第220話 魔法士
一つ急ぎの仕事が終わりましたのでペースを上げられると思いますが、まだ、一つ残っているので毎日の更新は難しいかもしれません。
それからトキオは、全ての種類の関節技を王女にかけて見せた。
当然、痛みを伴うものなので、最初は文句を言っていたが、相手の動きを止めて戦意を喪失させるのに有効だと気づいたからか、途中から感心する声の方が多くなった。
「関節技は、大体これで一通りです」
「結構色々とあるのね。じゃあ、明日は私ができるように教えるのよ」
「もちろんですが、今日じゃなくっていいんですか?」
「今日は、もう一つの『絞め技』というものが見たいから明日でいいわ」
「わかりました。では、ベルナーさんを相手にしていただきながら説明します」
「そうね。じゃあ、ベルナー、明日も頼むわよ」
「え!?・・・は、はい!わかりました!」
ベルナーは、驚いた顔を必死でごまかしながら答えた。
そして、一瞬ではあったが、恨めしそうな顔でトキオを見た。
(大変だろうけど、王女様のためだからな。これから教わる王女様じゃ加減ができなくて余計に痛いだろうけど、まあ、それも仕事だと思って諦めてもらうしかないな)
トキオは、その視線を見て、すまないという気持ちよりもそんなことを思って内心苦笑した。
「それじゃ、まずは、俺がベルナーさんに掛けるのを見てもらって大体のやり方を理解してもらいましょうかね」
「そうね。そうしてもらうわ・・・じゃあ、ベルナー」
「はい!」
ベルナーは返事をするとトキオの前に出て来た。
「じゃあ、後ろを向いて両膝を畳の上についてください」
「はい・・・こんな感じでしょうか?」
ベルナーは言われたとおりにした。
「では行きます。まずは、右腕をこんな風に首に回します」
トキオは、そう言いながら後ろからベルナーの首に右腕を回した。
「首のこの部分に頸動脈というものがあり、ここを圧迫しますから、このとき、右腕がこの頸動脈に当たることを意識してください」
トキオは、一旦、右腕を緩めてベルナーの首の右側を差しながら言った。
「ふうん・・・わかったわ」
「次に、左腕の肘の内側をこんな風に首に回した右腕の手首に当てて締め上げます。すると、相手は失神します」
「ええっ?私、失神させれられるんですか?」
ベルナーが驚いた声を上げて振り返った。
「失神?・・・・・そう言えば、お前はジークフリートを失神させたそうじゃない。それがこの技なの?」
王女は、ベルナーの反応を完全に無視してトキオに聞いた。
「あー、また、その間違った噂の話ですか」
「間違ったって・・・違うの?」
「いえ、失神させたのは事実なんですけど、こんな風に絞め技の訓練で勇者様合意の上で失神してもらっただけです。噂は、まるで勇者様と戦って俺が失神させたみたいになってるんで・・・」
「なによそれ?そんなことはわかり切ったことじゃないの」
「え?・・・殿下はそう思われていたんですか?」
「当たり前でしょ。あのジークフリートを戦いで失神させられる人間なんているわけがないじゃない」
「そうなんですよねえ。どうしてみんなはそこを理解してくれないんですかねえ」
「まあ、誰かが面白がってそういう噂を流したんでしょうね。王都の兵士は実戦が少なくて退屈しているからそういう話がしたくなるのよ」
「ああ、そういうことですか・・・まったく、はた迷惑な話ですね」
「もう、その話はいいわ。さあ、やって見せてちょうだい」
「あ、はい」
トキオはそう返事をすると、右手首にひっかけた左腕に力を込めた。
ベルナーは、王女から助けが得られなかったことで覚悟したのか、無言のまま緊張して体を固くした。
「ああ、ベルナーさん。力を抜いてください。頑張っちゃうと時間がかかりますし、本来の効果がわかりにくくなりますので」
「は、はい」
ベルナーは大きく息を吐いて体の力を抜いた。
「それでは行きます」
トキオはそう言うと、すぐにベルナーの首を絞め上げた。
ベルナーは、10秒と立たずに意識をなくした。
トキオは、腕を緩めるとベルナーの両肩を掴んでゆっくりと畳の上に寝かせた。
「え?もう失神したの?」
「はい」
「うそでしょ?・・・ちょっと、ベルナー!なに、寝たふりしてるのよ!起きなさい!」
王女はそう言いながらベルナーの体を揺すったが、ベルナーは全く反応しなかった。
「本当に失神してるみたいね。驚いたわ」
「はい。これが絞め技です」
トキオはそう答えてから、ベルナーの上体を起こし、膝で背中に活を入れて目覚めさせた。
「・・・ううん?・・・私は何を・・・」
ベルナーは、状況が把握できずにそんなことを言った。
「それじゃあ、今度は私がやってみるわ」
「その前に、絞め技の有効性を体感していただく意味で、私が殿下に掛けた方が良いかと思います」
「私が失神させられるということ?」
「そういうことです」
「必要ないわ!今のでやり方はわかったから!」
「やり方がわかっても、自分で体験されているのとそうでないのとでは、どこをどう圧迫すればいいかの感じ方が格段に違いますし、実戦で使用する際の使い方にも差が出ますから」
「本当にそうなの?」
「はい。勇者様も、その点には納得されて失神するのを受け入れられましたので」
「・・・ジークフリートがそう言うのではしょうがないわね」
王女は、そう答えながら壁の時計をチラッと見た。
