第20話 トキオの真実
「ブローム、大丈夫?」
トキオはブロームに駆け寄って抱き起こした。
「骨までは折れてないと思うが、肩をやられて手に感覚がない。こりゃ、弓が使えそうもないな。すまない」
ブロームは右肩を押さえて痛そうな表情をしていた。
「くそっ!新手だ!」
テリットの声がしたのでそっちに視線をやると、さらに奥からかなりの数の赤い目が突進してくるのが見えた。高さからいってゴブリンなのは間違いなかった。
距離があったので、走って行っても間に合いそうになかったが、かといって、閃光魔法や火炎魔法を使うと通路が狭くてテリットやアウレラを傷つける恐れがあった。
「ブローム、借りるよ!」
トキオはブロームの弓を拾うと、転がっていた矢筒の矢をつがえ、ゴブリンに狙いを付けた。
「え!?トキオ・・・」
ブロームが戸惑っている間にトキオは矢を放ち、右側から突っ込んでくる先頭のゴブリンの眉間に命中させた。
「すまん、ブローム」
テリットは、突っ込んでくるゴブリンを警戒して前を向いたまま言った。
トキオは、次の矢をつがえると、また、右側から来るゴブリンの眉間に命中させた。
テリットとアウレラは右側はブロームが始末してくれると判断したらしく、左側から来るゴブリンに突進して剣を振るい始めた。
トキオにもそう考えているのがわかったので、右の方からテリットたちに向かって行くゴブリンを次々と射殺していった。
数分の後、突進して来たゴブリンたちをなんとかすべて仕留めることができた。
「助かったよブローム」
そう言ってテリットはブロームの方を振り返ったが、トキオが弓を構えているのを見て驚いた。
ブロームはその横で肩を押さえて倒れていた。
「え!?今の矢はすべてトキオが射ったのか?」
「え?うん、まあ」
「うそでしょ!狙いはブローム並みに正確だったわ。トキオ、弓までできるの?」
「ああ、弓も必要になると思って習ってたからね」
「・・・また、10年以上前からか?」
テリットが呆れたような顔で聞いて来た。
「うーんと・・・これは16年かな」
「やっぱりな。しかし、柔道、空手に剣と弓か。魔法も使えるのに4つも打撃系の技を持ってるってのには心底あきれたね」
「ほんと、ほんと」
「ええっと、ごめん。他に槍術、棒術、合気道もやってたから7つなんだけど」
この一言で、3人は口をあんぐりと開けてしばらく固まった。
「なんだそれ!」
「ビックリ!」
「マジか!」
3人とも呆れかえっていた。
「あ、短期間だけど、短剣道もやってたんだった。これは2年ぐらいだけどね」
「ああ、いいよもう。何を聞いても驚かないことにする」
「ホントホント」
「降参だ」
3人はそう言うと、がっかりした顔をした。
「アイキドウってのはよくわからんが、剣に弓に槍と棒と短剣か。5つも使える武器があるうえに、複数の格闘技と4種類の魔法も使えるって・・・・俺にも少し分けてくれよ」
「・・・えーと、とりあえずそこは置いとこうよ。まだ、ゴブリンはたくさんいるんだしさ」
トキオは、何も悪くないのに何か悪いことをしたような気分になったが、皆の警戒心が薄れていると感じたので注意喚起した。
「ああ、そうだな。まだ、終わってなかった」
「そうね。トキオのことはあとで問い詰めることにしましょう」
「ええ~!?」
もはや、完全に悪者だった。
「さらに先があるみたいだからこっちに行くしかないな」
「そうね」
「ブロームは休んでた方が良さそうだが、一人で置いていくわけにもいかないな」
「一緒に行くよ。左手と足は問題ないから短剣で自分の身ぐらいは守れるからな」
「わかった。無理はするなよ」
「ああ。トキオ、すまんが弓と矢筒はお前が持って行ってくれるか」
「了解」
トキオは、弓を左手に持ち矢筒を背負った。
それからしばらく、トキオが前方に火炎魔法を放ちながら進んでいったが、もう、ゴブリンは出てこなかった。
そのうち、前方から戦闘をしているような音と声が聞こえてきたので急いでそっちの方へ行くと、ゴブリンが灯したのか、篝火がいくつか置いてある少し明るくて広い空間に出た。
そこでゴブリンと冒険者たちが戦闘をしていたが、ゴブリンの数がかなり多く、苦戦をしているようだった。
「根拠地の方に繋がってたのか。どうりでたくさん出て来た訳だ。行くぞ!ブロームは後方の岩陰にいろ!」
「わかった」
テリットとアウレラはすぐに駆け出して行った。
トキオは、この混戦では不要だと思い、ブロームに弓と矢を渡してからゴブリン目掛けて突進した。
ゴブリンは冒険者をはるかに上回る数だったので、一体倒してもすぐに複数でかかってこられて、トキオたちもかなり手こずった。
トキオが、戦いながら他の冒険者を見ていると、最初は武器だけで戦っていたトキオの街から来た冒険者たちの何人かが、トキオが教えた柔道の技を使ってゴブリンを投げ飛ばしてからとどめを刺すようにし始めていて、ゴブリンの攻撃パターンが単調だったせいもあり、全体的に少しずつ盛り返し始めた。
(さすがに身体能力の高い人たちだ。教え始めて3週間なのに、もう様になってる人がいるなあ)
トキオは、その様子に感心した。
トキオがもう一つ感心したのは、テリットの戦いぶりだった。他の冒険者より明らかにワンランク上というレベルで、かなりの速さで剣を振るって次から次へとゴブリンを切り捨てていた。
今までは動物型の魔物を一匹ずつ相手にすることがほとんどだったので、腕が立つ人だとは感じていたもののここまでとは思っていなかった。
(スゴいなあ、間違いなく俺より腕が立つよなあ。この剣にどうも今一つ慣れないから、この討伐が終わったら教えてもらおう)
トキオは、そう考えていた。
実際、自分の世界で使ってきた竹刀や木刀とは重さもそうだが、重量バランスが違うため、思うように振るえないと感じていた。日本刀を使った稽古も何度かしたが、それとも明らかに別物で、まだ剣を完全に自分のものにできていなかった。
かなりの数を倒したため、奥から次から次へと沸いて来ていたゴブリンの数が少し少なくなってきた。
右側を担当していた冒険者のうちの3人が、目の前のゴブリンが途切れたのを見て奥へ突進して行った。
しかし、すぐに悲鳴とともに3人同時にこちら側に吹っ飛んできて転がった。
「なんだ!?」
「どうした!」
他の冒険者から驚きの声が上がった。
奥は暗くて見えなかったので、トキオは火炎魔法を放った。
火球は、右奥の壁に当たったが、同時に一匹の大きな魔物を映し出した。
その姿は、太ったゴブリンという感じだったが背丈が普通のゴブリンの5倍ほどあり、右手には先の太くなった大きなこん棒のようなものを握っていた。
「まずい!ゴブリンマスターだ!」
エルンストが叫んだ。
「こんなの聞いてないぞ!」
「こいつが指揮してやがったのか!」
他の冒険者も叫んだ。
ゴブリンマスターは、ゆっくりと明るいところまで出てくると、手に持ったこん棒で、次々とゴブリンの相手をしている冒険者たちを吹っ飛ばし始めた。
「まずい!一旦下がれ!」
エルンストが叫んだ。
(大きいくせに速いぞこいつ!)
