第31話 アティムの街に迫る脅威
その日、トキオがギルドに向っていると、アウレラが向こうからやってきて角を曲がり、同じくギルドに向かうのが見えた。
「おはよう」
少し小走りで追いついて、声をかけた。
「あ、トキオ。おはよう」
アウレラは挨拶を返したが、笑顔に力がなかった。
「アウレラも二日酔い?」
トキオは苦笑しながら聞いた。
「そうよー。昨日ちょっと飲み過ぎちゃって頭痛いの」
アウレラがおでこを揉みながら答えた。
「今日は柔道教室が休みだから、俺も飲み過ぎちゃって頭痛がしてるよ」
皆にかなり柔道の技が浸透し、練習もルーチンワークになっていたので、最近は、冒険者向けの柔道教室は週に2回しか開催していなかった。
訓練場は毎日開放されていたので、空いてる時はやりたい人間が個人個人で練習していた。
二人がギルドに着くと、すでに11時近くになっていた。
テリットとブロームはすでに来ていたが、二人ともテーブルに肘をついて頭を押さえていた。
テーブルの上には、水の入ったコップが二つとピッチャーがあった。
他には冒険者の姿はなかったので、皆、すでに出かけたようだった。
「二人とも二日酔い?」
トキオは、アウレラとそのテーブルに行くとちょっと笑いながら言った。
「ああ、その通りだ。お前は大丈夫なのか?」
「俺もだけど、テリットとブロームの方がひどそうだね」
「まいったよ」
ブロームもしんどそうだった。
「今日の依頼はもう決めた?」
「まだだ。二人でここに着いてから、ずっと頭抱えて水飲んでたからな」
「じゃあ、俺、見てくるよ」
そう言って依頼掲示板の方へ行った。アウレラも付いてきた。
依頼掲示板に行くと、依頼の紙は1枚しか貼り付いていなかった。
「ありゃ?今日は選べないってことか。どれどれ・・・」
「うっ!これは!」
「どうしたの・・・・・あっ!」
トキオは、その紙をはがすと、テリットたちのテーブルに戻った。
「今日は出遅れたから依頼は一つしか残ってなかったよ。どうする?やれる?」
「頭痛いからって休むわけにもいかないだろう。依頼はなんだ?」
「見る?」
「いや、いい。教えてくれ」
テリットとブロームは相変わらず肘をついて頭を押さえて下を向いたままだった。
「それがねえ・・・グリベラーの討伐なんだよ」
「え!?」
「なんだって!?」
二人は驚いて顔を上げた。
「この体調でグリベラーかよ」
「ちょっとしんどいな」
二人は眉間にしわを寄せた。
「他に誰もいないから単独になるよ。今日はやめる?」
「いや、逆にグリベラーじゃ行かないとまずいな。それに、金貨も欲しいし(笑)。場所はどこだ?」
「アマグスの森だね」
「そうか・・・歩くと1時間半ぐらいだな。まあ、それだけ時間があれば二日酔いも少しは良くなるだろう」
「うちのパーティー単独でのグリベラー討伐は初めてだけど、大丈夫?」
「いや、お前が色々と教えてくれたおかげでかなりスキルが上がってるからいけるだろ」
「ああ、そうだな」
「あたしもそう思う」
「そう。じゃあ、行こう」
「ああ・・・しかし、水をたっぷり持って行った方がいいな」
「ああ、水を飲んだ方が回復が早いだろう」
テリットとブロームは、そう言うと立ち上がってエレザベスのところへ行った。
「思ったより楽に倒せたわね」
討伐の帰り道、アウレラが満足そうな顔で言った。
「そうだな。魔法はアウレラの強化魔法だけで、攻撃魔法は使わなかったし、なにより、トキオとアウレラがその刀に変えてから抜群に動きが良くなったのが大きいな」
「ああ、俺もそう思う」
テリットの言葉にブロームは同意した。
「やっぱりそう?あたしも、この『チドリ』に変えてから動きやすくなったと思ってたのよね。これ、かなり軽いし、ブレードが細い分、素早く振れるから、非力な私には合ってるわ」
「俺もそうだな。まあ、俺の場合はこっちの方が慣れてたからってのもあるけど、細身なので振りやすいってのは同意だね」
アウレラもトキオも嬉しそうに言った。
「今日は、金貨も手に入ったし、うちのパーティーのスキルがかなり上がってるのもわかったし、有意義な討伐だったな」
