第53話 暮れの催しもの
その日の朝、ミヒール司祭は王都へと戻る馬車の中にいた。
(ああ、2つの街を周ったのに、今回も召喚者様にはお会いできなかった。
しかし、聖光祭の日から1週間も寝込んでしまうとは、召喚者様を一刻も早く探し出さねばならないと言う時に何たる失態!さらには、司祭様のお見舞いまでいただくとは。まったく面目次第もない。
本当にこれからは自分の体調も考えた行動をとらねば、逆に時間がかかってしまうな。
それにしても、いつになったらお会いできるのだろう。召喚者様が、今現在、どうやって生計を立てているのかもわからないではないか。住む家もなく、日々の食べ物にさえ困っているかもしれないと考えるといたたまれない気持ちになる。
新年の式典が終わったら、一刻も早く召喚者様を探し出すため、すぐに出立せねば)
そう考えていると、右前方に街が見えて来た。
(おや?来るときはこんな街は見かけなかったと思うが・・・)
「あれはなんという街ですか?」
ミヒール司祭は馭者に聞いた。
「アルアビスの街ですね。小さいが、いい街ですよ。本来ならこの道は通らないんですが、ここから西の方にトロールが出たという情報がありまして、少し東側に迂回させてもらってます」
「トロール!そんなものがこの辺りまで出てくるようになったんですか」
「はい、段々とヤバい魔物が増えて来てます。冒険者が頑張ってるんで、動物型の魔物は減ってるんですがね」
「そうですか・・・」
(動物型の魔物が減ってるというのは、召喚者様の偉業のおかげなのだろう。しかし、西部にしかいなかった危険な魔物がこんなところまで出てくるようになるとは!やはり、一刻も早く召喚者様を探し出して、十分な衣食住と環境でお力を貸していただかねば!)
ミヒール司祭は、焦燥が募るばかりであった。
同時刻、アティムのギルド。
「じゃじゃーん!どうだこれ?」
ブロームは、自慢げな顔で新しい弓を皆の目の前に突き出した。
「おお!もしかしてこれは、巨匠レーベンハルトの弓か!?相当高かったろう?」
「ええー!?超高級品でしょ?。いくらしたの?」
「銀貨150枚だ」
「マジか!思い切ったなあ」
「今まで使ってた弓が相当にくたびれて来ていたのもあるが、拳銃で近距離はこなせるようになったから、もっと遠くを正確に狙える弓が欲しくなってな」
「やっぱり違うか?」
「ああ、全然違うな。強いけど柔軟性がすごく高い。それでいて、今までの弓より軽いんだ。正確に当てられる距離が倍近くになったよ」
「そうかあ。やっぱり巨匠と言われるだけはあるんだな」
「ああ。俺も、正直ここまで違うとは思ってなかったんだが、弓を新しくしようとフーゴの店に行って、これが出てたから手に取ったらすごくしっくり来てな。思わず買っちゃったんだよ」
「でも、よく奥さんが文句言わなかったな」
「へへへ、実は大分前から弓を買い替えるつもりで金貨を1枚へそくりしといたのさ。うちの嫁さんは弓の価値なんかわからないから、値段は銀貨10枚だと言ってある。おっと、これは嫁さんには内緒だぞ」
「ということは、あたしたち今、ブロームの弱みを握った感じ?」
「ええー!?勘弁してくれよー」
「ふふふ、言わないから大丈夫よ。でも、なにか困ったことがあったらブロームにお願いしちゃうかもね~」
「ううう、しまったなあ」
そこで、ブローム以外の3人は笑った。
「しかし、この1週間でグリベラー10体だからな。確かに、今はこんな高価なものでも即決で買えるぐらいの余裕があるよな。ホントに拳銃の威力はスゴいな」
「その前に討伐した分も入れると10年分の生活費ぐらいの金を稼いだからな」
「なんか、急に金持ちになっちゃったよね~」
「お金は入ったけど、俺、金使うところがないからなあ。服と防具をちょっと買ったぐらいだよ」
苦笑しながらそうトキオは言った。
「まあ、一人暮らしじゃそうかもな」
「自分専用の馬車でも手に入れたらどうだ?」
「あ、それいいかも~」
ブロームの提案にアウレラが賛同した。
「馬の世話が大変そうだからいいよ」
(この世界にスーパーカーとかあったら買って乗り回したいとこだけどね)
「あら、残念。討伐に行くときはあたしたちも乗せてもらおうと思ったのに」
「お前、ちゃっかりしてるな」
テリットの言葉で皆は笑った。
「ああ、家を買ったらどうだよ。小さい家なら十分買えるだろ?」
「うーん、それは少し考えたんだけど、掃除や庭の雑草取りとかが面倒臭そうだからやめたよ。料理も得意じゃないし」
「そう言えば、お前って自炊はしてないのか?」
「どこかで食べて帰るか、おかずとパンを買ってきて食べることが多いね」
「そりゃあ、あんまり体に良くないなあ。アウレラ、たまには手料理でも作ってやったらどうだ?」
「やだよ、めんどくさい」
