第26話 黒と白
前回のお話の後半を本日(11/11)の昼に大幅に書き換えました。
その前にお読みになった方は、今回のお話と整合性が取れなくなっている部分があるので、お手数ですがその部分を読み返してから今回のお話をお読みください。
[しかし、世界はその子たちが成長するのを待ってはくれず、]の次の段落からです。
(ここかあ。なるほど、かなりの広さがあって、厚い石壁で周りを覆っているから火、水、風の魔法の練習をするのには良さそうだな。床も細かい穴が開いてて、水はけを良くしてあるみたいだし・・・でも、光魔法だとどうなんだろう?光魔法を使える人は俺しかいないって言ってたから、そこは考えられてないんだろうな)
トキオはそう思ったので外の練習場へ行ってみることにした。
着いてみるとそこは、三方を木立に囲まれた土の地面の広場だった。
(おおー、なかなか広くていいんじゃない?木立がない面の左半分には厚い石壁があるな。右半分はずっと先まで何もないから、閃光魔法を使っても大丈夫そうだ)
「よーし!ちょっとやってみるか!まずは、気合を入れて放ったら火球の威力が上がるかどうかだな」
トキオは石壁を正面に見ながら少し離れた位置まで下がると、空手の四股立ちの構えをとり、その姿勢から両手の拳をしっかり握って両肘をゆっくりと後ろに引くと気合を入れた。
「はあーーー---、ファイド!」
そう大声で唱えて、右手を前方に突き出して開くと、火球が正面の壁に飛んで行き表面を焦がした。
(お!?ゴブリン討伐の時より少し火球が大きかった気がするぞ。よし!もっと気合を入れて・・・そうだ!スーパーサ○ヤ人に変身するぐらいの勢いで気合を込めて!)
「はあああぁぁぁぁぁ・・・・・クリ○ンのことかー!!!」
そう叫んで同じように右手を前に出すと、今度はさっきより明らかに大きな火球が出て、より広範囲に壁を焦がした。
「おおー、やった!・・・ん?待てよ、今、『ファイド!』って言わなかったのに火球が出たね。なんとなく最初から呪文の名前を言いながら放ってたけど、もしかしてたら言わなくても意識すれば出るのか?」
トキオは四股立ちの構えに戻ると、今度は何も言わずに火球を飛ばすことだけ意識して右手を前に突き出した。
すると、同じように手のひらから火球が出て壁に飛んで行った。しかし、火球の大きさは先ほどのものよりかなり小さかった。
「おおー!出たね~。それとやっぱり、より気合を入れた方が威力の高い火球が出るんだな。よし!気合の入れ方はあとでまた練習しよう。次、次」
今度は、普通に立ったまま右手の人差し指を前に向けて指先から火炎を出すことをイメージした。
最初はうまくいかなかったが、何回かやると1メートルほどだったが、火炎放射器のように炎が指先からまっすぐ前に出た。
「おお!できたー」
次は、右腕に力を入れて力を入れてまっすぐ伸ばし、かなり強く念じてみた。
今度は、直径30センチぐらいの火炎が、3メートルほど出た。
「おおー!・・・じゃあ・・・」
今度は、指を少し斜めに立てると、静かに念じてみた。
すると、指先にチョロチョロと小さい炎が灯った。トキオはそのまま指を垂直に立てた。
(こうすると、まんま蝋燭だな)
そう考えて少し笑った。
(でも、これをもう少し大きくすればダンジョンで松明がいらなくなるな)
トキオは、そんなことを考えて一人でほくそ笑んだ。
「おーし!なんとなくコツがつかめて来た感じだ!・・・でも、なんか疲れたなあ。今まで、こんなに連続して魔法を使ったことなかったけど、あまり続けて使うと体力を消耗するのかなあ・・・ステータス!」
トキオはステータス画面でMPを確認した。
「おお、最大MPが70まで増えてる。それで、残りは48だから、減ったのは22だな。今、かなりやったから、これなら結構な回数使えそうだ・・・あら?レベルまで7に上がってる。でも、水と風は5のままか。使ってないからかな?火属性のはゴブリン討伐の時に結構使ったもんな」
「とにかく、疲れたから今日は帰って、他の属性の魔法をどうやって練習するか考えよう」
そう言いながら、満足げな笑みを浮かべてトキオは帰って行った。
それから毎日魔法の練習に出かけて行ったが、日中は討伐の仕事と格闘技教室があったので、練習するのはもっぱら夜になった。
何日か練習するうちに、どのくらい気合を入れれば、どの程度の威力の魔法が出せるかが大体わかって来た。
また、指の先から火炎を噴出させる魔法は、意識した方向に自在に曲げられるようにもなった。
そこまでできるようになったので、次に水属性、風属性の魔法も同じように色々と試してみた。
風属性の魔法は今まで使ったことがなかったが、やってみると、突風を出したり、つむじ風を起こしたりできることがわかった。しかし、相手の目をくらませたり、怯ませたりする効果が主で、どちらかというと防御系の魔法という感じがした。
水属性の魔法は、空気中の水分を集めて水として放出する魔法というだけあって、最初にやったように焚火の火を消す程度なら瞬時に発動できたが、大量の水を出そうとするとそれなりに時間がかかった。
そのため、これも、水球にしたり、水流にしたりできたが、水属性が弱点である魔物以外には使いづらいと思った。
最後に光属性の魔法を練習してみたが、なかなかコントロールができず、できたのは、フライシャの火球の威力を上げ下げすることと、バリッドで自分の周囲を少し広めの光の障壁で囲んで、魔物の攻撃からパーティーを守るようにすることだけだった。
ただ、フライシャの威力をかなり下げて放つと飛んで行く周囲が明るく照らされて暗闇をずっと先の方まで見通すことができたので、かなり有効に使えそうだった。
反射魔法のリフレックは、相手から攻撃されないことには効果がわからないので、1回だけ唱えて光の壁みたいなものが出ることを確認しただけでやめてしまった。
魔法の研究を始めて半月が経った頃、トキオはふと思った。
(あ、今までやってたのがガードコフの言ってた「魔法の鍛錬」てことか?)
