第40話 恐怖の魔女
訓練場改装の打ち合わせの席で支部長から提案があった。
打ち合わせの席には、フーゴを含めたこの街で武器販売に携わっている鍛冶屋が全員揃っていた。昨日のうちに、ギルドから依頼と招集があったらしい。
「トキオの話だと、拳銃は誰にでも扱えるうえ、目標に当てられるようになるのには弓より時間がかからないということだ。そうなると、あの驚異的な破壊力だから、犯罪に利用されることを警戒しなくてはならない」
その言葉を聞いてトキオはハッとした。
(そうだ!この世界にも盗賊はいるし、ギャングやヤクザみたなヤツもいるに決まってる。そいつらが銃を持ったら、護身用に一般市民も銃を持つという、アメリカのような救いがたい銃世界になっちまう。元刑事のくせに、なぜこのことに気付かなかったんだ俺は!)
「そこで、拳銃は特別な事情がない限り購入できるのは、冒険者、王国軍の兵士と魔法使い、ギルド職員、武器を扱う鍛冶屋と商人に限定したい。ライフル銃については、所持許可証を作成し、市街地外の集落に住む住人にギルドの職員が直接手渡すことにする。この許可証は、特例として認められた者へも配布するものとする。異論がある者がいたら手を挙げてくれ」
「それはいいな」
「賛成だ」
全員から肯定の返事があり、手を挙げる者はいなかった。
「じゃあ決まりだな。許可証はなるべく早く用意する」
その後は、今後の銃製造の進め方の認識合わせと、街の外の訓練場の改装内容について話し合った。
訓練場の改装内容については、トキオが刑事時代に使用していた訓練場のレイアウトが効率的だと説明し、それに近いレイアウトにすることになった。
的は、実戦を意識した方が役に立つと思い、ウルゴン、ボアドン、オーク、ゴブリンをかたどったデザインにすることにした。
基本的な仕様はこの日のうちに決まったので、あとは、専門の建築家に描いてもらった図面を確認してから着工する手はずとなった。
結構詳細な打ち合わせを実施したため、昼食を挟んで、終わったのは午後の3時なっていて、事務所から出ると、すでにテリットたちは戻って来ていた。
「打ち合わせは終わったのか?」
トキオがテリットたちのテーブルに寄って行くと、テリットの方から声をかけて来た。
「ああ、やっと今終わったよ。あー、疲れた。体を動かしてる方が疲れないな」
トキオはそう言って苦笑した。
「お疲れさん」
「そっちこそ。ホントに今日の討伐はすまなかったね」
「なーに、簡単な討伐で、問題なく終わったからから気にするな」
「そうそう」
「俺、子供たちが来るまで訓練場で体動かしてるよ」
「そうか、じゃあ俺たちは適当に休憩してから帰るわ」
「そう。じゃあ、また明日」
「ああ、じゃあな」
「また明日ね」
「それじゃ、頑張れよ」
この日はこれで分かれた。
次の日、トキオたちがギルドで朝ご飯を食べていると、大きな声で何か言いながら20歳前半ぐらいの若い女の子が入って来た。
「ふーん、ここがアティムのギルドかー。なんだか、内装が地味でパッとしないわねえ」
その女の子は、それから受付に行ってミレリアに話しかけた。
「パーシーっている?交代要員として呼ばれてきたんだけど」
冒険者たちはあっけに取られて見ていたが、ミレリアは表情も変えず冷静に応対した。
「はい、あちらの紺色の上着を着た・・・」
「おーい、俺がパーシーだー!」
ミレリアがパーシーを指して答えようとしたところで、パーシーからその女の子に向かって声がかかった。
「あ、わかったらいいわ」
その女の子は、ミレリアの言葉を遮ると、パーシーの方へ歩いて行った。
「なにあの子?」
見かけない女の子だったのでトキオは聞いた。
「パーシーんところの魔法使いのマリッサが産休に入ることになって交代要員を募集してたから、たぶん、それだろう」
「見たことない顔だね」
「この街には空いてる魔法使いがいなくて他の街に募集をかけたみたいだから、どっか別の街から来たんだろうな」
「ああ、そういうこと」
トキオは、その会話の間もずっとその女の子を見ていた。
「なに見てんのよ!見世物じゃないわよ!」
それに気づいた女の子は、トキオたちの横を通る時にトキオに向かって言った。
