第54話 納会
「よし、これで最後っぽいな。今日の討伐はこれにて終了」
テリットが言った。
「お疲れさま」
「お疲れ~」
「今日は数が多かったからちょっと疲れたね」
「よっしゃあ、じゃあ、とっとと帰って腕相撲とダーツ大会だー!」
「おー!」
トキオたちが、終息日に今年最後の討伐を終えてギルドに戻ると、ギルド職員と手の空いた冒険者が、今日の大会と、納会の準備をしていた。
すぐにトキオたちも手伝いに入ったが、みな楽しそうに準備をしていた。
まず、納会が行われ、冒頭、ケリー支部長から挨拶があった。
「今年も1年間ご苦労様でした。
今年は、トキオがもたらしてくれた色々な情報で皆の装備が良くなり、スキルも上がって、昨年までと比べると飛躍的に魔物の討伐が進んだ画期的な年になった。
また、ドロップアイテムによって皆の収入も増え、生活に余裕ができたことも嬉しいことだった。これについては、かねてから、危険度のわりに討伐報酬が低いことをギルドとしても申し訳なく思っていたわけだが、それが解消されたことで皆のやる気も向上したのがさらに討伐数の上昇に寄与したと思う。
しかしながら、皆も知っての通り、徐々に手強い魔物がこの街の近郊にも出没するようになってきているので、魔物との戦いはこれから逆に厳しくなっていくと予想される。
年が明けても、今までと変わることなく、住民の生命を守ることを念頭に置いて、さらに魔物の討伐に励んで欲しい。
最後に・・・みんな、本当にありがとう!キミたちの活躍によって多くの住民の生命が守られた。
それと、トキオ。色々な情報をありがとう。今年は、間違いなくキミが最高の功労者だ。ここに、金一封を贈らせてもらう。トキオ、前に出て来てくれ」
トキオが、支部長の前に出ると、皆から一斉に盛大な拍手が起こった。
ケリー支部長は、ミレリアから結構な大きさに膨らんだ硬貨が入っていると思われる袋を受け取り、
「ありがとう。これからもよろしく頼む」
と言ってトキオに手渡した。
トキオがお辞儀をしながらそれを受け取ると、また、大きな拍手が起こった。
「なんか挨拶ないのかー!」
「そうだそうだー!」
誰かから声が飛んだ。
「えー!?・・・・・ありがとうございました!」
トキオはそう言って皆に向かってお辞儀した。
「それだけかよー!」
「ありがとうはこっちのセリフだー!」
「そうだそうだー!」
「うーん、じゃあもう少し。
俺自身は知ってることをみんなに教えただけなので、そんなに大したことをしたとは思ってない。
むしろ、いきなり他の村からやって来た他所者の俺をすんなり受け入れてくれて、さらには、親しく付き合ってくれて本当に感謝している。
俺は、柔道や銃の撃ち方なんかを教えたりしたけど、それを自分のものにするのはみんなの努力次第なので、これからも訓練を欠かさず、さらに技量を磨いて行って欲しい。
まあ、先日の柔道大会で見た限りでは、その点は大丈夫そうなので、実はあんまり心配はしてないけど。
支部長が言ったように、俺も、来年はさらに厳しい戦いになるって気がするから、これからもみんなで協力して魔物を倒していこう!
本当に、ありがとうございました」
最後にトキオがお辞儀をすると、今日一番の盛大な拍手が起こった。
「こっちこそありがとなー!」
「来年も頼りにしてるぞー!」
そうやって、いくつもの感謝の言葉や声援が飛んだが、冒険者の中には、トキオの挨拶で涙ぐんでる者もいた。
それから、飲み会になったが、懐に余裕の出来た冒険者たちからたくさんの持ち込みがあったため、高い酒と豪勢な食べ物が並んで、皆、嬉しそうにそれらを飲み食いしていた。
「トキオは、東の国境近くの村から来たんだよな」
トキオは、支部長に話しかけられていた。
「うん、そう」
「この街は国の中心より少し東にあるが、南の国境に近いし、東の国境からだとかなり距離がある。来る途中にいくつも街があったと思うが、なぜこの街までやって来たんだ?」
「それは、東の方は魔物が少なくて、大して仕事もないだろうと思ったのと、お金を稼ぐために1カ月ほど移動しながら魔物を討伐してたからだよ。この街のそばに来たら、かなり魔物が出るようになって来たので、この街に決めたんだ」
トキオは、いつかこの質問を受けるだろうと思っていたので、実は答えを用意していた。
「ああ、なるほど、そういうことか。確かに、キミがやって来た頃は、ここより東には魔物が少なかったから、そういう街で冒険者になっても生計を立てるのが難しかったかもな」
「そう、そういうこと」
「なんか怪しいわね」
後ろで声がしたので振り向く、それはクロアだった。
「うん?それはどういうことだ?」
支部長がクロアに聞いた。
「この男、絶対なんか隠してるわよ。時々話に詰まるし、挙動不審になることあるし」
「きょ、挙動不審って。そんなことないだろ」
「いや、あるわね。ありありよ」
「そんなものなのか?私は感じなかったが」
「そうよ!変な言いがかりはやめなさいよ!」
アウレラがやって来て言った。
「あら。別に同じパーティーの仲間だからってかばわなくていいのよ」
「別にかばってるわけじゃないわよ!」
「じゃあ聞くけど、トキオの村にだけ柔道やステータス画面や拳銃があるって変だと思わなかった?」
「そ、それは・・・」
