第69話 道中談話
トキオとミヒール司祭が乗った馬車は、今まで討伐に使っていた幌付きのものではなく、簡素ではあったが箱型の馬車で、後ろ側は解放されていたが、正面と側面はガラスの嵌った窓があり外が見えるようになっていた。
アティムを出てしばらく行ったところで、トキオはミヒール司祭に聞いた。
「しかし、なんで俺を見つけるのにそんなに時間がかかったの?俺がこの世界に来てから半年ぐらい経ってるよね」
「申し訳ございません。ステータス画面や柔道やダーツは王都に伝わっていましたので、それの発信源をたどればトキオ様に行きつけるのではないかと思い、手分けして順に街を周っておりました」
「あー、その『様』やめてくれる?気持ち悪いよ。呼び捨てでいいから。冒険者仲間もそうだし」
「召喚者様を呼び捨てにするなどとんでもございません!無理です!」
「そうなの・・・じゃあ、せめて『さん』付けにして」
「・・・わかりました。では、トキオさんで」
「よろしくー・・・で、そのやり方にしたのはなぜ?すべての街の冒険者ギルドに手紙で問い合わせれば良かったんじゃない?」
「手紙は魔人に奪われる危険があるので使いませんでした。異世界から召喚した人間がいて、それが大きな功績を上げているというのは知られたくなかったですから」
「ああ、そうか。でも、適当な理由つけて報奨を与えるから、とかなんとか書けばよかったんじゃないの」
「それも考えましたが、報奨などと書くと、本人を騙る者が出て来る可能性がありましたので、それもできませんでした」
「あー、そうかー。金が絡むと悪いことを平気でするヤツがいるからね」
「悲しいですが、その通りですね」
「あれ?今、街を周ってたって言ったよね」
「はい」
「この馬車、護衛の冒険者や兵士が乗ってないけど、今までもそうだったの?危なくなかった?今は俺が護衛みたいなもんだけど」
「これでもいくつか魔法が使えますので、その点は大丈夫です。危なそうな場所を通るときは結界魔法を張って魔物を寄せ付けないようにしていましたから」
「あ、そうなんだ。さすがは教会本部にいる人だねえ」
「ところで、生活に困っていたとかいうことはございませんでしたか?この世界には知り合いもいらっしゃらないでしょうから、心配しておりました」
「あー、全然大丈夫。というか、かなりお金持ちだよ、俺」
「え?そうなんですか?」
「だって、グリベラーから金貨取れるでしょ?他の魔物からも銀貨や銅貨がとれてるから、今は金貨6枚分ぐらいお金持ってるよ。15年は遊んで暮らせるね」
トキオはそう言って笑った。
「ドロップアイテムってそこまで収入があるんですか!驚きました!そうなると、他の冒険者の方々も同じでしょうか?」
「そうだね。アティムの冒険者は一番先に拳銃を入手できたから、特にそう」
「拳銃というのはそこまで魔物退治に有効な武器なのですか?」
「うん。今までは何人かでかかってやっと倒せてたグリベラーが、拳銃だと頭に当たれば一発だからね」
「そうなんですね!しかし、お金があると聞いて安心いたしました」
「金貨ってかさばらないから持ち運びが楽でいいよね。一応、ここに1枚持ってきてるし」
トキオは、そう言って座席の隣に置いたリュックをポンポンと叩いた。
「確かにそうですが、トキオさんの世界はそうではないんですか?」
「硬貨だと、銅貨1枚に相当するものが一番金額が高いね。それ以上は紙幣と言って紙のお金になるんだよ」
「紙のお金ですか。ほほお。でも、紙の方が重くなくていいんじゃないですか?」
「それが、これも最高額が銅貨で、ええっと・・・20枚相当のしかないから、金貨1枚分を持ち歩くとなると、こんな量の札束になっちゃうんだよ」
トキオはそう言って両手を広げて見せた。
「そうなんですか!それは不便ですねえ」
「でしょ?だから、ほとんどの場合はこの世界のお金の方が持ち運びは楽だよ」
「そうですね」
「司祭様!魔物が一体こっちに向かってきます!」
見渡す限り荒地になっている場所を通りがかった時、馭者が突然そう叫んで右を指さした。
「なんだって!」
トキオは驚いてそっちの方を見た。
すると、バッファローに似た魔物がこっちに突進してくるのが見えた。
「あれはなんだ?アティムやアルアビスの近くでは見たことないぞ」
「ああ、あれは牛型の魔物のオクスドンですね。こういう荒地にしか生息していないので、アティム近郊の緑地が多い地域では見かけなかったんでしょう」
驚いているトキオとは対照的に、ミヒール司祭は極めて冷静だった。
「そんなのいるんだ。初めて聞いたよ」
「頭部がすごく固くて、走るスピードも速いですから、ある意味グリベラーよりやっかいです」
「えー!そうなの?・・・といっても、やられるのを黙って待ってるわけにもいかないよな。馭者さん止めて」
「え?どうするんですか?」
「やっつけるに決まってるでしょ」
馭者が馬車を止めるとトキオは素早く外に出た。
ミヒール司祭も後に続いたが、慌てた様子はなかった。
その時には、すでに魔物は50メートルほどの距離にまで迫っていた。
「ねえ、ミヒールさん、あの魔物は左右に小刻みに動いたりする?」
「いえ、あの魔物は目標を決めると一直線に進んできます」
「そう。なら割と簡単かな」
トキオはそう言うと、腰の拳銃を抜いて向かってくる魔物に狙いを定めた。
「おお!拳銃の威力が間近で拝見できるんですね!」
「ちょっと引き付けて撃つから、ミヒールさんは焦って手を出さないでよ」
「わかりました」
トキオは、辛抱強く魔物が接近するのを待って、その距離が20メートルほどになったところで引き金を引いた。
バン!
