第225話 ファンタジー世界
「それじゃ、俺はそろそろ寝るよ。こんな時間に寝られるかわからないけど」
トキオは、フーゴの食事が終わった後もお茶を付き合い、しばらく開発中の武器や機材の話をしていたが、フーゴがお茶を飲み終わったところでそう言って立ち上がった。
「ああ。明日の朝は早いから見送らないが、気を付けてな」
「ありがとう。まあ、魔導士様たちと勇者様が一緒に行くから、俺はやることないと思うけどね」
「射撃の指導だって立派な仕事だろうが」
「それについても大してやることないんじゃないかと思ってるんだよねえ」
「うーん、まあ、確かにな。それでも、銃に精通している人間がそばにいるってことだけでも、兵士たちの安心感が随分違うと思うぞ」
「ああ、それは確かにそうかも・・・じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そう言って、トキオは先に食事の間を出た。
トキオは部屋に戻ると、飛び乗るようにベッドに仰向けにの寝転がった。
(それにしてもウェアウルフか・・・今まで出てこなかった人型魔物だから、どんな能力と戦闘力を持ってるのかもわからないぞ・・・確かに今回は不安要素が多いな)
そんな事を考えていたが、ふと、
(・・・でも、女の魔人が拝めるのは悪くないなあ)
と、考えてにやけていたら、突然、ドアがノックされたのでビックリして飛び起きた。
「な、なに?」
「お酒をお持ちしました」
メアリーの声だった。
「ああ、ありがとう」
その言葉で、メアリーはドアを開けて入って来た。
「本日は、早く寝つけるようにと強めのお酒をお持ちしました」
「おや、気がきくねえ。ありがとう」
その言葉にメアリーは軽い会釈を返した。
「ああ、そうだ。早く寝られる気がしないから、3時半に起きられる自信がないんだよ。悪いけど、明日の朝、起こしに来てくれる?」
「はい、もちろんです」
「すまないね。今日はもういいから早く寝てね」
「お疲れではないですか?」
「今日は大したことしてないから、大丈夫だよ」
「わかりました、ありがとうこざいます」
メアリーはそう言うと、先ほどより深くお辞儀をしてから部屋を出て行った。
「さあて、ホントに寝られそうにないからこの酒でもかっくらって寝るかな」
トキオは、そう呟きながらソファに座った。
「・・・あれ?グラスが二つある。酒のボトルは一つなのに、なんでだろ?」
トキオは、不思議に思って少し考え込んだが、そこで、再び部屋のドアがノックされた。
「はーい、どうぞ~」
トキオは、メアリーが戻って来たと思い、そう返事をした。
「お邪魔するわよ」
しかし、そう言って入って来たのはクロアだった。
「え?どうしたんだよ」
トキオは驚いて思わず立ち上がった。
「部屋に戻って明日以降のことを考えてたら、なんだかイヤな感じがして来たのよね。襲って来た魔物がウェアウルフだった聞いたら、余計に不安になっちゃって」
「お前、ウェアウルフについて知ってるのか?」
トキオは、その言葉でまた驚いて、思わず聞き返した。
「噂をきいてるだけよ。もちろん、見たことはないんだけど、人型魔物の中でも一番動きが速くて頭もいいらしいからね。人間と会話できるらしいし」
「え!?そうなのか?今まで見て来た、ゴブリン、オーク、トロールは、どれも話をしなかったから、この世界の魔物はそういうもんなんだと思ってたよ」
「この世界の?あんたの知ってる魔物で話せるのがいるの?」
「前にも言った通り、俺の世界に魔物はいないからあくまで架空の話なんだけど、ほとんどの人型魔物は口をきけるな。人間と会話できるスライムもいるし」
「え?スライムが!?ウソでしょ?」
「だから、架空の話だって」
「・・・あ、そうか・・・ちょうどいいわ。今日はその話を聞かせてよ」
「は?なに言ってんだ?・・・てか、お前、何しに来たの?」
そのトキオの言葉で、クロアはちょっとムッとした顔になった。
「なによその言い方!相変わらず失礼ね・・・不安で寝られなくなったから、あんたの世界の話を聞かせてもらえれば気持ちを落ち着かせられると思って来たのよ」
「ええ~?・・・でも、俺もそうだな。話をしてたら気がまぎれるかも」
「そうでしょ?じゃあ、よろしくね」
「ああ、わかったよ」
「あら?お酒がいつもと違うじゃない?それと、グラスが二つあるってことは、私が来るって思ってたてことじゃないの?」
「いや、メアリーが二つ持って来たんだ・・・ああ、そうか。お前、行動パターンを読まれてるな」
トキオはそう言って軽く笑った。
「ええっ?」
「これは、お前がここに来ることを予想してたからだと思うぞ。彼女たちのことだから、きっと、前から時々お前が俺の部屋に来て長いこと話し込んでることは知ってると思うし」
「えー?・・・そうかなあ」
「彼女たちのそつがなくて素早い行動をいつも見てるだろ?間違いないって」
「ああ・・・言われて見れば確かにその可能性が高いわね」
