第44話 試射会
「できて来たよ」
その日の朝、トキオはそう言うと、3丁の拳銃をテーブルの上に置いた。
「おお!俺たちの分か、これ?」
「そうだよ。こっちがアウレラのね」
「やったー!」
「待ちかねたぞ」
そう言いながら、3人はそれぞれの拳銃を手に取った。
「テリットとブロームのは俺のと同じで、アウレラのは少し小型で軽くなってる。今のところ、フーゴの店で作ってる拳銃はこの2種類だけだね」
「俺も今朝もらってきたぞ!」
後ろから声がしたのでトキオが振り返ると、拳銃を持ったパーシーが立っていた。
「いやー、うれしいけどなんだかよくわかんねーな(笑)」
「ブッ!」
パーシーのセリフに4人は吹き出した。
「使い方は教えてくれるんだろ?」
パーシーが照れながらトキオに聞いた。
「もちろんだよ。じゃあみんな、裏庭に行こうか」
それからトキオは、他の冒険者が座っている方を向くと大きな声で言った。
「ごめんなさーい!これからちょっと・・・いや、ちょっとじゃないな・・・すごーく大きな音がするけど、気にしないでね」
「なんだ?」
「お?また、トキオがなんかやるのか?」
「えーとね、拳銃の射撃訓練を今から裏庭でやるんだけど・・・あ、そうだ!これから持つことになる人もいると思うから、手が空いてる人は来てくれる?」
トキオはそう声をかけてから、テリットたち4人を引き連れて裏庭へ向かった。
「なによ、なによ。また、なんかインチキやるんでしょ!」
そう言いながら、クロアもついて来た。
「ちょっと準備するから待って」
トキオはそう言うと、一番奥にある台の上に、横に積んであった土嚢を後ろの壁にもたせ掛けるように立てて三つ乗せた。
それから、みんなが立っている場所に戻ってくると言った。
「まず、俺が説明しながら撃つからよく見ててね」
トキオは腰のホルスターから拳銃を抜いた。
「拳銃を撃った時の衝撃はかなりのものだから、ちゃんとした構えでしっかり握って撃たないと手首や肩を痛める心配があるんだよ。それと、撃った反動で銃身の先端が跳ね上がるから、それを想定した力の入れ方をしないといけない」
トキオはそう言いながら、銃の先が跳ね上がる様子を再現して見せた。
「こんな感じね」
それから、両手で拳銃を持った。
「慣れれば片手でも撃てるようになるけど、最初はこんな感じで右腕を伸ばしてしっかり握ること。そこに左手をガッチリ添える感じね。それから、銃口の先端の上と一番後ろにあるサイトと呼ばれるものを重ねて狙いを付ける」
「じゃあ撃つよ」
見ていた全員の体に力が入った。
「あ、そうだ」
トキオはそう言うと、一旦、拳銃を下ろした。
「なんだよ」
皆は、力が抜けてガクッとなりながら言った。
「すごーく大きな音がするから耳をふさいでて」
そう言われて、皆は耳をふさいだ。
「なんでよ!なにするって言うの!」
そう言いながらも、クロアも両耳に人差し指を突っ込んだ。
「じゃあ、今度こそ撃つよ。銃の先端が跳ね上がるのを良く見ててね」
トキオはそう言ってから右手の親指で撃鉄を起こし、土嚢に狙いを付けると引き金を引いた。
バンッ!
