな顔で言われた。
いくつか料理を取ってフラビアや兵士たちとテーブルに着くと、トキオはボアドンの肉を細かく切った。
そして、その一つをフラビアの皿に乗せた。
「ほら、食べてみて」
「えー?やっぱり気が進まないなあ」
「さっき食べるって言ったでしょ。男らしくないぞ!」
「私ゃ女だよ」
「あ、いや、これは言葉のあやで・・・いいから、食べて!」
「わかったよ」
フラビアは眉間に皺を寄せながら肉をフォークに刺すと、一旦口の前で止めてイヤそうな顔をしながら、パクッと口に入れた。
周りの兵士たちは、ニヤニヤしながらずっとその様子を見ていた。
「・・・・・うっまー!なにこれ?」
「でしょ?」
「今まで食べた肉の中で一番うまいかも!」
「ホントですか!?」
それを聞いたトキオの隣に座ってた兵士が言った。
「食べてみる?」
トキオはその兵士に肉の乗った皿を差し出しながら言った。
その兵士は、恐る恐るボアドンの肉をフォークに指すと、おっかなびっくりという感じで口に入れて、思いっきり目をつぶってモグモグと噛みしめた。
「・・・ホントだ!めちゃくちゃうまいぞ!」
「マジか!」
「ホントかよ!」
他の兵士が口々にそう言ったので、トキオは肉の乗った皿をテーブルの真ん中に置いた。
すると、皆が身を乗り出して次々に肉を口に入れた。
「ホントだ!なんだこれ!」
「ウマすぎる!信じられん!」
その騒ぎを聞きつけて、他のテーブルの兵士たちも寄って来た。
その一人の口に、トキオのそばにいた兵士が無理やりボアドンの肉を押し込むと、押し込まれた兵士も感激していた。
それからすぐに、トキオのテーブルにいた兵士のうちの3人が、ビュッフェに走ってボアドンの皿を取って来た。
それからは、皆が奪い合うようにボアドンの肉を食べたので、ビュッフェからはあっという間になくなってしまった。
トキオがビュッフェの方を見ると、さっきトキオにお礼を言った配膳係の人が、うれし泣きしてエプロンのすそで涙をぬぐっていた。
大騒ぎになってしまった食事が終わったところで、トキオはフラビアに聞いた。
「この食事の料金は誰に払えばいいの?」
「ああ、昼食は国が負担してるから気にしなくていいよ。もしかしたら、その分、私らの給料が安くなってるかもしれないけどね」
そう言ってフラビアは笑った。
「え?じゃあ、やっぱり俺は金を払わないとまずいんじゃないかな?」
「あんたから金を取ろうなんて人はいやしないさ。気にするなよ」
「そう?まあ、請求されたら払えばいいか」
「大丈夫だって!」
そう言うと、フラビアはトキオの背中を思いっきり叩いた。
「痛ったー!」
トキオは全然警戒してなかったので、まともにくらって息が止まりそうになった。
(細かいことにはこだわらない、正直そうな人だな。こういうタイプの人好きだなあ)
トキオは、外見だけでなく中身も素晴らしい人物だと思い、すでにフラビアを人間として好きになっていた。
「ようし、飯も食ったし、みんな続きやるよ」
「おー!」
フラビアの声で皆は立ち上がって出口に向かった。
「ところで、午後はなんか新しいこと教えてくれるのかい?」
「そうだなあ、まずは絞め技と関節技かな」
「なんだいそりゃ?」
「あれ?伝わってない?これも柔道の技で、アティムじゃ一緒に教えてたんだけどな」
「知らないね。どんな技だい?」
「絞め技は相手を簡単に失神させる技だね」
「簡単に失神?ホントかい!?」
「ホントだよ。まあ、やってみせたら納得するよ」
「へえ~。で、関節技ってのは?」
「これはもう、一言で言うと『痛い』だね」
「痛いのかい!」
「そう、それで相手の動きを止められるから、これも実戦で有効な技だよ」
「ほう~。そりゃあ楽しみだな」
十数分後、柔道の訓練場から、
「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」