トキオは、そんなことを言われるとは思っていなかったので驚いた。
しかし、女の子はそう言っただけでそのまま通り過ぎて行った。
「俺、ちょっと苦手かも」
トキオは我に返るとボソリと言った。
「あたしはちょっとイラッとしたわ」
アウレラが言った。
「ふーむ、このギルドでは久々にああいう活発な子を見たな」
「え?前にあんな子がいたの?」
「ああ。その産休に入ったマリッサが、冒険者になりたての頃はあんな感じだったよ」
「そうだ、そうだ。ベテランの魔法使いに教わってたとかで自信満々だったなあ」
「あの、あんまりしゃべらないマリッサが!?ちょっと信じがたいわ」
「最初はああだったんだが、冒険者の仕事の大変さと危なさが段々分かってくると、徐々に大人しくなったからな」
「そうだったんだー。知らなかったー」
そうやって話しているうちに、その子はパーシーにたどり着いた。
「お前がクロアか。これからよろしくな!」
パーシーはそう言ってから握手の右手を差し出したが、その女の子はその手のひらを右手で「パン!」とはたくと、
「この『恐怖の魔女』が来たんだから、今までより討伐は楽になるわよ!ありがたく思いなさい!」
と、どや顔で言った。
「恐怖の魔女?」
パーシーは、手をはたかれたことより、その言葉が気になったらしく聞き返した。
「恐ろしい魔法を使う魔女って意味よ!そのくらい察しなさいよ!」
クロアと呼ばれたその子は、高飛車に言い返した。
パーシーは、一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐに笑いだすと、
「元気があっていいな!じゃあ、期待してるぞ!」
そう言って、その子に椅子を勧めた。
「おー!パーシー、大人の対応だー」
トキオが感心して言った。
「あいつはきっと、マリッサのことを思い出して、どうせすぐにおとなしくなると思ったんだろうな」
「違いない」
テリットの言葉にブロームも同意した。
「あー、そういうことかー」
トキオは、そのクロアと呼ばれた子を苦手だとは思ったものの、どこかのアニメに出て来たようなキャラだと感じて、色々やらかしてくれそうだなあと少しワクワクした。
「じゃあ、俺たちは行くか」
テリットがそう言ったので、トキオたちは立ち上がった。
この日の討伐は、徒歩で1時間ほどのところにある西の森から魔物を一掃するという依頼で、他にもいくつかのパーティーが参加することになっていた。
テリットたちは、1時間ほど探し回って10体の魔物を討伐したが、一番大きなものがフォドラで、比較的楽な討伐だった。
さらにしばらく探索していると、
「まったく歯ごたえないわね!もっと大物はいないの!」
という女の声が聞こえて来た。
(あれ?この声は・・・)
トキオが、声のした方を見ると、それは思った通りクロアだった。
そのまま見ていると、横にいたパーシーがトキオの方を指さした。
すると、クロアはトキオの方へまっすぐ歩いて来た。
(え?なに?)
トキオが驚いて立ち止まっていると、クロアは間近まで来て大きな声で言った。
「あなたがトキオね!光魔法を使うそうじゃないの!ちょっと見せてみなさいよ!」
(もしかして俺に対抗意識を燃やしているのか?)
トキオはそう思って苦笑した。
「何が可笑しいのよ!」
「あー、ごめんごめん。討伐する魔物もいないのに魔法なんか使えないよ」
「なにそれ!?そんなこと言って、ホントは使えないんじゃないの?」
そこで、アウレラが前に出てくると、クロアに向かって怒鳴った。
「あんたねえ、トキオの光魔法はみんなが見て知ってるのよ!自分が大した魔法使えないからってそんなこと言わないでよね!」
「何よ!私の実力も知らないくせに!あんたには関係ないでしょ!」
「うちのパーティーのメンバーなんだから関係あるわよ!」
そこで、トキオの右後方から「ガサッ」という草をかき分ける音がしたので皆がそっちを見ると、そこにディアギラスが立っていた。
「ちょうど良かったわ!見てなさい」
クロアは、ディアギラスに開いた右手を向けると、
「我が内に秘めたる大いなる炎よ。その力を・・・・」
と、呟き始めた。
(え!?もしかして詠唱してる?この世界でそんなことする魔法使い初めて見たぞ!)
