第34話 ハードオークと新たな武器
「ハードオーク?」
トキオは聞き返した。
「ああ、俺も、というか、たぶん全員、目にするのは初めてだが、皮膚が異様に固くて矢はもちろん剣もはじくって話だ」
「ホントに!?」
「トキオとアウレラの刀じゃ折れる可能性もあるな」
「なんと!」
「ハードオークはオークのリーダー的存在だって聞くから、あいつがこの間の討伐の時に指示を出してたんじゃないかな?」
ブロームが言った。
「ああ、多分そうだな。あの時は先手を取られたから、統率して指示を出しているヤツがいるな、とは思ってたんだが、多分こいつだろう。今倒した2体とこいつは、きっと、あらかじめ洞窟の外に出ていてどこからか戦況を伺っていたんだろうが、洞窟が塞がれて残りも短時間でやられたので、逃げてここまで来たんだろうな」
ハードオークは右手に鉈を持っていた。
「とにかく、どういう攻撃が通じるか確認する必要がある。俺の剣が一番頑丈だと思うから、俺が後ろから切りつけてみる。みんなはヤツの注意を引き付けてくれ」
「わかった」
「その前にアウレラ、強化魔法を頼む」
アウレラは無言で全員の武器に強化魔法をかけた。
テリットは、静かに右の方に移動して行った。
他の3人は左に移動すると、藪が切れたところで一旦止まり、ブロームが片膝をついて弓を構えて待機した。
それから、テリットがハードオークの向こう側に移動し終わるのを見届けると、トキオとアウレラが前に出てからトキオが怒鳴った。
「おい!こっちだ!」
その声でハードオークはトキオの方に方向を変え、威嚇のためか大きな声で吠えた。
「ぐおおおぉぉぉぉ!」
トキオとアウレラは、少し間隔を開けて立ち、刀を正眼に構えた。
それからトキオは、剣道の試合の時のように気合のこもった声をハードオーク目掛けて発した。
「しゃぁぁぁぁーーー!」
その声でハードオークは一瞬怯んだが、すぐに、トキオの方に移動しようと足を踏み出した。
その瞬間、大きくジャンプしたテリットが、ハードオークの後ろから右の肩口に激しく切りつけた。
「ガンッ!」
固い音がして、剣は跳ね返された。
ハードオークは振り返ったが、テリットはこうなることを予想していたのか、すでに後方3メートルほどのところに飛び下がっていた。
「なんてこった!無傷かよ!こっちは少し手が痺れちまった。なんて固い皮膚だ!」
その様子を見たブロームは、弓を置いて腰の短剣を抜いた。
トキオは、閃光魔法をハードオーク目掛けて放ったが、ハードオークが少しテリットの方に移動したせいで、間に木が入ってしまい、その木にぶつかって爆発した。
「ダメだ!ここじゃ木が多くて光魔法を当てるのは難しい!」
トキオは右に、アウレラは左に移動し、3方からハードオークを取り囲む陣形を取った。
「魔法も剣もダメか。しょうがない、火薬玉を使うぞ!」
「ああ、しょうがないな」
ブロームが答えた。
「火薬玉?」
「トキオは知らないのか。これだ」
テリットは、そう言うと腰から下げた袋から、小さな打ち上げ花火の玉のようなものを取り出した。
それから、トキオのそばに移動するとその火薬玉をトキオの方に突き出した。
「ちょっと、この上から出てる紐の先に火をつけてくれるか」
「わかった」
トキオは、導火線と思われる紐の先端に人差し指で触れて火をつけた。
「よし!」
テリットは、時々導火線を見ながらハードオークの死角になるように移動した。
トキオとアウレラが、「ほら、こっちだ!」と言ってテリットの反対側から声をかけた。
アウレラが、ハードオークに一度切りつける動作をしてから飛び下がった。
ハードオークがアウレラの方に踏み出そうしたので、今度はトキオが同じように切りつける動作して飛び下がった。
二人を交互に見ながら立ち止まったハードオークを見たテリットは、その股の下目掛けて火薬玉を投げた。
「みんな、離れて伏せろ!」
そう言いながらテリットは、後ろに跳んで地面に伏せた。
残りの3人も、ハードオークから離れるように後ろに跳んで地面に伏せた。、
ドーーーン!
