第63話 苦悩するクロア
「おいおいおい、なんだ今のは!」
パーシーが慌てた様子で二人のところへやって来た。
トキオは、すでに防御魔法を解除していた。
「お前、こんな魔法持ってたのかよ。スゴすぎるだろうが!」
「あらそう?私はただ自分の役割を果たしただけよ」
クロアはそう言うと、余裕たっぷりの表情でゆっくと立ち上がった。
「おい、立ち上がって大丈夫なのか?」
「ああ、一瞬めまいがしただけ。もう平気よ」
「パーシー、オークは大丈夫なの?」
トキオが聞いた。
「ああ、もう大体片付いた。そろそろ、ほかのヤツらも戻ってくるだろう。いやあ、この拳銃のおかげで今までよりずっと楽にやれたよ」
パーシーは、手に持った拳銃を顔の前まで持ち上げながら言った。
「確かに、俺自身もずいぶん楽だったよ。でも、弾代で貧乏になっちゃうんじゃないの?俺は独り身で金使わないからいいけど」
「いやー、この間、グリベラーを簡単に討伐できたからな。逆にすごく稼ぎが上がってるよ。ホントにありがたい」
そんな話をしていたら、他の冒険者たちも戻って来た。
「おい、さっきこっちの方で何か光らなかったか?トキオが閃光魔法でも使ったのかと思ったが、それにしては感じが違ってたけど」
「あたしも光ったの見た」
テリットとアウレラがトキオのところまで来ると言った。
続いてブロームもやって来た。
「俺もだ。光だけだったけど・・・・って、あれなんだ!」
ブロームはヒドラの残骸を見て驚きの声を上げた。
「え?・・・・・うわっ!」
「・・・ヒドラなの?」
「そうだよ。クロアが仕留めたんだ。俺は近くにいたからしっかり見たけど、黄色い光の帯が飛んでったと思ったら、ヒドラの上半分が消えてたんだ」
パーシーが興奮した様子で言った。
「消えてた?破裂したとかじゃなくてか?」
「そうだ。文字通り消えた、つまり、消滅したんだ」
「うそ!・・・スゴすぎ!」
皆は驚いた顔でで一斉にクロアを見た。
トキオも、クロアがこれ以上はないってぐらいのどや顔をしてるかと思って見たが、意外なことに眉間に皺を寄せて険しい表情をしていた。
「どうしたんだ?そんな顔して。お前らしくないな」
パーシーが言った。
「なによそれ。どんな顔が私らしいのよ」
「え?まあ、それはいつもの・・・」
「まあ、そんなことはいいわ。確かにヒドラは仕留めたけど、なんか自分で怖くなっちゃって」
「は?なにがだ?」
「強力すぎるのよ。ホントに上手に使わないと周りの人を巻き込みそうだわ。今回は標的が大きかったから下から斜め上に向けて放てたけど、いつもそうとは限らないでしょ?・・・それと、これだけの威力だから、あとで自分の体にも何か反動が来るんじゃないかと思って」
「そう。それは、俺も最初に見た時に思ったんだよ。かなり注意して使わないと危険だってね。そして、クロアの体にも相当負担がかかってるんじゃないかって。でも、その時はクロアは平気そうだったんだ」
トキオが言った。
「まあ、確かにこの魔法を使ったあとも体はなんともなかったし、今回も平気だったわ。でも、何度も使ってたらそのうち体に不具合が起きそうな気もするのよね」
クロアは、やはり険しい顔のまま言った。
「そう言えばトキオ、お前はこの魔法を知ってたみたいだったな」
「え?・・・うん、そう。この魔法は、元々、俺が二つの魔法を融合して放てば飛躍的に強力な魔法になるんじゃないかって、クロアにできないか頼んだものだから」
「え?魔法の融合?そんなことができるのか!?」
「フッ、今見たでしょ。これがそうだよ」
「あ、そういうことか。にしても、飛躍的なんてもんじゃないだろ。別次元だ」
「うん、確かにそうだよね。俺もここまでスゴいものになるとは思わなったよ。それを、クロアはたった4日で完成させちゃったからね」
