第19話 現れたゴブリン
火炎魔法の呪文を間違えていたので訂正しました(2020/11/11 12:53)
当然のことながら洞窟内は暗かったので、各パーティーは、先頭を歩く者が松明を持っていた。
トキオの隊はテリットだった。
洞窟内は、途中でいくつも分岐があったが、そのたびに1パーティーがその分岐点に残った。
事前の調査でゴブリンの根拠地の見当はついていたが、途中にある分岐の先にもいる可能性があったので、経験の浅いパーティーをその分岐点に残して、ゴブリンを発見した際に、数が少ない場合は討伐し、数が多いときには事前に配っておいた呼子で知らせることになっていた。
トキオのパーティーは、トキオを除けば今日のメンバーの中では経験がある方だったので、根拠地を攻める5パーティーの一つに組み込まれていた。
根拠地が近づくと、少し広い場所になって全員が固まって歩けるようになったが、逆に松明の光が壁まで届かなくなってどこに横穴があるかわからなくなったため、松明を持っている者が一番外側を歩く陣形になった。
これも、事前に打ち合わせされていたことで、テリットは左前方を受け持っていた。
「あんたがトキオだろ?なあ、今度俺たちにも絞め技や関節技ってのを教えてくれよ」
トキオが色々な格闘技の技を習得していることはこの街のパーティーにも広まっていたらしく、複数のパーティーから同じことを言われた。
トキオは少し驚いたが「うちの街に来られるならいいよ」と、言っておいた。
(さすがにそこまでして教えてもらおうって人はいないよね。教えるのはいいけど、人数がこれ以上増えたらこっちが大変だよー)
「おい!まずいぞ!」
後ろから一人の冒険者が大声でそう言いながら駆けてきた。忘れ物をしたと言って途中で戻って行った冒険者だった。
「ひとつ前の分岐のところにいた見張りのメンバーがやられてる!かなりの数のゴブリンがいたから、どうやら分岐の先で待ち伏せしてたらしいぞ!俺は気づかれる前に戻って来た」
「なにっ!・・・それはまずいな。挟み撃ちになっちまう」
今回の全体の指揮を執っていた、この街のベテラン冒険者であるエルンストがそう答えた。
「みんな、聞いた通りだから、ここで挟み撃ちにされる前に先手を打って後方のゴブリンを退治しておきたい。ただ、ゴブリンの根拠地にも予定通り向かわないと背後を突かれることになる。セバロスとアトキンの2グループが後方から来るゴブリンの対応にあたってくれ。こっちが気付いていることは知られていないようだから、途中まで戻って岩陰で待ち伏せしてかかればかなり痛手を与えられと思う。戦闘に入ったタイミングで呼子を吹いて入り口に近い分岐にいたパーティーをこっちに来させて逆に挟み撃ちにしてくれ」
「わかった」
「了解だ」
名前を呼ばれた二人はそう答えると、自分のパーティーメンバーを率いて入り口の方へ戻って行った。
「じゃあ、俺たちは先に進もう」
エルンストの言葉でトキオたちを含めた残りのパーティーは奥へと進んで行った。
しばらく進むと、入り口の方から呼子の音が長く2回聞こえて来た。戦闘に入ったようだった。
トキオは、
(下っ端のゴブリンの行動じゃないな。こりゃ、上位のゴブリンがいるぞ。ちょっとやっかいだな)
と、思ったので、歩きながら予想される攻撃パターンと対処を考えた。
「止まってくれ。この先がゴブリンの根拠地で本隊がいるはずだ」
その言葉で、各メンバーは自分の武器を取り出して構えた。
広めの空間は続いていて、相変わらず左右の壁には松明の火が届かない状況だった。
「テリットちょっと」
トキオは、テリットの背後から小声で話しかけた。
「さっきのゴブリンの行動から見て、指示を出してる上位のゴブリンがいると思うから、他にも横穴がないか見ておいた方がいいと思う」
「ああ、俺も感じてたところだ。ただ、その辺はエルンストもわかってるはずだ」
テリットがそう言ったとたん、エルンストの指示が飛んだ。
「見張りが呼子を吹く間もなくやられていたということは、我々が来ることを予想して作戦を立てていた可能性が高いから他にもゴブリンが待ち伏せしている可能性がある。他に横穴がないか、テリットは左側を、チーシヤは右側を確認してくれるか」
「了解だ」
「同感ね。了解よ」
テリットとチーシャという女性リーダーは指示された方向の壁に向かって行った。
「こっちには何もないわ」
チーシャが行った方は壁が近かったらしくすぐに返事が返って来た。
トキオは、心配だったのでテリットの後をついて一緒に左側に行った。
こっち側は結構広い空間になっていたのでさらに進んでいくと、奥に横穴があるのが見えた。
「大声を出すとゴブリンに気づかれるかもしれない。俺が戻って報告してくるよ」
「そうか。頼む」
トキオは、極力音をたてないように小走りで本体に戻った。
「向こう側に横穴があった。うちのパーティーはそっちに備えた方がいいと思う」
「なに!そうか。その方がいいな。頼む」
トキオの報告にエルンストは瞬時に判断して指示を出した。かなりベテランで優秀なリーダーのようだった。
「じゃあ、ブローム、アウレラ、一緒に来て」
