第4話 トキオ、冒険者になる
街に入ると、ファンタジーな街並みをファンタジーな格好をしている人たちが歩いていたり、物を売ってたりしていた。
「おお!おお!スバラシイ!俺は今、猛烈に感動している!」
そう言ってトキオは、ひときわファンタジーっぽいカタチをした建物を見つめて心底感動した顔で涙を流した。
その様子を見た周りの通行人は、トキオをアブナイ人を見るような目で見て通り過ぎて行ったが、感動に浸っていたトキオは気づかなかった。
「俺もあの服着たい!」
しばらくして我に返るとその思いが沸いてきたので、街の中を進んで行って服屋を探した。
少し歩くと、正面の壁にこの世界の服がかけてある店を見つけた。ひさしの上の看板には、あの召喚方法が書いてあった本と同じ文字で『おしゃれ道場』と書いてあった。
「ここみたいだなー!ごめんくださーい」
「いらっしゃいませー!・・・って、あなた、見こともない服装ねえ。どこで買ったの?」
店に入ると、50歳ぐらいの、いかにも「おばさん」といったぽっちゃりした体形の女が声をかけて来た。
「え?ああ、俺、遠い田舎の村から出て来たばっかなんだけど、うちの村じゃこの服装が当たり前で」
「そうなの?なんて村」
「・・・トーキョー村」
「トーキョー村?聞いたことないわねえ。よっぽど田舎なのね。それで、今日はどんな服を探しに来たの?」
「今から冒険者をやろうと思うんで、それっぽい服で」
「ああ、田舎から出て来た冒険者志望の人ね。よくいるわ。・・・これなんか定番ね」
「おおー、悪くないねえ。でも、少し好みじゃないかな。ちなみに、これの値段は?」
「この服なら上下で銅貨15枚よ」
(お!思ったより高くないぞ)
トキオは、店内を歩き回って自分がイメージしていた服を見つけた。
「おー!これこれ!これぞ『冒険者!』って服だよ!これも冒険者が着る服でしょ?」
「ああ、これも冒険者によく売れる服よ。少し値段が張るけどね」
「いくら?」
「ホントは銅貨30枚なんだけど、今から冒険者始めるんなら、餞別で銅貨25枚でいいわ」
「ありがとう!じゃあ、これにする!」
「毎度ありー。今、着ていく?」
「うん」
トキオは店内の試着室のようなところで着替えると、着ていたスエットの上下をリュックに詰めて外に出た。
トキオが出ていくと、店の奥から店内にいた女と同世代の男が出て来た。
「またやってんのか、お前。あれって銅貨15枚の服だろうが」
「いいのよ!田舎から出てきたんじゃ、どうせこの町の相場なんてわかりゃしないんだから」
「さーて、次は冒険者登録するためにギルドだな」
そこでお腹が鳴った。
「うー、その前に腹ごしらえだな。そういえば、この世界に来てから料理ってものを食べてなかった。この世界の料理ってどんなかなあ」
しばらく行くとレストランと思われる店があった。表の看板には『食い道楽』と書いてあった。
トキオは、期待に胸を膨らませてその店に入った。
店の中がどうなっているかの興味もあったので、見渡せるように一番左の壁際の席に座ったら、すぐに20歳ぐらいと思われるかわいい女の子がコップに入った水を持って注文を聞きに来た。
「このお店で一番おいしい料理ちょうだい」
「うちの料理はどれもおいしいですよ」
(ああ、店の人ならそう言うか~)
「じゃあ、一番売れてる料理をお願い」
「わかりました」
そう言うと女の子は厨房の方に戻って行った。
「あ、そうだトイレトイレ・・・あの男の人が手を拭きながら出て来たから、きっとあそこだな」
トキオがトイレと思われる店の奥に向かって歩いていると、女性一人に、がっしりとした体格の男が二人、かなりの巨漢が一人の4人でテーブルについている30才前後のグループが、にやにやしながらこっちを見ているのが目に入った。
(お?ありがちな奴らだな?)
