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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第7章 決戦編
557/562

第557話 再会

「はい、これを一つずつ首から下げてね」

「なんですのこれ?」

「このビルの中に入っていいっていう許可証のようなもんだよ。

「そうなんですのね?」

「了解です~」

「わかったわ」


 入館証をかけ終わって歩き出すと、すれ違う社員全員が驚いたり不思議そうな顔をしたりしてじっと4人を見て行った。しかし、4人は上を見上げたりしていたため、またしても見られていることに気づかなかった。


 エレベータに乗り込むと奥がガラス張りになっていた。

(え?これって・・・)

「あれ?これガラスですわ?」

「確かにそうね。トキオのおうちのと違うんだ」

「こういうのもあるんだよ。そのガラスの方を見ててごらん」

 トキオは、そう言うと「閉」ボタンを押した。

 ドアが閉まってエレベーターが上昇を始めると、すぐに外の景色が見えて来た。

「あ!外が見える!」

「スゴいです~!」

「どんどん上って行きますわ!」

「自動車が小さくなっていきますわ!」

 4人は興奮してキャアキャア言いながらずっと外を見ていた。


 42階に着くとチーン!という音ともにエレベーターのドアが開いた。

「さあ、降りるよ」

「ええ?もう?」

 4人はこっちを見て不満そうな顔をした。

「帰りも乗れるでしょ!」

「あ、そうね」

 それでやっと納得して降りて来た。


「ここか」

 4003号室と「黒木翔子」という名前を確認するとドアをノックした。

「どうぞ」

 聞きなれた声が聞こえて来たので、トキオはドアを開けて中に入った。

「トキオ!元気そうで良かったわ!」

 すると、50代と思われる女性が駆けて来てトキオを抱きしめようとしたが、すぐ後ろから女の子が4人入って来るのを見て両手を取るにとどめた。

 部屋の中にはデスクが一つと応接セットがあった。

「どこか体に異常はないの?病気はしてない?」

「いたって元気だよ」

「この2年間、つらい目にあってたんじゃないの?」

「全然そんなことはなかったよ。色々なところに遠征して危ない目にもあったけど、全部楽しかったな」

「危ない目?怪我はしなかったの?」

「うーんと、ほとんどしてないかな?」

「そう・・・とにかく無事で良かったわ」

「心配かけてごめんなさい」

「ホントにそうよ!・・・ところで、後ろにいる子たちがあんたの言ってた連れの人なの?」

「そうだよ」

「この子たちを異国から連れて来たの?どういうこと?小学生までいるじゃない。今日は火曜日よ。学校は?」

「この子たちは学校には行ってないんだよ。何人かの家庭教師に教えてもらってる」

「この子たちの国ではそういう制度なの?」

「そういうのも許される場合があるってことさ。この子たちは侯爵令嬢だからね」

「えっ?貴族のお子さんってこと?」

「そういうこと」

 そこで、スアとユアがトキオの右に出て来てトキオの母親の方を向いた。

「オスヴァルト侯爵が長女スア・オスヴァルトです」

「同じく次女ユア・オスヴァルトです」

 二人はカーテシーの姿勢を取りながら言った。

「あらあら、これはご丁寧にどうも。私はトキオの母親の翔子です」

 翔子は、慌ててお辞儀をしながら言った。

「うしろのお二人もそうなの?」

「この子たちはただの冒険者」

「冒険者?」

「あ、すみません。私はトキオの同僚のクロアと言います」

「同じくマキノです~」

 クロアとマキノは、トキオの左側に出てくると翔子向かってお辞儀をした。

「ああ、どうも。母親の翔子です」

 翔子も慌ててお辞儀を返した。


「それで、冒険者ってどういうこと?実際には何をやってたの?」

「普通に冒険者の仕事をしてただけだよ。商人の護衛をしたり、薬草を採取したり、魔物を討伐したりのね」

「魔物を討伐?ハンターをやってて猛獣を狩ってたってこと?」

「違うよ。本当の意味での魔物。ゴブリンとかオークとかね」

「ええっ?あんた何を言ってるの?」

「だから異世界に行ってたって言ってるでしょ。魔法も覚えたんだよ、ほら」

 トキオは、右手の人差し指を立ててその先に小さな火を灯した。

「えっ!・・・手品師になったってこと?」

「手品じゃないよ。本物の魔法。これでどう?」

 火を消すと、今度は同じ指先に光の球体を浮かべた。

「なかなかの腕前ね」

「だから違うって!・・・そうだなあ・・・コップある?」

「あるわよ」

 翔子は壁際のキャビネットまで行き、小さな食器棚から広くて浅いグラスを一つ取ると戻って来てトキオに渡した。

「じゃあ行くよ。ほら、腕には何もないでしょ?」

 トキオは、グラスを持った右腕の袖を肘のところまでめくると、肘から先の表と裏を見せた。

 それから、グラスを左手に持ち替えると、右手の人差し指をコップの上にかざして、その先端から水を出し、グラスを半分ほど満たした。

「どう?」

「すごいわね。タネが全然わからないわ」

「もう・・・スア、ちょっと手伝ってくれる?」

「いいですわ」

「これを凍らせてくれる?」

 トキオは、グラスを応接セットのテーブルの上に置いて言った。

「わかりましたわ」

 スアは、右手を開いてグラスの上にかざしてからフッ!と右手に力を込めた。


 ビシビシビシ!


