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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第1章 アティム編
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第52話 ライフル銃の効果

「お父さん!ボアドンが!」


 上の娘のひっ迫した声を聞いたマノックが、急いで窓に行って外を見ると、3体のボアドンが家畜小屋の扉を角で壊そうとしているところだった。


「リリー、奥へ行ってろ」


 マノックは娘にそう小声で言うと、壁に掛けてあったライフル銃をとった。


「落ち着け。訓練の時はこの距離なら当てられたはずだ」


 マノックはそう自分に言い聞かせると、じっくりと一番手前のボアドンに狙いをつけた。


 そして、一瞬動きが止まった瞬間を見逃さずに引き金を引いた。


 ドォン!


 大きな発射音とともに、弾はボアドンの右前脚の付け根付近に命中した。


 その瞬間、他の2体は一目散に森の方へと逃走して行った。


 弾が当たったボアドンは、しばらくよろよろとしていたが、やがて地面に横倒しになると、そのまま動かなくなった。


「やった!」


 そのマノックの声で、妻と娘二人が奥から出て来た。


「ボアドンを倒したの?」

「そうだ!やったぞ!」


 娘二人は、窓から外を見てボアドンが倒れているのを確認した。


「お父さん、やったよ!ボアドン、動かなくなってるよ!」

「ああ、ああ、そうだ。これでもう、魔物に怯えなくてすむ!」


 マノックがそう言うと、4人は涙を流して抱き合った。




 その数時間後、アティムの冒険者ギルドでは、ケリー支部長が皆を集めてそのことを報告していた。


「今朝、西の郊外にあるマノックの農場にボアドンが3体現れ、家畜小屋の扉を壊して侵入しようとしたが、マノックがライフル銃でその1体を仕留めると、残りの2体は森へ逃げて行ったそうだ」


 聞いていた冒険者全体から「おお~」という感嘆の声が上がった。


「これは、一般市民が無傷で魔物を撃退した最初の例になった。ライフル銃の有効性が証明されたということだ」


 再び冒険者全体から感嘆の声が上がった。


「先ほど、王国軍の師団長にこのことを報告してきたが、師団長も大層感心して、王国軍からの補助と、王都に掛け合ってライフル銃を大量生産することを約束してくれた。ライフル銃が広く市民に行き渡れば、魔物の被害も劇的に減るだろうし、キミ達の負担も減るだろう。やっと、この世から魔物を一掃するための目途がついたと思う」


「やったな!」

「ついに魔物がいない世界が来るのか」

「長かったな」


「トキオ、お前には感謝してもしきれない。本当にありがとう」

 支部長はそう言うと、トキオに向かって深々と頭を下げた。


「や、やめてよ!俺は知ってることを教えただけなんだから」

「いや、その『教えた』ということが大事なんだよ。他にもいろいろあったが、ほとんどが魔物討伐の役に立っているからな」


「そうだそうだ」

「もっと胸を張れ!」


「あまり偉そうにされると困るけどな」

 パーシーのその言葉で皆は笑った。


「じゃあ、パーシーにだけ偉そうな態度でいることにするよ」

「なんだよそりゃ」

 パーシーの以外の全員が再び笑った。



「ライフル銃は量産化に進むが、拳銃は隠し持つことが容易で犯罪に使われやすいから限定生産するということでも師団長と意見が一致した。一応、許可制にはしているが、キミたちも、冒険者や兵士以外で拳銃を持っている者を見かけたらその場で対処するか報告してくれ」


「わかった」

「了解よ」



「しかし、どうも他の2体のボアドンが逃げたのは仲間が銃でやられたせいじゃないみたいなんだよな」

「というと?」

 支部長の言葉にテリットが聞いた。


「死んだ個体は、弾が当たってからもしばらく動いていたとのことだし、何よりも反応が早すぎる」

「・・・音か!」

「どうもそうらしい。ライフル銃の発射音はとてつもなく大きいので、それに驚いて逃げたようだ」

「なるほどな」


「それでちょっと考えたんだが、細い紐を草に隠れるように張って、それに何かが引っかかったら銃を発射した時のような大きな音がする仕掛けをしておけば、わざわざ銃で撃たなくても済むんじゃないのかな。今回は、一番にライフル銃を手に入れたマノックだからかなり訓練を積んでいたおかげで当てられたが、もし、外したら逆襲される恐れだってあったわけだからな」

