第221話 状況変化
トキオが、刀と銃のベルトが置いてある壁際に行くとそこにクロアがいたが、なぜか不機嫌そうな顔をしていた。
「それでは、先に失礼するぞ」
「はい!ありがとうございました!」
そこで、入り口のところからモルナール魔導士が声をかけて来たので、トキオは慌てて振り返って答えた。
シュミュード魔導士長はすでに退室した後だった。
「話、聞こえてたわよ」
モルナール魔導士が出て行くと、クロアがそう言った。
「ん?魔法の教師の話か?」
「そうよ!なんで魔法使いじゃないあんたが魔法士になれるのよ!おかしいでしょ!」
(・・・ああ、それで機嫌悪いのか)
「そんなこと言われても、俺が望んだわけじゃないし」
「そうかもしれないけど、なんか腹立つじゃない!」
トキオは、クロアが不機嫌を通り越してかなり怒っているのに驚いたが、自分より魔法を習得したのがかなり遅いうえに、魔法使いでもないのに自分を差し置いて先に魔法士になったのが相当気に入らないのだろうというのは理解できた。
「別に魔法使いとして名を成そうとは思ってないし、実際に講師をするわけじゃないらしいから、まあ、カタチだけのもんだよ」
「だから余計に腹が立つのよ!なんで、一生懸命魔法を訓練してもいないのにそんなにレベルが上がるのよ!」
「そこは、適性の問題で俺が何かしてるわけじゃないから仕方ないじゃん。それに、訓練は真面目にやってるぞ」
「でも、自分には剣や格闘技があるから魔法はそこそこでいいや、とか思ってるでしょ!」
「ええ~?別にそんな事思ってないし」
「ウソおっしゃい!」
「ウソじゃないよ」
(まあ、ウソじゃないけど、どっちかっていうとその事については何も考えてなかったってのが正解だな)
トキオは、そんな事を思って苦笑しそうになったが、クロアが余計に機嫌を悪くすると思って慌てて顔を引き締めた。
しかし、
「あ!あんた今、笑いそうになったでしょ!」
少し顔に出たようで、すかさず突っ込まれた。
「・・・そんなことないって。気のせいだよ」
「いや、絶対笑ったわ!」
「笑ってないよ~・・・もう、いいから帰ろうよ~」
トキオはそう言うと、刀と拳銃のベルトを取って腰に装着した。
「話はまだ終わってないわよ!」
「わかったけど、馬車の中でもいいだろ?さあ、行くぞ」
トキオはそう言うと、入り口に向かって歩き出した。
「待ちなさいよ!」
クロアはそう言いながら追いかけて来たが、トキオは振り返らず入り口まで行きドアを開けた。
すると、グライム第一師団長とゴットハルト近衛師団長が目の前を血相を変えて走り過ぎて行ったので驚いた。
「何かあったんですか!」
トキオは、思わずその後ろから声をかけた。
すると、二人とも立ち止まって振り返ったが、ゴットハルトが、
「先に行っててくれ」
と、グライムに言ったので、グライムは頷いて走り去った。
トキオは、走ってゴットハルトのところまで行ったが、ゴットハルトもトキオの方へ戻って来た。トキオの後ろから、クロアも走って来ていた。
「北西部に大規模な魔物の襲撃があったんです」
ゴットハルトが険しい顔でそう言った。
「なんですって!」
トキオは驚いて、思わず大きな声を出した。
クロアは、その斜め後ろで息を飲んだ。
「今、現地から報告の早馬が届いたところで、それを国王陛下に報告に行くところでした。まだ、詳細は分かっていませんが、これから続々と報告が届くと思います」
「そうなんですか・・・なんてことだ。本当に北から来るとは」
北部からの侵攻はアンドレス王子を言いくるめるための方便で、今まで聞いていた立地条件や軍の配備状況、地理的な問題から実際には北部からの侵攻はないと思っていたトキオは、かなり驚いていた。
それは、クロアも同じだったようだ。
「魔法訓練は終わったんですか?」
「今、終わりました」
「そうですか。今はまだ、王都でどのような対応をとるかを考えるには情報が不足しています。もし、お二人に協力していただくこになったら連絡しますので、お屋敷へ戻っておいていただけますか」
「・・・わかりました。では、すぐに戻って出動できる準備を整えておきます」
「お願いします。それでは後ほど」
ゴットハルトは、そう言うとグライムが去って行った方向へ走って行った。
「じゃあ、急いで戻ろう」
「わかったわ」
それからトキオとクロアは、小走りで城の入口へ向かった。
入口が見えてくると、そこにはいつものように迎えの馬車がいた。
「キビル!北西部に魔物の侵攻があったらしく、俺たちもまた出動するかもしれないから今日は急いで屋敷まで戻ってくれ!」
トキオは走りながらそう大声で言った。
「わかりました」
