第51話 驚異の複合魔法
「またヒマそうにしてるわね」
後ろから声をかけられたので振り返るとクロアだった。
柔道大会から2日後、トキオは討伐の仕事を終えてギルドで休んでいた。
「おっと!・・・クロアも仕事終わったのか?」
「終わったわよ。この街の近辺は魔物が少ないから、依頼も簡単すぎて張り合いがないわ」
「あ、そう・・・で、今日は何?」
「できたのよ」
「できたって・・・まさか赤ちゃんが!・・・誰の子だよ!」
「ななな、あんた一体何言ってんのよ!処女が妊娠するわけないでしょ!」
「・・・クロアって処女だったんだ」
途端にクロアは真っ赤になった。
「だったら何よ!私は魔法の鍛錬で忙しかったんだからしょうがないでしょ!」
「あーいや、そこは実はどうでもいい。てゆーか、今のはただの感想だ」
「口に出して言うことじゃないでしょ!あんた変態よ!」
「今までヲタクとか中二病とか色々言われてきたけど、変態ってのは初めて言われたな」
「は?おたく?ちゅうにびょう?なによそれ」
「ええと・・・うちの村の言葉だから気にしなくていいよ」
「気になるじゃないの!ちゃんと説明しなさいよ!」
「どっちも説明が難しいからイヤだよ。大したことじゃないから」
「・・・て、そんなこと言いに来たんじゃないわ。あんたに頼まれてた複合魔法ができたのよ」
「え!?もう!?・・・さすが恐怖の魔女だなあ。天才過ぎ!」
「いや~、それほどでも~・・・・・あるわね。まあ、私にとっては簡単なことよ」
トキオは素直に驚いていたが、クロアのその言葉で残念な気分になった。
「でも、これは相当に危険な魔法だわね」
「危険?何が?体に負担がかかるとか?」
「負担も相当なものだけど、その威力というか現象が危険なのよ」
「現象?なにそれ」
「口で説明するより実際に見てもらった方がいいわね。訓練場に行きましょう」
「わかった」
郊外の魔法訓練場につくとクロアが言った。
「この魔法を使うのには精神集中がいるから少し待ってて」
クロアは、胸の前で両手を握ると人差し指だけ立てて目を瞑り、口の中で詠唱を始めた。
20秒ぐらい経ったところで静かに目を開けた。
「準備はいいわ。この魔法はMPを6割消費するから1日に1回しか使えないのよ。だから、よく見ててよ」
「6割!?クロアの最大MPっていくつだよ」
「80よ」
「てことは・・・1回で48も消費するってこと!?」
「そういうことよ。もういいから黙って」
トキオは、クロアからただならぬ雰囲気を感じて口を閉じた。
いつもなら怒鳴るようなしゃべり方をするクロアが冷静に話しているのにも少し威圧された。
クロアは、前方が開けて灌木が茂ってい方を向き、再び目を瞑ると両手を緩く左右に広げ、手のひらを上に向けた。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ」
クロアが目を瞑ったまま気合を込めると、左手の上に1メートルほどの火炎が立ち上り、右手の上に直径50センチほどの水球が浮かんだ。
それから、詠唱をしながらゆっくりと両手を体の前に持ってきてまっすぐ伸ばし、手首を合わせてからゆっくりと胸の前まで引いたが、その動きに連動するかのように火炎と水球が渦巻き状に混ざり合っていった。
クロアは、詠唱をやめると目を開けて気合と呪文を込めて手首を合わせたまま両手を前に突き出した。
「はあぁぁぁ・・・スプライド!」
その途端、直径1メートルほどの黄色く輝く光の帯が前方やや上を向いた方向にやや広がりながら「ゴウッ!」という轟音とともに飛んで行った。
光が消えると、それが通ったところにあった木々がすべて削り取られたようになくなっており、トキオの方から見ると灌木の上半分に丸い通り道ができているようだった。
トキオは、あまりの威力に呆然としたが、クロアが倒れそうになったので慌てて飛びつき、膝をついて支えた。
「どう?こんな感じよ」
クロアは、トキオの腕に抱きかかえられたまま言った。
「・・・ここまでとは・・・確かにこれは危険だ!」
トキオは、削り取られた灌木の方を見て言った。
「そう。光が触れたところを根こそぎ消滅させてしまうから、使い方を間違えると大変なことになるわ」
トキオは、マンガで見た複合魔法を思い出していた。
(そう言えば、あれも触れたものを消滅させる魔法だった。しかし、ここれほどまでの威力とは!)