弾は見事に魔物の眉間に命中し、魔物は一瞬のけぞると、頭を下げて動かなくなった。
トキオは、その頭部に続けて2発の弾を撃ちこんだ。
魔物は、前足の力をなくしたかと思うと、頭から地面に突っ込んでから横倒しになった。
トキオは、素早く拳銃を収めてからライキリを抜くと魔物に駆け寄って背中側に回り、飛び上がって魔物の首にライキリを振り下ろして切断した。
そこでミヒール司祭が拍手した。
それにつられたように、馭者も拍手した。
「見事!オクスドンをこうも簡単に仕留めるとは!拳銃の威力もそうですが、トキオさんの射撃と剣の腕が素晴らしいです!」
トキオはライキリを振ってから、魔物の毛で拭って鞘に収めた。
それから、拳銃によって割られた頭部に手を突っ込んでドロップアイテムを回収した。金貨が1枚あった。
「へえ、金貨が出たよ。やっぱり、この魔物は強いってことなんだ」
トキオは、血まみれになった手と金貨を魔物の毛で拭うと馬車の方に戻って来た。
「素晴らしいですね拳銃の威力は!弓矢だと頭部は貫通できないんですが、簡単に貫通して動きを止めましたよ」
「そうだけど、まさか1発で死なないとは思わなかったよ。驚いたね。ハードオークもこんな感じなのかな?」
「はい。たぶん、ハードオークの硬さに匹敵すると思います」
「拳銃を持つ前にこいつと出会わなくて良かったよ。パーティーでも単独だと難しかっただろうね」
「そうですね。大抵は複数のパーティーで討伐するようです」
「そうだよねえ。じゃあ、行こうか。馭者さん、これあげるよ」
トキオはそう言うと、金貨を下手で放って馭者に投げ渡した。
「え!いいんですか!?」
「うん。俺、これ以上金を持っててもしょうがないし、使うところもないから」
「ありがとうございます!とても助かります!家内もすごく喜ぶと思います!」
トキオはにっこりと微笑むと馬車に乗り込んだ。ミヒール司祭も続いた。
馭者は、深々とトキオにお辞儀してから馭者席に着き、
「では、出発します」
と、声をかけてから馬車を発進させた。
トキオは、席に座ると拳銃を抜いてから撃った分の弾を装填しなおした。
「ほほう。弾丸はそうやって入れ替えるんですか」
「そう。今は3発だったから1発ずつ入れ替えたけど、全弾撃った時は、こんな風にシリンダの前の棒を押すと薬きょうが全部落ちてくるようになってるんだよ」
そう言いながら実演して見せた。
「へえ~、面白いですね。トキオさんの世界のことはとても新鮮で興味深いです」
「文化や習慣がかなり違うからそうだろうね」
「それと、見事な拳銃の腕前でしたが、トキオさんの世界では皆さん拳銃の訓練をされてるんですか?」
「いや、俺のいた国では一般市民の拳銃携帯は禁止だったよ。持ってるの見つかったら警察ってとこに捕まっちゃうね」
「そうなんですか。では、トキオさんはどうして・・・」
「俺がその警察だったからさ」
そう言ってトキオは軽く笑った。
「はい?」
「警察に勤めてる人を一般的には警察官って言うんだけど、これは犯罪を取り締まる仕事だから拳銃の携帯が許可されてるんだよ。他に許可されているのは軍隊の兵士にあたる自衛隊員だけだね。まあ、特別に許可されている人もいるけど、それはごく少数。他には、狩猟用ならライフル銃のようなものを持つことは許可されるね。簡単には許可はおりないけどね」
「そうなんですか。では、銃をちゃんと撃てる人というのはごく少数なんですね」
「そういうこと。俺のいた世界じゃ、一般市民が銃を持つことを規制している国が多かったけど、護身用と称して許可している国もあるよ。国民の3分の1が銃を持ってるって国まであったりするし。どうして違いがあるのかってのは聞かないで。過去の経緯から説明しなきゃいけないから歴史の授業になっちゃうし、銃規制の緩い国の事情をすべて知ってるわけじゃないからね」
「わかりました。色々と文化が違うんですね。じゃあ、別の質問をいいですか?」
「質問によるけど、どうぞ」
トキオ笑いながら言った。
「トキオさんが感じた、トキオさんの世界とこの世界の一番の違いはなんでしょうか」
「一番の違い・・・そうだなあ、やっぱり魔法かなあ」
「魔法の種類が違うんですか?」
「そうじゃなくて、俺がいた世界では魔法というのは架空のお話の中にしか出て来なくて、現実に魔法を使える人はいないんだよ」
「え!?そうなんですか!それでは、治癒魔法も使えないってことですね?」
「ばい菌が入らないように消毒したり、傷口をふさぐために縫ったりするけど、基本的には自然治癒だね」
「え?傷口を縫うんですか?」
「あれ?この世界ではやらないの?・・・そう言えば、ケガした人で傷口を縫ったと言ってる人を聞いたことがなかったな・・・ああ、治癒魔法で傷口を塞ぐのか」
「基本的にはそうですね。そのうえで、傷口が早くふさがるように包帯でぐるぐる巻きにしたりはしますが」
「ああ、そういう人なら見たな。俺の世界でもやるから気にしてなかったよ」
二人は、そんな会話をしながら王都への道を進んで行った。
トキオからも、この世界のことや聖光教団のことなどを色々と質問したので、二人とも長い道のりを退屈しないで移動することができた。