トキオは内心ほくそ笑んだ。
トキオがそのテーブルに差し掛かると、通路側でこちらに背を向けていたがっしりした男の一人がトキオの方に向きを変えて話しかけて来た。
「にいちゃん、見ない顔だな。この街は初めてか?」
「ああ、さっき着いたところだよ。これから冒険者登録をしに行こうと思ってね。そうだ、ギルドの場所を教えてくれるかい?」
その途端、4人はけたたましく笑った。
「そうかい、今から冒険者にねえ。まあ、せいぜい頑張りな。ギルドは、店を出たら右に行って、最初の十字路の角だよ」
「ありがとう。助かるよ」
そう言って軽くお辞儀をしたが、その時、向かいの席の巨漢が右足を軽く浮かせたのをトキオは目の端で捕らえていた。
トキオが、トイレに向かおうと足を踏み出した瞬間、巨漢がトキオを転ばせようと素早く通路に足を出して来た。
トキオは、それをかわすとその足の甲を思いっきり踏みつけた。
「痛ぇ!」
「通路に足を出しているとこんな風に踏まれるから気を付けた方がいいよ」
「てめえ!」
巨漢は、立ち上がるとトキオの胸倉をつかもうと左手を伸ばしてきたので、トキオは、その腕を右手で、胸元を左手で掴むと柔道の体落としをかけて背中から床に派手に叩きつけた。
それから素早く倒れた巨漢の頭の上から首に取り付き、両手で首の頸動脈を圧迫するように強烈に締め上げた。他の三人が呆然としているうちに、巨漢は意識をなくした。
「ああ、おしっこ漏れる漏れる」
トキオはそう言いながら立ち上がるとトイレに向かった。
「おい!大丈夫か!」
後ろで、そう言っている声が聞こえた。
「いやー、あんな新人いびりをするような奴らがいるところも冒険者の世界って感じだなー」
トキオは、ちょっかいを出されたことをむしろ喜んでいた。
トイレから出てくると、4人の姿はすでになかった。
「なんだあ、残りの3人が待ち伏せしてかかってくるかと思ったのに。意外に根性ないねえ」
するとそこで、別のテーブルにいた3人組の男の一人が立ち上がって寄って来た。
「あんたズゴイな!さっきの大きな男は、ここのギルドじゃ一番力の強い冒険者だよ。それをあんなに簡単に倒して、さらに失神させるとは。あんた何者だ?」
他の客たちも、敬意のこもった目でトキオを見ているようだった。
「これから冒険者になろうとしている一般市民だよ」
「わはははは!あんた面白いな」
「さっきの4人組はどこいったの?トイレから出て来たところを待ち伏せしてるかと思ったんだけど」
「あのあとすぐ、あんたが倒した男が泡を吹いてな。あのパーティーはあの男が頼りなんで何かあったら困るから、慌てて医療師のところへ運んで行ったよ」
「ああ、そういうこと。医療師ってはお医者さんのことかな?」
「え?あんた医療師を知らないのかい?お医者さんてのが逆にわからないが、医療師ってのは、魔法や薬で治療してくれる人のことだよ」
「あ、そうか。この世界じゃお医者さんて言わないのか。了解。しかし、待ち伏せされてもう一悶着あると期待してたのに、残念」
「わははは!そりゃいい!今から食事かい?今日は俺におごらせてくれよ」
「それは助かるな。ありがとう」
「気にするな。アイツらは強いのを鼻にかけて好き勝手やってたからな。ここにいるみんなはスッとしてるんだよ」
店内にいる者たちは、みんな嬉しそうな顔をしていた。
腹がふくれたので、おごってくれた人にお礼を言ってから冒険者登録をするためにギルドに向かった。ギルドは、4人組のグループの男が教えてくれた場所にちゃんとあった。5階建てでかなりの大きさのレンガ造りの建物だった。
入ると正面にカウンターがあり、20歳代前半と思われる可愛い女の子がいた。右に依頼と思われる紙が貼りつけられている掲示板があった。左にはいくつかテーブルがあり、いかにも冒険者といった剣や槍や杖を持った男女が話し込んでいた。
(冒険者のパーティーがたくさん!まさしく、ギルドだー!)
トキオは、ギルドに来たという事実と多数の冒険者のパーティーに感動して満面の笑みを浮かべ、冒険者たちを見つめた。
「こんにちは。初めての方のようですが、討伐依頼をお探しですか?」
トキオが、感動して立ち尽くしていると、受付の女の子が声をかけてきた。
「あ、えーと、冒険者登録はここでできるの?」
「はい、この王国の冒険者としての登録受付はこちらになります。他の国で冒険者の経験はありますか?」
「いや、田舎で農夫をやってたんだけど、少し外の世界が見たくなって出て来たから今回が初めてだよ。ただ、ここに来る途中でウサギから鹿ぐらいまでの魔物を何匹か倒したけど」
「魔物の討伐経験はおありなんですね。魔法は使えますか?」
「レベルは低いけど使えるよ。体は鍛えてあるから魔法スキルが低くても大丈夫だよ」
「魔物の討伐にはそれなりの技術が必要ですから体力だけでは・・・」
「あ、剣は得意だよ。子供の頃から鍛えてたから。それと格闘技もできるよ」
「わかりました、いいでしょう。では、初めてですので冒険者クラスはZ級になります」
「Z級!?・・・もしかして、26段階あって一番上はA級だったりする?」
「はい」
「うわー!先が長そうー」
「レベルの高い依頼を達成すればすぐに上がりますよ。でも、スキルの低いうちは、採取や運搬、小動物系の魔物退治ぐらいにしておかないと身の危険にさらされますけどね」
「そうなのか~。まあ、何事も経験だよね」
「お名前と年齢をお伺いします。私はミレリアと申します」
「ミレリアさんね。俺はトキオで、年は26歳」
「わかりました。少しお待ちください」
ミレリアと名乗った受付の女性がそう言って奥に引っ込んだので、トキオは依頼掲示板を見に行き、畑を荒らしているという、自分が最初に倒したウサギの魔物の絵が描いてある討伐依頼を見つけた。魔物の名前は「ウルゴン」と言うらしかった。
(怪獣みたいな名前だなあ)
そう思いながらカウンターに戻ると、ミレリアは戻って来ていた。
「じゃあこの依頼で」
「剣と魔法ができるならこれは大丈夫でしょう。受け付けました。それと、こちらが冒険者としての登録証になります」
トキオは、キャッシュカードぐらいの大きさのカードを受け取った。それは「トキオ」という名前と性別、年齢、発行したギルドの名前が記されていて、ギルドのものなのか王国のものなのかわからない紋章が描かれているシンプルなものだった。
「登録料は銅貨20枚です」
「あ、そうか、当然お金がいるよね」
トキオは銅貨20枚を渡した。
「はい、確かに。なお、討伐達成を証明するためには倒した魔物の部位が必要になりますので、忘れずにお持ちください」
「うん、そのルールはアニメで良く見るからわかってるよ」
「は?アニメ?」
「あ、いや、なんでもない。じゃあ、行って来ます」
「お気をつけて。決して無理はなさらずに。初めての方は張り切り過ぎるということがよくありますから」
「ありがとう。気を付けるよ」
トキオはミレリアにそう答えると、冒険者しての初仕事に胸を躍らせながら街の中を歩いて行った。