第45話 魔法談義
「今日の仕事は終わったんでしょ」
その日の討伐の仕事を終わって解散したあと、トキオが一人でギルドの飲食コーナーで休んでいると、クロアがやって来た。
「ああ、終わったけど」
「じゃあ、ちょっと付き合いなさいよ」
「え?デートのお誘い?」
「バ、バカ言ってんじゃないわよ!なんで私があんたをデートに誘わなくちゃいけないのよ!魔法の訓練場に行くのよ!」
クロアは、怒りからか照れてるのかはわからなかったが、顔が真っ赤になった。
「は?なにしに?」
「いいからついてきなさいよ!」
「わかったよ」
そうしてトキオは、クロアに引きずられるように訓練場に連れていかれた。
「あんた、この間の森での討伐の時、詠唱どころか呪文も唱えないで魔法使ってなかった?」
郊外の訓練場に着くと、クロアは開口一番そう言った。
「え?そうだけど、それがどうしたの?」
「詠唱もしないでどうやってあんな威力の高い魔法を使ったのか気になったのよ」
「ほう、そんなとこ気になるんだ」
「私は魔法使いなんだから当たり前でしょ!魔法の威力を高めるためなら人の意見は素直に聞く人間よ」
(え゛~?そうは見えないけどなあ・・・)
トキオはそう思ったが、素直に話してやることにした。
「これは人から聞いたわけじゃなくて自分で気づいたんだけど、魔法の練習をしてる時に、その魔法のイメージをしながら呪文とは別の言葉で魔法を放ったらちゃんと出たんだよね。要は、いかに魔法をイメージできるかだと思うんだ」
「それどういうことよ」
「つまり、頭の中で自分が今から放つ魔法をイメージするんだよ。光魔法のフライシャなら、放った時の光の玉を思い浮かべながらできるだけ大きくて威力の高いものを!・・・ってね」
「ああ、そういう意味のイメージね。なるほど」
そう言うとクロアは黙り込んで目を閉じた。
そのまま15秒ほど経過したところで、突然目を開くと、黙って開いた右手を前方に突き出し、大きな火球を放った。
その火球の大きさは、以前に森で発した大きさとまではいかなかったものの、かなり大きなものだった。
「できた!・・・なるほど、これね」
「・・・お前すげーな。一発でできるなんて。実は天才なんじゃないの?」
「ふっ。何を言ってるのかしら。そんなことに今頃気づいたの」
「・・・ああ、言わなきゃ良かった」
トキオはぼそりと呟いた。
「なんですって」
「なんでもない」
「絶対なんか変なこと言ったでしょ」
「変なことは言ってないって」
「・・・まあいいわ。なるほどね、今度からこれやろうかしら」
「それはいいけど、今のは詠唱と同じぐらい時間がかかってたうえに威力はちょっと落ちてたから意味ないんじゃないの?」
「・・・え?」
そう言われて、クロアは悩ましげな顔になった。
「まあ、練習していけばもっと短い時間でもっと強力なのが放てるようになると思うよ」
「そうね。私にかかったらそんなことぐらい簡単にできるわよね」
そこでトキオは、あることを思い出した。
「クロア、その天才ぶりを見込んでちょっと試して欲しいことがあるんだけど」
「な、なによ!へんなことやらせるじゃないでしょうね!」
「いや、そういうわけじゃなくて、俺、何度か試してみたんだけど、そもそもイメージの仕方がわからなくてできなかったんだよね。レベルの高いクロアならできるんじゃないかと思って」
「なに?そんなに私の魔法のスキルに頼りたいわけ?それやるとどうなるのよ」
「魔法の威力が飛躍的に上がると思う」
「はあ?そんな都合のいい話がある?」
「いや、実際に俺の知り合いがやってたんで、ちゃんとしたやり方を身に付ければできると思うんだけど」
(知り合いと言っても、マンガの中の話だけどな)
「まあいいわ。やってあげるから言ってみなさいよ」
「じゃあ、まず左手の手のひらの上に火炎魔法を展開できる?」
「私をバカにしてるの!?」
そう言いながら、クロアは左手を開いて手のひらを上に向け、高さ30センチほどの火炎を立ち昇らせた。
「おや?今は詠唱しなかったね」
「当たり前じゃない!強力な魔法を使うための詠唱でしょ!このくらいの魔法ならいつでも使えるわよ。私の師匠は、魔法の威力を高めるための詠唱を色々と開発した人なんだから、私が使ってる詠唱にはちゃんと意味があるのよ!」
(やっぱり威力を高めるためのものだったんだ。なるほど、俺も今度やってみるか)
「じゃあ、それを保持したまま、右手に水球を展開して」
「お安い御用よ」
クロアは右手を開いて、左手と同じようにしてその手のひらの上に直径20センチほどの水の玉を浮かせた。
「で、その二つが混ざり合うように前方に攻撃魔法を撃てないかな」
「な!?なにそれ!聞いたこともないわ!」
「うーん、やっぱり無理なのかな。できたらスゴいことになりそうなんだけどな」
「だ、誰もできないとは言ってないでしょ。そこはほら、あんたがさっき言ってた魔法のイメージってのをしっかり身に付けたらきっとできるようになるわよ」
