第223話 出動命令
「連絡はいつごろ来るのでしょうね?」
夕食のとき、トキオとクロアが北西部へ出撃する話をしていたら、セバスチャンがボソリとそう言った。
「うーん、どうなんだろ?俺は今日中に来ると思ってるんだけどな」
「私もそう思うわ。王都にいる部隊の一部はすでに出発してる気がするし」
「ああ、多分そうだな」
トキオとクロアは悩ましげな顔をしてそう言った。
「では、前回のようにお城にお泊りされることになるのでしょうか」
セバスチャンは少し不安そうな顔で聞いた。
「そこはどうだろうなあ。南部より近いし、俺たちは大した戦力にならないことが前回の南部遠征でわかったから、明日の朝集合って気がするな」
トキオが自嘲気味に言った。
「あら、戦力にならなかったのはあんただけでしょ?私はかなりのオークを倒したわよ」
クロアが少しバカにしたような顔で言った。
「それを言ったら、俺だって拳銃で結構倒したぞ」
「私の討伐数に比べたら微々たるものだったけどね」
「それはお前がそう思ってるだけだろ?ずっと見てたのかよ」
「見てないけど、大体わかるわよ」
「お前なあ・・・」
トキオがそこまで言ったとき、外からかすかに馬の蹄の音が聞こえて来た。音からして単騎のようだった。
「来られたようですね。お迎えに行って参ります」
セバスチャンはそう言うと、すぐに食事の間を出て行った。
「待って!俺も行くよ!」
「私も!」
トキオとクロアはそう言って立ち上がると、セバスチャンの後を追って食事の間を出たが、出たときにはすでにセバスチャンは玄関に達していた。
「速っ!」
「あの人の足、どうなってんの!?」
二人はかなり驚いた。
それから、慌てて駆け足で玄関に向かった。
外に出ると、単騎の馬がこっちに向かって来るところだった。
庭はところどころにしか照明がないため顔ははっきりとはわからなかったが、体形からトキオにはそれが誰であるかすぐに分かった。
「今回もフラビアだな」
トキオは思わずそう呟いた。
「え!?こんなに暗いのによくわかるわね!」
クロアが驚いて言った。
「まあ、毎日顔を合わせて間近で見てたからな。俺の知り合いであんな体格の人間はフラビアしかいないよ」
トキオはそう言ったが、クロアは次のセバスチャンの言葉でさらに驚いた。
「はい、フラビア様ですね。ご主人様の連絡係の役を仰せつかっているのでしょう」
「えー!?セバスチャンは2回ぐらいしか会ったことないでしょう?」
「若い頃から人の名前と特徴はすぐに把握するよう教育されて参りましたので、大抵の方は一度お姿を拝見すれば覚えてしまいます」
「うそっ!スゴーい!」
「しかし、今回は襲歩ではなく速歩ですから、どうやら、お城にお泊りすることはなさそうですね」
「しゅうほ?はやあし?・・・なにそれ?」
「馬の走り方の種類です。襲歩というのはいわゆる全速力で、前回来られた時がそうでした。それより2段階スピードが遅いのが速歩で、今のフラビア様がそうです」
セバスチャンは、右手の平を斜め上に向けてフラビアを差しながら言った。
「へえ・・・」
クロアは感心したように、フラビアが跨っている馬をしばらく凝視していた。
それから、また、セバスチャンに視線を戻したが、その隣にメアリーが立っていたので驚いた。
「あんた、いつの間に!?」
「今、参りました」
「全然気づかなかったわよ」
「申し訳ありません」
メアリーはそう言って頭を下げた。
「別に怒ってないわ。驚いただけよ」
「恐縮です」
メアリーはそう言って、再び頭を下げた。
「うーん?・・・そう言えば、メアリーもジェーンも、いつも足音してなくないか?」
「あ!確かにそうかも!」
トキオの言葉に、クロアが驚いた様子で言った。
「はい。メイドになった時からそのように教育されて参りました」
「そうなんだー・・・あんたたちの仕事も大変ね」
「いえ、いつものことで特に意識しているわけではありませんから大丈夫です」
「それって、習慣化してるから無意識にやってるってこと?」
「え?・・・そうかもしれません」
「それはそれでスゴいわね」
「ありがとうございます」
そう言ってメアリーが頭を下げたところでフラビアが到着した。
「これはこれは、麗しの美女のお出ましだ」
トキオは、からかうようにフラビアに向かってそう言った。
「なんだよそりゃ・・・近衛師団長からの伝言を伝えに来た」
フラビアは、馬を降りながら一瞬、照れくさそうにしたが、すぐに真顔に戻ってそう言った。
「北西部への遠征の話か?」
「そうだ・・・明日の朝出発するので、トキオとクロアは5時半までに城の第一会議室に来るようにとのことだ」
「えー!?そんなに早いのかよ!」
「うそでしょ?」