その直後、大きな爆発音とともに火薬玉が破裂して、ハードオークは仰向けにその場に倒れた。
テリットとアウレラは急いで駆け寄ると、突き通せそうな口と目に剣と刀を突き立てた。
ハードオークは、一度、ビクンと体を震わせたきり動かなくなった。
「ふう、なんとかなったな」
テリットは、剣を引き抜くと片膝をついた。アウレラは、両ひざに手をついて前かがみになっている。
「しかし、ハードオークの皮膚がこんなに固いとはな。こりゃあ、何か方法を考えないと何匹も出てきたら対応できないぞ」
ブロームが言った。
「そうだな。強化魔法をかけた剣が全く通用しないとはな。ちょっと、帰ってみんなに相談だ」
「火薬ってあったんだね」
トキオがテリットに聞いた。
「火薬のことは知ってるんだな」
「え?ああ、まあね。こんなに大量に使ったことはないけど」
「そうだろうな。何しろ火薬は貴重で値段が張るからな。今使った火薬玉だって、3人で金を出し合って買ったものだ。見た通り強力なんだが、そういうわけでめったなことじゃ使えないんだ」
(この世界にも火薬ってあったんだ。じゃあ、それを利用して貫通力の高い武器を作れないかな・・・)
「トキオ、ちょっと頼む」
トキオがそんなことを考えていたら、テリットから声がかかった。
見ると、3人でハードオークの頭のところにしゃがみ込んでいた。
「なに?」
「ドロップアイテムを取りたいんだが、剣じゃ頭を割れないから、お前の光魔法でなんとかならないかと思ってな」
「ああ、そういうこと。じゃあ、ちょっと下がって」
3人はハードオークから離れて、トキオの背後に周った。
「でも、あんまり強くするとドロップアイテムも壊れそうだから加減が難しいなあ」
「あ、そうだな」
「まあ、まず弱めにやってみるよ」
トキオは、右手を開いて前に突き出すと、少し気合を込めてから閃光魔法を放った。
ドーン!
大きな音がして、ハードオークの頭のところで爆発が起こり、大きく土埃が舞い上がった。
土埃が収まってハードオークを見ると、頭は原形をとどめていた。
「あの威力でも破壊できないのかよ!まいったな」
テリットはそう言いながら、ハードオークに寄って行った。他の3人も続いた。
4人でハードオークの頭を覗き込んでみたら、ひびが入っているようだった。
「お?これなら硬い石で砕けるかもしれないぞ」
そう言うと、ブロームはきょろきょろと辺りを見回し、幅40センチほどの大きな石を見つけるとそこに行き、両手で持ち上げた。
それから、ハードオークの頭のところに来て叩きつけようと大きく振り上げた。
その瞬間、他の3人は3歩ほど後ずさった。
バゴン!
ビシャ!
叩きつけた石によって、ハードオークの頭部は破壊され、同時に脳みそも粉々になって血しぶきが飛び散り、ブロームは顔から胸まで血まみれになった。
「やっぱり」
残りの3人がほぼ同時に言った。
「うわー、しまった!」
ブロームは呻いたが、血しぶきで目が見えなくなっていたので3人が下がったのには気づかなかった。
「ご苦労さん。あとはやるよ」
ニヤニヤした顔でテリットはそう言うと、しゃがんでハードオークの頭に手を突っ込んだ。
ブロームは腰から外した手拭いで、しきりに顔をぬぐっている。
「えーと・・・おお!まさか!」
テリットがハードオークの頭から手を抜いて差し上げると、そこには金貨が2枚握られていた。
「おおおーーーー!」
他の3人は、感激と驚嘆の入り混じった声を上げた!
