第33話 テリットの魔法
ゴブリンは討伐できたが、街の近くに現れたことに危機感を高めたギルドは、冒険者に交代で街の近郊の見回りをさせることにした。
ギルドからの依頼という形だったので、一応、報酬は出たが、冒険者たちは自分の家族や知人に被害が出ることを恐れたので、ほとんどの者が積極的に参加した。
同時に、出城から王国軍の調査隊が出動し、どの方面から現れたかを特定しようとしたが、悪いことに次の日が大雨になったためゴブリンの足跡が流れてしまい、特定することはできなかった。
その次の日の朝、ギルドにて。
「そうそう、一昨日のゴブリン討伐の時にドロップアイテムを取り忘れたって言った話だけど」
「うんうん」
「良く考えたら、ゴブリンからとれるお金って、平均すると銅貨3枚ぐらいだろ?ということは、洞窟の中に放置したのは全部で8体だったから、25枚前後ってことだ。合同の時のルールで山分にすると、結局、一人あたり銅貨半分ぐらいにしかならないから、実は大した金額じゃなかったよ」
「ああ、そう言えばそうね。そのこと自体を忘れてたわ」
「あれ?俺はすぐ気づいたけどな。気づくの遅くないか?」
「ぷっ!」
そのやり取りを聞いて、トキオは思わず噴き出してしまった。
「あ、トキオ!お前だって気づいてなかったくせに!」
「いや、俺は全然気にしてなかったから、今の今まで忘れてたよ」
「ほんとかー?」
「あら、あたしもそうよ。討伐が終わった後も、街に戻りながらこれからどうしようって考えてたから、そんなことはすぐにどっかに行っちゃったわよ」
「ちぇっ、独身者はお気楽でいいな」
「そうね。ざんねーん」
アウレラが明るく言った。
「まあ、もう済んだことは忘れて、今日の討伐で稼ぐことを考えようぜ」
ブロームが言った。
「ああ、そうだな」
「今日の依頼はもう受けて来たんでしょ?なにをやるの?」
トキオが聞いた。
「実は、ゴブリンから取りっぱぐれたし、昨日は大雨で討伐に行けなかったから、今日は少し早めに来て、稼ぎの良さそうなのを選んどいたんだよ」
「ほほう」
残りの3人は、思わず口元が緩んだ。
「ということで、ディアギラスの討伐だ。ここから歩いて40分だからそれほど遠くもないぞ」
「なるほど、銀貨狙いか。場所もまあまあだな」
「でも、そんな近場にディアギラスが出るようになっちゃったの?やっぱり、この街の近辺にどんどん魔物が増えてる気がするわね」
「間違いないな。みんなで話し合って、今後、どう対処していくか考える必要があるな」
「ああ、そうだな。今日、戻ってきたら支部長と相談してみよう。それじゃ、そろそろ出かけるぞ」
「あ、その前にちょっと。一昨日のことだけど、トキオ、呪文を唱えないで魔法を使ってなかった?」
「あ、うん」
「もしかして、オーク討伐の時もそうだった?」
「そうだね」
「そんなことができるのか。それも練習したのか?」
「いや、たまたま唱えないで火炎魔法を出したら出たんだよ。だから、アウレラもできると思うよ。頭でイメージすればいいんだ」
「そうなの?じゃあ、ちょっとやってみるね。トキオ、ライキリを抜いてくれる?」
トキオは、言われるままにライキリを抜いてアウレラの方へ差し出した。
アウレラはライキリの脇にしゃがみ、刀身に右手をあてて何かを念じる様子を見せた。
すると、ライキリの刀身がうっすらとした光に包まれた。
「あ、ホントだ。できた!」
「強化魔法をかけたのか?」
テリットが聞いた。
「そうよ。なんだ、そうだったのかー。知らなかったなー」
「俺も、たまたま知っただけだから、これに関しては、他にも気づいてる人がいるんじゃないかな」