「そうだな。今日の金貨だけで半年分の稼ぎになったしな」
金貨については、妻子持ちのテリットとブロームが特に嬉しそうだった。
往復3時間の距離だったのと、出発が遅かったせいで、街が見える頃には薄暗くなり始めていた。
4人は談笑しながら歩いていたが、街まで10分ほどになったところでブロームが突然立ち止まって弓に矢をつがえた。
「どうした!?」
テリットが驚いて聞くのとほぼ同時に、ブロームは矢を放った。
他の3人が矢の飛んで行った方を見ると、頭に矢が刺さって魔物が倒れたのが見えた。
「ゴブリン!」
3人はほぼ同時に叫んだ。
「こんなところに出るなんて!」
トキオが焦った声で言った。
「ついに来たか!行くぞ!アウレラは念のためにギルドに戻って応援を呼んで来てくれ!」
「わかった」
アウレラは街に向かい、残りの3人はゴブリンが倒れた場所に向かって駆け出した。
矢はゴブリンの左目の上あたりに刺さっていた。
そして、その周りにはゴブリンの足跡が散乱していた。
「この足跡からすると1体や2体じゃないな。1体やられたんで他のは逃げたようだが、どこから来たんだ?ちょっと足跡を辿ってみよう」
「ああ」
ブロームが足跡を辿り、テリットとトキオは、その両脇で剣と刀を抜いて左右を警戒しながら進んだ。
しばらく行くと、前方の草むらの向こうから何かが聞こえて来た。
足音と、甲高い不快な声だった。
「あれはゴブリンの声だな。ちょっと頭を低くして行こう」
草むらに寄って少しだけ頭を上げて見ると、ゴブリンが3体何かを言いあっており、その後ろに洞窟が見えた。
「こんなところに洞窟があったのか。どうやら、あそこを住処にしてるようだな。しばらく様子を見よう」
テリットがそう言ったので、3人はそのまま2分ほどその場から何か動きがないか見守った。
「洞窟からほかのヤツらが出てきそうな雰囲気じゃないな。よし、じゃあ、ブロームは右から一番右のヤツをやって注意をそっちに惹きつけてくれ。俺とトキオは左から行くよ」
「わかった」
ブロームはそう言うと、姿勢を低くしたまま右の方へ移動した。
トキオとテリットも同じような姿勢のまま左に移動した。
3人とも移動し終わたところでテリットがブロームに指で合図すると、ブロームがすかさず矢を放って一番右にいたゴブリンの側頭部を射た。
ゴブリンが倒れた音で、残りの2体がそっちのほうを見たので、すかさずテリットとトキオは飛び出して、背を向けた格好になっているゴブリンたちの首を、ほぼ同時に刎ねた。
すぐに、テリットは剣を振ってから鞘に納めると、転がっている首二つを両方の手で掴み、藪の向こうのかなり遠いところへ放り投げた。
それから、首のなくなったゴブリンの足首を1体ずつ両方の手で掴み、藪の方へ引きずった。
トキオが、慌てて1体の反対側の足首を掴み、同じ方向に引きずって行こうとすると、それを見たテリットは、その個体から手を離した。
ブロームを見ると、同じように自分が倒したゴブリンを藪の方へ引きずって行くところだった。
藪の陰に戻るとトキオが聞いた。
「奇襲する時はいつもこんな感じなの?手慣れてる感じがしたけど」
「ああ、そうだ。ゴブリンに限らず、他に気付かれたくないときは死体を隠すのが最優先だ。特に、今みたいに暗くなってきていると、地面に落ちた血は見えづらくなるからな。頭を遠くに投げたのは、なるべく音を聴かれないようにするためだ」
「なるほどー」
テリットは、ゴブリンの死体から手を離すと、しばらくの間、再び洞窟を注視した。
そうしているところで、ブロームが戻って来た。
「他の個体が出てくる気配はないな。たぶん、あいつらがさっきの場所でブロームが倒したゴブリンと一緒にいたヤツらで、知らせる前にやれたんだと思う」
「この洞窟をどうする?」
「オーク討伐の時のようにトキオに閉じ込めてもらってもいいが、この洞窟には他に入口があるかもしれないから逃げられる恐れがあるな。応援が来るまで、このまま待とう」
その時、後ろで物音がした。
テリットとブロームは、振り返りながら瞬時に左右に飛んだ。
(しまった!)