「あら。もうお昼じゃないの。残念だけど時間切れね。続きは明日やってもらうわ」
王女はそう言ったが、少し目が泳いでいた。
「え?・・・ああ、ホントですね。わかりました、では明日」
トキオはそのことに気付いたが、気づかなかった振りをして話を合わせた。
「明日の楽しみにとっておくわ。本当に残念だけどね」
王女はそう言うと、トキオに背を向けて入口に向かって歩き出した。
それを見たベルナーは、慌てて起き上がると王女の後を追った。
壁際に控えていたもう一人の従者も、王女を追って行った。
「お疲れさまでした。また、明日お願いします」
トキオがそう声をかけると、王女は前を向いたまま軽く手を上げた。
「はあ・・・やっぱり、なんか気疲れするなあ・・・よし!ご飯、ご飯」
3人が出て行くと、トキオは壁際の棚に置いてあった拳銃と刀のベルトの方に歩いて行きながらそう呟いた。
「よし!もう、問題なく使いこなせるレベルになったな」
昼食後は、いつものように魔法訓練だったが、その終わりの時間になってモルナール魔導士がトキオに言った。
「そうですか!」
「ああ。ここまでフライショットの使い方を習得していれば、ほとんどの状況で瞬時に的確な使用方法を判断できるであろう。では、本日の訓練はここまで」
「ありがとうございました!」
トキオが、モルナール魔導士に弾んだ声でそう挨拶した後方で「ありがとうございました!」というクロアの声が聞こえたので振り返ったら、クロアも訓練を終えたようだった。
「そうだトキオ、そなたもそろそろ光魔法のレベルが20を超えたのでないか?」
トキオが、荷物の置いてある棚の方へ向かおうとしたしたところで、モルナール魔導士がそう声をかけた。
「え?・・・そういえば、しばらくステータス画面を確認してないですね・・・ステータス!」
トキオは、ステータス画面を覗き込んだ。
「えーと・・・・・あ!確かにLv21になってます!」
「やはりそうか。それでは、新しい光魔法を習得しているであろう」
「え?」
トキオはモルナール魔導士の言葉に驚きながら、ステータス画面を指でスクロールさせた。
「あ!ホントですね!フライシェストというのが増えてます!」
「よし。では、明日からはそのフライシェストの訓練だ」
「わかりました!ありがとうございます!」
トキオは、新しい魔法を覚えたということがなんだか嬉しくて、満面の笑みを浮かべながらお辞儀をした。
しかし、モルナール魔導士は、それには反応せず、別のことを言った。
「レベル20を超えたし、複数魔法を使いこなせるスキルもあるということで、そなたには魔法士の資格を与えねばならんな」
「・・・魔法士ですか?それって、どういうものなのでしょうか」
トキオは驚いて思わず聞き返した。
「他の者に対して魔法の教師になれるという資格だ」
「ええ~?・・・いや、俺なんかまだまだそんなレベルじゃないですよ」
「そんなことはないぞ。魔法士の資格というものは、本来はベテランの魔法士以上の者が審査官となって審査をし、それに合格した者だけが持てる資格なのだが、そなたの光魔法のレベルは十分にそれに値するうえ、火魔法も人に教えられるだけの使い方は習得している」
「そうですかあ?・・・でも、どっちの魔法も実戦で使ったのは数回ですよ」
「5年前から急に魔物が増え始め、それからは多くの魔法使いが魔法を行使する機会を得ることになったが、それまでは、どの魔法使いもごくまれにしか実戦で魔法を使用することはなかった。だから、ベテランの魔法士と言えども、そなた以上に実戦経験を積んでいる者の方が少ないのだ」
「ああ、なるほどそうか、そうでしょうね」
「冒険者には経験豊富な者もある程度いるが、地方の上級魔法使いですらレベル20に達しているものは稀なくらいだからな。冒険者では皆無だ。逆に、王都にいるレベル20を超える魔法が使える魔法使いは、決定的に実戦経験が不足している」
「え?・・・どうして、王都にいる魔法使いはレベルが高いんですか?」
「そなたが光魔法に対して抜群の適性を示しているように、稀に、いずれかの魔法に高い適性を示す者が現れる。それが分かった時点で、その者が所属している冒険者ギルドの支部から報告が来るため、王都に招聘し、その適性をより高めるために整った環境で訓練を施すのだ」
「へえ~、そんなシステムがあったんですね」
「そうだ。そして、その中から特に適性の高い者が魔法士となるのだ」
「ええ~?それなら、やっぱり俺なんかまだまだですよ~」
「我々魔導士がその資格があると判断したのだ。これ以上の正しい判断はないぞ」
「あ、それはそうですね!失礼しました!」
トキオは、慌てて深々と頭を下げた。
「もしかすると人に教えるということに抵抗があるのか?」
「そうですね。格闘技を教えることなら学生時代からやってましたし、アティムでも王都でもやってきましたので抵抗はないんですが、魔法となると、どういう風に教えていいものかがまるでわかりません」
「なるほど、そういう心配か。安心しろ、そなたに教師として他の魔法使いを教育してもらうつもりはない。そなたには、造兵局と連携して武器や各種機材の設計、製造の方に尽力してもらいたいからな」
「そうですか!よかった~」
「ははははは、まったくそなたは正直だな」
「あ、はい。そうかもしれません」
トキオは、照れくさそうに頭を掻きながら答えた。




