第224話 気の合う仲間
トキオが玄関ホールに1歩踏み入れた瞬間、今度は、明らかに馬車と思われる音が門の方から聞こえて来た。
3人は同時にその方向を振り返ると、玄関前に戻った。
「フーゴ様ですかね?」
セバスチャンが表情を変えずに言った。
「いや、もっと遅くなるはずだけど・・・でも、あれはお城の馬車だな」
そのまま3人で見つめていると、馬車は玄関先に着き、中に乗ってるのがフーゴだというのがわかった。
「やっぱりフーゴだ。どうしたんだろ?」
「おや?こんな時間に揃ってお出迎えか?悪いな」
馬車のドアが開き、手にカバンを持って出て来たフーゴが言った。
「たまたま玄関先にいたら、不審な馬車が入って来たから見てただけよ」
「ええ~?ひでぇこと言うなあ」
クロアの言葉にフーゴが渋い顔になって、馬車のステップを降りて来ながら言った。
「思ったより早かったね。何かあったの?」
トキオが聞いた。
そこで、馭者は軽く会釈をすると馬車を発車させて帰って行った。
トキオたちも軽く会釈を返した。
「北西部で大規模な魔物の襲撃があったのは聞いてるんだろ?」
「うん。そのこと自体はお城にいる時にゴットハルトさんから聞いたんだけど、今、フラビアが来てもう少し細かいことを教えてくれたんだよ」
「え?フラビアが来たのか?」
フーゴはかなり驚いた顔になった。
「今帰ったばかりだから、門を出たところ辺りですれ違ったと思うけど」
「俺は手元の資料を見てたから気づかなかったな」
「もうちょっと早く帰って来れば良かったのにねえ」
「ホントだなあ」
クロアはからかうように言ったのだが、フーゴはそれには気づかず、真面目に残念がっていた。
しかし、すぐに思い出したように話を戻した。
「それで、グライムさんとゴットハルトさんがそこに出動するのに必要な武器の調達に造兵局へ来て、ウェスターさんがそれに対応することになったから今日予定されていた実務指導が延期になったんだよ」
「ああ、なるほど」
「合わせて作戦会議もやるみたいだったから、部外者の俺は返されちゃったってわけさ」
「ああ~、それはあるな。どこまで行っても俺たちは部外者だし、王国軍に所属しているわけでもないから、重要な作戦会議なんかには参加させてもらえないんだろうな。兵器調達が絡む話だと、戦力が丸わかりになっちゃうから余計だよね」
「そういうことだな・・・そういえば、お腹空いたな」
「ああ、夕飯まだなのか・・・セバスチャ・・・あれ?」
先ほどまでセバスチャンが立っていた場所に視線を向けたが、いつの間にか姿が消えていた。
「どこに行ったのかしら?」
クロアも不思議そうな顔で辺りを見回したが、どこにも姿はなかった。
「とりあえず中に入ろう」
「ああ」
「うん」
「あ、そう言えば俺たちも食事の途中だったな」
玄関ホールを横切りながらトキオが言った。
「そうだったわね。でも、少し時間が経ったせいで満腹になって来たからもういいかな」
「うーん、俺もいいかな」
そんな話をしていたら、前方からセバスチャンの声がした。
「フーゴ様、お食事をご用意いたしましたのでどうぞ」
3人がそっちに顔を向けると、セバスチャンか゜食事の間の入口に立っていた。
「いつの間に?・・・もしかして、料理を用意させるために先に戻った?」
「ほんっとに仕事が早いわね!」
クロアは感心するようなことを言ったが、顔はかなり驚いていた。
「俺たちはどうする?」
「うーん、部屋に戻ろうかしら」
「お茶をお召し上がりになってからではいかがでしょう」
セバスチャンが二人に向かって言った。
「ああ、そう言えばお茶は飲んでなかったな」
「そうね。それに、フーゴが一人じゃ寂しいでしょうし」
「おや?気を遣ってるくれるのか?珍しいな」
「なによそれ!・・・やめようかしら」
「わかった、わかった。一人で黙って食べるのも寂しいから付き合ってくれよ」
「しょうがないわね。でも、明日は朝が早いからさっさと食べてよ」
「早い?どこかに行くのか?」
「南西部の魔物討伐に参加するように言われたのよ。さっき、フラビアが来たのはそれを伝えるためよ」
「え!?お前たちも行くのか?」
フーゴはかなり驚いていた。
「うん、そうなんだよ・・・まあ、その辺の話は食事しながらにしようか。お腹空いてるんでしょ?」
「ああ、もう腹ペコだ」
フーゴはそう言って笑うと、一番先に食事の間へ入って行った。
「それで・・・んぐんぐ・・・早いって何時に出るんだ?」
フーゴは、よほどお腹が空いていたらしく、食べ始めるとすぐに口に食べ物を頬張ったままトキオに聞いた。
「5時にお城の会議室に来いって言ってたから4時半かな?」
「そりゃまた早いな!それじゃ、4時起きか?」
「いや、また長いこと馬車に揺られて行くんだろうから、朝風呂に入っときたいな。そうなると3時半かな?」
「えー?だいぶ日が高くなって来たとは言え、まだ、真っ暗じゃないか」
「そうよね。でも仕方ないわ」
クロアが諦め顔で言った。
「逆算すると9時には寝なきゃいけないなあ。そんなに早く寝たことないから寝れるかなあ」