クロアは、そのまま15秒ほど詠唱を続けると、
「ファイド!」
と唱えて火炎魔法を放った。
(長々と詠唱して魔法はファイドかよー!)
トキオはあきれたが、クロアの手の先からは巨大な火球が飛び出してディアギラスを直撃した。
ディアギラスは火炎に包まれて苦しそうなうめき声をあげ、ばったりと横に倒れて、しばらく痙攣したのち動かなくなった。
その様子を見ていた冒険者たちは驚いて呆然となった。
「ほら、ざっとこんなものよ?」
クロアは、どや顔でトキオとアウレラを見ながら言った。
「いやー、見事見事!口だけじゃなかったなー!」
パーシーが、嬉しそうな顔をして手を叩きながらそう言った。
そこで、今度は真後ろで草をかき分ける音がしたので、トキオが振り返ると、そこにはフォドラが立っていが、トキオたちの姿を見ると突進して来た。
トキオとアウレラは瞬時に刀を抜くと、フォドラ目がけて走り、すれ違いざまに両側から刀を一閃させた。
フォドラは、体を3つに切断されてその場に崩れ落ちた。
二人が、ドロップアイテムを回収しようとそのフォドラの死骸のところにしゃがみ込むと、クロアがそこに来た。
「あんた!強力な魔法を持ってるのになんで使わないのよ!やっぱり使えないんじゃないの!?」
トキオは、一瞬ポカンとしたが、
「俺、剣士だから、どうしても必要な時以外は魔法は使わないよ」
と、答えた。
「な、なによそれ!ふざけないで!」
「ふざけてないよ。魔法はMPがなくなったら使えなくなるから、なるべく使いたくないしね」
トキオは、ヒドラ討伐の時の教訓から、前にも増して魔法はなるべく使わないようにしていた。
「お前、もしかしてトキオのことを全然知らないでこの街に来たのか?」
そこで、パーシーが来てクロアに向かってそう言った。
「こんな男が何だって言うの!知るわけないでしょ!」
「ということだから、アウレラ、もうあんまり気にするな」
「あー、そういうことね。わかったわ」
パーシーの言葉に、アウレラは、クロアを呆れたような目で見て言った。
「な、なによその目!バカにしてるでしょ!」
「バカにはしてないわよ。魔法の実力が本物だってのはわかったから。あんなに長く詠唱するのには驚いたけど」
「なによそれ!詠唱なんて魔法使いなら誰でもするでしょ!」
「しないよ」
「しないなあ」
「そんなの見たことないなあ」
「詠唱ってなに?」
その場にいた冒険者が口々に言った。
「うそよ!私の師匠からはこう教わったんだから!」
「まあまあ。昔は詠唱魔法が基本だったらしいから、その師匠ってのはかなりの高齢な人なんだろ。何歳なんだ?」
ベテランのクルトがクロアに聞いた。
「今年でちょうど80歳よ。でも、まだまだお元気だからね!」
「あー、やっぱりね・・・だそうだ」
クルトはクロアの返事を聞くと、皆に向かって言った。
「へえー」
「そうなんだ」
「そんな歴史がねえ」
「だから詠唱ってなに?」
それを聞いて皆は感心した。詠唱については知識として知ってる者が多かったが、それをするのを見たのは全員が初めてのようだった。
その後も、クロアは色々と騒いだが、ほとんど誰も相手にせず、討伐が終わったら皆は街に引き上げた。
(やっぱり色々とやらかしてくれそうだなあ)
トキオの心には、クロアの今後に変な期待が沸いていた。




