第35話 魔獣出現
アルアビス近郊の森。
一人の若い医療師が、薬草採取のために護衛の冒険者二人を連れて森の中を歩き回っていた。
しばらく行くと、緩やかな斜面の岩肌が続く場所に出たが、1か所奥に向かって細長く陥没している場所があった。
「もしかすると、ここがゴブリンとオークがいた洞窟の跡?」
医療師は、少し怯えた声で冒険者の一人に聞いた。
「ああ、そうだが、完全に入り口が潰れてて、もう、ゴブリンもオークも出て来れないから安心していいぞ」
「そう、良かった」
医療師がホッとした途端、地面が大きく揺れた。
「なんだ!地震か!?」
冒険者の一人が、あわてて医療師の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。
揺れは収まらず、そのうち、陥没した場所の先の岩が崩れてこちら側に転がり落ちてきた。
「危ない!こっちへ下がるぞ!」
3人は、あわてて木が密生している方へ移動した。
そこで身を伏せて岩が崩れて来た方を見ていると、大きく野太い鳴き声がしたかと思うと、首の長い巨大な頭が3つ岩肌の下から現れた。
「あれは・・・魔獣だ!」
「俺たち二人じゃどうしようもない!街へ戻るぞ!」
冒険者の二人は、医療師の腕を掴んだまま街へ向かって走り出した。
その数時間前。アティムのギルド。
「おはよう」
「おお、トキオ。昨日はいきなり帰っちゃうからびっくりしたぞ」
「ホントホント」
「ごめんごめん」
「で、ハードオークに有効な武器ってなんだ。説明しろよ」
「あー、それね。うーん、ホントに説明が難しいんだけど、簡単に言うと火薬の爆発力で小さな弾丸を飛ばしてものを貫通させる武器、ってとこかな」
「弾丸?」
「小さな金属の固まりだよ」
「ふーん・・・それで、どうやってそれを飛ばすんだ?」
「だから、実物がないと説明が難しいよ。もうフーゴに頼んで来たから出来上がるまで待ってよ」
「え!もうか!早いなあ」
「善は急げって言うでしょ?」
「は?なんだそれ?」
「あ・・・そうか、そういうことわざってここにはないんだよね」
「まあ、そう言うならしょうがない。待つか。しかし、本当にハードオークに有効なのか?」
「弾丸を工夫すれば間違いなくあの皮膚を貫通できると思うよ」
「マジか!それスゴイな!」
「驚き!」
「信じられん!」
「だからさ、出来上がるまで待ってて」
「わかった・・・トキオ、朝飯は?」
「今日は家で食べて来たよ」
「そうか。じゃあ、出かけるぞ」
「うん」
「了解」
「よっしゃ」
この日の仕事は、商人を北の街まで護衛する任務だったので時間はそれなりにかかったが、大した魔物も出て来ず、問題なく終わった。
街に戻って来てギルドに向かって歩いていると、王国軍の兵士が隊列を組んで西門の方に向かって行くのが目に入った。
「訓練に出かける時間じゃないし・・・こりゃ、何かあったな!ギルドに急ごう!」
4人はギルドに走った。
「ミレリア!、今そこで兵士が西門に向かってるのを見たんだが何かあったのか!」
テリットは、ギルドに飛び込むなり受付にいたミレリアに聞いた。
「あ、テリットさん!お待ちしてました!魔獣が・・・ヒドラが出たんです!」
「なんだって!」
トキオを除く3人は驚きの声話上げた。
トキオも、さすがにこれには驚いて息を飲んだが、驚きが収まると、
(リアル魔獣って初めてだなあ、どんなのかなあ)
と、考えていた。
しかし、すぐに、
(いけね!また、顔が緩んじゃうところだった!)
