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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第7章 決戦編
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第559話 交通事故

「じゃあ、こっちが近道だからこっちから行こうか・・・おっとその前に!」

 トキオは、スアとユアの前で前かがみになって顔を近づけた。

「この世界には魔法がないから使っちゃダメだよ」

「魔法がない?どういうことですの?」

「魔法を使える人が一人もいないってことさ」

「本当ですの!?」

「それで困りませんの!?」

「それを必要としないほど色んな事ができるようになってるってことなんだよ」

「よくわかりませんわ」

「実際に見ないと理解できないだろうね。これから少しずつ実例を見せてあげるよ」

「そうですの?」

「楽しみですわ」

「とにかく魔法を使うと周りにいる人たちが驚くから使わないこと。いいね?」

「わかりましたわ」

「クロアとマキノも忘れてないよね?」

「もちろんよ」

「今思い出しました~」

「おいおい、ホントに頼むよ」

「もう大丈夫です~」

 マキノは、無邪気にほほ笑んだ。


 それから一行は、次の角を左折して少し細い道に入った。細いと言っても大通りに比べるとという話で、歩道があり、車道にはセンターラインもあった。


「ここで向こう側に渡るけど信号が赤だから止まってね」

 しばらく進んでから立ち止まるとトキオが言った。

「緑色になったら渡っていいんですのよね?」

 ユアがトキオの顔を見上げて聞いた。

「そうだよ。でも、それまではここで大人しくしててね」

「はい」


 そのまましばらく待っていたら、歩行者信号が青になったが、その瞬間、ユアが向こう側に向かって駆け出した。

「こら!走っちゃダ・・・」

 トキオがそう言おうとした瞬間、左側から信号機が赤に変わった瞬間に加速して交差点に入った大型トラックが突っ込んできた。

 トキオは反射的に駆け出そうとしたが、間に合わないことを瞬時に悟って足が止まった。

 トラックの運転手の男は、交差点の真ん中を過ぎてから子供が目の前を走って横切ろうとしていることに気付いて慌ててブレーキを力いっぱい踏んだが、その時にはすでにユアとの距離は3メートルを切っていた。

(ダメだ!)

 ハンドルを強く握りしめて思わず目を(つむ)った。


 ユアは、エンジン音で大きな自動車が突っ込んで来るのに気づき、驚いて思わず足を止めた。しかし、ぶつかる寸前、反射的に自分とトラックの間にトラックの前面の大きさとほぼ同じサイズの防壁魔法を展開した。


 ドゴン!


 大きな音とともにトラックは防壁魔法に突っ込み、前面が大きくひしゃげた。車内ではハンドルの中央からエアバッグが飛び出したため、同時にシートベルトが固く締まったものの、運転手は体ごとエアバッグに突っ込んだ。反動で車体の後部が1メートルほど持ち上がってから落ちて来たので、そこでも大きな音がした。急ブレーキに続いた大きな衝撃音で、近くにいた通行人たちが一斉にトラックを見た。


(いけない!トキオさんに魔法は使っちゃダメだって言われてたんだった!)

 ユアは、そのことを思い出してすぐに防壁魔法を解除した。そのため、展開されていた時間は2秒に満たなかった。


 トキオたち4人は、最悪の事態を予想して顔をしかめたが、ユアが防壁魔法を展開して解除したのが見えたのでホッとした。

 次の瞬間、トキオは駆け出していた。

「大丈夫か!」

「大丈夫ですわ」

 ユアは、ニッコリと笑って答えた。トキオは、ユアの体に異常がないことは見てわかったが、精神的なダメージも受けてなさそうで安心した。

「でも、魔法を使ってしまいましたわ。ごめんなさい」

「とりあえずそのことはいいよ。体に異常はないね?」

「ぶつかってないから大丈夫ですわ」

 ユアは再びほほ笑んだ。


 トラックの音に気を取られたのとトラックの陰になっていたためユアのことは見えてなかったようで、通行人はぞろぞろとトラックの方に寄って来た。

 トキオは、運転手が心配になったので、運転席側のドアミラーのステーを掴んでよじ登り、側面の窓から中を覗き込んで声をかけた。

「おい!大丈夫か!?」

「あ、ああ、俺は大丈夫だが、子供をはねちまったよ!」

 エアバッグから顔を上げた運転手は、悲痛な顔をしていた。

「あ、それなら寸前で避けたから大丈夫」

「嘘だろ?だって、スゴい衝撃だったから確実にはねてるぞ!」

「何か別の物にぶつかったみたいだな」

「別の物って・・・道路の真ん中に何があるって言うんだ!」

「だって、ほんとにその子は大丈夫だから」

 トキオが右下を指さしたので体をドアの方に寄せて覗き込んだ運転手は、今はねたと思った子供が無傷でこちらを見上げているのを見て驚いた。

「まさか、そんな・・・」

「あんたも大丈夫そうだから、じゃあ、これで」

 トキオは、そう言うとトラックから飛び降りた。

「お、おい!ちょっと待ってくれ!」

 運転手は車から降りようとしたが、サイドエアバッグまで展開されていたので身動きがとれなかった。

「じゃあ、行くよ!」

 トキオは、運転手や通行人に色々と詮索されるとまずいと思い、4人を急かして道路を渡り切り横道に入った。

 運転手は、じたばたしながら5人が角を曲がって見えなくなるのを見送るしかなかった。



「あービックリした!」

 トラックが見えなくなるとトキオは思わず声を上げた。

「ホントよ!まだこの街のことがよくわかってないんだから急に走ったりしたらダメよ!」

 クロアが少しきつい顔で言った。

「ごめんなさい・・・」

 ユアは、しょげた顔でうつむいた。

「まあでも、これでこの世界には危険がいっぱいあるってわかっただろ?これから気を付けてくれればいいよ」

「わかりましたわ」

 ユアの沈んだ顔を見てスアが肩を組み、ユアの顔を覗き込みながらポンポンと肩を叩いた。

(ホント、仲のいい姉妹だよな)