見ていた者のほとんどが、想定をはるかに上回る大きな発射音を聞いたため、驚いて体を固くした。
「ひっ!」
クロアは、思わず短い悲鳴を上げた。
発射された弾丸は見事に土嚢の真ん中に命中し、その部分に大きな穴が開いて中の土が周りに飛び散った。
「こんな感じね。で、今、撃った弾が、この間グリベラー討伐に使ったマグナム弾という威力の高い弾。でも、みんなの拳銃には、フーゴに頼んで弱装弾という火薬を減らした弾を入れてもらってある。最初からマグナム弾を撃つと反動が大きくて、さっき言ったように手首や肩を痛めるからね。まず、正しい撃ち方をしっかり身に着けてからマグナム弾を撃ってもらうよ」
「ちょっと、何よそれ!矢と違って当たったところが弾けたように見えたけど、魔法道具かなにかなの!?」
クロアが少し怒ったように聞いた。
「いや、魔法じゃないよ。これは武器の一種で、火薬を爆発させて金属の弾丸を飛ばしてるんだよ」
トキオは拳銃のシリンダを倒して発射していない弾を一つ取り出した。
「この筒状の部分に火薬が入ってて、うしろの部分を叩くことによってその火薬が爆発して先端に詰めてある金属の弾丸を飛ばすんだよ」
見物人の多くから「ほぉ~」という感心した声が漏れた。
「火薬の応用でそんなことができるなんて・・・それもあんたが考えたの!?」
クロアはなぜか不機嫌そうに聞いた。
「いや、俺じゃないよ。俺はそれを再現しただけ・・・ていうか、今までみんなに教えたことはすべて人から教えてもらったことで、自分で考えたものは一つもないよ」
「なんだ、そういうことね」
途端に、クロアは少し見下したような顔になった。
「そうだな。トキオは前からそう言ってたな。トキオの村の昔の人たちが考えたことらしいぞ」
テリットが言った。
「ホントにユニークな村だな」
パーシーがニヤリとした顔で言った。
「じゃあ、今日、拳銃をもらった人たちに撃ってもらおうと思うんだけど、最初は・・・・」
「はい!はい!はい!はい!」
トキオが言い終わらないうちに、アウレラが背伸びしながら元気よく手を挙げた。
「・・・じゃあ、アウレラ」
トキオは苦笑しながら言った。
アウレラは前に出てくるとトキオの横に立って両手で拳銃を構え、土嚢に狙いを付けた。
「もう少し腕を伸ばして・・・そう、そんな感じ。そのまま、しっかり力を入れてから、撃鉄を起こして」
アウレラは言われたとおりに右手の親指で撃鉄を起こした。
「ああっと。初めてだから、土嚢を狙っても多分外して後ろの壁に穴を開けちゃうと思うから、台の少し手前の地面を狙って撃ってくれる」
「わかった。じゃあ、撃つよ」
その言葉で、皆は耳をふさいで体に力を入れた。
バン!
今度も大きな音がしたが、先ほどのトキオの拳銃の音よりはかなり小さな音だった。
バシッ!という音がした方を皆が見ると、トキオが撃ったのは別の土嚢の真ん中に小さな穴が開いていて、そこから少しずつ土が漏れ出していた。
「え!真ん中に当たった!」
「すごいじゃないか!」
「狙ったのか!?」
皆が口々に聞いた。
「もちろんじゃない」
アウレラはニヤリとして言った。
「はいはい、そんなウソすぐバレるぞー。見てりゃ分かるって」
トキオが苦笑しながら言った。
「あれ?わかっちゃった?」
アウレラが舌を出しながら言った。
「なんだよー!」
「信じるところだったぞー」
「でもそうなら、外し過ぎじゃね?」
パーシーがそう言うと、全員から笑いが起こった。
「拳銃を持ったのも初めてなんだからしょうがないでしょ!」
アウレラが少し怒ったように言った。
「うん、最初はみんなこんなものだって。じゃあ、次、パーシーね」
トキオにそう言われて、パーシーが前に出て来た。
交代するようにアウレラが後ろに下がった。
「じゃあ、同じように地面を狙って」
そう言われて、パーシーは地面に狙いを付けた。
「構えは大体いいけど、もう少し右手に力を入れた方がいいかな・・・うん、それでいいよ」
「行くぞ」
パーシーはそう言うと、撃鉄を起こしてから引き金を引いた。
バン!
今度の音はアウレラのより少し大きかったが、これも、トキオの拳銃のものよりはかなり小さかった。
バシッ!