「だろ?だから、お前が俺の部屋で寝たことがあるのもバレてると思うぞ」
「ええっ?・・・それって、あんたと私が変な仲だって勘違いされてるってこと?」
「変な仲ってなんだよ(笑)・・・でも、それはないかな。普段の俺たちの接し方を見てたらわかるだろうし。恋人同士になると明らかに接し方が変わるからな」
「・・・そんなものなの?」
「・・・ああ、そうか。お前は経験がないし、この世界にはテレビや映画もないからわからないか」
「悪かったわね!魔法の修業が忙しかったんだからしょうがないでしょ!」
「別に悪いとは言ってないさ。彼氏いない歴20数年なんて女の子はいっぱいいるからな。それに、お前はもてないわけじゃないじゃないか。兵士たちに大人気だし」
トキオはそう言ってクスクスと笑った。
「あ!なによその態度!面白がってるでしょ!」
「だって、昼飯の時とか、いつもお前は結構困った顔してるからな。見てて面白いぞ」
「なにそれ!・・・でも、正直、もっと落ち着いてお昼ご飯食べたいとは思うのよね。私も一度、あんたみたいにフラビアと二人っきりでご飯食べてみたいわ」
「ああ、お城でつきあいのいる女は彼女しかいなからな。わかるわかる・・・じゃあ、こんど俺たちのテーブルに来ればいいじゃないか」
「そうしたところで、きっと、兵士たちもくっついて来るから同じよね」
「ああ~、確かにそうなるだろうな」
「まあ、みんな気のいい人たちなんだけどねえ・・・」
「誰か気に入った兵士はいないのか?」
「・・・前にも言った気がするけど、いないわねえ。勇者様みたいに美男子でスタイルも抜群なんて男は一人もいないし」
「そりゃそうだろ。あんな、すべてそろってるような人はめったにいないよ。比べる相手が悪すぎるぞ!」
「そうかもしんないけど、どうしても比べちゃうわよねえ」
「こりゃ、お前に恋人ができる日は遠いな」
「そんなの分からないでしょ!勇者様も独身なんだし、お付き合い出るかもしれないじゃない!」
「あり得ない夢を見るのはやめろ。ぜぇ・・・・・ったいないから!」
「ホントにあんたって失礼よね!」
「でも、あれだけのイケメンだぞ。彼女いないわけないじゃん」
「は?イケメンってなによ」
「・・・あ、いけね!俺の世界で美男子って意味だよ」
「それをイケメンって言うの?変な言葉ね?」
「まあ、結構最近できた言葉だけどな。流行語が定着したって感じだ」
「流行語?それもわかんないわ」
「ああ、そうかあ・・・説明がめんどくさいからパス!」
「パス?」
「ああああ、もういいよ。俺の世界の魔物の話が聞きたかったんだろ?」
「あ、そうだった!・・・じゃあ、お酒飲みながらね」
「そうだな」
トキオは、ボトルを取って栓を抜くと、二つのグラスに酒を注いだ。
「じゃあ、カンパーイ!」
「何に乾杯なのよ?・・・まあいいわ」
クロアはそう言って、トキオが差し出して来たグラスに自分のグラスをカチンと合わせた。
「あ、そう言えば、乾杯って言葉はこの世界にもあるんだったな。どうなってんだろ?」
「そこ、不思議なとこなの?」
「俺の世界じゃどこの国にでもある言葉じゃないからな」
「ふーん、そうなんだ・・・それはいいから魔物の話をしてよ」
「ああ、そうだ・・・何から聞きたい?」
「まず、あんたの世界にはどういう魔物がいるのかが興味あるわ」
「わかった。でも、全部架空の話、つまり、想像上の生き物だからな」
「それはわかってるわよ」
「そうか・・・まず、この世界みたいに魔物や魔法が登場する世界を一般的には『ファンタジー世界』って呼ぶんだ」
「ファンタジー世界?へえ~」
「ファンタジー世界を舞台にした話はたくさんあるから、そこに出てくる生き物もそれぞれ違うんだけど、いくつもの話に共通して出て来る魔物がいる。そういうのは、ギリシャ神話っていう大昔に作られたお話や、人々の間に口伝された民話と呼ばれるものに登場してくる場合が多い」
「ギリシャ神話?なんか、面白そうね。いつごろできたお話なの?」
「確か紀元前15世紀だから、3500年ぐらい前だな」
「ええっ?そんな昔!?」
「そうらしいよ」
「へえ~、なんかすごいわね。で、どんな話なの?」
「俺も全部は読んだことないから詳しいことは知らないんだけど、最初が世界が作られるお話で、次に神様がたくさん出て来て、その後は人間や神と人間の間にできた人たちの話って構成だった気がする」
「ホント?すごく面白そう!」
「きっと、誰が読んでも面白いと思うよ。俺も、もっと読んでおけば良かったな」
「それでそれで?」
「そこに、この世界で言うところの魔獣が色々と出て来るんだよ。たとば、俺たちも見たヒドラ、オルトロス、キマイラなんかだな・・・あ、キマイラは見てないか。あとは、今回南西部に現れたケルベロスもそうだな」
「へえ~、そうなんだ。面白いわね」
そんな風にトキオの世界のファンタジー話が始まったが、この時にはもう、二人とも早寝をしなきゃいけないという意識がどこかに飛んでいた。