「そう言えば、ベテランの魔法使いで唱えないで魔法を使う人いるわね。あれって、聞こえないように口の中で唱えているのかと思ってたけど違ったのね」
「ああ、やっぱりいるんだね」
「また一つトキオから情報が出たな。じゃあ、行くぞ」
テリットが微笑みながらそう言うと、全員が立ち上がって出かける準備をした。
「さてと・・・俺、今日さあ、ちょっと魔法を使ってみようと思うんだよ」
テリットが、討伐場所の森に着くと言った。
「魔法?・・・ああ、そう言えば火属性の魔法が使えるようになってたわね」
「そう、それ。トキオのを見てたら、攻撃魔法も交えて少し離れた距離からも攻撃できるようになれば、討伐が楽になるんじゃないかと思ってね」
「まあ、確かにそうね」
「それと、ブロームの負担も少し軽くなると思ってな」
「ああ、まあ、そこは気にしなくていいぞ」
「魔物が増えて来たから、そうも言ってられなくなるって」
「まあ、そうかもしれんが・・・」
「レベルは上がったの?」
「ああ、昨日確認したらLv2になってたよ」
トキオの問いかけに、テリットは嬉しそうな顔で答えた。
「へえ・・・」
トキオは、そう相槌を打ったが、
(うーん、Lv2じゃあんまり役に立たない気がする)
と、思った。
アウレラとブロームの顔を見たら、同じように思っているのが良く分かった。
「練習はしたの?」
「ああ、実はこっそりやってたんだ」
「そう・・・」
「まあ、実戦練習は必要だからな。だが、それで剣が疎かになったら困るぞ」
ブロームが言った。
「そこは大丈夫だよ。あくまで、仕留めるのは剣だ」
(ホントに大丈夫かなあ・・・まあ、ディアギラスなら他の3人でフォローすれば平気だろうけど)
しばらく行くと、ディアギラスが1体、向こうを向いて何かを食べているのが見えた。
かなり大きな個体だった。
「いたぞ」
テリットが小声で言って、右手で止まれという合図を出した。
「ここからじゃ角度が悪いな。1撃で致命傷は無理そうだ」
ブロームが言った。
「よし、左に回り込もう」
4人は姿勢を低くして、気づかれないように注意しながら左に移動した。
「よし、ここからなら頭が狙えそうだ」
ブロームはそういうと、素早く矢をつがえて射た。
ヒュッ!
しかし、矢が耳の後ろに命中したと思った瞬間、突然、ディアギラスが頭を下げ、矢は角に当たって弾かれた。
「あ、くそっ!」
ブロームが舌打ちした。
ディアギラスは、こちらに気付いて一旦顔を上げたが、すぐに頭を下げて威嚇してきた。
「よし!じゃあ、俺が火炎魔法を放って動きを止めるから、みんなはすぐに攻撃してくれ」
テリットが言った。
「え!?ちょ・・」
アウレラが止めようとしたが、テリットは素早く右ひじを一旦引いてから手を開いて前に突き出した。
「ファイド!」
トキオのとは比べ物にならないほど貧弱な火球が飛んで行ってディアギラスの頭部に命中し、頭部は炎に包まれた。
「よし!やった!今だ!」
テリットが叫んだので、トキオとアウレラは仕方なく出て行こうとしたが、ディアギラスが激しく首を振ったら簡単に火は消えた。
「あら?」
テリットはその場で固まった。
ディアギラスは、怒りの表情になり、こちらに向かって突進して来た。
頭を激しく上下させていたので、弓では狙えそうになかった。
「もう!逆に怒らせちゃったじゃないの!トキオ、行くよ!」
アウレラがそう言う前に、すでにトキオはディアギラスに向かっていた。
トキオはアウレラの少し右前を走り、ディアギラスにぶつかる寸前に左にフェイントをかけてから右へ飛んだ。