という兵士の声と、
「痛い痛い痛い!やめろー!」
というフラビアの大きな声が聞こえて来て、城内に響き渡っていた。
その日の夕方、アティムでは・・・
「パーシー、クロア、ちょっと来てくれ」
パーシーのパーティーが討伐から戻ると、ケリー支部長に呼ばれた。
「なんだろ?」
二人が怪訝な顔で支部長に続いて事務室に入って行くと、司祭が応接ソファーに座っていた。
「そこへ掛けてくれ」
支部長が、司祭が座っている前の椅子を指して言った。
「この方はアティム教団支部の司祭のヴェルナーさんだ。クロアに王都の魔導士長からの依頼を伝えに来た」
「魔導士長!?」
さすがのクロアも魔導士長と言う名前が出て驚き、座ろうとしていたのが中腰のまま固まった。
パーシーも同じように固まっていた。
「キミがクロアか」
「そうよ」
クロアは、パーシーと並んで座りながら言った。
「今日、早馬で魔導士長から書面が来て、先日、ヒドラの完全体を一撃で倒したのはクロアだということをトキオから聞いたと書いてあった。ああ、ここの王国軍には漏らしてないから大丈夫だ」
「あいつもおしゃべりね。そうよ、私よ」
「それで、その時に使った魔法がどういうものか教えてもらいたいので、王都まで来て欲しいということだ」
「王都に?・・・イヤよ」
司祭は、拒否されるとは思っていなかったらしく、面食らった顔をした。
「なに?魔導士長からの依頼を断るのか?」
「魔導士長だろうがなんだろうが、イヤなものはイヤよ。もう、王都には戻りたくないの。それに、私はこの街が気に入ってるのよ」
「戻りたくないって、お前、王都にいたことがあるのか?」
パーシーが聞いた。
「え?・・・ああ、そうよ」
「実家が王都にあるのか?」
「違うけど、いいでしょそんなことは」
「本当に断るのか?お前には天性の素質があるようだから鍛えてみたいとも書かれていたが」
司祭が言った。
「鍛えるって何するのよ。私は師匠から大抵のことは教わったから、今更そんなことしてくれなくても大丈夫よ」
「お前、光魔法を覚えたいって言ってるそうだな。魔導士の何人かは光魔法の大家だからそれも教えてくれると思うが」
「え?光魔法を?」
クロアは明らかに動揺した様子になった。
「それと、トキオもお前に来て欲しいと言ってるそうだ」
「え?トキオが?」
クロアの動揺は、さらに大きくなった。
アティムでは、トキオとクロアは仲が良いということになっていたので、この部分は司祭のアドリブだった。
「魔導士長の依頼を断ると、この先、魔法使いとしての仕事ができなくなる可能性もあるぞ。いいのか?」
「なによそれ。脅しのつもり?・・・・・でも、分かったわ。ただし、光魔法を覚えたら戻って来るわよ。それでいいでしょ?」
「ああ、問題ない。目的はお前が使った魔法について聞きたいってことだからな」
「ちょっと待ってくれよ」
そこでパーシーが口を挟んだ。
「クロアはうちの大事な戦力なんだ。それを抜かれると俺たちが困るんだよ。勝手に決めないでくれよ」
「ああ、その点については代わりに腕利きの魔法使いを用意すると言ってきている」
「代わり?・・・・・本当に腕利きなんだろうな?そうじゃなかったらすぐクロアを返してもらうからな」
「その点は心配するな。魔導士長の言葉を疑うのか?」
「あ・・・いや、そう言うわけじゃないが」
魔導士長と言われてパーシーは黙った。
「それでは、なるべく早くとのことなので明日の朝には出発してもらいたいが、大丈夫か?」
「行くとなったらいつでも同じよ。問題ないわ」
「それでは、明日の9時にここに馬車をよこす」
「わかったわ」
「よろしく頼むぞ」
そう言うと、司祭は立ち上がった。
仕事の都合で数日更新がないかもしれません。すみません。