 トキオはそう思って、少し顔が緩んだ。




「わあ~、たくさんありますわ!」

「これ、すごくステキですわ!」

 色んな洋服と雑貨が売っている店に入ったが、子供服コーナーに行くと見慣れないデザインの洋服がたくさん並んでいるのを見てユアはすぐに明るい顔になった。スアもそれは同じで、店内に飾られている洋服の数々に夢中になり、あれやこれやと手に取ってみたり、お互いの体に合わせてみたりした。それを見たクロアとマキノも二人を手伝ったり意見を言ったりした。

「あのカーテンがある四角い箱の中で試着できるから、欲しいものがあったら試着してみて」

「わかりましたわ」

「あ、これ可愛い!」

 スアが返事をすると同時に、ユアが何かを見つけて声を上げた。それは、ウサギをかたどったリュックサックだった。

「ああ、ウサギのリュックだね」

「ウサギ?」

「ウサギっていうのはその動物の名前だよ。それは、リュックになってるから背中に背負(しょ)えるよ」

「そうですの?・・・ホントですわ!」

 ユアは、さっそくそのリュックサックを背負ってみた。

「それ可愛い!・・・・・でも、私はこっちがいいですわ!」

「それはペンギンだね。そんな見た目だけど一応は鳥なんだよ。飛べないけどね」

「飛べない鳥さんですの?でも、可愛いですわ!」

 スアもすぐにそれを背負った。

「これから移動するのに飲み物や着替えを入れておく必要があるから、買った方がいいんじゃないかな?」

「これ、欲しいですわ・・・でも、お金を持ってきてませんわ」

「そんなに高い物じゃないから俺が払うよ。どのみち、向こうのお金は使えないし」

「お金の種類が違うんですの?」

「そういうこと」

「では、王都に戻ったらお返ししますわ」

「別に構わないよ。キミたちの家でさんざん食事をご馳走になったし、クロアはドレスを貰ったりもしたからね」

「それは、お婆さまやお母さまのされたことですから関係ありませんわ」

「わかった。じゃあ、とりあえず立て替えるってことで」

 トキオは、その場を治めるためそう答えたが、王都にかなりの貯金があったし、こっちでこれから使う金は母親が出してくれたようなものなので貰うつもりはなかった。

「お願いしますわ」

「じゃあ、俺はこれを買って来るから服を選んでて」

「はい!」


 トキオがレジに並んでいると、二人の店員が興味深そうにスアとユアに寄って行くのが見えた。

(まあ、あの見た目だから興味をそそられるよな)

 レジには数人が並んでいたのでそのまま見ていると、別の店員がクロアとマキノを連れて別の方向へ移動を始めた。その先を見ると、そこには婦人服売り場があった。

(あいつらも女の子だから自分たちの服も見てみたいだろうな。まあ、服を見るだけなら大丈夫か)

 トキオがそう思ったところで自分の番が来たのでクレジットカードで支払いを済ませた。


「あ、みんなが着替えたら脱いだ服を入れるバッグが必要だぞ」

 そう思ってキョロキョロと見回すと、少し離れた通路の反対側の店で旅行用の大型のスーツケースが売られているのが目に入った。

「お!あれなら転がして行けるから楽だな」

 トキオは、一旦、スアとユアのところに戻った。

「俺はちょっと他の買い物をして来るからここで服を見ててね」

「わかりましたわ」

「この子たちの洋服をみてあげてもらえますか?」

 トキオは、二人の店員に言った。

「もちろんです」

「あまりにも可愛らしくて、何を着せても似合いそうだから、こちらがワクワクしますわ」

「そう?ありがとう。ああ、あと、二人の3日分の下着と靴下もお願いします」

「わかりました」



 スーツケースのほかに、歯ブラシ、タオル、ハンカチ、飲み物用のカップなどを買っていたら結構な時間がかかったが、スーツケースをゴロゴロと引きながら戻ったらスアとユアはまだ服を選んでいた。ただ、店員がカゴを持ち、その中に下着と靴下は入っていたので、先にそっちを選んだようだった。

「あ、トキオさん!」

「どれも可愛くて、決められませんわ!」

 よく見ると、二人とも3着ずつ服を抱えていた。

「おやおや・・・でも、どうせ2、3日こっちにいるんだから全部買ったらいいよ」

「本当ですの!」

「じゃあ、全部お願いしますわ!」

 スアとユアは、抱えていた服を店員に渡そうとした。

「あ、そのうち一着にここで着替えてくれる?今着てる服は目立ってしょうがないから」

「わかりましたわ」

 二人は店員と一緒に試着室の方へ行った。

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