この時トキオは、複合魔法の実物をこの目で見られたことにかなり興奮していた。
「クロア、やっぱりお前は天才だ!」
トキオはそう言うと、クロアをしっかりと抱きしめた。
「ちょちょちよ、あんたなにしてんのよ!やめなさいよ!」
クロアはそう言うと、腕を振りほどいて元気に立ち上がった。
「・・・あれ?お前、魔法のせいで体力を使い果たしたんじゃなかったのか?」
「なに言ってんの。まだ、MPが4割残ってるんだから、そんなわけないでしょ。ちょっとしたパフォーマンスよ」
「・・・チッ、やられたよ」
「でも、これで私の実力が分かったでしょ」
「ああ、お前すげーよ。マジですげー。ホントにすげー」
トキオは、興奮して再びクロアに抱きつこうとしたが、クロアはそれを躱すと走って逃げた。
「なにやってんのよ!やめなさいよ!」
「いやー、無性にお前を抱きしめたい気分なんだから黙って抱きしめさせろ!」
トキオはクロアを追いかけながら言った。
「イヤよ!バカじゃないの!」
しかし、クロアは足が遅かったのですぐに追いつかれると後ろから抱きしめられた。
「やめなさいよ!バカッ!」
クロアは振りほどこうともがいたが、トキオの方が力が強かったのでどうにもできなかった。
「少しの間だから」
トキオは優しく言った。
「・・・もう、しょうがないわねえ」
クロアはそう言うと、体の力を抜いた。
トキオからは見えなかったが、この時、クロアは真っ赤になっていた。
トキオはそのまましばらく抱きしめていたが、いきなりクロアの体をひっくり返すと唇にキスをした。
バチーン!
クロアの平手が飛んだ。
「なにすんのよ!・・・私のファーストキスを・・・」
「あ、あ、ごめん・・・・なんだか急にキスしたくなっちゃって」
「なによそれ!ふざけてんの!」
そう言ってクロアはトキオを睨んだが、しばらくすると恥ずかしそうな表情に変わった。
「・・・・・しょうがないわね。あんた、キスは初めてじゃないでしょ?」
「ああ、一応、昔は彼女もいたからエッチもしたことあるけど」
「誰もそんなことまで聞いてないわよ!・・・じゃあ、ファーストキスを奪った責任とって、私にディープキスしなさいよ」
「え!?」
「前から興味があったのよ!恥ずかしいから早くしなさいよ!」
「・・・わかった」
クロアが目を閉じたので、トキオはクロアの肩を掴み、唇を押し付けた。
そして、舌をクロアの口の中に挿入するとクロアの舌に絡めた。
「ん、む」
始めのうちはクロアは完全に受け身だったが、そのうちクロアの方からも舌を絡めてきた。
そのまましばらくキスをしていたが、トキオは股間がだんだん元気になってくるのを感じた。
それとほぼ同時に、クロアがトキオの背中に手を回してきた。
1分ほどキスをしたあと、トキオはゆっくとり唇を離した。
「これがディープキス・・・」
そう言うと、クロアは手を離し、恥ずかしそうに俯いた。
しかし、その途端、もっこりしたトキオの股間が目に入った。
「キャー!あんたなによそれ!この変態!」
バチーン!
再びクロアの平手が飛んだ。
「あ、いや、これは男性として当然の生理現象で・・・」
そう言いながら、トキオは両手で隠すように股間を押さえた。
「もう知らない!帰る!」
そう言うと、クロアは街の方に早足で歩きだした。
「あー!待てよー!」
トキオはそう言って走ってクロアに追いついたが、クロアはそれ以上歩くスピードを上げようとはしなかった。
「もう、機嫌直してくれよ」
「ふんっ!」
そのまま無言で歩いていたが、しばらくするとクロアが言った。
「ディープキス、悪くなかったわよ。あんな感じなのね」
「そ、そう?それは良かった」
「でも、今回だけよ!次はないからね!」
「あ、そう。わかった」
トキオは、(自分からせがんどいてなんだそれ?)と思ったが、クロアの顔を見ると、真っ赤になっていた。
(こいつも可愛いとこあるよな)
そう思ったら、また股間が元気になりそうになったので、あわてて醜いゴブリンの顔を思い浮かべて気を静めた。
「今日見せた複合魔法、トキオはどう使ったらいいと思った?」
しばらくするとクロアが言った。
「そうだなあ。先日現れたヒドラみたいな大きな魔獣なら、下から撃てるから安心して使えるだろうな。しかも、あの威力なら、おそらく一撃だろう」
「ヒドラ!?アルアビスの郊外に出たって聞いたけど、あんた実物見たの?」
「ああ。俺だけじゃなくて、いくつもの街の冒険者や兵士がいっぱい見たぞ」
「そうなんだ。私はあの日、別の仕事で遠い街にいたから行けなかったのよね。魔獣は見たことないから行きたかったのに」
「ものすごい大きさと強さで、上級魔法使いと軍直属の冒険者でかかっても苦戦したからな。あれがたくさん出てきたら、もうどうしようもないよ」
「そうらしいわね。私の魔法がどこまで魔獣に通用するかも知りたかったから行きたかったわ」
「1体出て来たってことは、今後も出てくる可能性があるだろう。嬉しいことじゃないが、対面する機会はすぐに来ると思うよ」
「そうね。まあ、ホントは出て来ない方がいいんだけど、複合魔法も使えるようになったから、ちょっと相手してみたいわね」
「十分以上に通用すると思うよ」
「私もそう思うわ。まあこれで、あんたの光魔法フライシャを超えたみたいだしね」
「お前は天才なんだから、いつ超えてもおかしくなかっただろ」
「そうよ。わかってればいいのよ」
いつの間にか、クロアはいつもの自信たっぷりな表情に戻っていた。
「でも、複合魔法のことはみんなには黙ってた方がいい気がするな」
「え?・・・確かにそうね。これは下手に使うと味方に被害が出るし」
「そう。その間に、どういうシーンで使ったらいいか検討しよう」
「わかったわ」
それからは、色々な魔法の使い方や、光魔法についての話をしながら二人は街へと戻って行った。