「そうか!そうだよね。こういうものはイメージが大事だからね。じゃあ、できたら教えて」
「わかったわ。けど、私だけ頼みごとをされるのはしゃくに障るわね。あんたの光魔法を私に教えなさいよ!」
「え?・・・無理!」
「はっ!?人にはものを頼んどいて、なにその態度!」
「いや、渋ってるわけじゃなくて、人に魔法を教えるってのがわからないんだよ。だいたい、冒険者になってから使ったのも数回だしね」
「なにあんた、あんなに強力な魔法を持ってるのにほとんど使ってないの?」
「だから俺は剣士だって言っただろ。小さい頃から、冒険者になったら剣士になるって決めてたんだから。こんな特注の刀を作ってもらうぐらいに剣士が好きなんだよ」
「そう、その剣よ。他の人のとは違うわよね。というか、今まで見たこともないわ。アウレラは同じようなのを持ってるけど」
「アウレラは俺のを見て気に入ったから、彼女もフーゴに特注したんだよ。刀身に花の模様が入っててキレイだっただろ?」
「確かに色も模様もキレイだったわ」
「いいセンスしてるよな」
「は!・・・そんな話をしてたんたじゃないわ!じゃあ、光魔法は教えてもらえないって言うの?」
「残念ながら無理だね。それに、聞くところによると聖光教団の加護がないといくら練習しても習得できないって言うじゃない。習得したかったら、まず、そこからでしょ」
「それは私も師匠から聞いたけど、じゃあ、あんたは教団の加護を受けてるって言うの?」
「そこが謎なんだよねえ。街の中を教団の人が歩いているのは時々見るけど、話したこともないんだよねえ」
「・・・またウソついてるでしょ?」
「またってなんだよ。俺は嘘なんかついてないって」
「でも、何か隠しごとしてるのは確かね」
隠しごとという言葉に、トキオはドキッとした。
「あ!ほら!今、ドキッとしたでしょ!」
「い、いや別に。何も隠し事なんかしてないよ」
「いや、絶対してるわね。まあいいわ、そのうち突き止めてあげるから」
(うー、俺が別の世界から来たってのは言ってもいいけど、頭がおかしい人だと思われるだけだよな)
「そういえばあんた、使える光魔法ってフライシャだけなの?」
「いや、防御魔法のバリッドと反射魔法のリフレックも使えるけど」
「なんですって!それって、師匠が使ってたのと同じ魔法じゃない!攻撃魔法も使えるのにそんなのまで使えるなんて卑怯よ!」
「ひ、卑怯って・・・」
これにはトキオも思わず笑いそうになったので、下を向いた。
「ホントにできるのか疑わしいわね。見せて見なさいよ」
その言葉で笑いが収まったので顔を上げると、クロアは興味津々という顔をしていた。
(なんだかんだ言って見たいだけなんだな)
「わかったよ。でも、普通に見せてもつまらないから、この間気づいた使い方で見せてあげるよ」
トキオはそう言うと、ヒドラ討伐の時にアウレラとやったみたいに、水平に防御魔法のバリッドを展開し、その上に乗った。
「ええっ!なにそれ!」
クロアはかなり驚いた顔をした。
「クロアも乗れるよ。乗ってごらん」
「ホント?」
クロアは、少し興奮したのか頬を赤く染めてから、静かにバリッドの上に飛び乗った。
「ホントだ!空中に浮いているように見える!」
「でしょ?まだ上にも行けるよ」
トキオはそう言って少し上にバリッドを展開した。
「じゃあ、またジャンプするからつかまって」
そう言うと、背の低いクロアはトキオの腰に手を回して来た。
そのとき、アウレラに比べたら大した大きさではなかったものの、クロアの胸がわき腹に当たった。
その瞬間、トキオはアウレラの巨乳の感触が頭に蘇って来て、思わず股間が元気になりそうになったので、危ない目に会った討伐の時のことを思い出して気を静めた。
「なにやってるのよ。上に行くんじゃないの?」
「ああ、ごめん。じゃあ、せーの・・はいっ!」
その掛け声で二人は同時に次のバリッドの上に飛び上がった。
「スゴい!これ面白い!」
トキオは、初めてクロアの無邪気な表情を見た気がした。
「まあ、こんな感じね。あまりやるとMPがなくなっちゃうから、今日はこのへんにしとこう」
「ええー?もう少し上まで行ってもいいじゃない」
「ダメダメ。それに、明日から泊りがけの護衛で遠い街に行くから、朝早いんだよ。今日は、まだ夕飯も食べてないからそろそろ帰るよ」
「なんか残念だけど、仕事のためなら仕方ないわね」
クロアは素直にそう言うと、トキオから離れて一人で降りて行った。
街に戻る途中、クロアはしみじみと言った。
「やっぱり光魔法っていいなあ。私も覚えたい」
「クロアなら覚えられると思うよ。なんで師匠は教えてくれなかったの?」
「そろそろ教えてくれそうだったんだけど、ちょっとあってねえ。そろそろ冒険者にもなりたかったから飛び出して来ちゃったのよ」
(ああ、この性格だからな。きっと何かもめ事だな)
トキオはそう思ったので、それ以上は何も聞かなかった。