(金貨2枚ってことは、4人で分けても一人・・・750万円だ!俺の年収より多いじゃないか!)
あまり金のことは気にしてなかったトキオも、さすがにこれには興奮した。
「これだけでも1年ぐらい働かなくても大丈夫だなあ」
テリットが嬉しそうな顔で言った。
「ホントねえ。魔物がいなきゃそうしたいぐらいよね」
「そうだな」
その言葉で、皆の顔から笑みが消えた。
(やっぱり、みんな魔物退治が優先なんだなあ)
トキオはそう考えて、この世界の人々が魔物に感じている脅威を再認識するのだった。
(で、そうそう。火薬を使った武器・・・・・あ、そうか!)
「ごめん、俺、こいつに有効な武器を思いついたからちょっと先に帰るね」
「なに!?なんだそれは?」
「説明が難しいからあとで」
トキオはそう言うと、皆を置いて街の方に駆け出して行った。
(そうだ、俺には得意なことがもう一つあったじゃないか。異世界になじみ過ぎてすっかり忘れてたよ)
トキオは、そんなことを考えながら街に向かって走って行った。
(鍛冶屋のフーゴに作ってもらうとしても、見たこともない武器だから詳細な設計図がいるな)
体力には自信があるとはいえ、徒歩40分の距離を一気に走って来たので息か上がっていたが、そんなことはまるで気にせずに、紙を大量に買って自分のアパートに戻った。
そして、着替えもせずに机に向かって何かの設計図を描き始めた。
「よっしゃ、できた!」
すでに夜になっていたが、作成した設計図を丸く巻いて手に持つとアパートを出た。
フーゴの店に着くと閉まっていたので、裏に回り大声で呼びかけた。
「すみませーん!」
しばくらくして、裏口のドアが開くとフーゴが出てきた。
「こんな時間にどうした?」
「あ、ごめん。もう寝ようとしてた?でも、少しでも早い方がいいと思って」
「いや、まだ仕事してたけどな」
「良かった。ちょっと大急ぎで作って欲しいものがあるんだけど」
「なんだ?新しい刀でも欲しくなったか?」
「いや、全然違う概念の武器だよ。設計図を持って来たから説明するよ。中に入れてくれる?」
「ほ~う。まあ、入れ」
トキオは、中に入ると設計図を見せながら、これがどういう概念の武器なのか説明した。
「貫通力は高いし、魔法を無効化する種類の魔法は効かないし、かなり有効な武器になると思う」
「なるほど~。こんな武器があったのか。これもお前の村で使ってたものか?」
「うん、そう。どう?できそう?」
「まあ、これだけ細かい設計図があったら各パーツを作るのは可能だな。ただ、組み立ては一緒にやってもらった方が確実な気がする」
「わかった。じゃあ、できたら連絡くれる」
「了解だ」
「じゃあ、これ製作費用ね」
トキオは銀貨が何枚か入った袋を渡した。
フーゴは受け取ると、中を確認した。
「うーん、この半分でいいよ」
「え?それじゃ少ないでしょ?」
「その代わり、これが出来上がって想定通りの武器だとわかったら、うちで専属に作らせてもらえるか。これは、きっと売れるぞ。もちろん、売上の何パーセントかはお前に発案料として支払う」
「わかった。それは全然かまわないよ。じゃあ、なるべく早くね」
「俺も興味を引かれたから最優先でやらせてもらうよ」
「ありがとう!」
トキオはそう言って、フーゴに一礼すると外に出た。
(うーん、これは出来上がりだか楽しみだな~)
そう考えて思わずほくそ笑んだ。
そこでお腹が鳴った。
(お腹空いたなあ。そう言えば討伐に行ってから何も食べてなかった)
トキオは、一番近い食堂に向かって歩き出した。