 途端に、クラスに注がれた水がグラスごと凍った。

「まさか!」

 翔子は、慌ててテーブルに駆け寄ると、手でグラスを触った。

「冷たい。本当に凍ってるわ」

「でしょ?」

「こんな小さな子がこんなことを。スゴいわ」

「あ、まだ信じてない感じ・・・ん?その左手の指の絆創膏どうしたの?」

「これ?昨日、包丁で切っちゃったのよ」

「あ、それ、ちょうどいいな」

「人が怪我してるのに何がいいのよ」

「ちょっと見せて?」

「なに?」

 トキオは、翔子の左手首を掴むと人差し指の先っぽに貼られていた絆創膏をはがした。そこには、少し血が(にじ)んだ跡のある切り傷があった。

「何するのよ!」

「ああ、確かに切れてるね。マキノ、治癒魔法をお願い」

「わかりました~」

「治癒魔法?」

「ちょっとよろしいですか~?」

 マキノは翔子の左手を取ると、人差し指の先を自分の右手の人差し指と親指でつまみ、10秒ほど目を瞑った。

「はい、大丈夫です~」

 マキノが手を離すと、切り傷は消えていた。

「えっ?傷が消えた?」

 翔子は、驚いて自分の指を撫でたり爪側から見たりした。

「これが治癒魔法だよ。これで本物の魔法だって理解したでしょ?」

「本当なの?本当に異世界に行って来たの?」

 翔子は混乱しているようだった。

 そこでクロアが後ろからトキオの上着を引っ張った。

「あんたの世界には魔法がないって言ってたわよね。手品じゃないってことをわからせればいいんでしょ?」

「ああ」

「じゃあ、これでいいんじゃない?」

 クロアは、開いた右手を前に出すと「ハッ!」気合を込めて、横3メートルで高さは天井ギリギリの光の防壁を展開した。

「そうか!・・・母さん、本物の壁だから触ってみて」

「ええっ?」

 翔子は、おっかなびっくり近づくと、ゆっくりと手を出して防壁に触れた。それから拳でコンコンと叩いた。

「固い!本物だわ・・・」

「やっと信じてくれた?」

「・・・これは信じるしかないわね。こんなことトキオもできるの?」

「できるよ。ほら」

 トキオは、自分の前に防壁魔法で5段の階段を作り、そこを上まで登ってみせた。

「驚いたわね・・・全員が魔法を使えるのね」

「ここにいる子たちはね。使えない人もいるよ」

「そうなの?・・・それにしても、みんな日本語が上手ね。トキオが教えたの?」

「えっ?」

(そういえば、さっきのタクシーの運ちゃんもこの子たちの会話を理解してたみたいだったな。異世界に来ると、勝手にその国の言葉になるのか)

「たぶん、本人たちは自分の国の言葉をしゃべってるつもりだと思う。勝手に言葉が変換されてるっぽい」

「ええっ?それも魔法?」

「どうなんだろう?よくわからないな」

「魔法よ。魔法陣を通ったことで言語変換が自動で行われるって転移の書に書いてあったでしょ?」

 クロアが言った。すでに防壁魔法は解除していた。

「そうなんだ」

 トキオも階段を下りてくると解除した。

「あんた、もしかして読んでないの?」

「あんな厚い本、全部は読めないよ。転移魔法のところは読んだけどな」

「あきれた」

 クロアは、そう言いながらもしきりにチラチラと外壁側を見ている。

 トキオは振り返って初めて、外壁が全面ガラス張りになっていて外が良く見えることに気付いた。他の3人もそちらの方を気にしている様子にだった。

(ああ、外の景色がみたいのに母さんの手前、そっち行きづらいんだな?)

「外が見たかったら見て来ていいよ。俺は母さんと話があるから」

「ホント?」

 4人とも嬉しそうな顔になって窓の方へ駆けて行った。そしてすぐに外の様子を見下ろしながら騒ぎ始めた。


「マンションを掃除してくれたのは母さん?もしかして、家賃も払ってくれてた?」

「あんたが戻って来た時に住むところがないと困るでしょ?だから、あんたの口座に300万円入れといたわよ。送金する時、銀行の人にオレオレ詐欺じゃないかってしつこく聞かれて面倒だったのよ!部屋の掃除は、週に1回来てくれるよう清掃業者に頼んでるあるわ」

「やっぱりそうか。ありがとう」

「2年の間、一度も帰って来なかったの?」

「うん。母さんのことは気になってたけど、やることが色々とあったからね」

「そう。もう、ずっとこっちにいるの?」

「いや、数日で向こうに戻るよ。まだまだ、やることがいっぱいあるんだよ」

「えっ?そうなの?・・・たまには帰って来るんでしょうね?」

「ああ、そのつもりだよ。母さんが一人なのは気になるからね」

「そう・・・まあ、もうすぐ一人じゃなくなるけどね」

「えっ?」

「取引先の人で趣味が合って気遣いもしないでいられる人がいてね。今度、結婚するのよ」

「ホント!?おめでとう!」

「あら、喜んでくれるの?」

「もちろんだよ。いい人が見つかって良かったね」

「ホントにそうね。あんたにも会わせたいけど、今は海外出張中だから今回は無理ね」

「そうか、残念。まあ、それは次回にとっておくよ」

「そうね。その間、危ないことはしないでね」

「ああ、もうそんなに危なくなることはしないよ」

「約束よ」

 そこで翔子は、トキオの両手を取って顔を見つめた。その目には涙が滲んでいた。


 そんなことには全然気づかず、窓際では4人の女子が色んな所を指さしながらキャアキャアと騒いでいた。

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