トキオは、一瞬遅れてその場で振り返ろうとしたが、直後に「グエッ」という声がして静かになった。
完全に振り返って見ると、そこにはマルケルとフォスが立っていて、フォスが手に持った槍の先には胸を貫かれたゴブリンが刺さっていた。
「危なかったな」
「ありがとう!助かったよ!」
フォスの言葉にトキオが答えた。
「悪い。洞窟を気にし過ぎて後ろの警戒が疎かになった。街の近くにゴブリンが出たことで少し動揺してたのかもしれない」
テリットが、渋い顔で言った。
「ああ、少しお前らしくなかったな」
マルケルが言った。
(これが俺とベテランとの差だなあ)
その会話を聞いて、トキオはそう思った。
「あれがゴブリンの住処か?」
「中は確認してないが、多分そうだ」
「この洞窟は、多分ここいらに住んでるヤツしか知らないだろうな。ここはうちのパーティーが見張るから、お前たちは報告も兼ねて街に戻ってくれ。討伐帰りで疲れてるだろ?他に2パーティー来てて、そいつらがこの辺の住人に被害がないかの確認に行っている。ゴブリンなら洞窟を住処にしてることは予想できたから、この洞窟がどこに繋がってるかも聞いてくるだろう」
「わかった。すまんな」
テリットがそう答えて3人が歩き出したところでアウレラが現れた。
「良かった!3人とも無事ね」
「ああ、みんな無傷だ」
「ゴブリンが何体いるかわからなかったから、ちょっと心配してたのよ」
「とりあえず3体倒した。そこにある洞窟が住処のようだが、中は確認してない」
「そう。じゃあ、作戦会議が必要ね」
「ああ、今からギルドに戻って支部長やみんなと話す必要があるな」
それから4人でギルドに戻って行った。
その間、トキオは、今までに見たアニメやマンガを思い出して、どう対処すればいいか考えていたが、他の3人も、テリットがアウレラに状況説明した以外はほとんど無言で、一様に深刻な顔をしていた。
ブックマークと評価が1つも付かず、最初からずっと0点の状態なので全話読んでいただけている方がいるのかわかりませんが(少しへこんでいます)、30話を超えましたので、これからの展開と進め方について書いておきます。
このお話に限らず、展開を思いついたら書いているので、結構先の方の話を書き終わったりしています。
ミヒール司祭がトキオにたどり着くシーン、王都に行って王様や勇者に会うシーン、魔族の幹部と戦うシーン、ドラゴンと出会うシーン、魔王討伐のくだり、とかですね。
それ以外は、日々書いている状態なので、その後に「ああ、こっちの方がいいなあ」と思いついたりすると大幅に書き直したりしてて、そういう時は、一応まえがきとかにそのことを書いてます。
「お面ライダー」は、全部書き終わってから投稿したので短期間で全話アップしましたが、今回の話は、そんな投稿の仕方だし、話自体が「お面ライダー」に比べると格段に長いので(実は、まだ4分の1もいってません)、終わるまでには相当に時間がかかると思われます。
途中で1か月以上空いたように、仕事の関係で投稿が止まる期間もあると思います。
また、今までに書いた、腕相撲、ダーツ、サッカーを含む「偉業」をこの世界に持ち込むという設定は投稿を開始する前から考えてあったんですが、書いてる途中で別のものを思いついたらさらに追加するかもしれませんので、余計に終わるまでの時間が長くなると思われます。
第28話で、わかりやすくするためにイラストを入れたように(と言っても、ダーツボードはフリー素材ですが)、これからも必要と感じたらイラストを描くことがあるかと思いますので、そうするとさらに時間がかかります。
そんな感じで進めていきますが、今後もお付き合いいただければ幸いです。