ディアギラスは、それにつられて一度右に頭を振ってから左へ行こうとしたので、大きくスピードが落ちた。
そこを狙って、トキオの陰からアウレラが左に飛びながらチドリで右前脚を切りつけた。
少し浅かったが脚を払う格好になったので、ディアギラスは頭から地面に突っ込んだ。
そこへトキオが飛びつき、心臓のあたりにライキリを突き立てた。
ディアギラスは、一度頭を上げてトキオを睨んだが、すぐに横に倒れて動かなくなった。
「ふう」
トキオがライキリを抜くと、アウレラも安堵した表情になったが、すぐに怖い顔になってテリットを睨んだ。
「魔法、全然役に立たないじゃないの!」
「あ、うーん」
テリットはバツの悪そうな顔をした。
「もう少しレベルが上がって、相手の動きが止められるぐらいになるまで使用禁止だな」
ブロームが真顔で言った。
「ええーーー!?・・・わかったよ」
テリットはしょんぼりして俯いた。
「そうだ!今日は特に大事なドロップアイテムだ」
トキオはそう言って、ライキリでディアギラスの頭を叩き切った。
頭の中を探ってみると銀貨が3枚出て来たので、それを差し上げて皆に見せた。
「おお!3枚か!ゴブリンより全然いいな!」
テリットが言った。すっかり明るい顔になっていた。
「ああ、助かるな」
ブロームも言った。
トキオとアウレラがテリットたちのところに戻り、トキオがテリットに銀貨を渡したところで、テリットの後方の少し離れたところで何かが動く音がした。
4人は反射的にしゃがみ込んだ。
「もう一体いたか?」
「わからん。ちょっとそっちへ移動しよう」
4人はしゃがんだまま、ゆっくりと物音のした方に移動した。
藪の陰になっていて見えなかったが、明らかにこちらに近づいて来る足音だった。
その場で止まってしばらく待つと、藪をかき分けて足音の主が姿を現した。
「オーク!」
テリットが言い、他の3人は息を飲んだ。
すると、その後ろから、もう一体オークが現れた。
「うっ!しかも2体だ。やっかいだな」
テリットが言った。
「ヤツらが来た方向は、オークを討伐した洞窟がある方向だ。もしかしたら、生き残りがいたのか?」
「あり得るな。あらかじめ外に出てたのかもしれん」
「気づかれる前にやろう。俺は弓で左を狙うから、トキオは魔法で右のを頼む。他にもいるかもしれんから、爆発音のしない火炎魔法がいいだろう」
「わかった」
「とりあえず、動きを鈍らせてくれればいい。その後、俺とアウレラで切りつければなんとかなるだろう」
テリットが言った。トキオとブロームは身構えた。
「今だ!」
2体目のオークが藪から完全に姿を現した瞬間、テリットが言った。
すかさず、ブロームは矢を、トキオは火球を放った。
ブロームの矢が左のオークの眉間に突き刺さると、そのオークは膝を折って前のめりに倒れた。
トキオの火球が当たった右のオークは、火球の威力で仰向けに倒れると全身が炎に包まれた。
テリットとアウレラは素早くオークに走り寄ると、それぞれのオークに剣を突き立てた。
オークはすぐに動かなくなった。
「よし!」
テリットが剣を抜いてそう言った。
「ほら、これが火魔法よ」
アウレラもチドリを抜きながら言った。
「ちぇっ」
そこで、オークが抜けてきた藪の向こうから、また、何かが歩いてくるような音がした。
少し地響きを伴う重量感のある音だった。
「なんだ?」
4人は姿勢を低くして藪に寄り、藪の隙間から音のする方を伺った。
それはオークのようだったが、体が二回りほど大きく、皮膚の質感も他のオークと違っていて、トキオが目にしたことのない姿をしていた。
「まずいな。ハードオークだ」
テリットが緊迫した声で言った。