トキオのその思いは他の冒険者も感じたようで、厳しい表情をして一旦退くと、ゴブリンマスターを囲むように扇形の陣形をとった。
(ここなら、天井も壁も離れているから使えるかも)
トキオはそう考えて、右手を開いて前方に突き出した。
「みんな、ちょっと動かないで!」
その声に冒険者たちは一斉にトキオを見たが、次の瞬間、「フライシャ!」と唱えてトキオは光魔法をゴブリンマスターに向けて放った。
巨大な閃光に冒険者だけでなくゴブリンも動きを止めて目をそむけたが、その直後、大きな爆発音とともにその閃光がゴブリンマスターの右ひざ辺りに命中した。
ゴブリンマスターは、右ひざの骨を破壊されたようで、骨の一部を皮膚から飛び出させてひざを折り、右側に横倒しになった。その反動で、右手に持っていたこん棒が後方に転がった。
「今だ!」
そのトキオの言葉で、冒険者たちはゴブリンマスター目がけて突進し、間にいたゴブリンたちを切り倒してゴブリンマスターに殺到した。
最初にたどりついたテリットが左足首を切り落として動きを止めると、次にアウレラが右腕を肩の下で切り落とした。
それからは、別の冒険者たちが手に持った武器で切ったり突いたりして、最後に、エルンストが延髄に槍を突き立ててとどめを刺した。
残りのゴブリンたちは親玉がやられたことで戦意を喪失し、散り散りになって逃げ始めた。
それを冒険者たちが追撃し、それから数分でゴブリン討伐は完了した。
「ふう、なんとかなったな」
奥から戻ってきながらテリットがそう言っているのが見えた。
隣にはアウレラの姿もあった。
それを見たトキオが、ふっと息を吐いて力を抜いたところで、70歳前後と思われる杖を持った年配の冒険者がこっちに向かって歩いて来た。すぐうしろから、エルンストもついて来ていた。
「お前さんがトキオかね?」
「そうですけど、あなたは?」
「ガードコフという者だよ」
「この方は、以前に王都で魔法使いの冒険者をやられていた方で、一旦は引退されたんだが、ゴブリン討伐の経験が豊富なため同行していただいたんだよ。今日の作戦を考えてくれたのもこの方で、待ち伏せされる可能性も教えてくれたから、見張りがやられていた時にすぐに指示を出せたんだ」
「ゴブリンリーダーぐらいはいるかもしれんと思ったからな。しかし、ゴブリンマスターまでこんな辺境に出てくるとは思っていなかった。ケガをした者にはすまないことをしたよ」
「そうなんですね。でも、ずいぶん助かりましたよ」
「いやいや、助かったのはこっちの方だよ。あの強力な光魔法がなかったら倒すのは容易じゃなかったろう。ワシも長いこと冒険者をやっとるが、光魔法を見たのは2度目だよ。習得したいと思い、長年、厳しい鍛錬をしたんだが、他の魔法は3つ習得できたものの、ついに光魔法だけは習得できなかった。その若さで習得したということは血反吐を吐くような相当厳しい鍛錬を積んだんだろうな」
「え?・・・いや、まったく」
「まったく?まさか、簡単な鍛錬で習得できたと?・・・それは、驚くべき天性の素質だ!」
「いえ、ホントに全く何もやってないって意味で」
「あ?・・・まさか、何もせずに自然に習得できたと!?」
「うん、冒険者になる前に気づいたら習得してた。最初からLv5で」
「なんだとー!」
そう言うと、ガードコフは杖を振り上げてトキオに殴りかかって来た。
トキオは、反射的に懐に飛び込むとガードコフを背負い投げで投げ飛ばし、首に取り付いて締め落とした。
「あ!お前!なんてことを!」
エルンストが驚いて、ガードコフを抱き起こした。
「あ、ごめんなさい。その人が殴りかかってくるもんだから、つい」
「ガードコフ!大丈夫か!」
エルンストが心配そうに背中をさすっていたら、すぐにガードコフは目を覚ました。
トキオは、また殴り掛かられてはかなわないと飛び下がって離れた。




