第23話 トキオの村は格闘技王国?
鍛工石の配布先が決まったところで、ミレリアとギルドの若い男性職員がやってきて、昨日、ゴブリン討伐に参加したメンバーに報酬とドロップアイテムの分配金が入った袋を配った。
金貨もあったのでかなりの額になっていて、貰ったメンバーは皆、袋の中を覗き込んでにんまりとした。
「それから、トキオさんには最大の功労者ということで別に報酬があります。
ミレリアはそう言って、キラキラとした瞳でトキオにもう一つ袋を渡した。
その途端、全員から拍手が起こった。
トキオは、照れくさそうに袋を受け取り、その場で袋を開いて見た。
「え!?銀貨が3枚入ってるけど、こんなにもらっていいの!?」
「それだけのことをされたということでしょうから、遠慮なさらずにどうぞ」
ミレリアは、にっこりと微笑んで言った。
「そうそうだ」
「お前のおかげで助かったんだからな」
「貰っとけ貰っとけ」
皆が言ったが、パーシーだけ
「分け前をくれてもいいぞ」
と言ったら、皆ににらまれたので、
「冗談だよ冗談」
と、あわてて訂正した。
報酬を渡したミレリアとギルドの職員が引き上げたことで皆は解散しようとしたが、テリットがあわてて呼び止めた。
「あ、みんな悪い!ちょっと待ってくれ!大事なことを伝え忘れた!」
その言葉で皆は振り返り、テリットのところまで戻って来た。
「なんだ?」
「どうした?」
「えーとな、昨日、トキオに言われて試したらうまくいったんだが、実は・・・強化魔法は武器にもかけられることがわかった!」
「なんだって!?」
「ホントかよ!」
「肩を痛めたんで今日はブロームは来てないが、そのブロームも含めて俺のパーティー全員が実感してるから間違いない!試しにやってみてくれ」
「それがホントだったら大変なことだ。よし!やろう!パーシー、剣を貸してくれ」
そう言ったのは、強化魔法の使えるハイケルだった。
「よし」
パーシーは、自分の剣を抜くと、切っ先を下にして斜めに持った。
そこの横にハイケルが片膝をついて刀身に手をかざし、何かを唱えながら少し時間をかけて強化魔法をかけた。
その途端、パーシーの剣はわずかに青白い光に包まれた。
「おおっ!」
「なんと!」
「よし!試そう」
パーシーはそう言うと、裏庭に出て、いつも冒険者たちが試し切りに使っている木製の台の前に歩いて行った。
その台の上には、王国の兵士が使っている兜が固定されており、ところどころに亀裂が入っていた。
「この試し切り用の兜は、俺の剣では良くて上から3分の1までしか切れなかった。これを切ってみれば魔法の効果がわかるだろう」
パーシーはそう言うと、剣を大上段に構えた。そして、
「ふんっ!」
という掛け声とともに振り下ろした。
剣は、兜を真っ二つにしただけでなく、台も真っ二つにして地面に突き刺さった。
「おおおおおー!」
テリットのパーティーの3人を除く全員から驚嘆の声が上がった。
パーシーは、剣を地面から引き抜くと、呆然とした顔で刀身を見つめていた。
「なんということだ!」
「これは画期的な事件だ!」
「討伐がかなり楽になるんじゃないか!?」
皆が口々にそう言っている時、集団の一番後ろにいたトキオは、後頭部に妙な視線を感じて振り返った。
すると、ミレリアがキラキラとした目でこっちを見ていた。
しかも、他の人たちはパーシーと試し切りの台の方を見ていたのに、ミレリアの視線は明らかにトキオに向けられていた。
トキオは驚いたが、何かちょっと怖い感じがしたので、見なかったことにして皆と同じ方へ視線を戻した。
皆の興奮が収まってくると、徐々に皆がトキオの方へ視線を向けて行った。
「いやー!またトキオかー!」
「ホント、スゴいなあ」
「ありがとう。これで討伐が少し楽になるよ」
「少しじゃないかもよ」
「そうだな!」
「トキオはこの街の救世主だ!」
「そうだそうだ!」
「いや、この国の救世主かもよ!」
「そうだ!十分にその価値があるぞ」
「そうだそうだ!」
皆は興奮して口々にトキオを称賛した。
「ちょ、ちょっと待って!」
トキオはタジタジになって言った。
「この件に関しては知ってたわけじゃなくて、人間にかけられるなら武器にもかけられるんじゃないかと思ったのがうまくいっただけだから!」
アニメから得た知識だとは言えなかった。
「そんなのどっちでもいいぞ!この事実がみんなに伝わったことが大事だ」
「そうだそうだ!」
皆はトキオの周りに集まると、握手したり、肩や頭をバンバンと叩いたりした。女性の冒険者には、頬にキスをする者までいた。
そうされながらも、今にも胴上げされそうな雰囲気だけどそうならないところを見るとこの世界には胴上げってのはないんだな、と、トキオは変なことを考えていた。
「わかった、わかった!わかったから、やめてやめて」
トキオはそう言うと、建物の中に走って逃げた。
皆は、追って来なかったが、心配したのかアウレラだけやって来た。
「まいったよ。俺、向かいの居酒屋にいるからテリットと後で来て。他の人には帰ったって言っといてね」
「大変なことになったちゃったわね。了解よ」
そうは言ったが、アウレラはニヤニヤしていたので、本当に心配しているのかどうかはわからなかった。
トキオは、急ぎ足で向かいの居酒屋に入った。
テーブルについてしばらく待っていると、テリットとアウレラがやって来たので、話をして、昨日の疲れとブロームが休んでいることから、今日は午後から薬草の採取という軽い依頼をこなそうということにして、とりあえず昼食をとることにした。
「いやー、しかし、じゃんけんって面白い!また新しいものを教えて貰ったな。お前の村ってホントにユニークだな」
「そうかもね。色んなタイプの人がいるからね」
「どのくらい人が住んでるんだ?」
「大体、いっせん・・・人ぐらいだよ」
(あぶねー!危うく1千万人って言うところだったよ!)