「確かにそうだな」

「それと、今回は家畜小屋を壊す前に気付いたから被害がなかったが、家畜が襲われるまで気づかない場合だってある。それを防ぐためにも、敷地の外周に紐を張り巡らして、敷地に進入する前に撃退した方がいいと思わないか?」

「ああ、それが出来ればその方がいいな」


「あー!」

 トキオが、突然、大声を上げた。


「なんだ?どうした」

「いや、うちの村にそういう仕掛けがあったな、と思って」

「え?すでにあるのか?」

「うん。畑の作物を食べる鳥を追い払う目的だったから同じだよ」

「そうか。じゃあ、どんな仕掛けになってるかわかるか?」

「いや、うちは農家じゃなかったから、悪いけど実際の仕掛けは見たことないよ。音を聞いただけだね。でも、単純な仕掛けだと思うから、フーゴみたいな鍛冶屋とかなら簡単に作ってくれるんじゃないかな」

「まあ、そうだろうな。じゃあ、鍛冶屋に頼んでみよう」


「この仕掛けで魔物が撃退できればそれに越したことはない。そのうち慣れるかもしれないから、たまに銃で撃ってやれば、警戒心が薄らぐには時間がかかるだろう」

「ああ、きっとそうだな」


 皆は、安堵した表情をしていた。





 その半月ほど前。


「郊外の射撃訓練場が完成した。また、ライフル銃も最初の5丁が出来上がったので、魔物の襲撃を受ける可能性が高い西の方の農家5軒にすでに格安で渡してある。農家に対してはギルドが補助をする方針だ」


「おお~」

「それはいい!」


 この日の朝の支部長の言葉で、冒険者たちは歓声を上げた。


「新たに拳銃を購入した者もいるようだから、明日の朝からトキオに射撃訓練をしてもらう。トキオにはすでに依頼済みだ」


「はい、その通りでーす」

 トキオが少しおどけたように言ったので皆は笑った。


「射撃訓練もそうだけど、銃っていうものは暴発することも多い危険なものだから、まずは扱い方と手入れの仕方を教えるね。これをサボると、肝心な時に弾が出ないこともあるから、手入れはまめにやってね。先に銃を買った4人には言ってあるけどね」


「ああ、毎日手入れしているぞ」

「あたしもー」

「冒険者にとって武器の手入れは当たり前のことだしな」

「そうだ」


 該当のテリットたち4人が答えた。




 次の日の朝。


「・・・以上が銃の手入れの仕方ね。ちゃんと毎日やるんだよ」


「了解」

「わかった」


 ライフル銃を支給された農家の主人5人と、拳銃を購入した冒険者たちが射撃訓練場に集まってトキオから銃の扱い方のレクチャーを受けていた。


「じゃあ、射撃訓練に移るよ」


「お!ついに!」

「待ってました!」


 嬉しそうな声を上げたのは冒険者たちだった。

 農家の主人たちは、一様に不安そうな顔をしていた。


「俺は農家の人たちにライフル銃の撃ち方を教える。拳銃の撃ち方は、先にうちのメンバーにきっちり教えといたから、ブロームから教わってね。それでは、ブローム先生、ご挨拶をお願いします!」