トキオとクロアが驚きの声を上げた。
その時、セバスチャンがメアリーに目配せをし、それを受けたメアリーは、軽く頷くと速足で建物沿いに移動して、植え込みの陰に消えて行った。
しかし、トキオとクロアとフラビアは、会話に夢中になっていてそのことに気付かなかった。
「それって、前回、集合した部屋か?」
「そうだ」
「わかった・・・ところで、その後、伝令からの新しい情報はあったか?」
「ああ、2度伝令が来た。お前、どこまで聞いてるんだ?」
「北西部で大規模な魔物の襲撃があった、としか聞いてないぞ」
「なんだ、それだけか。襲撃して来た魔物の種類も聞いてないのか?」
「聞いてないな。何か特別なヤツなのか?」
「ウェアウルフだ。少しやっかいだぞ」
「へえ、人狼かあ」
トキオは、今までに見たことがない魔物の名前を言われたので、強い興味が沸いて思わず顔がにやけてしまった。
「お前、よく知ってるな」
「・・・ああ、まあな」
「でも、なんで嬉しそうにしてるんだ?」
「え?・・・い、いや、そんなことないだろ」
「いや、確かに今、嬉しそうな顔をしたぞ」
「見間違いだよ!」
その言葉でクロアがトキオの顔を覗き込んだが、その時には、トキオはフラビアの言葉に焦った顔になっていた。
「見逃しちゃったわね。残念」
「だから、そんな顔してないって!・・・そんなことはいいから、状況を教えてくれよ」
「ああ、そうだな・・・北西にあるサナットの街の近郊にある集落が魔獣のケルベロスに襲われ、サナットの王国軍がその討伐に向かったところで、街の方にもう一体のケルベロスと伴にウェアウルフの大群が現れてあっという間に占領した。突然の侵攻だったのと、こちらの兵力が少なかったため住民の一部も巻き込まれた」
「なんだって!?」
「そんな!」
「王国軍が盾になって住民を逃がしたため、命を落とした住民は数名だったそうだが、兵士はかなりやられたらしい。それから、ウェアウルフたちは街の中で略奪行為をして、報告のあった時点では、街からは出て来ていないそうだ」
「なんてことだ」
「ひどい・・・」
「それと、不確定な報告だが魔人が3体サナットの上空にいたという情報もある。1体は女性の魔人らしいから、きっと、南部に現れた幹部だろう」
「え?南部からいきなり北西部に現れたのか?」
「魔人の移動速度を考えたら別に不思議じゃないだろう」
「ああ、そう言われれば確かに」
「わかっているのは以上だ。では、明日は頼んだぞ」
フラビアは、そう言うと馬の鞍に手をかけて跨ろうとした。
「ちょっと待って!もう少し詳しく聞きたい・・・夕飯まだなんだろ?食べて行けば?」
「なに?・・・評判のこのお屋敷の食事が食べられるのは魅力的だが、まだ勤務中なので辞退させてもらうよ。戻って会議があるので細かいことは明日にしてくれ。それに、私の分など用意してないだろ?」
「いや、それは大丈夫だと思うよ・・・ねえ、セバスチャン」
トキオは、セバスチャンの方をチラッと見て聞いた。
「はい。すぐにご用意いたします」
セバスチャンは、少し頭を下げながら答えた。
「そういう風に私のために誰かが苦労をするのは困るな。どっちにしろ勤務中だから、また、別の機会に寄らせてもらうよ・・・あれ?メイドがいないぞ」
セバスチャンの方を見たフラビアが驚いた顔で言った。
フラビアの言葉で、トキオとクロアは慌てて先ほどまでメアリーが立っていたセバスチャンの右隣を見たが、確かにメアリーの姿はなかった。
「確かに!いつの間に!?」
「また、足音がしなかったわね!」
「キビルのところに、明朝の馬車の時間を伝えに行かせました」
セバスチャンが涼しい顔で答えた。
「え?判断早っ!」
トキオが驚きの声を上げた。
クロアとフラビアもかなり驚いた顔をしていた。
「いつもながら、仕事の早さには驚かされるわね」
「恐れ入ります」
クロアの言葉に、セバスチャンは深くお辞儀をしながら言った。
そこでフラビアが馬に跨った。
「それでは私は城へ戻る。明日はよろしくな」
「わかった。また、明日」
「お疲れさま」
フラビアは、軽く手を上げてから門の方へ戻って行った。
トキオとクロアは、しばらくそれを見送っていたが、フラビアがまったく振り返らなかったので、ほぼ同時に回れ右をすると屋敷の中へ戻って行った。
セバスチャンも、その後ろについて屋敷に入って行った。
馬の走り方について触れていますので、参考になるリンクを貼っておきます。
(アップ時に貼り忘れたので後から追記しています[2021/10/13 12:46])
https://tanintl.com/plod.html
https://umas.club/horse-gait