「ええー?即答?・・・それはそれでショック」
トキオは、別にそんなことを期待していたわけではなかったが、そう言われるとかなりガッカリした気分になった。
「あたしも料理はあんまり好きじゃないのよ。叔母さんに仕込まれたから、ある程度はできるけどね」
「確かに、アウレラが料理してる姿は想像しづらいな」
「えー!それ、ちょっとひどくない?」
トキオとブロームは笑った。
「さて、明後日は終息日で今年も終わりだな」
「終息日?」
「あれ?トキオの村では終息日って言わないのか?」
「聞いたことないけど、1年の最後の日のこと?」
「そうだ。そして、新年の最初の日が元日だ」
「あ、元日は同じだ」
「そうか」
「年越し、つまり、年が変わる時って何かイベントがあるの?」
「いや、特にないな。皆で年が変わる時間まで飲んでるだけだ」
「ぷっ!さすがだね」
「でも、俺、考えたんだけど、今年はトキオから腕相撲とダーツを教わったから、柔道大会みたいにそれの大会をやるってのはどうだろう?もちろん、飲みながらな」
テリットが言った。
「あ、いいわね、それ!」
「面白そうだね」
「おお、いいんじゃないか」
「どういうルールでやるか考えた?」
「おう、一応考えたぞ。始める時間は仕事が終わってからだから夕方になるだろ」
「そうだね」
「だから、パーティー対抗戦にして、各パーティーから一人ずつ代表者を出してトーナメントでやるんだよ」
「そうか、それなら時間もかからないか」
「うちのギルドに所属してるパーティーは、今、12だから、全部が参加したとしても年が変わる前に終わるだろ」
「そうね」
「大丈夫だろ」
「それで、うちから誰を代表にするかだが、腕相撲は一番力のあるブロームで決まりだな」
「おう!任せろ!」
「ダーツは、昔よくやってたって言ってたトキオが頼む」
「了解!実は、俺も家にダーツあるんだよね。それで練習しとくよ」
「お、さすがだな」
「じゃあ、あたしはしっかり応援するから、二人とも頑張ってね」
「おう!」
「頑張るよ」
「やるなら居酒屋より広いここがいいだろう。じゃあ、あとでミレリアに告知の掲示を含めて頼んどくよ」
「よろしく~」
トキオは、ダーツ大会と聞いてワクワクするものがあった。
大学時代は、しょっちゅうダーツバーに入り浸ってなじみの客と勝負に明け暮れていたから、久々に人と競い合うのが本当に楽しみだった。
仕事に出かける直前にテリットはミレリアに依頼に行った。
すると、ミレリアの、
「それ、いいですね!ダーツは私も参加したいです!」
という声が聞こえて来た。
(ふーん、ミレリアもダーツは気に入ってくれてるんだ)
と、トキオは思ったが、かつて、ここでミレリアとエレザベスによる熱い戦いが繰り広げられたことは知らなかった。
・・・というか、ケリー支部長以外は誰も知らなかった。
仕事から戻ってくると、さっそく大会の告知が掲示板に貼ってあった。
*** ギルドからのお知らせ ***
明後日の終息日に、当冒険者ギルドにて腕相撲大会と
ダーツ大会を行います。
参加を希望するパーティーは、腕相撲、ダーツそれぞれに
代表者を1名選出して、ギルド職員までお申し込みください。
優勝者には豪華賞品が支給されます。
以上です。
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飲食コナーに行くと、さっそくその話題でいくつかのパーティーが盛り上がっていた。
「ダーツはお前で決まりだな。腕相撲は俺でいいか?」
「ああ、そうだな」
「二人とも頼むぞ」
そんな会話が聞こえたかと思うと、
「よっしゃ!腕相撲は俺が行くぞ!」
「何言ってんだ!お前じゃ負けちまうだろうが!」
「ふざけんな!じゃあ、今ここで勝負だ!」
と言って、その場で腕相撲を始める者もいた。
「私もせっかくこの街に来たんだからダーツぐらいやらせなさいよ!」
というクロアの声も聞こえてきた。
そっちを見ると、
「えー?お前、絶対運動得意じゃないだろ」
と、パーシーが反対していた。
「そ、そんなことないわよ!ダーツだって何回もやってるんだから!」
と、クロアは反論していた。
「まあ、いいんじゃないか。女性は一人でも多く参加した方が盛り上がると思うぞ」
同じパーティーのマクエロイがそう言ってなだめていた。
(パーシーも大変だな。まあ、あいつを参加させないとあとあと面倒くさいことになると思うけど)
そう言って、トキオは一人で苦笑した。
「ふむ、みんな乗り気だな。こりゃ、盛り上がりそうだ」
テリットが満足そうな顔で言った。
「そうだね。俺も頑張らなくちゃ。じゃあ、今日はとっとと帰って家で練習するよ!」
トキオはそう言うと、皆と別れてアパートへと帰って行った。




