第214話 機材の説明
次の日の朝、またしてもフーゴが食事に大喜びと大騒ぎをしたが、食事が終わると、いつものように馬車に乗ってお城に向かった。
「あ、そうだ!」
トキオはそう言うと、馭者のキビルの背後にある窓を開け、何かをキビルを告げた。
すると、馬車がいつもより手前の十字路で北側に曲がった。
「あれ?どうしたの?」
クロアが聞いた。
「うん、ちょっとフーゴにお店を教えとこうと思ってね」
「お店?なんの?」
「着いてからのお楽しみだよ」
トキオはそう言うと、ニヤリと笑った。
「何よそれ」
クロアは少し不満そうだった。
しばらく進むと、王都で一番の大通りに出たが、馬車はそこを西に折れた。
「もうすぐだよ」
そこで、トキオがフーゴに向かって言った。
「そうか。なんの店だよ」
「見えて来たよ。ほら、あれ」
トキオが指さした方を見ると、それはかなり大きな店で、正面がガラス張りになっており、その内側に武器や防具が並んでいた。
「ほう、武器屋か。大きな店だな」
「王都で一番大きな武器屋だよ。テリットたちが王都に来るときに馬車で一緒になったサイマンさんという人がやってるんだ。俺も何回か行ったけど、店は本当に広くて品揃えも豊富で、アティムじゃ見たことない武器や防具がたくさん売ってたよ」
「ほお~・・・そりゃ、王都にいるうちに一度は行ってみないとだな」
「そう思って場所を教えといたのさ。きっと、色々と参考になると思うよ」
「そうだろうな。わざわざすまないな」
馬車が店の前を通り過ぎる時も、フーゴは興味深そうに長々と店の中を見つめていた。
お城に着くと、トキオとフーゴは造兵局、クロアは魔法訓練場に行くために途中で分かれた。
前日の打ち合わせではウェスターが望んでいたことをすべて調整することができなかったので、本日の午前中も造兵局で一緒に打ち合わせすることになっていた。
第一師団には、ウェスターから連絡が行っているはずだった。
造兵局に着くと、トキオはまず、自転車の実物をフーゴに見せた。
「これが自転車か・・・見たこともないカタチをしてるなあ。乗り物なんだろ?どうやって乗るんだ?」
「それは今から実演してみせるよ」
トキオはそう言うと、自転車に跨って右足をペダルに乗せた。
「しっかり見ててよ」
トキオがそう言って右足に力を入れると、自転車はゆっくりと前に進んだ。
「あっ!」
フーゴは、横になんの支えもない自転車が転倒すると思い、思わず声を上げた。
しかし、フーゴの心配をよそに、トキオの乗った自転車はフラフラもせずまっすぐ前に進んで行った。
「え?・・・どうなってんだ?」
フーゴは、なぜ倒れないのかが理解できず、目を丸くしたままトキオの姿を追い続けた。
「はい、こんな感じ」
作業台の周りを一周して戻ってきたトキオは、フーゴが驚いた顔をしているのを見て、満足そうな表情で言った。
「これ、すごいな・・・どういう仕掛けだよ。どうして倒れないんだ?」
「仕掛けって言うほどのものはないよ。構造は割と単純だね。倒れないのは、慣れると体が自然とバランスをとるようになるからで、フーゴも練習すれば同じように乗れるようになるよ」
「ホントかよ!とても信じがたいな」
「どうせなら、アティムに帰る前に練習して乗れるようになってよ」
「そんなに簡単に乗れるようになるのか?」
「個人差はあるけど、フーゴなら1週間はかからないと思うよ」
「ほお~」
「これは、人が走るよりも高速で移動するための乗り物でね。本当は、もっとスピードを出すことができるんだけど、今日は強化魔法を使える人がいないからこの程度ね」
「は?この乗り物と強化魔法になんの関係があるんだ?」
「あ、そうか・・・この車輪に付いてる黒い部分がタイヤって言うんだけど、これは、グリベラーの毛皮を筒状の輪っかにしてそこに空気を詰めた物なんだよ。だから、頑丈なグリベラーの毛皮とは言え、不整地を長時間走ってると破れたりするんだよね。それを防止するために強化魔法をかけるのさ」
「ほお~。面白いことを考えたな。それもお前の考えか?」
「うーん、どうだったかな?そうかもしんない」
「そうですよ」
そこで、横にいたウェスターが言った。
「そうでしたっけ?もう、忘れちゃいました」
トキオはそう言って笑った。
「お前、そういうところ、結構気にしないたちだよな」
「あー、そうかもしんない」
そう言って、トキオは再び笑った。
「それじゃあ、ついでに、リヤカーと猫車も見せとこうかな。数日前に、試作品が出来たんだよ」