と、気づいて、下を向くと同時に顔を引き締めた。
「あちらで支部長が話をしてますから、テリットさんたちもお願いします」
ミレリアが飲食コーナーの方を指して言った。
見ると、支部長が椅子の上に立って話をしていて、周りを冒険者たちが囲んでいたので、テリットたちもそこへ移動した。
「・・・そこで、手に負える相手じゃないと判断して、アルアビスの出城からこの街の王国軍に出動要請が出た。そろそろ、出発している頃だ」
「それなら、今、西門に向かって行くところを見た。もう、街の外に出てるだろう」
テリットがそう言うと、皆が一斉にテリットを見た。
「ああ、テリット、戻ったか。ヒドラが出たんだ」
「今、ミレリアから聞いた。状況は?」
「アルアビスの王国軍がすぐに出動したが、全然歯が立たないため、こっちの王国軍にも出動要請があった。たぶん、他の街からも行くだろうが、ここにいるみんなも応援に行ってほしいと話していたところだ」
「そうか・・・作戦は?」
「現地の状況がほとんど伝わって来ないから作戦の立てようがない。一刻も早く応援に行く必要もあるから、とりあえず現地に行って状況を確認してから軍も交えて相談しよう」
「わかった。場所はどこだ?」
「先日、オークを討伐した場所だ」
「え?あそこは、トキオが入り口を潰しただろ?他所から来たのか?」
「いや、どうやら、さらに下の階層にいたか、洞窟内のどこかに潜んでいたらしく、地面を割って現れたらしい」
「ウソだろ!?・・・ちっ!さすがは魔獣ってところか」
そこで支部長は顔を上げ、皆を見渡すと言った。
「そういうことだから、準備のできたパーティーからすぐに出発してくれ。馬車は外に用意させた」
それを聞いた冒険者たちは準備をはじめ、すでに準備の出来ていたパーティーは入り口に向かって行った。
「こりゃ、数で押さないと無理だろうな。それと、トキオの閃光魔法が必要になるぞ。MPは大丈夫か?」
「今日は魔法は使ってないから大丈夫だと思う・・・ステータス!」
トキオはステータス画面を表示して内容を確認した。
「うん、満タンだ大丈夫。それどころか、またレベルが一つ上がってるから、最大MPも2つ増えてるよ」
「上がったって、いくつになったんだ?」
「Lv18だね」
「なんだそれ!」
「ひゅ~」
「まいったまいった」
そんな会話をした後、長丁場になるかもしれないと思ったので、エレザベスに頼んで4人分の軽食を用意してもらった。
それは、コッペパンに野菜やハムを挟んだものだった。
目的地に近づくと、大きな地響きと、兵士たちのものだと思われる大きな声が聞こえて来た。
あたりはすっかり暗くなっていた。
さらに進むと、巨大な何かが暴れているのが見えて来た。
「あれがヒドラか、なんてデカさだ・・・」
テリットは驚きすぎて呆然としているという感じだった。
(スゴいな。30メートルはあるんじゃないのか?首も3つあるし、まるでキングギドラだな)
トキオは、驚くと同時に、子供の頃からテレビや映画で見て来た怪獣の実物を目にした気分になり、ワクワクしてくるのを感じた。
「あんなの、どうやって倒せばいいのよ」
「ホントだよなあ」
アウレラとブロームも呆然としていた。
さらに行くと、篝火がいくつも焚かれていて明るくなっている場所があり、そこに馬車がたくさん停まっていた。
冒険者たちの待機所になっているようだった。
トキオたちも馬車を停めて降りた。
先へ進むとテントのようなものがあり、そこに支部長がいて、軍の将校と思われる人物も交えて数人で話をしていた。
左右を見ると、右側が小高い丘になっていて、アティムから来た冒険者たちはそこで戦況を見つめているようだったので、トキオたちもそこへ移動した。
「マルケル、どんな状況だ」
「ああ、テリット。うーん、芳しくないな」
テリットの問いかけに、マルケルは渋い顔をして答えた。
そう言われてトキオたちがヒドラの方を見ると、王国軍が投石機を使ってしきりにヒドラに攻撃していたが、ほとんど効果を上げていないようだった。
「投石器まで使ってダメだとなると、一体どうするんだ?あれじゃ矢なんか効かないだろう」
「そうだなあ。投げ槍や魔法で攻撃するんじゃないかな。トキオ、お前も呼ばれると思うぞ」
「そうか・・・わかった」
トキオはそう答えたが、必要になったら呼びに来るだろうと思って、その場所にそのままいた。
それは、怪獣のようなものが暴れている姿に完全に惹きつけられていたからだった。
しかし、その直後、投石が一斉に止んだ。
「うん?どうした?諦めたか?」
テリットが言った。
「いや、誰か出て来た・・・あれは、上級魔法使いか!」
そう言うと、マルケルはその方向を指さした。
トキオがその方向を見ると、黒っぽく、裾が長く、フードを被った、アニメでよく観る、いかにも「レベルの高い魔法使いです!」という格好の人物が3人、ヒドラの方へ歩いて行くところだった。
かなり遠かったうえフードのせいで顔が見えなかったので、年齢と性別はわからなかった。
「そういえば、あのヒドラの弱点属性ってなんだ?・・・ステータス!」
テリットは、ステータス画面を表示させてそれを見た。
「ああ、水なんだ・・・それと、光もだな・・・トキオ、やっぱりお呼びがかかりそうだぞ」
「あら・・・ステータス!」
トキオもステータス画面を表示させて確認した。確かに、弱点は水と光だった。
「トキオ!来てくれ!」
その直後、テントの方から支部長に呼ばれた。
トキオが降りて行こうとすると、
「状況が知りたいし、連絡係も必要だからあたしも行くよ」
と言って、アウレラがついて来た。
二人で支部長のところまで行くと、他にも数名、アティムの冒険者がいた。
「ヒドラの弱点属性は水と光だということなので、水魔法と光魔法が使える冒険者に集まってもらった」
支部長がそう言うと、テントの中がざわめいた。
「光魔法だと!アティムには、そんなのを使える冒険者がいるのか!」
皆、それが誰だか探るようにこっちを見たが、支部長は無視して続けた。
「まず、3つの街の上級魔法使いが攻撃して様子を見るとのことで、その状況次第で出動要請が出るようだ。だから、すぐに出られるようにそこで待機していてくれ」
支部長はそう言うと、テントの左側の少し開けていて、戦況が良く見える場所を指さした。
「了解」
皆はそう言ってその場所に移動した。
アウレラもついて来たので、トキオは、アウレラと並んで話しながら戦況を見つめた。




