第37話 トキオ倒れる
そこへ、アウレラとすれ違うように支部長がやって来た。
「ヒドラは頭を二つ潰されて大分弱っているから、ここで総攻撃をかけることになった。水魔法で集中攻撃するとのことだから、みんなは上級魔法使いのところに行ってくれ。ただし、トキオの光魔法はもしもの時のための保険にしたいから、トキオだけはここで待機していてくれ・・・ん?どうした、座り込んで?」
「あ、ちょっと調子悪かったんだけど、大丈夫」
トキオは、あわてて立ち上がった。
「そうか。じゃあ、いつでも攻撃できるように少し前に出ていてくれ」
支部長はそう言うと、テントの方へ戻って行った。
(うわー、とりあえず助かった~!これはもう、他の魔法使いの人たちに期待するしかない!)
トキオは、歩いて行くアティムの魔法使い冒険者たちの後ろから手を合わせて拝んだ。
「トキオ、立ち上がって平気なの?」
振り返るとアウレラがいた。隣に、医療師と思われる中年の男性を連れていた。
「ちょっと腕を出して」
医療師は、トキオの左腕を取ると脈を測った。
「うーん、ちょっと動悸が速いね。しばらく、横になって安静にしていた方がいいだろう。その前に、このポーションを飲んで」
医療師はトキオにポーションを手渡した。
トキオがそれを飲むと、少し気分が落ち着いて来た気がした。
「じゃあ、兵士のケガも見ないといけないので、私はこれで。すぐ横になってくれよ」
そう言って医療師はテントの方へ戻って行った。
「アウレラ、悪かったね。言われた通りにちょっと横になるよ」
地面は芝生のような草に覆われていたので、トキオはそう言うと、アウレラに背を向けるように右ひじをついて横になり、それから仰向けになろうとしたら頭が弾力のある何かに乗っかった感じがした。
驚いていると、目の前にアウレラの心配そうな顔が来た。
(え!なに!?・・・これはもしかして・・・伝説の膝枕!!!)
「トキオ、ホントに大丈夫?今日はたくさん人もいるから、もう任せちゃっていいと思うよ」
「え?あ、あ・・・うん」
トキオにとって人生初の膝枕だったので焦りまくり、同時に、
(いや、ここまでしてもらうのはマズいよ。立たなきゃ)
という思いが沸いてきたものの、その意思に反して力が抜けて体は言うことを聞いてくれなかった。
そのうち、アウレラの太もものあまりの気持ちよさと、下から見上げるアウレラの美しい顔と巨乳に完全に思考が停止し、そのままアウレラの顔を見つめて膝枕されたままでいた。
「グギャオォォォ―!」
しかしそれも、ヒドラの苦しそうな咆哮であっという間に終わりを告げた。
二人が声のした方を見ると、首を取り囲むように陣取った魔法使いたちからの一斉の水魔法攻撃で、ヒドラが苦しみながら地面に倒れるところだった。
そこに、軍の冒険者3人が飛びつき、両目に剣を、眉間に槍を突き立てた。
ヒドラは、一度「グゥ」と唸ったっきり、やや上げていた頭を力なく地面に落として動かなくなった。
「やった!」
この光景に、トキオは思わず立ち上がった。
そこへ、
「やったねトキオ!」
と、言いながら、アウレラが思いっきり抱きついて来た。
アウレラの巨乳の柔らかい感触が思いっきり胸に伝わって来たので思わずそこを見たら、はち切れんばかりの胸の谷間がすぐ目の前にあったうえ、押し付けすぎて服がずれ下がり、乳輪の端っこが見えていた。
(・・・あ、だめだ)
トキオは、鼻血を出してその場に崩れ落ちた。
「あ、トキオ!しっかりして!トキオ・・・」
それから、アウレラの声が徐々に小さくなり、その場で意識を失った。
トキオが目を覚ますと、目の前に幌の天井が見えて体に軽い振動が伝わって来た。
「ここは・・・?」
「ああ、トキオ、気が付いたか」
「大丈夫?」
「帰りの馬車の中だ」
テリット、アウレラ、ブロームが、両脇に座っていた。
「あれ?俺、どうしたの?」
「鼻血出して倒れちゃったのよ。調子悪そうだったのに、いきなり立ち上がったりするから」
「あ゛・・・」
トキオは、先ほど見たアウレラの胸が鮮明に蘇って来て、また鼻血が出そうになったので思わず鼻を押さえたら、鼻の穴に脱脂綿のようなものが詰めてある感触があった。
「鼻血を止めるために詰めたのよ。しばらく取っちゃだめよ。街に着くまで寝てて」
「ああ、ありがとう」
それだけ言って、素直に横になったままでいた。
「しかし、どうしたんだ?ヒドラの恐ろしさにビビッたか?」
「いやー、そういう訳じゃないんだけど、なんか急にね・・・」
アウレラもいたし、また、からかわれるだけだしで、とても本当のことは言えなかった。
「ところで、ヒドラはどうなったの?」
「お前も最後の攻撃は見てたようだけど、全部の首が沈黙したんで、残った二つの首も念のため切断して、それで本当の終わりになった」
「そう。良かった!」
「お前が光魔法を放つところを俺たちは上から見ていたぞ。あれがなかったら、軍の冒険者の一人はやられていただろう。さすがだな」