「リヤカーと猫車?なんだそれ?・・・あ、アティムで魔導士様から聞いた機材がそんな名前だったような・・・」
「荷物を運ぶための機材だよ。こっちに来て」
トキオはそう言うと、先に立って造兵局の奥へ入って行った。
他の者たちは、トキオの後に続いた。
「はい、これね」
トキオは、リヤカーと猫車の試作品が置いてある一角に来ると、それらを指さしながら言った。
「なんだこりゃ?・・・面白いカタチしてるなあ」
「使い方も見せるよ」
トキオはそう言うと、リヤカー、猫車の順に使い方を実演して見せた。
それから、用途やどういう時に使うかを説明した。
「ほお~。これいいな!色々と使い道がありそうじゃないか!」
トキオの説明が終わると、フーゴは、興奮気味にそう言った。
「でしょ~?これを今、大量生産しようとしてるところなんだよ」
「アティムでも作ってみたいな」
「イイネ!図面があるから1セットあげるよ」
「そうか!それはありがたい!」
「じゃあ、最後は気球だね。といっても、これはまだ実物が出来てないから、図で説明するね」
トキオはそう言うと、自転車がある部屋の方に戻り、途中にあった机の引き出しから、1枚の大きな紙を出した。
「ほら、これが気球だよ。上のドーム状に膨らんでる部分に熱した空気を入れると浮かび上がるから、一番下にぶら下がってるゴンドラに乗って空から地表を観察するんだ。要するに、敵の様子を確認するための偵察用の乗り物ってことね」
「浮かび上がる?熱い空気を入れると浮かぶのか?」
「そうだよ。空気って熱すると普通の空気より軽くなるんだよ。だから、浮かぶんだ」
「ええっ?そうなんだ・・・これって、トキオの村で使ってるのか?」
「え?・・・ああ、まあそうだね。数は少ないけどね」
「信じられん!なんで今まで王都や他の地域に伝わって来なかったんだ?」
「さ、さあ?なぜだろうねえ・・・」
トキオは痛いところを突かれて、あわててごまかした。
「とにかく、スカイランタンっていう、空に浮くことを実演できる模型みたいなものがあるから、それで本当に浮くんだってのを見せてあげるよ」
そう言ってトキオは歩き出そうとしたが、横からウェスターが声をかけた。
「トキオさん、10時を過ぎてますが大丈夫ですか?」
「え?・・・あ゛!」
トキオは、慌てて壁に掛かっている時計を見たが、すでに10時5分になっていた。
「ヤバイ!じゃ、俺はこれで!ウェスターさん、スカイランタンの実演はよろしくお願いします!」
「わかりました。お気をつけて」
「うー、ホントに無事じゃ済まないかも」
トキオは、そう言うと青ざめた顔で造兵局から飛び出して行った。
トキオが、息を切らして王族用の訓練室にたどり着くと、部屋のドアの前に王女の従者が立っており、トキオの姿を見るとドアを開けて手で入るように指示した。
「すみま・・・」
「遅い!」
トキオが部屋に飛び込みながら謝ろうとしたら、言い終わる前に畳が敷き詰めてある場所の前にいた王女に怒鳴られた。
「私を待たせるなんて、いい度胸ね!」
「すみませんすみません!造兵局で話に夢中になっちゃって・・・」
「言い訳するな!」
「はい!すみません!」
トキオはそう言って、ペコペコと数回頭を下げた。
「後で償ってもらうからいいわ!時間が惜しいからとっとと始めるわよ!」
「あ、はいっ!」
(後で償ってもらうってなんだろ?・・・ひぃ~!怖いよう!)
トキオは、王女の剣幕に、相当ビビッてしまっていた。
「さあ、来なさい!」
王女は、畳の中央に移動すると、トキオに向かって怒鳴った。
「はい!」
トキオは、条件反射的に大声で返事をすると、王女の目の前に移動した。
「それで、何からやるの?」
「はい。では、まず受け身から」
「受け身?倒されたときにケガをしないようにするってあれ?すでに、フラビアから教わってるわよ!」
「そうでしょうが、これは訓練の最初に必ずやることなので、毎回やっていただきます」
「なによそれ?・・・ああ、フラビアもそんなこと言ってたわね。私はやらなかったけど」
「えっ!?・・・それはダメですよ。ケガしちゃいますから、体が忘れないように毎回やってください」
「私は大丈夫よ」
「ダメです!俺から教わりたいなら絶対やっていただきます!」
「・・・仕方ないわねえ」
こういうところは基本にかかわるところなので、トキオは絶対に譲れなかった。そのため、少し語気が強くなったが、トキオのその雰囲気に気圧されたのか、先ほどまで怒っていた王女も渋々という体ではあったが従った。




