第21話 武器の依頼
ガードコフは、一瞬トキオを見たが、座ったまま首を落としてうなだれた。
「なんということだ。ワシがあれほど苦労しても習得できなかったというのに、この男は何もせずにいきなりLv5で習得していただと。そんな不公平な話があってたまるもんか」
ガードコフは泣いているようだった。
しばくらくすると、悔しい思いが収まって来たのか顔を上げてトキオの方を見た。すでに涙は流していなかった。
トキオは、離れたままでいた。
「お前さんの光魔法、ワシが以前に見たものよりかなり強力なものだったが、レベルはいくつだね?」
「そう言えば最近確認してなかったなあ・・・・ステータス」
トキオはステータス画面を出した。
「ええっと・・・あら?またレベルが上がってる。Lv17だね」
「なんと!・・・もしかして、そのレベルに上げるのにも、何も鍛錬をしていないと言うわけじゃなかろうな」
「その間、魔物は討伐してたよ」
「魔法の鍛錬もしていたのか?」
「討伐と柔道教室が忙しくて何もしてないね。というか、魔法の鍛錬って何するの?」
「なんだと!・・・お前さん、さっき火属性の魔法も使ってたみたいだが、魔法を2つ使えるのにどっちも何も鍛錬してないということか?」
ガードコフの顔が少し赤くなって、体が小刻みに震えてきたので、トキオはいやな感じがした。
「うーんと、他に水属性と風属性も使えるから全部で4つだけど、どれも鍛錬てのはしたことないなあ」
「なんだとー!」
ガードコフが起き上がると突進して来たので、トキオは走って逃げた。
「助けてー!誰かこの人なんとかしてー!」
走っている途中で、テリット、ブローム、アウレラが立ってるのが目に入ったが、3人とも愉快そうにニヤニヤしていた。
しばらく走って振り返ったら、エルンストがガードコフを後ろから羽交い絞めにしているのが目に入ったので足を止めた。
「ガードコフ、気持ちはわかるが、トキオのせいじゃないんだからしょうがないじゃないか」
「ワシはもう、悔しくて悔しくて」
エルンストはガードコフの体から力が抜けたので手を離した。ガードコフはエルンストの方を向くと、そう言いながらまた泣き始めた。
トキオは、ガードコフの方を警戒しながらテリットたちのところに行った。
「みんな、人が困ってるのにひどいよ!」
「いやー、こんなに面白い見世物はないだろ」
「そうそう」
「楽しかったぞ」
「なんだよそれ!」
「いやでも、ホントに光魔法は助かったよ。俺たちはお前がそれを使うのがわかったから少し早くゴブリンマスターに突っ込めたしな。ちょっと報酬をはずんでくれるかもしれないぞ」
「そうかもしれんな」
ブロームも同意した。
「それはありがたいわね!」
トキオはその会話を聞いて、ただにっこりと微笑んだ。
そのあと、エルンストの街の冒険者たちがゴブリンからドロップアイテムを回収して回った。これも、事前にそうすることが取り決められていた。
ガードコフは落ち着いたようだったが、かなり気落ちをしていたので、同じ街の冒険者に付き添われて先に戻って行った。
ドロップアイテムの回収が終わると、各パーティーのリーダーはエルンストに呼ばれて報告を受けた。
報告を聞いたテリットは、何とも言えない顔をして戻って来た。
「なんか微妙な顔ねえ。どうだったの?」
「うーん、良いことと悪いことが混ざってるって感じかな」
「なんだそれ」
「ゴブリンマスターからは金貨2枚と鍛工石が3つ出たらしい」
「すごいじゃない!」
「やったな!」
「それはいいんだけど、ゴブリンからは銅貨10枚以下だったらしい」
「あら!しょぼいわねえ。人型の魔物なのに」
「まあ、ゴブリンの戦闘力はフォドラとどっこいだから、そんなものかもしれんな」
「確かにそうなんだが、人型の魔物だから少なくとも銀貨はとれるだろうと思ってたんだよなあ」
「あたしもー。まあでも、かなりの数いたし、金貨もあったから山分けにしてもかなりの額じゃない?」
「そうだな」
トキオは、皆の会話を黙って聞いていた。
トキオには、異世界で冒険して魔物討伐もできている毎日が相当に嬉しいし楽しかったので、討伐に必要な品を揃えるのと食べるためのお金は必要だと思っていたが、それ以上のお金はどうでも良かった。
「それとトキオ、お前が今日の一番の功労者だから、お前には別に報酬が出るってよ」
「え?そうなの?・・・でも、それはうちのパーティーのみんなで分ければいいよ。一人で討伐できたわけでもないからね」
「そんなわけにもいかないだろ。ここは、黙ってもらっとけよ」
「そうよそうよ」
「そうしろ」
「うーん、じゃあ、今度飲みに行ったときに俺におごらせてくれる?」
「そんなこと気にするな・・・でも、そういうことなら喜んでおごられようかな」
「しょうがないわねえ」
「まあ、お前の気持ちをくんでやることも必要だしな」
そう言って、皆は笑った。
洞窟・・・もとい、ダンジョンの入り口に向かう途中で、トキオはパーティーの最後尾を歩きながら剣を腰から鞘ごと外してまじまじと見つめ、考え込んでいた。
(うーん・・・この剣、砕く威力は高いし切れ味も悪くないんだけど、少し幅広で重心が先端よりなのと、慣れてないせいか多数の魔物を相手にするときにはどうしても反応が遅れがちになるなあ。もっと自分に合ったものを探すか・・・・・あ、そうか!特注で作ってもらえばいいんだ!)