キビルはかなり驚いた顔をしたが、短くそれだけ言い、トキオとクロアが馬車に乗り込みドアが閉まったのを確認するとすぐに馬車を発進させた。
そして、いつもの倍以上のスピードで屋敷への道を進んで行った。
屋敷に着くと、いつものようにセバスチャンとメイドの二人が玄関先に立って待っていたが、馬車がいつもよりかなり速いスピードで入って来たのを見て、緊張した顔になった。
「なにかございましたか!」
馬車が停まりトキオとクロアが飛び出して来ると、セバスチャンは、いつもの挨拶の言葉の代わりにそうトキオに聞いた。
「北西部で大規模な魔物の襲撃があったらしい!」
「なんと!」
「俺たちも出動することになるかもしれないからその旅支度をする。メアリーとジェーンは手伝ってくれ!」
「わかりました!」
トキオとクロアは、そのまま屋敷の中に走って行き、階段を駆けあがったが、すぐ後ろからメアリーとジェーンもついて来ていた。
「旅の用意は私どもがいたしますので、ご主人様とクロア様は先にお風呂に入って来てください」
走りながら、ジェーンがそう言った。
「そうか、そうだな。じゃあ、クロア、先に入って来てくれ!」
「わかったわ!」
トキオの言葉に返事をしたクロアは、3人と別れてそのまま3階まで掛け上って行った。
2階の廊下の突き当りまで来ると、ジェーンはクロアの部屋に行くために左に折れ、トキオとメアリーは右に折れてトキオの部屋に向かった。
部屋に入るとすぐ、メアリーはクローゼットから旅行カバンを取り出してから衣裳部屋に入って行った。
トキオは、少し考えてから、スツールを中央の壁のところに持って来てよじ登り、壁に掛けてあった報奨の剣を降ろし、ベッドまで持って行ってその上に置いた。
(使うかどうかわからないけど、念のため今回も持って行った方がいいだろうな)
トキオは剣を見つめながらそう思ったが、すぐに別のことを思った。
(いや、なんか今回は使いそうな気がするな。それと、今まで以上に厳しい戦いになりそうな気がする)
そこで、メアリーが衣裳部屋から出て来て、両手に抱えた下着と服を旅行カバンに詰め始めた。
しかし、その途中でトキオがベッドの上の剣を見つめているのに気づき、トキオの方に寄って来た。
「強化魔法をおかけいたしましょうか?」
メアリーが、剣とトキオを交互に見て聞いた。
「いや、まだいい。今かけても、出かける時には切れてる可能性があるからな。出かける時になったら頼むよ」
「わかりました」
メアリーはそう答えると、お辞儀をして旅行カバンのところへ戻って行った。
「お出かけの用意は整いましたので失礼します。御用がございましたらお呼びください」
「わかった。ありがとう」
メアリーは一礼して部屋を出て行った。
トキオは、ソファに座ると、今回はどういう風に侵攻してきているのかを考えてみた。
(前回の生き残りの魔人が3体いて、1体は重傷を負ったみたいだけど、魔人だからきっと驚異的な回復力とかあって、すでに全快してるんだろうな。そいつも含めて2体が幹部ってことだけど、1か月で2度も失敗してることから今回は両方とも最初から出て来るだろうな・・・むう、だいぶ難しい戦闘になりそうだな)
トキオは、少し嫌な感じを覚えたが、同時に、根っからの異世界好きの気性から、今度は間近で幹部を拝めるかもしれないと思うと、ワクワクして来るのも感じたのだった。特に、女の幹部には強い興味が沸いていた。
そこでドアがノックされ、トキオの返事も聞かずにクロアが入って来た。
「お風呂出たわよ」
「えらく早いな!」
トキオは驚いて思わず聞き返した。
「脱衣場に入って湯船につかる間に色々考えてたら不安になってきちゃったから、急いで体を洗って出てきちゃったのよ・・・なんか、今回はイヤな感じがするわ」
クロアは真顔でそう言った。
「・・・お前もそう思ったか。実は俺も今、今回はかなり困難な戦闘になりそうだと思ってたところなんだよ」
「やっぱり?今までの失敗から、今回は、かなり戦力も増強して来る気がするわ。魔人もたくさん出て来そうな気がする」
「たくさん?・・・何体ぐらい来ると思ってるんだ?」
「・・・少なくとも5体。下手すると10体ぐらいかもしれないわ」
「そんなにか!?・・・でも、あり得るな」
「そうでしょ?だから、こっちも万全の態勢で行かなくちゃね」
「ああ、そうだな。その辺は、グライムさんたちとしっかり話をしないとだな」
「そうね」
「じゃあ、俺は風呂に入って来るよ。また、あとでな」
「うん。また、あとで」
それから、二人は一緒に部屋を出て、クロアは自室に戻るため左へ、トキオは右へと分かれて行った。