「ほら、そうでしょ?だから、絶対何か隠しているのよ」
「もういいだろ。誰にだって秘密の一つや二つはあるもんだ。トキオにだって言いたくないことはあるだろう。それより、トキオはこんなにも色々なことで魔物討伐に貢献してくれたんだ。そっちの方が大事だろう?」
「そうよ、そうよ」
「ふん。まあいいわ。そのうちわかるでしょうからね。その時を楽しみにしとくわ」
クロアはそう言って離れて行った。
「なによあいつ!いけ好かない!」
アウレラはかなり怒ってるようだった。
「まあ、性格には少し問題があるが、実力は本物だ。彼女によって討伐できた魔物も多いしな。むしろ、もっと早く来て欲しかったぐらいだ」
「あ、実力が本物なのは俺も認める。しかも、かなり天性のものがあって、俺は天才なんじゃないかと思ってるぐらいだからね」
「え?あんなこと言われてなんでかばうの?」
「まあ、性格に問題があることも認めるけど、それによって彼女の評価を下げたりするのは違うと思うからね。戦力としては貴重だよ」
「そうだ、その通りだ」
「ふん!わかったわ!」
そう言うと、不機嫌そうにアウレラは行ってしまった。
「クロアの性格については、若さのせいってのもあるんだろうな。あまり気にするな」
「大丈夫、俺は全然気にしてないから。ところで、クロアっていくつなの?」
「経歴書によると25歳だそうだ」
「えー!?俺と一つしか違わないんだ!そうは見えないけどね」
「うーん、実は私もそう思っているんだが、こればっかりは確かめようがないからな」
(確かに、この世界には戸籍や住民票なんてものはないみたいだからな)
「ところで、クロアってどこの街から来たの?」
「東の方にあるアビットって街だ。数か月前にそこに現れてしばらくそこで活動していたみたいだが、さっきキミが言ったように魔物が少なくて仕事もあまりないから、募集を見て移動して来たらしい」
「そうなんだ・・・でも、その前はどこにいたのかな?師匠がいたみたいだから、どこかで魔法を教わっていたらしいんだけど」
「その点はアビットのギルドでもわからないらしい。実力は本物だから、特に詳しく聞いたりもしなかったってことだ」
「ふうん・・・・・じゃあ、隠し事があるのはあいつの方じゃない?」
「確かにそうだな」
そう言って二人は笑った。
「トキオさん、そろそろ時間なので腕相撲大会始めますよ」
ミレリアがやって来て言った。
「あ、そうだね。やろうやろう」
トキオはそう答えて、二人で大会会場として設営してある卓のそばにある横長のテーブルの席に移動して着席した。
ミレリア「それでは、これより第1回アティムギルド腕相撲大会を開催いたします。解説は、おなじみのトキオ師範、実況はミレリア主席検査官がお送りいたします。トキオ師範、よろしくお願いします」
トキオ 「よろしくお願いします・・・って、腕相撲は師範でも何でもないんだけど」
ミレリア「あら?皆さんに教えてくれた方ですから、立派に師範だと思いますよ」
「そうだそうだー」
誰かが言った。
トキオ 「でも、俺は腕相撲が強い訳じゃないから」
ミレリア「そこは気になさらずに」
トキオ 「まあ、いいけど」
ミレリア「なお、コメンテーターとしてクロア魔女子にお越しいただいております」
トキオ 「え?」
トキオが右隣を見ると、いつの間にかクロアが座っていた。
トキオ 「おわっ!」
クロア 「なによ!いちゃいけないの?」
トキオ 「いや、別にいいよ。どうせ、風景の一部だろうけど」
クロア 「なによそれ!どういう意味?」
ミレリア「クロア魔女子、よろしくお願いします」
クロア 「あ、よろしくお願いします」
それでクロアは黙った。
ミレリア「今回は8チームがエントリーしております」
トキオ 「はい。腕力に自信のないチームはエントリーを控えましたので7チームが出場の申し込みをしたようですが、それではトーナメントが組みづらいので、エドチームにはこちらから依頼して参加していただきました。なので、彼らは・・・・まあ、見ていればわかると思います」
エド 「そっちから頼んどいて、ひどっ!」
ミレリア「それでは、最初の対戦者です。テリットチームのブローム選手とマルケルチームのフォス選手です。お二人は、競技卓にお願いします」
その言葉で、ブロームとフォスが競技卓を挟んで向かい合うように立った。
競技卓は、4本足の背の高いテーブルで、立って競技ができるようになっていた。
ミレリア「なお、審判は、力には自信がなくて腕相撲大会には参加できないハイケル魔術師が努めます」
ハイケル「そんなことは言わなくよろしい!」
ミレリア「・・・失礼しました。ところでトキオ師範、腕相撲の見どころはどのあたりでしょう」
トキオ 「そうですね。単純に力が強ければ勝てるというわけでもなく、タイミングや力の入れ方も重要になります。また、両者の力が拮抗しいる場合は、より持久力のある方が有利になりますね」
ミレリア「なるほど。では、そこに着目して見てまいりましょう」
ハイケル「それでは二人とも前に出て構えて」
その言葉で、ブロームとフォスは卓に取り付くと、右ひじを乗せてお互いの手をガッチリ握り、左手で卓の端を掴んだ。
ミレリア「いよいよ始まります!・・・と、思いましたが、紙面の都合で本日はここまで」
トキオ 「ええ~!?」
・・・次回へ続く。