「いっせん人?・・・千人てことか。結構な人数だな」
「うん、すごく広い村だからね」
(確か日本で一番広い十津川村の人口が3千人を超えてたと思うから、ヘンじゃないよな)
「ああ、そういうことか。たぶん、地域ごとにはあまり交流がなくて、色んな人が違う事を考えたから独自の文化が色々と出来上がったんだな」
「そうだね。そういえば、あまり地域間の交流はしてなかったな」
テリットが都合の良い解釈をしてくれたので、トキオは話を合わせた。
「みんな、どんな仕事をしてたんだ?」
「えーと・・・それは、色々だね。そう、色々」
「たとえば?」
「たとえば・・・農家の人とか、小売店をやってる人とか、ここみたいに飲食店をやってる人とか。山も結構あったから、木を植えて切る職業の人もいたし」
「そうか、普通だな。もっと何か特殊なことをしてる人が多いかと思ったよ」
「あ、あたしもそう思った」
「なにそれ?そんなことないよー」
「そういえば聞いたことなかったけど、トキオは何やってたの?」
「俺?俺は刑事だったんだよ」
トキオは、刑事と言う職業に誇りを持っていたのとアウレラに聞かれたことで、思わず、やや自慢げにそう答えていた。
「ケイジ?」
「あ!・・・・えーと、そう、自警団みたいなもの」
トキオは、しまった!と思い、焦りながらなんとかそれっぽいことを答えた。
「自警団?そんなものが必要だったのか?」
「えーとねえ、山賊、そう、山賊対策だよ。村といっても質のいい木材がとれたり、めずらしい動物の毛皮が結構とれたりして、それなりに村自体が豊かだったから山賊がよく出たんだよ。だけど、ど田舎だから、王国の兵士とかは取り締まりに来てくれないし」
「ああ、山賊かあ。ここら辺でも街道に時々出るなあ。確かに、奴らを取り締まるのは王国の兵士の仕事だが、王都からあまりにも遠いところには行きそうもないな」
「そうでしょ?それが困りもんでね」
(適当に言ってみたけど、この世界がどっかのアニメと同じ設定で良かったー!)
「そうか・・・あ、もしかして、お前の村の人たちは山賊から身を守るためにみんな格闘技を覚えるってことか?」
「そ、そうそう!その通りだよ!」
「それで、子供の頃から仕込まれるんだな」
「そうなんだよー。もう、強制的にやらされるんだよねー」
「だとしても、そこまでいくつも覚える必要はなくないか?」
「あ、えーと、それはねえ、俺の場合は子供の頃から将来は冒険者になる!って決めてたから、色々とやったわけで、大抵は一つか二つだよ」
「あー、そういうことか。俺は、村の全員がお前みたいにいくつも格闘技や武器を使いこなしてるのかと思ってたよ」
「あたしも、あたしも」
「そんなわけないでしょ!運動が苦手な人だっているんだからさ」
「あ、そりゃそうか。わはははは」
アウレラも笑った。
「しかし、子供の頃から7つもやってて嫌にならなかったなんて、よっぽど冒険者になりたかったんだな」
「そうなんだよねー。最初に見た冒険者の姿と魔物討伐をする様子が実にカッコ良くて憧れちゃったんだよねー」
「よくあるパターンだな」
「あれ?でも、トキオの村には魔物はいないって言ってなかったっけ?」
アウレラが不思議そうな顔で聞いた。
「え?・・・ああ、えーと、魔物討伐の途中でうちの村に立ち寄った冒険者がいて、その人から魔物討伐の話を色々と聞いたんだよ。それがカッコ良くってねえ」
「あー、そういうことねー。紛らわしい言い方しないでよ」
「ごめん、ごめん」
(少し危なかったけど、この設定イケるんじゃない?よし!今度から人に聞かれたらこの設定で行こう!)
トキオは、内心ほくそ笑んだ。
そのあとは、他愛もない話をしながら昼食を済ませると薬草採取に出かけた。
今日は近場にしたので歩いて行ったが、その道すがら、緑の広がる田園風景と、東京とは全然違う真っ青に澄んだ空を見て・・・あ、さらにアウレラの姿も見て・・・この世界に来て良かった!と、改めて思ったトキオだった。