「4日!?マジか!?」
また、皆がクロアを見たが、今度は尊敬のまなざしになっていた。
「イメージができれば、そんなに難しいことじゃなかったわ」
「なんだか、簡単だったみたいに言うな」
「だって、ホントにそうだったもの」
「そんなもんなのか?」
「いや、クロアだから簡単にできたんだと思うよ。実は、俺もクロアに頼む前に何度も試してみたんだけど、どうしてもできなかったからね」
「やっぱりそうか。クロア、お前の実力は本物だな!」
パーシーが少し嬉しそうに言った。自分のパーティーメンバーだというのが誇らしいのだろうとトキオは思った。
「当たり前じゃない。今頃気づいたの?」
そこで、初めてクロアはどや顔になった。
「お、それそれ、その顔。やっとクロアらしくなったな」
「何よそれ。失礼でしょ!」
皆は笑った。
「ちょっと待った。クロア、具合悪そうにしろ」
テリットが、ヒドラの残骸のやや右の方の少し先を見ながら、真顔で言った。
「ん?どうした」
パーシーはテリットの視線の先を見ようとした。
「あ、見るな。上級魔法使いの二人がこっちに来る。きっと、今使った魔法についてしつこく聞かれるぞ」
「ああっ」
クロアは、か細い声を上げるとトキオの腕の中に倒れ込んだ。
「ナイス!」
トキオは、思わず笑いながら言った。
「ちょうどいい、パーシーも肩を貸して森の外へ連れてってくれ。彼らの相手は俺がする」
「わかった」
そうして、パーシーとトキオは、クロアに肩を貸して、彼女を両側から抱えているように見えるようにして森の外へ向かって歩き出した。
しかし、実際には、クロアは自分の足で歩いていた。
「ちょっといいか。そこの魔女と話がしたいんだが」
「あー、今は無理だね。さっきの魔法で力を使い果たして」
そんな声を後方に聞きながら、3人は足早に森の闇に紛れて行った。
森の外に出ると、警備の兵士たちが数名しゃがみ込んでいたが、トキオたちを見つけると立ち上がって声をかけて来た。
「お前たち、終わったのか?魔獣はどうなった?」
「ああ、どっかの魔法使いが片付けたみたいですよ」
パーシーが答えた。
「本当か!?誰がやったんだ?」
「さあ、そこまでは。上級魔法使いじゃないですか?」
「じゃないですか、って、お前、見てないのか?」
「ヒドラの死骸は見ましたけど、倒したところは見てないです。だって、オークと戦ってましたから」
「あ、そうか。そうだったな」
それで話は終わったようだったので、トキオたちは馬車に乗り込んだ。
すると、すぐに、テリットを除いた両方のパーティーメンバーが戻って来た。
「テリットは、少し上級魔法使いの相手をしてから来るから先に戻ってくれって」
アウレラが言った。
「そうか。じゃあ、上級魔法使いがこっちに来る前に行こう」
パーシーがそう言って、馭者に馬車を出すよう指示した。
帰りの馬車の中でクロアは横になっていた。
皆が、今は平気かもしれないが少しでも体を休めた方がいいと言って寝かせたからだった。
「でも、こりゃあヤバいな」
ブロームが難しい顔をして言った。
「え?何が?」
トキオが聞き返した。
「だって、クロアは前のよりはるかに大きいヒドラを一人で仕留めちまったんだぞ。一躍有名人だ。たぶん、王国軍のお偉いさんもやって来て色々と聞かれるだろうな」
「あ、ああ・・・そうか、そうなるだろうね」
「えー?私、そんなの面倒くさくてイヤよ」
「そうだよな。いっそのこと、仮病を使ってしばらく休んだらどうだ?」
「いやいや、それじゃ俺のパーティーが困るよ」
パーシーが慌てて言った。
「2、3日ぐらいならいいだろ?」
「ああ、まあ、それくらいならな」
「その間に、みんなで適当に話を作って説明しとこう。最終的には本人に会わせろと言われると思うけど、聞かれることが少しは減るだろう」