「おう」
「うん」
トキオたちが戻ると、テリットは岩陰で片膝をついて横穴の方を伺っていた。
「テリット、俺たちがこっちの対処をすることになったから二人を連れて来たよ」
「ああ、いい判断だったな。奥から物音がしたし、ゴブリンの声らしきものも聞こえたから確実にいるぞ」
「そうか。じゃあ、先手を打った方がいいな」
ブロームはそう言いながら、背中に背負った矢筒から矢を取り出して弓につがえた。
「ああ、俺もそれがいいと思う。お前たちが来る間に考えてたんだが、奥の様子がわからないまま突っ込んでも危険だから、まず、トキオが火炎魔法を奥に向けて放ってくれ。そうすれば、ある程度の状況が見えるだろう。その前にアウレラ、みんなに強化魔法をかけてくれ」
「了解よ」
アウレラは、一人ずつ背中に手を当てて「グラウナ」と唱え、強化魔法をかけ、最後に自分の胸に手を当てて自分にも強化魔法をかけた。
そこでトキオが言った。
「アウレラ、一つ試して欲しいことがあるんだけど」
「なに?」
「武器にも強化魔法がかけられるんじゃないかと思うんだ」
「え!?」
「ホントか!?」
「そんなの聞いたことないぞ」
「うん、俺も話に聞いただけで、俺自身が強化魔法を使えないから試したことはないんだけど、一度試して欲しいんだ」
「うーん、ホントにそうならスゴいけど、MPは治癒魔法にも取っておきたいから、とりあえずテリットの剣だけにかけてみるわね」
アウレラはそう言うと、テリットの剣の刀身に手のひらを当て、少し集中するように眉間にしわを寄せて「グラウナ」と唱えた。
その途端、テリットの剣の刀身がうっすらとした光に包まれた。
「お!」
「あら!」
「なんと!」
「できたみたいだね」
トキオは満足そうに言った。
「使ってみないとわからんが、心持ち剣がしっかりした感じがするな」
テリットが軽く剣を振りながら言った。
「ステータス」
アウレラはそう唱えて、自分のステータスを見た。
「うん、MPは大丈夫そう。じゃあ、ブロームとトキオにもかけるわ」
アウレラは、ブロームの弓とトキオの剣に強化魔法をかけ、最後に自分の剣にもかけた。
「アウレラありがとう。じゃあ、やるよ」
トキオは3歩ほど前に出ると両足を開いて立ち、右手のひらを横穴の奥に向けて構え、小さめの声で「ファイド!」と唱えた。
その途端、直径50センチほどの火球が横穴の奥目掛けて飛んで行った。
「ギャア!」
横穴の奥から悲鳴のような声が複数聞こえてきたので4人が前に進むと、3体ほどゴブリンが燃え上がっていた。
「全部で15体ほどか。いけるな。突っ込むぞ!」
テリットが素早くゴブリンの方に目を走らせてからそう言うのとほぼ同時に、ブロームの矢が1体のゴブリンおでこ辺りに命中して貫通し、その後ろにいたゴブリンのこめかみに突き刺さった。
「おお!間違いなく威力が上がってるぞ!」
ブロームがそう言った時には、他の3人はゴブリンに向かって突進していた。
テリットが真っ先にゴブリンに飛びかかり首を切り落とした。その直後、アウレラも別のゴブリンの胸に剣を突き立てた。少し出遅れたトキオは、3体目のゴブリンを右の肩口から袈裟懸けに切り捨てた。剣の切れ味が良くなっているのがわかった。
「おお!剣は間違いなく強化されているぞ!硬さも切れ味もかなり上がってる!」
テリットが大声で言った。
「そうね!これスゴいかも!」
アウレラも、自分でやったことなのに嬉しそうに言った。
それから三人は次から次へとゴブリンを簡単に切り倒していった。ブロームの矢も数体倒したので、あっという間に片付いた。
テリットとアウレラは、確実に死んでいるかを検証するように倒れているゴブリンを剣でつつきながら見て回り、同時にブロームが放った矢を回収していた。
トキオは、思ったより簡単にこの場所のゴブリンが討伐できたので、ホッとしてブロームの方を振り返った。
すると、ブロームの後方から1体のゴブリンが忍び寄って行くのが目に入った。
「ブローム後ろ!」
トキオの声でブロームは振り返ったが、その時にはすでにゴブリンが真後ろに来てこん棒を振り上げていた。
ブロームは、とっさに腰の短剣を抜いてガードしようとしたが、間に合わず肩のあたりにこん棒の一撃を食らった。
かなり強烈な一撃で、ブロームは短剣と弓を取り落とすと横に飛ばされた。背中に背負っていた矢筒も外れて転がった。
さらにゴブリンは倒れているブロームに殴りかかろうとしたので、トキオは走りながら手に持っていた剣を投げつけた。
剣は、ゴブリンには当たらなかったが、ゴブリンの前の地面に刺さってゴブリンの足を止めた。
ゴブリンは、剣の飛んできた方を見てトキオの姿を確認すると今度はトキオに向かって来た。
(しめた!)
トキオは、わざと全力を出さずにゴブリンに向かって走り、その間合いが2メートルほどになったところで素早く踏み込み、ゴブリンのあごに下から蹴りを食わせてゴブリンを後方にふっ飛ばした。
それから、刺さっている自分の剣を抜くと、ゴブリンに走り寄って胸に突き立てた。ゴブリンはそのまま動かなくなった。