そう思って少し笑ってしまったが、ガードコフは「苦労して」と言っていたので、割と簡単にできてしまった今の状態は少し違う気もした。
「トキオ、見て見て!」
その朝、トキオがギルドに入っていくと、立って話をしていたアウレラが嬉しそうな顔で駆け寄ってきて左腰を突き出した。
そこには、白い鞘に納められた日本刀があった。
「お!できたんだ!」
「うん!ほら、こんな感じ」
そう言って、アウレラはその刀を抜いて、刀身全体がトキオに見えるように横に向けて持った。
その刀身は、トキオの刀の黒い背とは対照的に白っぽい地金色の背で、鍔の少し先から切っ先に向かって植物の弦と葉と、途中に2か所、薔薇のような花が彫り込まれていた。
「おおー!キレイだね~!カッコいい!」
「でしょでしょ!あたしもすごく気に入ってるんだ!」
「いいよこれ。とってもいいセンスだ」
「えへへー」
そう嬉しそうに微笑んでから、アウレラは自分でも刀身をまじまじと見つめた。
その様子がすごく可愛くて、トキオはドキッとしてしまった。
「あ、そうだ!この刀にも、トキオの『ライキリ』みたいに名前を付けたいんだけど、何がいいかな?」
「いいねえ。そうだなあ・・・俺のは、魔物を切る刀だから雷様を切った刀にあやかって『ライキリ』って付けたんだけど・・・」
「雷様?」
「ああ、えーとね、俺の村では雷は雷神という魔物が起こしてるって言われてて、それを雷様って呼んでるんだけど、昔、その雷様を刀で切ったって人がいたって伝説があってね、その時からその刀は『雷切』って呼ばれるようになったんだよ」
「へえ~」
「あ、そうだ!アウレラの刀も同じ魔物を切る刀だから、雷切の元の名前の『千鳥』はどう?」
「チドリ?・・・いい響きね!それにする!」
「『ライキリ』と『チドリ』。それに黒い刀と白い刀。なんかすごくいいコンビって気がする!」
「そうね!鞘の見た目も黒と白だから、普段の姿も対照的でカッコいいかも!」
「そうだね!」
そう言って二人は嬉しそうにほほ笑んだ。
そして、またトキオはドキッとした。
それからは、街の中を並んで歩くトキオとアウレラの姿は話題なった。パーティー全員で歩いていても、注目されるのは二人だった。
トキオと同じようにアウレラにも声がかかるようになったが、アウレラが美人だったこともあり、特に男の子からよく声がかかった。
「アウレラだー!」
「やっほー!」
「トキオもいる―!」
「明日も魔物やっつけてねー!」
その日も、討伐から帰って来て4人で歩いている時に学校帰りの子供たちから盛んに声をかけられた。
アウレラは子供が好きみたいで、そうやって声をかけられると、うれしそうに手を振るのだった。
「あーあ、なんだか俺たちはオマケみたいだな」
「いやー、オマケどころか目に入ってもいないみたいだから空気みたいなもんだろ」
子供が寄って来て立ち止まったトキオとアウレラを置いてギルドの方に歩きながら、テリットとブロームはそんな会話をしていた。
その時、路地から10歳ぐらいの男の子が飛び出してきてテリットにぶつかった。
「おっと!大丈夫か」
倒れそうになるその子の左腕を掴んでテリットが言った。
「うん、大丈夫!あ、テリット先生とブローム先生!」
その子は、ギルドで剣と弓を二人から習っているクラウスだった。
トキオとアウレラには親近感があるのか、子供たちは皆、呼び捨てにしていたが、ベテランの貫禄がある二人に対しては、皆「先生」と呼んでいた。
「うん、大丈夫。ぼく、先生たちみたいに剣と弓の腕を磨いて、絶対、この街で一番の冒険者になるからね!」
クラウスは少し興奮した顔で言った。
「そうか、頑張れよ。お前はいい子だなあ」
そう言ってテリットはクラウスの頭を撫でた。
テリットとブロームの目は、少しウルウルしていた。