「ありがとう。助かるわ」
「お前は、今回の最大の功労者だからな。これからも、俺たちを助けてくれそうだから、大事にしとかないと」
そう言いながらブロームはクロアに向かって微笑んだ。
「いい心がけだわね。頼んだわよ」
「おー、クロア節が戻って来たな」
パーシーは笑いながらクロアの頭を撫でた。
クロアは、少し嫌そうな顔をした。
「ん?誰か来るな」
ブロームが馭者越しに前方から小さな明かりが近づいてくるのを見て言った。
どうやら、馬車のようだった。
馭者同士が隣り合う位置に来たところで両方の馬車が停止した。
パーシーが前に行って見るとアティムとアルアビスのギルド支部長が馭者の後ろからこちらを見ていた。
「おや、支部長」
「どうしたんだ。もう、帰るのか?」
「ああ、もう片付いたからね」
「そうなのか。意外と早かったな」
「みんなが頑張ってくれたからね。でも、オークや魔人や、しまいにゃヒドラまで出て来て結構大変だったんだよ」
「なに!?それはどういうことだ!詳しく聞かせてくれ!」
「街に戻ったら報告しようと思ってたんだけど・・・そうだ、街に戻りながら報告するからそっちの馬車に乗せてくれるか?」
「ああ、構わんよ。よろしく頼む」
「それと、ほかのヤツらはかなり消耗してるから、このままアティムまで戻らせたいんだが、いいかな?」
「わかった。ケガした者はいないか?」
「大丈夫だ」
「そうか。じゃあ、皆にお疲れさまと伝えてくれ」
「聞こえただろ?俺は支部長たちに報告してから戻るから、先に帰っててくれ。クロアを頼む」
パーシーは、振り向くとトキオたちに向かって言った。
「わかった。報告はよろしく頼む」
ブロームが言った。
「ああ。じゃあ、あとで」
パーシーはそう言うと、支部長たちの馬車に乗り移って行った。
動き出して後ろを見たら、支部長たちの馬車がUターンして後ろからついてくるところだった。
そのまましばらく連なって走っていたが、アテイムに向かう三差路のところで分かれた。
しばらく進むとトキオが言った。
「そう言えばクロア、ファイドとは違う火炎魔法を使ってなかったか?」
「ああ、俺もそう感じたな」
ブロームが言った。
「そうよ。ファイダーっていう、ファイドの上位魔法よ」
「そんなの使えるんだったのか。なんで、今まで使わなかったんだ?」
「使わなかったんじゃなくて、使えなかったのよ」
「え?」
「ファイダーはレベルが10にならないと使えない魔法だからね。前の街にいた時は、討伐の仕事が少なくてちっとも魔法のレベルが上がらなかったんだけど、アティムに来てからは毎日のように魔法を使ってたからレベルが上がったのよ。もしかしたら、複合魔法の練習をしたせいかもしれないわね」
「ああー、そういうことかー」
「レベル15になると、ファイデストっていうさらに上位の火炎魔法が使えるようになるわ。まあ、今までの上がり方から考えると、かなり先になりそうだけどね」
「なるほど。メラに対する、メラミ、メラゾーマみたいなもんか」
「は?なにそれ?」
「あ、あー、これは、うちの村に来た冒険者の人が使ってるって言ってた魔法だよ」
「そんなのあるの?何系?」
「い、いやあ~、名前を聞いただけだから、知らないなあ」
「・・・なんか、また、隠してるでしょ」
「えー?そんなことないよー」
「どうかしらねえ」
トキオは焦ったが、同時に、
(ファイド、ファイダー、ファイデストって、三段活用かよ!)
と、心の中でツッコミを入れていた。
「そんなことより、魔人がこの辺にも出てくるようになったから、色々と対策を考えなきゃいけないんじゃないかな?」
「ああ、そうだな。街までの間に少し意見交換をしよう」
トキオが話を逸らしたらブロームが乗って来たので、それ以上クロアからツッコまれることはなかった。