「しかし、前に見たのよりちょっと威力が弱かったな」
ブロームが言った。
「ああ、とっさに出したからね。気を溜める時間がなかった」
「気を溜める?」
「ああ、えーっと、ぐーっと気合を込める感じかな」
「ほーう、それをやると魔法の威力が上がるのか?」
「うん。少なくとも俺はそうだね」
「じゃあ、俺のもそうやれば威力が上がるんだな!」
「そうだと思うよ。試してみて」
「そうか!」
テリットは実に嬉しそうだった。
「火打石がマッチになっても大して変わらない」
アウレラがぼそりと言った。
「なんか言ったか?」
テリットが聞いた。
「ううん、別にい・・・それより、そういうことだったのね。あしたは、反射魔法と防御魔法を使い過ぎたせいかと思って、申し訳ないなと思ってたのよ」
「え?そ、それは関係ないよ。威力に関係なく、魔法ごとの1回に消費するMPの量は同じだから」
アウレラの言葉にトキオはドキッとした。
「あ、そうなんだ。あたしの治癒魔法は、かけてる時間によって消費量が変わるから、それと同じかと思ってたよ」
「威力は違っても魔法を出す時間は変わらないからじゃないかな」
「あ、なるほどね」
「それにしても、魔獣があれほどとはな。確かに、俺たち一般の冒険者の手には負えないな」
「あたし、魔獣って初めて見たけど、みんなもそうだと思うから魔獣に対する認識が大分変わったんじゃないかな」
「まったくだ。まず、あのデカさに圧倒されたよ」
「ホントだよねー。まるで怪獣みたいだったよねー」
そのトキオの言葉で他の3人はキョトンとした顔をした。
「カイジュウ?海の魔物って意味か?」
テリットが聞いた。
「え?・・・あ、あー、うちの方では凄く昔にいたっていう大きな動物をそう言うんだよ」
「あー、恐竜のことか。トキオの村ではカイジュウって言うんだな」
「そうそう。あの、骨の化石とかだけ見つかってるやつ」
「ああ、じゃあやっぱり恐竜のことだな」
(そうかー、この世界に怪獣なんかいるわけないな。でも、恐竜はいたんだなあ)
「しかし、うちみたいな辺鄙な街にいる冒険者じゃ、魔獣なんか見るのは初めてだろうな。いるとしたら、昔、王国軍の冒険者をやってたクルトだけだろ」
「あー、確かにクルトなら可能性あるな」
「ドラゴンだって見てるかもよ」
「そうかもな」
「ドラゴン!?いるんだ!」
トキオは、驚いたと言うより嬉しさで聞き返した。
「あ、ああ。ドラゴンに関しちゃあ、兵士や上級魔法使いでもほとんど見た者はいないらしいが、確かにいるらしい」
テリットは、トキオの反応にやや気おされながら答えた。
「ドラゴンってどんな立ち位置なの?」
ドラゴンに関しては、マンガやアニメでは、お話によって主人公との関係が全然違っているので、トキオは聞いてみた。
「立ち位置?人間や魔物との関係ってことか?」
「そうそう」
「一応、王国軍では敵対する生物とみなして見つけたら攻撃しているらしい。魔物との関係は不明だが、少なくとも魔物と行動を共にしているところを見たという記録はないそうだ」
「へえ~、それは興味深いねえ」
トキオは、かなりワクワクしてくるのを感じた。
「なんだ?ドラゴンに興味があるのか?」
「すごく強いって話だからね。そういうのって興味沸かない?」
「まあ、確かに気にはなるな。人間に討伐された例は一つもないらしいから、相当な強さなんだろうしな」
「あ、やっぱりそうなんだー」
トキオは、ドラゴンに会いたくてしょうがなくなってきた。
「まあ、かなり人里離れた、人間が普通は行かない場所にいるらしいから、俺たちじゃ一生出会うことはないと思うがな」
「え?そうなの?それは残念だなあ」
(よーし!もうちょっと冒険者としての腕を上げたら、ドラゴン探しに行くってのも悪くないぞ)
トキオはそんなことを考えていた。
アティムの街のギルドに戻ると、支部長が冒険者全員を招集して、今日の経過報告と今後の対策検討の話をした。
また、支部長が冒険者全員に確認したところ、以前に魔獣を見たことがあったのはクルトだけだった。
「魔獣と言っても、俺が見たのはヘルハウンドっていう、グリベラーぐらいの大きさの犬の魔物だからな。今日のヒドラには圧倒されたよ」
クルトはそう言った。
(この世界にヘルハウンドはいるんだー。じゃあ、俺が召喚された洋館で見たヘルハウンドは、やっぱりここから来たんだな[第1話参照])
トキオは、クルトの言葉でそんなことを思い出していた。
皆、ヒドラの凄さに圧倒されていたので、一様に沈んだ面持ちだったが、ドロップアイテムとして一つの頭から金貨10枚が出たという話には、全員の顔がほころんだ。
(全部で30枚ってことは・・・4億5千万円!すげっ!)
トキオもこれには驚いた。
結局、この日は有効な対応策は誰からも出なかったので、夜もかなり遅くなっていたこともあり、解散して各自で考えてくることになった。