「テリット、ちょっと相談があるんだけど」
トキオはテリットのところまで行って声をかけた。
「なんだ、どうした?」
「今使ってる剣ね、悪くはないんだけど、自分の村にいた時に使っていたのとデザインが違っててイマイチ使いにくいんだよ。今日も、今一つ思い通りに振れなかったし。でも、村のと同じようなのが売られているのは見たことがないんで、特注で剣を作ってくれるところあったら教えて欲しいんだけど」
「そうか。武器は使い勝手のいいものにするのが間違いないな。その剣はどこで買ったんだ?」
「えーと、確か『この国を守ろう』って店だったよ」
「ああ、あの店のマスターのフーゴならうちの街で一番腕のいい鍛冶屋だ。彼に頼んでみるといいぞ」
「ホント!ありがとう!」
帰り道、パーティーの皆は討伐の反省会のようなことを馬車の中でやっていた。
トキオも、しばらくはその話の中に入っていたが、皆の真剣さを見て本当に街とこの国とその住人を守ろうとしているんだと改めて思った。
そういう事実に触れることで、初めは憧れに憧れていたことが実現した嬉しさだけで行動していたトキオにも、徐々に冒険者の使命は人々の生活と命を守ることなんだという意識が植え付けられてきていた。
反省会が終わったところで皆は疲れから眠り始めたので、トキオはこれから依頼する武器のデザインをどうするかを考えていたが、この世界で自分がこれからすること、切る対象となる魔物の動きや体の構造を考えていくと目指すもののカタチが見えてきた。
それが決まったことで、トキオも安心して眠りに落ちた。
トキオは、街に戻ると一旦自分のアパートに戻り、準備を整えてからフーゴの店に行った。
「いらっしゃい・・・お!格闘王のお出ましか」
「ええー!?」
「この街で最強のヴァルターのパーティー4人を相手にして全員瞬殺したらしいじゃないか。話は街中に広まってるぞ」
「ええ~、そうなの~?目立つの嫌いなんだけど・・・」
「はははは、もう遅いな」
「なんてこった・・・」
「そんだけ強いんだから、もっと胸を張れよ。しかも、剣の腕も相当だろ?」
「いやー、世の中、もっと強い人がたくさんいるからね。俺なんかまだまだ。今日の討伐でわかったけど、同じパーティーのテリットだって俺より上だもの」
「ああ、テリットは剣の腕に関してはこの街でもトップクラスだからな。確かにその通りだ。さらに、勇者なんか人外の強さらしいからな」
「そんなにすごいの?」
「ああ、魔人でも幹部でない限り瞬殺らしいぞ」
「魔人って魔獣の上にいる魔族でしょ?」
「そうだ」
「それはスゴいな!」
トキオはそう言いながら、勇者が魔人を瞬殺している姿を想像してにやけるのだった。
「で、今日は何が必要だ?」
トキオの緩んだ表情を不思議に思いながらフーゴが聞いた。
「あ、えーと、今日は買いに来たんじゃなくて、剣を作ってもらいたくて」
「ほう。どんなのがいいんだ」
「俺が自分の村で使ってたヤツと同じ感じのものを。ここには売ってないし、誰も持ってないから作ってもらえないかなと思って」
「そりゃ面白そうだな。デザインを教えてくれたら作るぞ」
「やった!ありがとう!」
そう言ってから、トキオはリュックから丸めた紙を取り出した。
「ここにデザインと、構造がわかるように断面図を描いてきたから、これでお願い」
「どれどれ」
フーゴは紙を受け取って広げた。紙は何枚もあった。
「ほほう。全体と細部の図が細かくあるな。これならすぐ作れそうだ。しかし、この断面図、ちょっと興味深いな。こんな風に素材を重ねるのは見たことがないぞ」
「そうかもしれない。これは、うちの村独特の製造法だからね。それで、素材は砂鉄を使って欲しいんだけど、ある?」
「ああ、剣を作るときに鉄鉱石と一緒に使うこともあるから、そこそこの量はあるぞ」
「ああ良かった。この剣は砂鉄じゃないとだめなんだよ」
「ということは砂鉄だけで作るのか?それはやったことがないから今までと作り方を変えないといかんかもしれんな・・・」
「あ、作り方も教えるよ」
「ほう、そんなとこまで知ってるのか。よし、うちの商品の幅も広がるし、引き受けよう」
「ホント!助かるよ!」
「ただ、新しい製造法となると時間がかかると思うが、いいか?」
「構わないよ」
「わかった。じゃあ、ちょっと奥へ来てくれ」
「うん」
それからトキオは、設計用の作業場と思われる場所で製造法と構造を細かくフーゴに説明した。
フーゴは、経験豊富な鍛冶屋だけあって呑み込みも早く、理解してもらうのにさほど時間はかからなかった。