皆が音がした方を見ると、残りの土嚢の真ん中に穴が開いて土が漏れていた。
「あれ?」
パーシーのその言葉で全員から爆笑が起こった。
「同じじゃねーか!」
「外し過ぎだぞー!」
「ある意味すげーな」
そのマルケルの言葉で、皆はさらに笑った。
「これでわかったと思うけど、最初からちゃんと撃つのは難しいってことだよ」
トキオも笑いながらそう言った。
それから、ブローム、テリットの順で試射をしたが、前の二人のことが教訓になったようで、狙い通りとはいかなかったものの、しっかり地面を撃つことができた。
「はい、今日はここまで。今のみんなの力量だとギルドの建物に被害が出そうだから、今後は、もうすぐ出来上がる郊外の射撃訓練場でやることにしよう」
「わかった」
拳銃を持った4人が答えた。
「しかし、みんながトキオのように正確に当てられるようになったら、これは魔物討伐にかなり有効な武器になるんじゃないか?」
「確かにそうなんだけど、弾が高いからおいそれとは使えないんだよなあ」
マルケルの言葉に対してパーシーが言った。
「え?そうなのか。いくらなんだ?」
「拳銃は銀貨4枚だから少し良質の剣ぐらいなんだけど、弾は1発が銀貨1枚で、この拳銃には6発入ってるから全部で銀貨6枚と、拳銃本体より高いんだよ」
「えー!?そんなにするのか!」
「うん。まあ、今はこの間のヒドラの分配金で金があるから思い切って3回分の18発買ったけど、それだけで銀貨18枚はかなりきついよな(注…銀貨1枚が5万円相当なので90万円)」
「うわー!確かにめったに使えないなあ」
「射撃訓練をするにも弾がいるわけだし、もうちょっとなんとかならないかなあ」
「それについては、支部長にギルドで補助してくれるように交渉中だ。支部長も拳銃の有効性は認めてるので、たぶん大丈夫だと思う」
テリットが言った。
「そうか!それは助かるな!」
「あー、それと、訓練用に用意した弱装弾は、火薬が減らしてあるからマグナム弾の4割の値段になってるよ。だから、練習はこれを使うといいね」
トキオが言った。
「そうか!それも助かるな」
「あとは、王国軍にこの武器の有効性を認識させて大量生産してもらうことだな。そうすれば量産効果で値段も下がるだろう」
「うん、確かにそうだね」
テリットの言葉にトキオも同意した。
「うーん、俺も欲しいと思ったけど、そんなに値が張るんじゃちょっと考え物だな。もう少し値段が下がってからにするかな」
「俺もそうするよ」
「ああ、俺も」
マルケルの言葉に何人かが同意した。
「いや、しかし、護身用にして切羽詰まった時だけ使うことにすればそんなに金の心配をしなくてもすむと思うから、俺はフーゴに注文しに行くよ」
「ああ、俺もそうする」
逆に、そのエドの言葉に同意する者もあった。
今のところはすぐに買うと言った者は3割程度だったが、トキオは、討伐の現場で拳銃の有効性を目の当たりにすればもっと持つ者が増えるだろうと考えていた。
そして、それが冒険者だけでなく住民の生命を守ることにも繋がるので、ぜひそうなって欲しいと思った。
「ちょっとあんた。どうやって、その武器をちゃんと撃てるようになったのよ!」
ギルドの建物に戻ろうとしたところで、トキオはクロアから声をかけられた。
「どうやってって、以前に自分の村で自警団をやってて、その時はこれがメインの武器だったから・・・」
「それっておかしくない?なんであんたの村だけにそんなものがあるのよ」
「いや、それは俺の村が閉鎖的で・・・」
その二人のやり取りを見ながら、テリットがブロームに話しかけた。
「なあ、あの二人って、なんだかんだ言っていいコンビなんじゃないか?」
「ああ、俺もそう思ってたところだ」
二人はさらに何か話そうとしたが、トキオとクロアを見つめて不機嫌そうしているアウレラの顔が目に入ったので、それ以上は何も言わずに建物へ戻って行った。