「そうよねえ・・・ホントはもっと寝たいけど、私もそんなに早く寝られないわねえ」
「まあ、馬車の中で寝ればいいんじゃないか?」
トキオはそう言ってから、ふと思いついたようにセバスチャンの方を見て聞いた。
「そう言えば、サナットの街までどれくらいかかるんだろ?分かる?」
「急行便の馬車でしたら、5時過ぎに出ればその日の夜には着けると思います」
「え?1日で着いちゃうの?」
「まあ、アティムよりはかなり近いからそんなもんじゃない?」
「そうか・・・」
「でも、また急行便の馬車かあ。私、寝られるかなあ」
「前ので慣れたから大丈夫だろ?」
「確かにあんたは爆睡してたわよね。私はあんたと違って繊細なんだから無理よ」
「繊細・・・誰のことだ?」
「あんたって本当に失礼よね!頭来ちゃう!」
そう言ってクロアはふくれっ面になったが、その様子を見てフーゴがぼそりと言った。
「ホントにお前ら仲がいいなあ」
「えー!?やめてくれよ!」
「そうよ!冗談でも言わないで!」
トキオとクロアは少し怒った顔になって即座に反論した。
「だって、はたから見てたら仲良しにしか見えないぞ」
「えー!?今だって、こいつがすごく失礼なこと言ったの聞いてたでしょ!どうしてそう見えるのよ!」
「そんなことを平気で言えるってところが仲良がいい証拠じゃないか」
「それは、こいつにデリカシーがないだけでしょ!」
「あ!なんてこと言うんだ、お前!」
「なによ!ホントのことじゃない!」
フーゴの言葉に怒っていた二人の矛先は途中からお互いに向いたが、その様子を眺めていたら、フーゴの頭に別の言葉が浮かんだ。
「悪い、ちょっと言葉が間違ってたな訂正するよ」
「そうだろ?」
「そうでしょ?」
フーゴの言葉に、トキオとクロアは同時に言った。
「お前たちは『気の合う仲間』だな」
「なんだそれ!」
「なによそれ!」
また、同時に言葉を返した。
「フーゴ様、それはピッタリの言葉ですね」
そこでセバスチャンが微笑みながら言った。
「セバスチャンまでなに言うんだよ!」
「やめてよ!」
二人が食って掛かって来たので、セバスチャンは少し焦った表情になって、
「失礼いたしました。申し訳ございません」
と、言いながら深々と頭を下げた。
しかし、フーゴのところからは見えたその顔は、かすかに微笑んでいた。
「私、もう寝るわ!」
クロアは不機嫌な顔でそう言うと、席を立って出て行った。
セバスチャンはお辞儀をして見送ったが、顔を上げた時はいつも通りの無表情になっていた。
「まったく、何を言い出すんだか・・・」
トキオは、怒っていると言うより呆れ顔でフーゴを見つめて言った。
「でも、お前だってクロアは話しやすい相手だって感じてるんだろ?クロアは、ああいう性格だから絶対に認めないと思うけどな」
そう言われたトキオは、少し上を見上げて悩ましげな顔になった。
「・・・うーん、正直、そんなこと考えたこともなかったな・・・ただ、確かにあいつには気兼ねなくなんでも言えてる気はする。クロアもそんな感じだな」
「そうだろう?お前とクロアは、性格は随分違うが気は合ってるんだよ」
「そうかな・・・セバスチャンはどう思う?」
トキオは、セバスチャンの方を向いて真顔で聞いた。
「はい。ご主人様とクロア様には性別を超えた友情のようなものを感じております」
セバスチャンは直立したまま、表情を変えずにそう言った。
「ええ~?・・・なんか大げさな話になって来たなあ・・・」
「でも、それで合ってるんじゃないか?俺もそう思うよ。お前たちがアティムにいた時から、『二人は仲良し』って評判だったけど、ここで一緒に暮らしてみて、本当にそうだってのが良くわかったよ」
「えっ!?なに?そんな評判になってたの!」
「そうだよ。これは、パーシーに聞いた話だが、魔導士長様から王都に招聘されたとアティムの司祭がクロアに伝えに来た時、最初は断ったのが・・・」
「え!?断った?」
トキオは、びっくりした顔になりフーゴの話を遮ってそう言った。
「そうだよ。なんでも、もう王都には行きたくないと言ったそうだ」
「魔導士長様の誘いを断るって、あいつも勇気あるなあ・・・」
「ああ、俺もそう思う・・・で、いったん断ったんだが、魔導士様が光魔法を教えてくれるって言われて少し心が動いて、お前たちが仲がいいと聞いてたアテイムの司祭が自分の判断で『トキオもお前に来て欲しいと言ってる』と魔導士長様からの依頼書には書いてなかったことを言ったら、それで行くことを承諾したらしいぞ」
「ええっ?それ、ホントなの?」
「ああ、少なくとも同席してたパーシーが俺の店に来てそう言ってたよ。これは内緒にしといてくれって言ってたけど、あいつのことだから、クロアがいなくなったらみんなに話しただろうがな」
そう言ってフーゴは笑った。
「そんなことがあったんだ・・・」
自分もそうだが、クロアの普段の態度からは自分に対する恋愛感情は感じられかったので、トキオはそのクロアの行動の意味するところが理解できず悩ましげな顔になって考え込んだ。