「先生とかやめろよ(笑)」


 そう言ってブロームが前に出て来た。


「えー、今聞いた通りだからよろしく!・・・以上!」


「それだけかよー!」

「なんだそれー!」


 冒険者たちからヤジが飛んだ。

 農家の主人たちは笑っていた。これで、少し緊張がほぐれたようだった。


「拳銃を手に入れてから毎日射撃訓練はしてるが、まだ、トキオのように扱えるわけじゃない。それに、言葉じゃなくて実際に撃ち方を教えないと意味がないからな」


「まあ、そうだな」

「わかってるよ」



「じゃあ、俺は農家の人たちを連れてライフル銃の訓練場の方に移動するから、拳銃を持ってる人はこの拳銃用の訓練場でしっかりブロームに教わってね」

 トキオが言った。


「へーい」

「了解よー」


 そうして、ライフル銃組と拳銃組に分かれて射撃訓練を開始した。




「新しく拳銃を手に入れた人たちにはしっかり見てもらいたいから前に出て来てくれるか」


 ブロームがそう言うと、該当するエドをはじめとした5人の冒険者が前に出て来た。


「前にトキオがギルドで試射した時に見てたヤツは分かると思うが、あの時いなかったヤツが2人いるからもう一度撃ち方から説明する」


 ブロームはそう言うと、トキオがギルドで皆に教えたのと同じ要領で撃ち方を説明した。




「・・・以上だ。じゃあ、実際に撃ってみるから、銃身が跳ね上がるところをしっかり見て、自分が撃つときにそれを意識してくれよ・・・あ、スゴく大きな音がするから、そこに置いてある耳栓を詰めてくれ・・・って、俺もだった」

 皆は軽く笑ったあと、ブロームにならって備品の台にあった耳栓を詰めた



 それからブロームは射撃台のところに移動した。

 射撃台は横長のカウンターが板で5つに仕切られたようになっていて、それぞれの場所の目の前10メートルほどのところにオークをかたどった的があった。的の後ろは、高さ3メートルほどの土の壁になっていた。


 ブロームは射撃台の一番右に立つと、両手でしっかり拳銃を構えてから狙いを付けた。

 的の胴体部分の真ん中と、頭の部分の真ん中には5重の円が描いてあり、一番中央のものは黒く塗りつぶされていた。


 バン!


 大きな発射音とともに、ブロームの撃った弾は的に着弾し、頭の部分に描いてある中央の黒い丸のやや右上に穴を開けた。


 初めて拳銃の発射音を聞いた2人は、びっくりした顔をした。



「すげっ!もうそんなに正確に当てられるようになったのか!?」

 エドが驚きの声を上げた。


「あれから毎日かなりの時間練習したからな」


「いや、それだけじゃないぞ。やっぱり弓の名手だけあって、ブロームが一番早く上達してるな」

「そうそう」

 横で見ていたテリットとアウレラが言った。


「悔しいが、俺とアウレラはまだここまで正確には当てられない。半分の距離に寄ってやっとってとこだな」

「そんな感じね」




 一方、トキオが連れていた5人は、ライフル銃用の射撃訓練場に着いたところでブロームの拳銃の発射音を聞き、そのあまりの大きさに、皆、驚いて「ひっ!」という軽い悲鳴を上げた。


「今の音はなんですか?」

 マノックがトキオに聞いた。


「ああ、あれが拳銃の発射音だよ」

「え!?あんなに大きな音なんですか?」

「あれでも、火薬を減らした弾だから小さい方で、俺が腰に下げてるこいつはもっと大きな音がするよ」

「そうなんですか・・・」

「慣れれば大丈夫だけど、説明が終わったら、そこの台の上にある耳栓をしてもらうよ。自分が撃つときに耳のそばで大きな音がするから、そのままだと一時的に耳が聞こえなくなっちゃうからね」


「それじゃあ、まず、弾の込め方から説明するよ・・・」



 その日から毎日、トキオによるライフル銃の射撃訓練が始まった。

 家族の命がかかっているので、皆、真剣に取り組み、めきめきと腕を上げて行った。


 そして、その結果が、マノックによるボアドン撃退につながったのだった。


 それを聞いた他の農家からもライフル銃の引き合があり、1カ月もしないうちに、アティムの街の区域内にある農家すべてがライフル銃を所持することになった。


 また、支部長の言った、音で魔物を撃退する装置も開発され、それらによって、各農家が動物型の魔物や少数の人型の魔物であれば自分たちで撃退できるようになり、確実に魔物の被害が減っていったのだった。

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